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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
26/72

ダルシア帝国の継承者 26

 ヘイダール要塞の大会議室ではジル星団の惑星連盟のダルシア帝国の継承者についての審判が開かれていた。





 タレス連邦のTPであるイオ・アクナスは、アリュセアと三人の娘のいる部屋にいた。


 イオはアリュセアがタリア・トンブンのダルシア帝国の継承についての証人になるかもしれないことを、まだ知らなかった。

 タリアが審判に出ている今、アリュセアに話をしてあの手紙の件で良い返事をしてもらおうと思ったのだ。

 しかし、うまくアリュセアの部屋に入り込んだイオにとって困ったことが起きていた。


 アリュセアが突然妙なことを口走り始めたのだ。

 まるで、彼女の傍に誰かがいるような感じだった。


 アリュセアが話しているのは、ダルシア帝国のコア大使だった。

 だがコア大使はすでに死んでいる。

 ここにいるのは、コア大使の霊だった。

 アリュセアの三人の娘は、不思議に落ち着いていた。

 もしかしたら、母親であるアリュセアが話している人物が誰か見えるのかもしれない。


 だがイオ・アクナスは、アリュセアが誰もいない空間に向って話をしているとしか思えなかった。

 そして他にもう一人、コアと同じく霊となっているアリュセアの夫のロルフがその光景を心配そうに見ていた。



「サンシゼラ・ローアン……。どこかで聞いたことがあるような、無いような」

と、アリュセアは呟いた。



 それは微かな、遠い記憶だった。懐かしいような、……。



 突然、アリュセアの目の前に、白い花の咲く、野原が広がった。

 広いから野原と勘違いしそうだが、野原ではなかった。

 そこは周りを壁で囲まれた城の中庭のようだった。

 気が付くと、アリュセアは白い花嫁衣裳を着ていた。



「これは、……」



 アリュセアはドレスの長い裾をたくし上げた。本当に自分が着ているのかと思ったのだ。

 だが、その裾の重さは確かに本物のドレスだった。

 眩しい光がさんさんと射していた。

 空を見ると、そこにアルフの一団が浮かんでいる。

 アリュセアはアルフ族なんて見たことが無いが、空に浮かんでいる一団を見た時、それが頭に浮かんだのだ。



「これは、なんと珍しいことだ!」

と、傍らから声がした。



 見ると、古めかしい衣装を身につけ、いかにも騎士風に剣を腰に差していた男性が隣にいるではないか。

 見回すと帯剣している者は大勢いた。

 銃のような武器はどこにも見えなかった。

 まるで、古い時代を映す映画のロケのような場所だ。



「これはめでたいことです。あのアルフ族がこのようなときに城に現れるなど、これまでなかった……」

と、もう一人が感激して言った。



 真っ直ぐ前を見ると、そこには銀髪のかなり美貌の若い男が立っていた。

 腰に差している剣は他の者よりも大きいような気がした。


 アリュセアはなぜか、彼がリドスのバルザス提督であるということがわかった。

 どうしてかわからないが、そう思うのだ。



「珍しいことだ。サンシゼラ。我々の婚礼の祝いに駆けつけてくれたのだろう」

と、銀髪の美貌の若い男が言った。



 何だか格好をつけているような、古めかしい妙な言い方だ。

 バルザス提督はこんな話し方をしたかしら、とアリュセアは思った。



「ええと、あなたはもしかしてリドス連邦王国のバルザス提督なの?」

と、おずおずとアリュセアは聞いてみた。



 バルザス提督は確か短い金髪だった。

 目の前の彼は銀髪を長く垂らしているが、どこかバルザス提督の容貌に似ている気がした。



「何を言っているんだ、サンシゼラ。君は本当に時々変な事を言うんだね。魔法使いとしての私を『銀の月』と呼ぶ者がいるが、バルザス提督と言われるのは初めてだ。わたしはディラント・アルマ・カイト。アルディマルド国の一応国王なんだけれど」

と、男が言った。


「そ、そうなの?じゃ、ここは惑星ガンダルフなのかしら?」

と、戸惑ってアリュセアは言った。



 空を見れば、ヘイダール要塞の人工の空ではなく本物だとわかる。



「惑星ガンダルフ?この大地の名かい?ここは古来、ガンダルフと呼ばれていると言うのは、知っているよ」



 その時、空から来たアルフの一団が、城の中庭に降り立った。



 アルフの一団を出迎えに、ディラント・アルマ・カイトがアリュセアの傍を離れると、

「ローアンのサンシゼラ女王、よくこの地へ参られた」

と、言う者があった。



 振り返ると、長いローブを着た威厳のある壮年の男性が立っていた。



「いや、アリュセアだったかな?」

と、その人物は言い換えた。


「え?私の事を知っているの?」

と、アリュセアは目を見張って言った。


「知っているというよりも、いずれ知らなければならなくなる。その前に、私の娘を紹介しよう」

と、その人物は言った。



 その人物は横に立っている少女を呼び寄せた。



「この子は、私の娘だ。名をアプシンクスという」



 少女ははにかんで、にっこりと笑った。

 よく見ると、頭上にティアラが輝いている。


 アリュセア、つまりサンシゼラは興味を持って聞いた。



「アプシンクス?変わった名前ね。それに、あなたは誰?」

「私はダルシア帝国から来た者だ。アントルーク・コアという者だ」



 ダルシア?

 ガンダルフにダルシア帝国なんて、あっただろうか?

 いや、ダルシアはジル星団のダルシアに違いない、とアリュセアは思った。

 アリュセアはアプシンクスを見た。

 アリュセアの一番上の娘くらいの年に見えた。おそらく、人間なら13歳だ。



「これが、あなたのお嬢さん?」



 ダルシア人を見るのは初めてだった。

 本当にこんな姿形をしているのだろうか、とアリュセアは思った。

 タレス連邦でもダルシアの伝説があり、彼らの姿はドラゴンそのものだったと伝えられている。



「ダルシア人は、伝説とは違う形をしているのね……」

と、アリュセアは二人をジロジロ見て言った。


「太古のダルシア人は、ドラゴンの姿をしていたというのは本当だが、今では私の姿がダルシア人なのだ」

「つまり、人類種の遺伝子に変えたということ?」

「色々理由はあるが、結果としてはそういうことだ」

と、コアは言った。


(初めまして、サンシゼラ女王。わたしはアプシンクス……)

と、アプシンクスは、TPでメッセージを送ってきた。


「ダルシア人はTPなの?」

「TPだけではない。子供の時はTPの能力しかないが、長じればたいていの力を持つようになる」

「ダルシア人の寿命は、とても長いと聞いたことがあるわ」

と、驚きから気を取り直してアリュセアは言った。


「そうだ。大抵数千年は生きる」

「すごいわ。私もそのくらい長く生きたいものね」

「だが、我々はもう種族としては終りつつある。寿命は長いが、仲間はほとんどいなくなってしまった。それに新しく生れるものはいないのだ」

と、コアは言った。


「それは、悲しいことね」

「寂しくはあるが、悲しくは無い。新しい者たちはダルシア人としてではなく、ナンヴァル人やゼノン人、それにタレス人やこのガンダルフにも生れ変わっているのだ。」

「それって、タレス人に能力者がいるというのは、もしかしてダルシア人の生まれ変わりということ?」

「その可能性もある。元々生物にはそうした力が備わっているものなのだ。ダルシア人だけに限ってのことではない。だが、生まれたときには自分が何者だったかは忘れてしまうのだ。それが、この世界のひとつの原則なのでな」

「原則というからには、そうではないところもあるの?」

「あると聞いている。それに、このガンダルフにもそうした者達がいるではないか。そうした者たちを『魔法使い』と呼んでいるのではないか?」



 『銀の月』が傍に戻ってきた。



「やあ、そこにいるのは、もしかしたら遠いダルシア帝国からのお客様かな?」

と、ディラント・アルマ・カイト――バルザス提督が言った。


「これは、アルディマルドの王よ。初めてお目にかかる、私はアントルーク・コア。ダルシア帝国の皇帝だ」

と、威厳のある声でコア大使は言った。



 まるで初めて会うような挨拶だった。

 なぜ彼をバルザス提督と呼ばないのか、アリュセアには不思議に思えた。



「ようこそ、皇帝陛下。アルフ族の方々に聞いてきました。それで、ダルシアの秘法と呼ばれる皇女殿下はどちらにおいでなのですか?」

と、ディラントが言うと、コアの横にいたアプシンクスが前へ出た。


「これが、私の娘アプシンクスという。だが、いずれタリア・トンブンとも言うようになる。覚えていてほしい」

とコアが紹介した。



 アリュセアは、驚いてアプシンクスを見た。



「何と、これは可愛らしい皇女殿下だ。お幾つなのですか?」

 銀の月は驚きもしなかった。

 それがアリュセアには衝撃だった。



「姫はまだ二百歳にしかなっておらぬ。大人になるにはあと三百年かかるだろう」

「ダルシア人は長命だと聞いています。残念ながらそれまで、私は生きてはいませんね」

「いや、必ず会うときがあるだろう。だから、こうやって来たのだ」



 銀の月とコア大使の話を聞いているうちに、アリュセアはいつのまにか気が遠く成って行った。



 気が付くと、アリュセアは白い花の咲いた城の中庭から、ヘイダール要塞の一室に戻っていた。



「あなたが、あの時のアントルーク・コアなの?」

「そうだ。私が、あの時会ったアントルーク・コアだ」

「ダルシア人は長命だといっていたけれど、あの時のダルシアの皇帝陛下なの?」

「そうだ。私はダルシア人にしては、長く生き過ぎたのだ。思い出してくれたかな?」

「ええ。アプシンクス皇女のことは、思い出したわ。あの時、アルフ族とお祝いに来てくれたのね」

「それならば、惑星連盟の審判に出てくれぬか?今、銀の月は君が来てくれないので困っているだろう」

「ダルシア帝国の遺産の継承者の審判のこと?つまりアプシンクス皇女だから、継承者にふさわしいということなの?」

「そうだ。わがダルシアの文明は、唯物的な文明ではない。かなり霊文明としても発達しているのだ。ダルシアはダルシア人でしか扱えないというのは、ダルシア人の霊の波長にあわせているということだ。それもダルシアの皇族の精神波に同調できなければ扱えないのだ。だから、アプシンクスしか継承できないのだ」

「わかったわ。私行きます。審判に出るわ」

と、アリュセアは言った。


「何っだって……」

と、イオ・アクナスは突然のアリュセアの宣言に驚いて言った。



 アリュセアは突然イオの前で宣言したのだ。

 そして、あっという間に部屋を出て行った。

 アリュセアにはイオの存在など初めからいないようだった。


 なすすべもなく残されたイオは、アリュセアの娘達を睨みつけた。

 だが、睨んだとてどうしようもなかった。

 急にアリュセアが変わったのだ。

 何が起きたのか彼にはさっぱりわからなかった。






 惑星連盟の審判が開かれている部屋の前に、ヘイダール要塞の兵士とナンヴァル連邦の仕官が立っていた。



「そこをどいて、私はアリュセア・ジーン。審判の証人としてきました。中にいれて頂戴……」



 すぐにナンヴァル連邦の仕官が上官となにやら話すと、扉の中へ入っていった。


 惑星連盟の議長、マグ・デレン・シャは審判の間の扉が開かれるのを見た。



「おや、何か起きたようですね……」

と、言った。



 今まさにマグ・デレンは、ダルシア帝国の継承者が誰であるかを宣しようとしていたのだった。



「ただいま、この審判の証人として申請していたアリュセア・ジーンが来ました」

と、審判の間へ入って来たナンヴァル連邦の仕官が言った。


「そうですか、では、その者を中へ入れなさい」

と、マグ・デレン・シャは言った。



 その時、挙手するものがあった。



「何でしょう。発言を許可します」

と、マグ・デレン議長は言った。


「許可いただき、ありがとうございます。私はゼノンのボルドレイ・ガウン。議長閣下には、今ダルシア帝国の継承者を宣しようとした矢先でした。もう、証人など要らないのではありませんか?」

「それは、あなた個人の意見ということですね」

と、マグ・デレンは念を押した。


「いえ、他の方々も同じではないでしょうか?」

「なるほど、ゼノンの方は強力なTPだということでしょうか?ですが、議長として言いますが、証人が来たからには、証言をさせるというのが、私の意見です」

「しかし、……」

「証人の証言がどうであろうと、申請があったものに対しては、公平であるべきでしょう。あなた方の候補者をここへ呼び、話をさせたのですから、遅れたとは言え、証人にも証言をさせるべきです」

「分かりました」

と、ガウンは言ったが、それが不服であることはその口調からわかった。



 審判の間への扉が開かれ、アリュセア・ジーンが入って来た。

 タレス連邦の代表だけではなく、他の政府の代表も誰が来たのかと驚いてそれを見ていた。


 タレス連邦の代表であるジアンク・ルプスも驚いていた。

 アリュセア・ジーンが証人として審判に呼ばれている事を知らなかったからである。



 なぜアリュセア・ジーンが入って来たのかジアンク・ルプスにはわからなかった。

 もしかしたらタレス連邦政府の所業を惑星連盟に訴えるために来たのかと思ったが、そんなことをナンヴァル連邦の者たちが許すはずはなかった。

 ここはダルシア帝国の継承者を決める神聖な場なのだから。

 だとしても、イオ・アクナスは何をしているのだとジアンク・ルプスは苛立った。



「私は、アリュセア・ジーンです。この審判の証人として来ました」

と、アリュセアは背筋を伸ばし、はっきりとした声で言った。



 それは、自分が何をしなければならないか分かっている者の態度だった。



「分かりました。アリュセア、あなたの証言を許可します」

と、マグ・デレンは言った。


「ありがとうございます」



 アリュセアはゆっくりと呼吸をすると、一般席にいるリドス連邦王国のバルザス提督を見た。

 そして、審判に集まっている各国代表をゆっくりと見回した。



「私は、アリュセア・ジーンです。このダルシア帝国の遺産の継承者の審判の証人として来ました」

と、一言、一言はっきりと言った。


「お待ちしていました。どうぞ、話してください」

と、マグ・デレンは丁寧に言った。


「ダルシア帝国の遺産はタリア・トンブンに継承されるのが正しいと信じます」

「それは、どうしてですか?」

「ダルシア帝国の遺産はタリアにしか扱えないからです」

「ですが、ここにはダルシア人の血を引く者達がいます。彼らではできないのでしょうか?」

「できません。彼らは、姿形はダルシア人の形質を継承しているかもしれません。ですが、姿形や単に遺伝子を受け継いでいるということではダルシアの遺産を扱うことはできないのです。ダルシア文明は非常に高度なものでした。ダルシアを理解するには遺伝子を解析するだけでは足りないのです。ダルシア人としての魂を持つものでなければならないのです。少なくとも、ダルシア人としてかつて生を受けたことがあり、それもダルシア皇族として生を受けたものでなければ扱えません」



 審判の間の一般席の間から、ざわざわとした雰囲気が生じた。



「何ですか?反対意見のある者は、挙手をして意見を述べなさい」

と、マグ・デレンは言った。


 何人か手を上げるものがあった。

「では、そこの者」

と、デレンは指差して言った。


「発言を許可していただき、ありがとうございます。私は、ホルンドバルド連合政府のアヴァル・グスといいます。今の証人の証言は、そのタリア・トンブンがかつてダルシア人であったと、その生まれ変わりであると言っているのでしょうか?」

「アリュセア・ジーン。あなはそれに答えることができますか?」

と、マグ・デレンは言った。


「はい。ホルンドバルド連合政府の方でしたね。タリア・トンブンはダルシア帝国皇女アプシンクスの生まれ変わりです。だから、ダルシア帝国の遺産を継承する者としてふさわしいとコア大使はおっしゃっていました」

「コア大使がですか?」

と、マグ・デレンは聞き返した。


「そうです。先程、私に会いに来られて、その話をしてくださいました」

「あなたは、コア大使の知り合いだったのですか?」

「はい、そうです。昔、お会いしたことがあります」

「どこで、ですか?宇宙都市ハガロンに来たことがあるのですか?」

「私は、ガンダルフ、惑星ガンダルフで会いました。当時のコア大使と皇女アプシンクス殿下に。私の結婚式に来られたのです」


 すると、突然候補者の席から立つものがあり、

「嘘を付くな!おまえがアプシンクス皇女に会えるはずがない」

と、オヴァン・ルウ・ギルトが叫んだ。


 アリュセアは候補者の席を振り向くと、

「あなたは誰ですか?」

と、聞いた。


「私は、ゼノンのオヴァン・ルウ・ギルト子爵である。かつて、皇女アプシンクス殿下は我が家に降嫁なされた」

「降嫁ですって?誘拐の間違いではないのかしら。アプシンクス皇女殿下は、ゼノン帝国の者に拉致されたために夭折されたのです。まだ幼かったのに」


 ゼノンのギルト子爵は怒りに顔を赤くして、

「我が子爵家を犯罪者だというつもりか?」

と、言った。


「私は、真実を述べているだけです。そのことで、コア大使はどんなに心を痛められたか、あなたにわかりますか?」

と、アリュセアは言った。


「コア大使がなぜ、心を痛められるというのだ」

と、ギルト子爵は言った。


「その当時、ダルシア帝国の皇帝はアントルーク・コア陛下でした。今はコア大使と呼んでいますが、本当はダルシア帝国の最後の皇帝陛下なのです。そう、二千年も前からです。ダルシア人の寿命は長い、それなのに、アプシンクス皇女はゼノンに誘拐されたために、幼くして亡くなったのです。どれほど悲しまれたでしょう。それはそれは大切にされていたのに……」



 ギルト子爵は泡を噴かんばかりに怒っていた。



「その証言の撤回を要求する。先祖とはいえ、我がギルト子爵家にたいする誹謗中傷は許すことは出来ない」



 マグ・デレン議長は卓の上に置かれた銀の鐘を叩いた。



「静かに!ここで、歴史の講義をする必要があるとは思えません。ですが、それほど言うのなら、ゼノン帝国以外の国の歴史を聞いてはどうですか?」



 一般席には多くの挙手があった。



「では、そちらから、……」

と、マグ・デレンは彼女から見て右側の挙手をした者を指して言った。


「私は、ハイレン連邦から来たものです。我が国はナンヴァル連邦ほどではありませんが、歴史も古く、宇宙航行もジル星団のなかでは古くから行ってきました。その歴史にゼノン帝国がダルシア帝国の皇女を拉致したと記録があります。当時、何度か交渉が行われましたが、ゼノン帝国はダルシアの皇女を返す意志はなく、そのうちに皇女自身が亡くなられたと聞いています」



 その隣に座っていた者が次に立った。



「私は、デルフォ共和国から来ました。我が国は伝説として言い伝えがあります。ゼノン帝国はさる帝国の皇女を攫ったということです」



 さらに、いくつかの政府の代表が歴史とも伝説とも思われる話を披露した。



「それでは、わがナンヴァル連邦での記録を紐解いて見ましょう。では、私の変わりに、タ・ドルーン・シャに話してもらいます」

と、マグ・デレン議長は言った。


「我がナンヴァル連邦では、少し詳しく記録が残っている。当時ダルシア帝国皇帝はアントルーク・コア陛下だった。ある時、ゼノン帝国から特使が来た。彼らが帰った後、アプシンクス皇女が失踪した事に気づいた。その後、帝国内を探したが見つからず、やがて、ゼノン帝国からアプシンクス皇女をゼノンの貴族に嫁がせたいという話がきて、ようやくゼノン帝国の特使一行が誘拐したということに気づいたのだ。その後、急いでゼノン帝国に交渉にいったのだが、あいにくアプシンクス皇女が亡くなられたという知らせが来た。ダルシア帝国の者は、幼いときには非常に脆弱で、環境の変化に弱く、まだ外に出すには無理がある年齢だった所為だと聞いている」

と、タ・ドルーン・シャ提督は話した。


 話が終ると、

「さて、以上がダルシア帝国の歴史の逸話としてジル星団で伝わってきたといってよいでしょう。少なくとも、アプシンクス皇女殿下が存在したのは事実です。それで、証人アリュセア、あなたはそのアプシンクス皇女がタリア・トンブンであるというのですね?」

と、マグ・デレン議長は言った。


「つまり、かつてはアプシンクス皇女であったとコア大使はおっしゃいました。ダルシア帝国の遺産であるそのシステム自体、ダルシア皇族の霊の波長に合わせてあるので、それに合わないものには、扱えないのだとおっしゃいました。だから、タリア・トンブンが継承者とならなければならないのです。もし、他の者が継承者となり、ダルシア帝国の遺産を扱えない場合は、ジル星団自体に大変な脅威となるかもしれない、ともおっしゃっていました」

と、アリュセアは言った。


「なるほど。あなたの話はそれで全てですか?」

「はい。これで全部です」

「わかりました。それでは、証人の証言も終わったことですので、ダルシア帝国の遺産の継承者を決定することにします。ですが、その前に一時この審判の休憩を宣言します。これより、三時間後に再び審判を開始することにします」

と、惑星連盟議長であり、ダルシア帝国の遺産の継承者を決める審判長であるマグ・デレン・シャは言った。




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