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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
27/72

ダルシア帝国の継承者 27

 彼は、退屈を感じていた。

 宝石のように散りばめられた銀河や恒星の輝く宇宙空間に、彼はただ一人佇んでいた。

 いや存在していたというべきだろうか。


 肉体を持たない彼にとって、この宇宙空間はただ退屈しのぎのタネを見つけるための場所にすぎなかった。

 肉体を持たないということは、目に見える存在ではないということだ。

 肉体を持たないということは、食事をする必要も無く、呼吸をしなくてよく、暑さ寒さも感じず、肉体を持つ者に特有の病気になるということもなく、おまけに死ぬということもない。

 その存在の証明としては、自ら考える、思考するということが可能だということにある。

 また、その存在自体が一種のエネルギーでもあるので、そのエネルギーを使って自らを移動させることができた。


 そのエネルギーは他のこともできた。

 例えば、思うだけで他の物質を三次元宇宙に出現させることができた。

 もちろん『神』ではないから、恒星や惑星を生じさせることはできない。

 だが、もっと下等だと思われる金属や生物の身体を作ることはできた。

 だから、彼にとって下等であると思われる種族においては、『神』として扱われもした。


 彼自ら戯れに、そうしたことを要求する場合もある。

 彼はたった一人の存在ではない。

 彼と同じ種族のものは多数存在していた。

 だが、彼らはこの広大な宇宙空間に散らばっており、一人で群れることなく独立独歩で行動するのが彼の種族の慣習なので、数が少ないように他の種族には感じられるだけであった。


 彼らは、宇宙航行種族においては、知る人ぞ知るという有名な種族だった。

 彼らは『暗黒星雲の種族』と言われて、恐れられていたのだ。

 その正式な名称を知るものはほとんどいない。

 彼ら自身すら、その名を使わなくなって久しい。

 まして自分の名など、あったことも忘れてしまっている。


 随分長い間、彼の興味を引くような事象は起きなかった。

 そんなことは滅多に起きることではないのだ。

 だから、久しぶりに自分のテリトリーに宇宙船を見つけたとき何か面白いことがないかと思ってやってきたのだ。


 その船の乗組員が、ここからそれほど遠くないところで、なにやら雑多な連中が艦隊を終結させているという話をしたとき、何かが起きているという予感がした。



 改めて彼が問いただすと、

「そ、そこは、ヘイダール要塞とかいう場所で、ジル星団の惑星連盟の連中が大挙して行ったらしいです……」

と、怯えたように言った。



 彼は、無造作に宇宙船の乗組員を捕まえていた。

 彼の姿は目に見えず、あるか無いかのように見える霧状の形態を取っていた。


 その乗組員は船の中で中空に吊り下げられた状態になっていた。

 その姿は人間型生物に近かった。

 そいつは、ハイル・ブレンドンと名乗った。

 タレス連邦の商船フィラリア号の船長だと言う。


 彼は相手が誰で、何をしているのか等の興味はなかった。

 ただ、捕まえて何か面白いことが起きていないか知りたかっただけである。



「何でも、ダルシア帝国の遺産の継承者を決めるそうで……」



 ダルシア帝国?

 彼は、その名を覚えていた。

 ジル星団にあるその帝国は少々厄介な連中が住んでいたのだ。

 かつて、その帝国と彼の種族はかなり非友好的な関係にあった。

 彼らにしてはめずらしく、一種族としての対応していたのだ。

 とはいえ、彼自身はその帝国を敵とまでは思っていなかった。

 かつて色々とあった事は確かだが……。



「なるほど、おまえは演技が下手だな。本当は、わたしを恐れてはいまい。何が目的だ?」

と、彼は言った。



 彼の姿はきらきらと光る霧のようなものにしか見えなかった。


 だが、捕まえられたハイル・ブレンドンは、彼が多くの宇宙航行種族から恐れられ、忌み嫌われていると噂に聞く、暗黒星雲の種族の一人だと確信していた。



「別に私は、何も考えてはいません。ただ、事実を言っただけです」

と、ブレンドンは急に開き直って言った。



 きらきら光る霧は、一瞬人型を取った。



 だが、すぐそれは消え、

「まあ、いいだろう。久しぶりに面白くなりそうだ……」

と、声がすると、光りは消えた。






 ふたご銀河のジル星団とロル星団の中間付近に位置するヘイダール要塞が、宇宙空間に黒々とした姿を見せていた。

 その周りに、大きさや形がさまざまの宇宙船が万単位で浮かんでいる。


 その中に突然、霧のような光りが現れた。

 あのハイル・ブレンドンを捕まえていた宇宙人に違いなかった。

 しばらく彼は、ヘイダール要塞と数多くの宇宙船を興味深げに眺めていた。

 なるほど、これは何か面白そうなことが起きそうだ。


 彼は、要塞や宇宙船の探知装置に引っかからなかった。

 誰にも気づかれずに自由に宇宙船の間を泳ぐように動いて、情報を集めた。

 彼にとっては、宇宙船の通信を傍受するのは児戯に等しいことだった。



(なるほど、ダルシア帝国のコアが死んだのか。それで、こんなに集まっているというわけか……)



 そうした彼は、コアの死を悼むでもなく、喜んでもいなかった。

 ただ肉体を持っていたら、ふんと鼻を鳴らしたに違いない。


 彼はダルシア帝国のコアという存在を知っていた。

 かつて、ジル星団へはちょくちょく行っていたことがある。

 最近はあまり行かなくなっていたのだが、コアが死んだとは初耳だった。

 もしかすると、このあたりにいるかも知れない、と彼は思った。


 彼の本来の姿形は目に見えるような存在ではないが、はるかな昔には肉体という形を持っていたというのは事実として知っている。

 当時は寿命というものがあり、生死というやっかいなものもあった。

 だが、今のような目に見えない存在になってからは、寿命や生死などは彼にとっては意味の無いものになった。

 そして自由に宇宙をあちこち行き来し、さまざまな種族と出会い、学んでいた。

 それは彼にとっては有意義なことである。


 ダルシア人たちは彼と同じようなレベルにあるにもかかわらず、あえて目に見える姿をとっていた妙な種族なのだった。

 つまりダルシア人というのは固定した肉体にこだわり、下等な種族と付き合い、下等な種族のような生き方をした妙な連中なのだった。

 だが、肉体を失い、死んだ今となっては他の種族とは違った存在となっているはずだった。

 ダルシア人の本来の姿は彼ら暗黒星雲の種族と同じような存在であるはずだった。

 それが肉体を持つことに執着しているように見えたのは、なぜなのか、その理由が聞きたくてやってきたのだ。


 惑星連盟の連中がいるところにコアはいるに違いないと考えていた。

 惑星連盟はコアが作った、いや、今では残した遺産のひとつだと彼は思っていたからだ。

 ヘイダール要塞に入ると、彼は物珍しげにあちこち見て回った。

 この要塞は噂に聞いたところでは、ふたご銀河のもうひとつの星団にある銀河帝国が建設したものだという話だった。

 だが、彼が見たところでは、この要塞は銀河帝国が作ったにしては、ところどころではなく、かなり妙な所があった。

 それは一つではなく、複数の別の文明の技術が使われている匂いがするのだ。

 それは彼でもすぐにはわからないような巧妙なやり方をしているので、ちょっと見にはわからない。



(これは、何かあるな……)

と、彼は呟いた。



 要塞の中はどこか緊張感のある雰囲気があった。

 例のダルシア帝国の遺産を巡る審判が行われているからだった。

 その部屋の前には護衛の兵士がいたので、すぐわかった。

 その扉を通り抜けると、ナンヴァル連邦の審判長がなにやら言っている場に出た。



「なるほど。あなたの話はそれで全てですか?」

と、審判長のマグ・デレン・シャが言った。


「はい。これで全部です」

と、証人のアリュセア・ジーンが言った。


「わかりました。それでは、証人の証言も終わったことですので、ダルシア帝国の遺産の継承者を決定することにします。ですが、その前に一時この審判の休憩を宣言します。これより、三時間後に再び審判を開始することにします」

と、惑星連盟議長であり、ダルシア帝国の遺産の継承者を決める審判長であるマグ・デレン・シャは言った。



 その時だった。

 突然、一般席から誰もが見ている審判長の前に、きらきらと光る霧状のものが現れた。



 それを見た一般席の一人が、

「や、奴らが来た!」

と、叫んだ。


 何人かの政府の代表は、ただ何事かときらきらと光るものを見ていた。

 だが、恐ろしげに顔をゆがめる者たちもいた。



「静かに!」

と、マグ・デレン・シャが言った。



 マグ・デレンはきらきらと光るものを、じっと見つめた。

 これが何であるか、見るのは初めてだが、聞いたことがあった。



「初めまして、いや、ここには私を知っている者も、まだいるらしいな……」

と、キラキラ光る霧状の彼は言った。



 恐れるものが何もない彼は、何のてらいも気取りも無く、ましてや遠慮などかけらもなかった。


 ヤム・ディポック要塞司令官はその霧のようなものを何だろうと思って、見ていた。

 今までこんなものは見たことがないのだ。しかも音声を発しているようなのだ。



「ほう、これはこれは、懐かしい顔もあるではないか。『銀の月』がいる。そこにいるのは、アプシンクス皇女か?それに、予知者サンシゼラ・ローアン、ロムアンの女王よ。久しぶりではないか……」



 彼はかつてふたご銀河のジル星団でダルシア人と関わったことがある。

 惑星ガンダルフでも何かと人騒がせなことをしたことがあった。

 他の惑星でも同様だった。

 その時のことを覚えている長命な種族も惑星連盟にはいた。

 その時の恐ろしい力のことを覚えていたのだ。


 彼を知るものは、一様に恐れ慄いていた。

 ジル星団の古い文明の政府の代表たちだ。

 彼らは、彼を恐れていたが、それ以上に彼の言ったことに驚愕していた。


 アプシンクス皇女、『銀の月』、予知者サンシゼラ・ローアン、どれもジル星団の古い国々の伝説に名が残っている。

 それを恐るべき力を持つ彼が言うのであれば、それは真実に違いない、という暗黙の思いがあった。

 だが惑星連盟の中には彼のことを知らないものも半数はいた。

 そうした者たちは、物珍しげにきらきらと光る霧を見ていた。


 霧はやがて、一人の人間に姿を変えた。

 普通の人間型種族の形を取ったのだ。

 そしてゆっくりとあたりを睥睨しつつ、歩き回った。

 そこにいる者たちは、まるで金縛りに掛かったように身体が動かなくなったのを感じていた。



「いったい、何の用なのです」

と、マグ・デレン・シャは落ち着いていった。



 その言葉には恐れは少しもなかった。



「ふん。ナンヴァル人か。おまえとは初めてか?いや、違うな。いつか、どこかで会ったという気がする。なるほど、かつてはダルシアにいたルディアナか……」

と、マグ・デレンを指して言った。



 だが、

「いったい、何をしに来たのです」

と、彼の言葉を遮って、マグ・デレン・シャが再び言った。


「何をしに、だと?決まっているではないか。退屈で退屈で仕方が無かった時、おまえ達のことを聞いたのだ。ここで面白いことをしているそうじゃないか」

「あなたには、関係のないことです。ここにいるのは、惑星連盟に関係のある者たちです。関係のない者は、この部屋から出て行きなさい」

と、マグ・デレンはきっぱりと言った。


「おまえは、昔から変わらぬ。勇気ある者だ。だが、口に気をつけるよう忠告しておこう。私に、下等種族のような忍耐力があると思わないことだ」

と、彼は尊大に言った。



 ヤム・ディポックは人間の形になった彼をいったい何者なのだろうと思って、興味深げに見ていた。

 これまで、このような存在がいるというのを見たことも聞いたこともない。

 少なくとも、ロル星団では知られていない。

 だがジル星団の人々は彼をよく知っている人達もいるようだった。


 その時、傍若無人な彼がディポックを見た。



 何を思ったか、はたと睨みつけ、一瞬瞬きをすると、

「おまえは、誰だ?」

と、彼はディポックを指差して言った。


「私のことですか?」

と、ディポックは言った。



 そののんびりとした口調には怯えはなかった。



「そうだ。おまえだ。他の連中とは違う」

「私は惑星連盟の者ではありません」

と、ディポックは言った。


「そんなことは、お前が言わなくてもわかっている。そうではなくて、おまえは誰だと聞いている」

と、苛立たしげに言った。


「私はこのヘイダール要塞の司令官のヤム・ディポックです。あなたは、誰です?」

「私に名を聞くとは、いい度胸だ」



 彼にとっては、名などどうでもよいが、そう言った方が面白いので言ったのだ。



 ディポックは二三度瞬きをすると、

「度胸など私にはありませんよ。ただ、名前を聞きたいだけです」

と、言った。


「妙だな、おまえは他の奴とは違う」

と、彼はじっとディポックを見つめて言った。


「私は、惑星連盟の人たちとは違うので、そう思うのでしょう」

「そうではない。その眩しい光は何だ?まるで、……」

と言いながら、マグ・デレン・シャを振り返った。


「そうだ。ルディアナに似ている。だが、光りがまるで違う。まるでその……」

と、言葉を途切らせた。


 ディポックは何のことやらわからなかった。

 光りとは何なのだ?この部屋の光りは普通で、特に明るいわけではない。



「それでは、別の質問をしますが、ナンヴァル人のマグ・デレン・シャ、惑星連盟の議長閣下をなぜルディアナと呼ぶのです?」

と、ディポックは聞いた。


「ふん。ルディアナとは、ダルシアの神格をもった者の名だ。その昔、ダルシアにいた女神で、ナンヴァル人の祖となった者達を連れて、ダルシアを出て行ったのだ」

と、彼は既知の事実として言った。


「ダルシアの女神だって?」

と、ディポックは呆れて言った。



 理解できない答えだった。



「はるかな昔、そうだったということだ。だが、今はナンヴァル人の女神と言われている。そうだろう、マグ・デレン・シャ。おまえはいずれナンヴァル人の指導者になるべき者だ」

と、彼は当たり前のことのように言った。



「リード・マンド、あなたはいったい何をしに来たのですか?」

と、リドス連邦王国のバルザス提督が言った。



 その昔、銀の月に彼はそう名乗ったことがある。

 本名かどうかは知らないが、他に呼びかけようが無かった。

 彼はバルザス提督を振り向いた。



「ほう、『銀の月』、久しぶりではないか。ロムアンの女王と二人してここで会うとは、奇遇というのではないか?」



 彼の言葉に、ジル星団の古い文明の政府の代表達はバルザス提督を見た。

 『銀の月』とは、ガンダルフの五大魔法使いの一人のことだ。こんなにはっきりと名指しをするということは、やはりそうなのか、と思う者が大勢いた。


 だが、彼はすぐにカール・ルッツの方を見た。



「おまえは、誰だ?どこの者だ?」

と、言った。


「このあたりの者ではないな。遠くから来たのか?」

と、彼は矢継ぎ早に聞いてきた。


 心の中でドキリとして、

「何のことだ?」

と、カール・ルッツ提督は言った。


「私の目を晦まそうとしても無駄だ。おまえは、何処から来た。ふたご銀河のものではなかろう」

「そ、それは……」

と、ルッツは動揺して言った。



 こんなところで自分の正体を明かされることになるとは予想していなかったのだ。

 その動揺振りは、ジル星団の古い国々には驚きだった。



「おまえこそ、誰だ!」

と、ルッツの副官がルッツを庇うように前に出て言った。


 リード・マンドとバルザス提督が呼んだ『彼』は、

「ほう、これはまた、面白い者がいるではないか。おまえはまがりなりにもふたご銀河に属しているようだが、ジル星団のものではないな」

と、喝破して言った。


 だが、ルッツとその副官の前にバルザス提督は出ると、

「あなたは、いったい何をしに来たのです!」

と再び言った。


「『銀の月』よ、別に目的があるわけではない。退屈だったのでな。ここで面白いことをしていると聞いたのだ」

「だったら、大人しくしていてください。皆の金縛りを解いてください。困っているじゃないですか」

「『銀の月』よ、誰に口を聞いているのかわかっているのだろうな」

「わかっています。あなたが誰であるか、ここにもあなたのことを知っている者は、私のほかにもいます。ですが、今は大事な審判をしているのです。邪魔をされては困ります」

「ふん。ダルシア帝国の遺産のことであろう。それなら、そこのアプシンクス皇女が継ぐのがふさわしかろう。なぜ審判などを開くのだ?」

と、不思議そうに言った。


「アプシンクス皇女でしたが、今はタレス連邦に生れてタリア・トンブンと言うのです」

「ふん。つまらぬことだ。この連中はダルシアがどんな文明であるのかも知らないのであろう。他の者が受け継いだとて、何の役にもたたぬ。アプシンクスでしか扱えまい」

「だとしても、ダルシア帝国は惑星連盟を創設した国なのです。ダルシア帝国の遺産は非常に貴重なものです。それを誰に渡すかははっきりと明示しなければ惑星連盟の中で混乱が起きるでしょう」

「そのために、このような茶番劇をしているというのか?」



 マグ・デレン・シャやリドス連邦王国の者たち以外の者は皆、『彼』を恐れて口を閉ざしていた。

 突然現れ、何か得たいの知れない力、それも強力な力を持つこの存在を恐れない方がおかしかった。


 彼のことはジル星団でも古い種族と言われる者たちはよく知っていた。

 その者たちの記憶ではかつてジル星団でダルシア人と覇を競い合ったとされている。

 だが、最近宇宙航行技術を開発したような種族は彼のことについてはほとんど知らなかった。

 もちろん伝説は知っていた。

 だが、彼らにとって伝説など何の根拠も無いファンタジーに過ぎなかった。


 急に金縛りが解かれると、その金縛りを単なる気のせいだったのだと思ってジアンク・ルプスは言った。



「何をばかげたことを言っているのだ。ダルシア帝国の遺産についての審判を早くしてほしい。ナンヴァル連邦の議長よ。我々はそのためにここにいるのだ」



 彼は面白そうにそれを見ていた。



「わかりました。では休憩をとることにします」

と、マグ・デレンは言った。


「休憩など、そんなことよりも早く後継者について決定を!」

と、ジアンク・ルプスは性急に言った。


「まず、休憩をといったではないか」

と、殊更に優しい声音で彼は言った。


「関係のない者は黙っていて欲しいものだ。ここは惑星連盟の加盟しているものしか発言権はない」

と、ジアンク・ルプスは当然のごとく言った。



 この際、どこの何者とも知れない妙な奴のことよりも、ジアンク・ルプスにとってはダルシア帝国の遺産の行方が重要なのだった。

 それに見たところ、武器を持っているわけではなし、突然現れたということは魔法使いかもしれないが、自分を害するようなことは思いつかなかった。



「私に発言権がないと?」



 その声には危険な響きがあった。



「そうだ。ここは惑星連盟の神聖な審判の場だ。関係のない者は出て行って欲しいものだ」

と、今度はボルドレイ・ガウンが言った。



 ゼノン帝国の代表の彼は、教養が少し足りなかった。

 ゼノンに伝わる伝説の種族について知識がないようだった。



「出て行けだと?」



 その声は面白そうに聞こえた。



「タレス連邦とゼノン帝国の代表は黙っているように」

と、マグ・デレン議長は注意した。



 突然現れたその男がどれほど危険なのか察したのだった。

 ナンヴァル連邦の言い伝えに残っている暗黒星雲の種族というのが、恐らくこの男のことなのだ。だとしたら、かなり危険になりうる。


 暗黒星雲の種族というのは、かつてジル星団で暴れまわったことがある、伝説の種族のことだ。

 かのダルシア人でさえ、手に余ったと言われていた。

 この種族がジル星団に出没しなくなって、まだ二百年しか経っていなかった。

 その点についてリドス連邦王国がジル星団にやってきた頃と一致すると知っているのは、ジル星団でも古い種族に限られていた。



「では、もう一度宣言します。ダルシア帝国の遺産の継承者を決定する前に、一時審判を休憩します。これより三時間後に再び審判を開始し、審判の結果を言い渡します」

と、マグ・デレン議長は言うと、席を立って、部屋を出て行った。



 一刻も早くこの男から惑星連盟の代表達を引き離すことが、安全ために重要だと考えたのだ。



 その男は、面白そうにそれを見ていた。

 その男を見て見ぬ振りをして、一般席の各政府の代表達もそれぞれ席を立って行った。

 そして、誰もいなくなった審判の間に一人残ったその男は、クスクス面白そうにいつまでも笑っていた。



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