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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
28/72

ダルシア帝国の継承者 28

 再び審判が休憩に入ったので、タレス連邦のジアンク・ルプスはイオ・アクナスを探した。

 先程のアリュセア・ジーンの証言について、どうなっているのか聞きたいと思ったのだ。


 その頃、アリュセアは自分の宿舎へ向かっていた。

 審判の間で突然現れた妙な異星人よりも、娘たちの事が心配なのだった。

 今あの部屋には子供達とイオ・アクナスだけしか部屋にいないはずだった。

 彼女は急に部屋を出てきてしまったので、心配しているだろうと思ったのだ。

 それに残してきたイオ・アクナスのことも不安に感じていた。


 あの時アリュセアは、審判に証人として出なければいけないという義務感に強く突き動かされて、後をも見ずに部屋から出て行ってしまったのだ。

 あの後、どうしただろうか?



 部屋のインターホンを鳴らすと、

「はい……」

と、長女のリゼラの声がした。


「わたしよ」

と、アリュセア。


「ママ!」

と、リゼラが言うと、すぐに扉を開けた。


「大丈夫だった?」

と、アリュセアは聞いた。



 部屋に中に入ると、床にイオ・アクナスが転がっているのが見えた。



「これは一体どうしたの?」

と、アリュセアが聞いた。


「わからない。急に倒れたの」

と、末娘のリュイが言った。



 部屋を良く見ると、夫のロルフがいた。

 そしてコアも居た。



「ああ、良かった。まだ居たのね。イオはどうしたの?」

(眠ってもらった。危険だから……)

と、コアが言った。



 その意味はアリュセアにも分かった。



「ありがとう」

と、コアにお礼と言うと、

「休憩だというので、急いで戻ってきたの。また三時間したら、審判が始まるので行く積もりよ」

と、言った。


(審判に、誰か妙な奴が来なかったか?)

と、コアは聞いた。


「妙な奴?そう言えば、銀の月がリード・マンドと呼んでいたあれはどこの種族なのかしら?」

と、アリュセアは言った。


(リード・マンド?暗黒星雲の種族のことか?)

と、コアは言った。



 そして、しばらく黙り込んだ。



「彼のことを知っているの?」

(知っている。君もおそらく知っているはずだ)

「そうなの?」

と、アリュセアは言った。



 彼については何の記憶もありそうに無かった。



(昔のガンダルフでは、暗黒星雲の種族に別の名を付けて呼んでいたものだ)



 その時、アリュセアの部屋のインターホンが鳴った。



「はい。どなた?」

と、アリュセアが聞くと、

「私はタレス連邦の代表ジアンク・ルプスだ」

と、横柄な声がした。


「何の御用ですか?」

と、アリュセアは警戒して言った。



 タレス連邦の代表というからには、タリアやアリュセア達の敵ということになる。



「そこにイオ・アクナスは居ないか?」

「イオ?あなたはイオをご存知なのですか?」

と、やはりという思いでアリュセアは言った。


「イオは私の知り合いだ。居るのか、居ないのか」

とジアンク・ルプスは性急な言い方をした。


(この男は危険だ。イオがいると言ってはいけない)

と、コアが注意した。


「ここには居ません」

と、アリュセアは言った。


「そんなはずは無い。おまえに会いに行ったという者がいた。そこにいるのではないか?」

「居ません。第一、タレス連邦の代表であるあなたがなぜイオのことを知っているの?彼は能力者で我々亡命者の仲間なのに」

と、アリュセアは疑問を口にした。


「そんなことはどうでもよいことだ。それなら、おまえでもいい。話がある」

「私にはあなたと話をするようなことはありません」

「先程の証言の撤回をするのだ。そうすれば、おまえの夫を助けることができる」

と、ジアンク・ルプスは唐突に要件を口にした。


「そんなこと私は信じません。信じるに値しません」

と、アリュセアは言った。


「いいのか?おまえの夫を助けたくはないのか?」

と、畳み掛けるようにジアンク・ルプスは言った。



 アリュセアの部屋に居るロルフは、その言葉に首を振った。

 ロルフの霊がここに居る以上、もうすでに肉体の方は死に至ったのだ。



「あなたの言葉を信用する言われは何もありませんから」

と、アリュセアは言った。


「私はタレス連邦政府から直接派遣されているのだ。私の言うことは政府の言っていることと同じなのだぞ」

「お断りします」

と、アリュセアは再度言った。



 ジアンク・ルプスは部下を連れてきていた。

 ヘイダール要塞が許可したのは護衛の兵士が二人だったが、それで充分だった。

 少し乱暴だが、部屋の扉を破壊して、中のアリュセアを捕まえればいいのだと考えていた。

 もうそれしかない。


 この審判でゼノン帝国が負ければ、タレス連邦にとってダルシア帝国の遺産は二度と目にすることはないだろう。

 それだけは避けたかった。


 ジアンク・ルプスが黙ると、鈍い音がしてきた。



「何の音かしら?」

と、アリュセアは不安そうに言った。



 部屋の中で、娘たちも不安そうに固まっていた。



(少し、待て……)

と言って、コアが一瞬見えなくなった。


 そして、また見えるようになると、

(大変だ。部屋の扉を壊そうとしている)

と、アリュセアに言った。


「何ですって?」



 この部屋はこの扉しか、出入り口はなかった。

 ここを壊されたら、何処にも逃げ口はない。



「どうしよう……」

と、アリュセアは言った。


(私の力では、そこのイオを眠らせるぐらいしかできない。もし外の連中が中に入って来たとしても、私は何もできない)

「そんな……」



 コアは生きて居た時ならもっと何かできたのだが、死んでまだ大して時間の経っていない今では、イオを眠らせる程度のことしかできなかった。

 一人以上の相手が武器を持ってきた時には、何もできない。


 アリュセアは必死に考えた。

 何かないか?

 外の連中は部屋の中にいるのは、アリュセアと三人の娘だけだと知っているのだ。

 だから、手荒い手段に訴えてもかまわないと考えたのだ。

 残念ながら部屋の中には武器は無かった。

 武器になるようなものもない。



(サンシゼラ、君は何か呪文を覚えていないか?)

と、コアは言った。


「呪文?私は魔法使いじゃない。魔法を学んだことはないの。いえ、でも確か……」



 アリュセアはその昔、何かあったときのために一つだけ呪文を『銀の月』から教えてもらったことがあった。

 それは以前、一度も使ったことの無いものだった。

 その呪文が心に浮かんできたのだ。



「でも、わたし、一度も使ったことがないの」

と、アリュセアはためらった。


(大丈夫。自信を持って!)



 次の瞬間、アリュセアの口から古代の呪文が吐き出された。







 ヘイダール要塞の司令室でヤム・ディポック司令官は、惑星連盟の審判が再開されるのを待っていた。

 今のところ、要塞は表面上平穏だった。


 審判に突然現れた、あのリード・マンドという男は審判に使われている広間にまだいるのだろうか、とディポックは思った。

 急に現れた時は驚いた。

 ヘイダール要塞によその宇宙船がやってきても、審判が開かれている間はどこの船も入港禁止にしてあるのだ。

 だからどうやってきたのかと思ったが、マグ・デレン・シャとあの男との会話からすると、宇宙船でやって来たわけではないようだった。

 最初に現れた様子からみると、あの男はいつでもどこにでも行けると思ったほうがいいだろう。

 それにしても、何者なのだろうか。


 ディポックが不思議に思うのは、あの場で、あの男を恐れる者と恐れない者がいたことだ。

 あの男を恐れた者は、おそらく彼が何者であるかを知っているからだろう。

 ただ、惑星連盟の議長であり今回の審判の長をしているナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャは、あの男のことを知っているように見えたが、なぜか彼女は恐れていなかった。





「もう一度聴くけれど、審判が始まってからというか、惑星連盟の連中が来てから要塞に他の宇宙船は来ていないのだろうね」

と、ディポックは司令室に戻ってから副官のブレイス少佐に聞いた。


「はい。他の宇宙船は来ていません。惑星連盟の審判が開かれている間は他所の宇宙船が来ても要塞に入れないようにとのことでしたので、注意していましたが、これまでそのような船はきていません」

と、リーリアン・ブレイス少佐が報告した。


「そうか……」

「どうかしたのですか?あの、審判で何かあったのでしょうか?」

と、心配してブレイス少佐は聞いた。


「いや、なんでもない」



 あの審判の間で起きたことは口外無用と惑星連盟の議長が言っていたことを、ディポックは思い出して否定した。



「あの、三時間あるのでしたら、官舎に戻って休まれたらどうでしょうか?」

と、ブレイス少佐は勧めた。


「別に疲れてはいないよ」

「ちょうどキルフ・マクガリアン中尉も訓練の合間に官舎の方に戻っていると思います」

「そうかい。それじゃあ、ちょっと戻ってみようかな……」

「三時間経ちましたら、連絡しますので」

と、ブレイス少佐はにっこり笑って言った。


「ありがとう、少佐」

と言うと、ディポックは司令室を出た。



 歩きながらもディポックは、どうしてもあの男のことが気になって仕方がなかった。

 気になるのは不安だからだ。

 あの得体の知れない宇宙人は、ディポックが知らない力を持っていると思わざるを得ないのだ。

 あの者を知っている者たちが恐れる様子を見るに、何か大きな力を持っているような気がする。

 その力でこのヘイダール要塞に何をするかわからない、という不安があった。


 思いに耽りながら歩いていると、いつのまにか惑星連盟の議長、マグ・デレン・シャのいるナンヴァル人たちの控え室に来ていることにディポックは気が付いた。



「いや、これは、どうするか……」

と、ディポックは独り言を言った。



 しばらく頭を掻きながら、ディポックは訪問する理由を考えた。

 色々考えた末、やはりここは正直に聞いて見ようと思いなおした。

 審判の休憩の前に突然現れたあの男のことが気になったのだ。

 彼女なら、あの男が誰かを知っているに違いない。


 インターホンを押して、ディポックが来意を告げると、思いのほか早く扉が開かれた。



「すみません、お休みのところ……」

と、ディポックは言った。


「いいえ。かまいません。何かありましたか?」

と、マグ・デレン・シャはにこやかに言った。



 ヘイダール要塞の椅子やテーブルなどの丁度品は彼らナンヴァル人にはあまり居心地が良いようには思えなかった。

 少し窮屈そうに使っているのがわかった。

 ナンヴァル人はロル星団の人間型種族より、サイズが少し大きめなのだ。

 もっともマグ・デレン・シャは小柄なタイプなので、それほどでもなさそうだった。



「あのリード・マンドという妙な男のことが気になっていまして……」

と、ディポックは言い難そうに言った。



 しかし、あの男は何か危険な感じを受けたので、少しでも情報を得ておきたかったのだ。



「ああ、あの男のことですね」

と、マグ・デレン・シャは言った。



 あの男とは、審判の最中に突然現れた人間型種族に見える男だった。



「彼は、何者なのですか?」

と、ディポックは聞いた。



 マグ・デレン議長は、少し頭を傾げて何かを考えているようだった。



「私どもも、正確なことはわかりません。リード・マンドという名前も本名かどうかわかりません。ただ、私どもの母星に残る言い伝えと亡きコア大使の話からすると、あの男は、暗黒星雲と呼ばれている銀河宇宙からやってきた種族だと思われます。彼らは本来肉体を持たず、しかしながら、必要な時はそれを纏うことができる、と言われています。ここ、しばらく、そうですね、多分二百年ほど彼らはこのあたりに出没しなくなっていたのです」

と、マグ・デレンは言った。


「ということは、以前はよくこのあたりにいたということですか?」



 『よくこのあたりにいた』ということは、住んでいたわけではないような表現だと、ディポックは思った。



「ジル星団にはよく来ていたと言われています。わたしは、まだ会ったことはなかったのですが…」

「なぜ、彼らは来なくなったのですか?」

と、ディポックは聞いた。


「これはやはり噂ですが、リドス連邦王国がジル星団にやってきたとき、彼らを追い払ったということです。それまで、暗黒星雲の種族はジル星団でさまざまな迷惑な行為を行ってきたといわれています。宇宙船を事故に合わせたり、惑星の天候を支配したり、また恒星の軌道を変えたりと。悪事とまでは言いませんが、私どもは非常に迷惑していたのです。彼らに対してはかのダルシア人もさすがに手を焼いていました」

と、マグ・デレンは言った。


「それであの、リドス連邦王国がやってきたというのは、どういうことですか?」

と、ディポックは聞いた。



 此処の所リドス連邦王国という名を耳にすることが多くなって来ていたが、ジル星団にあるその国はディポックには未だ謎めいていた。

 少なくとも元新世紀共和国ではリドス連邦王国という名を聞いたことはない。



「彼らはおよそ二百年前にジル星団に移住してきたのです」

と、マグ・デレンは言った。



 それが、ジル星団でのリドス連邦王国に関する共通した情報だった。



「どこからリドス連邦王国は来たのですか?」

「さあそれは、わかりません。噂では、宇宙のはるか彼方と言われています。現実にはたぶん、彼らの住んでいた銀河はこの三次元宇宙でもかなり端の方にあるのではないかと考えられています」

「つまり、かなり遠いところからなのですね」

と、ディポックは言った。



 遠いだけではなく、端の方というと、宇宙はあの『ビッグ・バン』によって始まって以来膨張し続けているのだから、非常に古い銀河から来た可能性があった。



「ええ、そうです。でも、もしもっとお知りになりたければ、リドス連邦王国の政府代表である『銀の月』に聞いてみるというのはいかがでしょうか?」

と、マグ・デレンは勧めた。


「『銀の月』?というと、あのバルザス提督にですか?」

と、ディポックは聞き返した。



 ディポックには、バルザス提督と『銀の月』という名を持つ人物が同じであるという認識が、ナンヴァル人であるマグ・デレンには当然のように捉えられている気がした。

 気をつけないと混乱しそうだった。


 ディポックのいた新世紀共和国や銀河帝国のあるロル星団では、ベルンハルト・バルザス提督は、元銀河帝国の軍人で、銀河帝国で大逆人として追われたダールマン元帥の部下だった。

 だが、こちらのジル星団では、そうした経歴よりも、魔法使いの『銀の月』として知られているということなのだ。

 特に、惑星連盟の古い文明の国々においてそれは顕著に認められると感じていた。


 ディポックは、あの審判の場で、リード・マンドがバルザス提督を『銀の月』と呼んだ時の彼らの驚きを思い出していた。



「ええ。彼なら、私どもよりももっと詳しく知っているでしょう」

と、マグ・デレンは言った。







 ベルンハルト・バルザス提督が部屋で休んでいると、部屋のインターホンが鳴った。



「こちらはリドス連邦王国のバルザスだが……」

と、バルザスは言った。


「ナンヴァル連邦の惑星連盟議長マグ・デレン・シャ閣下からの使いのものです。お聞きしたいことがありますので、よろしければ、我々の部屋までお出で願いたいとのことです」

「マグ・デレン議長が?私に何の用なのだろうか?」

と、バルザスは言った。


「その、今回の審判の件ではないそうです」

と、使いの者が言った。


「審判の件ではない?」



 バルザスは何だろうと首を傾げた。



「私だけなのだろうか?」

「はい」


 少し考えてから、

「承知した。行くと伝えてくれ」

と、バルザスは返事をした。



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