表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
30/72

ダルシア帝国の継承者 30

 召喚の呪文を唱え続けたが、これで最後だとアリュセアは思った。

 もう五回も繰り返している。

 昔、サンシゼラだったときに、もう少し魔法について学ぶべきだったと後悔の念に溢れた。

 扉の方も形が変形しつつあり、あと一押しで扉が砕けるかもしれない。



「リリリーゲア、ルロフル、アクロフィリア……」

と、額に冷や汗が流れる中、最後の呪文を唱えた。



 だが次の瞬間、何かが部屋の中に現れたのがわかった。



「それは、どこで聞いたのです?」

と、バルザス提督の声がした。



 そして、二人は同時に瞬きをした。

 何が起きたのかすぐにはわからなかったのだ。



「こ、ここは?」

と、バルザス提督は言った。


「私の部屋よ」

と、アリュセアが言った。


「どうして、ここに?……いや、そうか君は召喚の呪文を持っていたな」

と、バルザスは呼ばれた事実を把握した。



 部屋に鈍い破裂音が響いてきた。

 扉が今にもはじけそうだった。



「お願い!銀の月だったら早く何とかして!あの扉の向こうに、タレス連邦の政府代表ジアンク・ルプスと彼の部下がいるの。私たちを捕まえようとしているのよ」



 バルザス提督は何が起きているか理解した。

 タレス連邦の連中は、最後のあがきで、アリュセアに証言の撤回を迫るつもりなのだ。

 次の瞬間その部屋から、アリュセアと三人の娘達の姿が消えた。

 と同時に扉が音を立てて壊れたのだった。





 一方バルザス提督が突然消えたマグ・デレン・シャの部屋では、一同呆然とバルザス提督の居なくなった空間を見ていた。



「人が消えるなんて初めてです。これも魔法なのでしょうね?」

と、マグ・デレンがタ・ドルーン・シャに言った。



 突然バルザス提督が消えたにしては、案外落ち着いていた。



「おそらく、転移魔法か何かでしょう。ナンヴァルではそうした魔法を使える者はもういないようですが、どうしたのでしょうか?君は何か分かるだろうか?」

と、タ・ドルーン・シャは一人残されたナル・クルム少佐に聞いた。


「さあ、それはわからない。だが、これはもしかしたら召喚魔法ではないだろうか」

と、クルム少佐は言った。



 ただその口調は提督の副官にしては少々場違いな気がした。



「召喚魔法?誰かに召喚されたというのですか?」

と、マグ・デレンは言った。


「たぶん。私は魔法は使えないから詳しくないが、魔法を使う場面に何度か出会ったことはある。本人の意志に関係なく呼ばれた場合、突然消えるのだ。しかし、誰がそんな魔法を使ったのだろう。ただでさえ、魔法使いの数はここでは少ないはずだ」

と、クルム少佐は言った。



 現在ヘイダール要塞にいる魔法使いについて、ディポック司令官は把握してはいない。

 もともと魔法使いという存在そのものについては疑いの念を持っているので、気をつけるという気がしないからだ。

 ただヘイダール要塞に惑星連盟の代表がそれぞれその国の魔法使いを連れてきているとすると、数が少ないとは言えなかった。



「必要もなく魔法を使うことはないでしょう。おそらく、銀の月を呼ぶ必要が生じたということでしょうね。でも、彼を呼ぶ召喚魔法を使うというのは、かなり力の強いものか、縁のあるものに限られているのではありませんか?」

と、マグ・デレンは言った。


「では、まさか、サンシゼラ・ローアンが銀の月を召喚したとデレン閣下はお考えですか?」

と、タ・ドルーン・シャは言った。


「他に考えられません。サンシゼラなら銀の月と召喚の契約をしていたとしてもおかしくありません。妻だったのですからね」

「いったい、何が起きたというのですか?そのサンシゼラというと、あのタレス連邦からの亡命者のアリュセア・ジーンのことですか?彼女に何か起きたというのですか?」

と、それまで黙っていたディポックが言った。



 目の前で信じられないことが起きてしまい、理解できなくて、思考停止に陥っていたのだ。

 だが、今日の審判の間での出来事をディポックは思い出した。

 あのリード・マンドとか言う異星人がアリュセア・ジーンをサンシゼラ・ローアンと呼んだのだ。



「それし考えられません。遅いかもしれませんが、ディポック司令官、彼女の部屋に衛兵を至急派遣してください。何かどうしようもないことか、危険なことが起きたのです。そうに違いありません!」

と、マグ・デレンは言った。








 バルザス提督は自分に割り当てられた部屋に転移魔法で戻った。

 彼は自分だけではなく、アリュセアとその子供たちを一緒に魔法で転移してきたのだ。

 その他に、目に見えない存在であるダルシアのコア大使とロルフ・ジーンも一緒だった。



「ど、どうしたんです?」

と、ドルフ中佐が突然現れたバルザスとアリュセア達に驚いて言った。


「悪いが、しばらく彼女達を預かってくれ。私はマグ・デレンの部屋に戻らなければならない。」

というと、バルザスはすぐに姿を消した。



 あまり魔法を使いたくはないが、あのナンヴァル人やディポック司令官の前で消えたのだから、戻るときも魔法を使った方が混乱しないだろうと思ったのだ。







 バルザスがナンヴァル人のマグ・デレン・シャの部屋に再び現れると、

「速かったのですね」

と、マグ・デレンが言った。


「申し訳ありません。突然消えたりしまして……」

と、バルザスは言い訳した。


「いいえ、よいのです。それよりも証人のアリュセア・ジーンは無事ですか?」

「よくわかりましたね。無事です」

「バルザス提督、今アリュセア・ジーンの部屋に衛兵を派遣しました。何か起きたのですね」

と、ディポックは言った。


「タレス連邦の政府代表が部下とともに、アリュセアを無理やり連れて行こうとして、部屋の扉を壊そうとしていたのです」

「何てことを!」

と、マグ・デレンは非難した。


「しかし、私は魔法というのをこの目で見ようとは思いませんでした」

と、ディポックは言った。



 ディポックはバルザス提督が、『銀の月』と呼ばれる魔法使いであるということを改めて実感したのだった。









 ヘイダール要塞からかなり離れたジル星団の一画で、ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊が密かに集結を終えていた。


 ゼノン帝国艦隊の旗艦アゼンダの司令室では、ゼノン帝国艦隊とタレス連邦艦隊の宇宙艦隊司令長官がその副官と共にこれから行われる作戦の最終確認作業をしていた。



「ヘイダール要塞の周囲には惑星連盟の艦隊がいるはずだ」

と、タレス連邦の宇宙艦隊司令長官であるガイウス・ブレヒト元帥の副官ファウリ・ドノブ少将が言った。


「惑星連盟と行動を共にしている我々の艦隊や貴国の艦隊が惑星連盟の艦隊をうまく混乱させるだろう。そして一気にヘイダール要塞を攻略する。上手く行けば、ダルシア帝国の遺産だけでなく、銀河帝国への足がかりとなる要塞を手に入れることになる」

と、ゼノン帝国艦隊司令長官の副官であるウルヴァヌ・ヴィレンゲル少将が言った。


「ですが、リドス連邦王国の政府代表もいるはずです。その艦隊の提督は魔法使いのはず、簡単に要塞を攻略できるとは思えませんな」

と、ドノブ少将が言った。



 リドス連邦王国については、二百年前にジル星団に移住していたということが事実としてわかっていた。

 それに加えてリドス連邦王国には、かなり強力な魔法使いが多数いるということがわかってきていた。

 ジル星団の他の国では軍人が魔法使いを兼ねるということはめったにないのだが、リドスでは宇宙艦隊の提督クラスの殆どが強力な魔法使いだということがわかったのだ。

 しかもその下の仕官にも魔法使いが多数存在している。

 ただ、その詳細な情報はかなり不足していた。



「しかし、艦隊の指揮と魔法を扱うことを同時にできるとは思えません。そこを付けば我々に大変有利になるはずです」

と、ヴィレンゲル少将は言った。


 確かに、魔法を使うというのは集中力がいるし、使っているときは他のことに注意を向けることは難しいというのが常識だった。

 それは魔法使いでなくともわかることだ。

 リドス連邦王国の艦隊の欠点はそうした魔法使いが提督として任命されていることにある、とゼノン帝国では考えていた。



「ですが、魔法使いはリドスの者だけではありますまい。惑星連盟の政府代表が集まっているということは、代表の随員として魔法使いが居るという可能性は大だと考えます。そうした場合、彼らの存在をどのようにお考えか?」

と、ドノブ少将は言った。


「魔法使いというのは集団行動はせぬものです。まして、政府代表の随員として集まった者たちは、他所の国の魔法使いを知らない。そのような場合、魔法使いが結束するなどという行動にでることの可能性は低いと考えています」

と、ヴィレンゲルは言った。


 どの国でも魔法使いというのはプライドや功名心や独立心が強く、扱い難い者と思われていた。

 何か危険が生じた場合、同族同士であってもそうした魔法使いが結束するということは想像しにくかった。

 特にゼノンの魔術師にその傾向が強かった。



「それに、あのヘイダール要塞付近を魔法で守るにはかなりのパワーが必要です。いくらなんでもリドス連邦王国の提督程度の魔法使いが、守れるとは思えませんな」

と、ヴィレンゲルはつけ加えて言った。



 実際はリドス連邦王国の艦隊の提督の魔法の力がどの程度のものかは分からないというのが真実だった。

 ゼノン帝国としては自国の魔術師と比較して推測しているに過ぎない。

 ゼノン帝国やタレス連邦の者たちの頭の中では、ヘイダール要塞の司令官ヤム・ディポックの存在を考慮に入れてはいなかった。

 ロル星団の紛争で名を成したとはいえ、何と言っても彼は単なる一軍人で、魔法使いではないのだとしか頭にはない。


 もちろん、ヘイダール要塞には元々魔法使いなどは存在しない。

 その上、ロル星団の宇宙船の技術については、ジル星団の艦よりも劣っているというのが通説だった。

 銀河帝国やかつての新世紀共和国の艦隊と正式に戦ったことはないが、すでに辺境において試したことはあるのだった。

 特にゼノン帝国の艦隊はそうしたことにかなり研究熱心だった。



「我々の方が有利です。艦の機能や性能についても我々の方が技術は上です」

と、ヴィレンゲルは強く主張した。



 タレス連邦宇宙艦隊司令官である、ガイウス・ブレヒト元帥は、しばしの沈黙の後、決断した。



「貴国は、タレス連邦とゼノン帝国との例の約定は遵守されると確約されるのでしょうな?」

と、ブレヒト元帥は念を押した。


「もちろんだ。我々はこれまで貴国との約定を遵守してきた。これからも同じだ」

と、ゼノン帝国宇宙艦隊司令長官であるドールズ・ゴウン元帥は言った。


 ゼノン帝国人の濃く厚い皮膚から、その表情は簡単には読み取れなかった。

 ガイウス・ブレヒト元帥は長い年月タレス人が多くの犠牲を払って、ゼノン帝国から宇宙航行の技術を得ていたことを思った。

 この作戦が成功すれば、それもこれから必要なくなるはずだった。


 タレス連邦とゼノン帝国の艦隊は同時にジャンプ・ゲートに入り、ヘイダール要塞に向かった。

 だが、この宇宙には、ゼノン帝国の連中でも知らないことがあるのだ。









 一方ヘイダール要塞では、ダルシア帝国の継承者の審判で証人となったアリュセア・ジーンがバルザス提督の宿舎で、何とか人心地を取り戻していた。


 人と違う能力があるために、こんな事件が起きるのだと思うと、アリュセアはやりきれなかった。

 娘達が無事だったことは本当に良かったのだが、これからどうなるのだろうか?

 リドス連邦王国に亡命したとして、向こうで何が待っているのだろう、と不安に思っていた。



「大丈夫ですか?」

と、バルザス提督の副官であるドルフ中佐が心配して言った。


「ええ、大丈夫……。こんな時に突然現れてご迷惑をおかけしてすみません……」

と、アリュセアは言った。



 娘たちは、カール・ルッツ提督に飲み物を渡してもらって飲んでいた。



「あの、あの人は?」

と、アリュセアは聞いた。


「ああ、彼はリドス連邦王国のカール・ルッツ提督です」

「子供が好きなのね。お子さんでもいるのかしら」

「ええ、まあ、どうでしょうか……」

と、ドルフ中佐は言葉を濁した。



 ふっとアリュセアは何か黒い影が過ぎるのを感じた。不吉な予感がした。



「あの、銀の月、いえバルザス提督は、今どこにいるのかしら?」

と、アリュセアは聞いた。



 バルザス提督はアリュセア達を魔法で転移してこの宿舎へ連れてくると、すぐにどこかへ魔法で行ってしまったのだ。



「今ですか?惑星連盟の議長閣下の部屋だと思いますが……」

と、ドルフ中佐は言った。


「連絡を取れないかしら。あの、何だか胸騒ぎがするの。こんなこと、しばらくなかったから……」

「え?それは、あの……」



 ドルフ中佐は、アリュセアのことはあまり知らなかった。

 今回の審判にでる証人だと言うことしかわからない。



「どうかしたのかい?」

と、ルッツ提督が声を掛けた。


「あの、ジーン夫人が、バルザス提督がどこにいるかを知りたいと……」

と、ドルフ中佐が言った。



 彼も何かを感じていた。

 だがドルフ中佐は一応魔法使いだが、こうした予感めいたものはあまり得意ではなかったのだ。

 予知と魔法とは少し領域が違うのだ。



「何か感じているの?」

と、ルッツは聞いた。


「胸騒ぎがするんです。この要塞に何か危険が迫っているような……」

と、アリュセアは言った。


「中佐、バルザス提督に連絡をした方がいい。あの暗黒星雲の男が彼女のことを予知者と呼んでいただろう?」

と、すぐにルッツは言った。


 ドルフはうなずくと、指で空中に円を描いた。

 すると、光る円状の小さな魔法陣が現れ、その中にバルザスという文字が浮き上がった。



「バルザス提督、アリュセア・ジーンが何か危険がこの要塞に迫っていると感じています」

と、ドルフ中佐はその魔法陣に向って言った。



 マグ・デレン・シャの部屋では、まだディポック司令官がリドス連邦王国について聞いていた。

 そこに、突然バルザス提督の前の空間に円状の小さな魔法陣が現れた。



「バルザス提督、アリュセア・ジーンが何か危険がこの要塞に迫っていると感じています」

というドルフ中佐の声がその魔法陣から聞こえてきた。


「これは、いったい何かしら?」

と、マグ・デレンは目を見張って言った。



 このような空中に魔法陣を見るのはナンヴァル人の彼女にとって初めてなのだ。



「これは連絡用の魔法陣です。通信機を使えないので、これで知らせてきたのです」

と、バルザス提督は言った。


「こんな魔法もあるのですな」

と、タ・ドルーン・シャが言った。



 リドス連邦王国の魔法使いの使う魔法は、ナンヴァル連邦に古くから伝わる魔法とは少し違うようだった。

 ナンヴァル魔法では、このような魔法陣は出てこない。



「一体どうしたのだ?」

と、ナル・クルム少佐が言った。


「アリュセアが何かを感じたのでしょう。彼女は予知者ですから。ディポック司令官、何か危険がこの要塞に近づいているようです」

と、バルザスは言った。



 ディポックは初めて見る魔法陣に見とれていて、反応が遅かった。



「この要塞に何か近づいている?危険が、ですか?」

と、ディポックはやっと言った。


「おそらく、……」

「わかりました。ともかく、私は司令室に戻ります」

と、ディポックは言った。


「その方が、よいでしょう。何かわかりましたら、良ければ教えてください」

と、マグ・デレンは言った。


「私も同道してよろしいですか?」

と、バルザスは言った。


「かまいませんが、アリュセア・ジーンの方は大丈夫ですか?」

「そちらには、ドルフ中佐もいますし、ルッツ提督もいますから大丈夫です」



 ナル・クルム少佐もバルザス提督に付いていくことにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ