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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
25/72

ダルシア帝国の継承者 25 

 バルザス提督は審判の開かれている広間から用意されていた控え室に入ると、ため息を付いて黙り込んでいた。



「何だか、あまり良くない雲行きね」

と、カール・ルッツ提督が言った。


「これで、あのゼノン帝国の大使は継承者候補を連れてくるでしょう。あのアリュセア・ジーンはどうなんでしょうか?果たして、審判の証人に来てくれるでしょうか……」

と、副官のドルフ中佐が不安そうに言った。



 アリュセア・ジーンは、証人になることを確約したわけではなく、審判の場に来るかどうかもわからない。



「わからないな……」

と、バルザスは言った。


「それだけじゃありません。タリアはダルシア帝国の遺産を継承する気は毛頭ないのでしょうか?あの言いようでは、その気がないと取られてしまいます」

と、ドルフ中佐が言った。



 ドルフ中佐にとっては、遺産継承の審判の席で継承する気は毛頭ないというのは、まるで遺産継承を放棄するのと同じではないか、と思えるのだ。

 タリアは、一人になりたいというので、この部屋には来ていなかった。



「で、一体どうするつもりだ?」

と、カール・ルッツ提督の副官が言った。


「別に、どうもしませんよ。待っているだけです」

と、バルザス提督は言った。



 しかし、どう考えてもタリア・トンブンが不利なのは確かだと思われた。



「最初から無理だったのではないか?」

と、その副官は言った。


「その答えは、我々は何のためにこの審判をやっているのかということに行きつきます。この審判は本当のダルシア帝国の遺産の継承者を決めるためにやっているのです。それはジル星団全体の利益になるのです。あのゼノン帝国の連中のためでもあるのですよ。このままもし、継承者が彼らの連れてきた者に決まるとどうなると思います?」

と、バルザス提督は言った。


「どうなるというのだ?」

「あのゼノン帝国の連中はそうすれば、ダルシア帝国の全ては自分のものになると考えているようですね。しかし、そうはなりません。彼らはダルシア帝国がどのようなモノかも知らないのです」

「では、卿は知っているというのか?」

と、その副官は聞いた。


「少なくとも、彼らよりは知っています。彼らにはダルシア帝国の遺産を扱えないということです」



 もし、ダルシア帝国の遺産を扱えなかったら、ジル星団そのものに危機が訪れる可能性すらあるとバルザス提督やリドス連邦王国は考えていた。



「では、あのタリア・トンブンなら扱えるというのか?」

「そうですね、おそらく扱えるでしょう」

「しかし、本人も言っていたではないか。彼女はダルシア帝国の人間ではない。血も繋がってはいないし、遺伝子も違うのだろう?それなのに、どうしてできるというのだ?」

「できるからこそ、コア大使は指名したのです」

と、バルザス提督は言った。






 一時間後、惑星連盟の審判が再開された。



「これより、審判を再開します」

と、マグ・デレン・シャ議長が告げた。


「ゼノン帝国はあなた方の推す、ダルシア帝国の遺産継承者の候補を連れてきましたね。それでは、候補者は前に出てください」



 その候補者は、ゼノン帝国の者としか見えなかった。



「私は、ホルガ・ヴォン・ドルといいます。その祖父に当るのがダルシア帝国人だったと聞いています」

と、ためらいがちに言った。


「それで、あなたはダルシア帝国の遺産を継承したいというのですね?」

と、マグ・デレンは聞いた。


「はい。そのう、その方が私のためになると言われましたので……」

「ためになるとは?」

「私は貧しい農民の出です。少しでも遺産の分け前が欲しいのです」

「そうですか。それはかまいませんが、もしあなたの申し立てが虚偽であった場合、命の保証はしかねます。よろしいですね」

と、マグ・デレンは穏やかに警告した。


「そ、それはどういうことでしょう?」

と、ホルガ・ヴォン・ドルは怯えていった。


「このダルシア帝国の遺産の継承については、その継承者の決定にあたって、権限を有する者は私、ナンヴァル連邦のマグ・デレンと、ダルシア帝国の中枢脳『ダルシアン』にあります。私は、虚偽というのは世につきものと考えておりますので、ある程度は許すこともできます。ですが、『ダルシアン』は容赦しないでしょう。そして、虚偽も通用しないと考えるべきです」



 急にホルガ・ヴォン・ドルはそわそわし出した。



「わ、私の言っていることは、まるっきり嘘ではないんです。祖父というより、その先祖がダルシア帝国の者だったという言い伝えがあるんです」

「どのくらい前のことでしょう?」

「先祖なんで、どのくらい前かと聞かれても、そうですね千年前くらいでしょうか?」

「千年ですか?ゼノン人の寿命はどのくらいでしたか?」

「百五十歳ほどです」

「なるほど、少なくとも十代くらいに前になるということですね。まあ、それでも嘘とまでは申しません。それで、他に候補者は?」

と、マグ・デレンは聞いた。



 ゼノン帝国の代表が連れてきたのは、二人だった。

 一人はホルガ・ヴォン・ドルという農民で、もう一人は貴族風の人物だった。



「私は別にダルシア帝国の遺産を欲しいとは思わない。だが、ゼノン帝国には必要と考えている。だからやってきたのだ」

と、あたりを睥睨するように見まわした後でもう一人のゼノン人の継承者候補は言った。


「私の名は、オヴァン・ルウ・ギルト。ゼノン帝国貴族、子爵である。もし、ダルシア帝国に遺産があるとしたなら、私が継ぐのがふさわしいと考えている」

「あなたが継ぐことがふさわしいとはどういう意味でしょうか?」

と、マグ・デレンが聞き返した。


「ここにいる全員が知っているように、ダルシアもゼノンも帝国だ。帝国ではどこの馬の骨か分からぬものよりも、血統や由緒の正しい方に義があるものだ」

「それは、ゼノン帝国の考えとして窺っておきましょう。ゼノンはゼノン、ダルシアはダルシアなのです。同じ価値観を持っているとは思わないように」

と、マグ・デレンは忠告した。


「そうだろうか?その『ダルシアン』などという、機械のまがい物などに何がわかるのだ?」

と、オヴァン・ルウ・ギルトは傲慢に言った。


「私なら、そうは言いません。第一、あなたは『ダルシアン』がどういうものかも知らないのでしょう?」

「知る、知らないなど、どうでもよいことではないか。機械は主人の意に従うものだ」

「まだ、あなたが主人と決まったわけではありません。それに、『ダルシアン』は召使いでも奴隷でもないのです。そのことをわきまえて欲しいものです」

「だが、ここにいる誰もが知っていることがあるのではないか?ゼノン帝国はその昔、それがどのくらい昔かはわからないが、ダルシア帝国から分かれた人々によって建設されたのだ。ジル星団の中では、タレス連邦のような新参者とは違う」

と、オヴァンは誇らしげに言った。


「それを言うなら、我がナンヴァル連邦も同じです。その昔、そう何百万年もの昔になりますが、ダルシア帝国を出た一団により建設されました。ですが、我々は帝国という体制はとらなかったのです。またあなた方のもつ悪習もとらなかった……」

と、マグ・デレンは静かな口調で言った。


「悪習だと?」



 ゼノン帝国の悪習とは、他の種族を食らうという習慣だった。

 知性のある種族を食べる習慣があるのだ。

 それはゼノン帝国の始まりからこれまで絶えることなく続けられてきたことだった。

 ただ時代が下がるに連れて、食材の調達が困難になり、最近はとみにそれが難しくなっただけのことだった。


 宇宙航行技術がジル星団全域に広がり、惑星連盟が結成されたことにより、その習慣は公にされることはなくなった。

 だが、ゼノン帝国の貴族の間では密かに今でも行われているというのは、公然の秘密だった。



「そうです。別に秘密でも何でもありません。惑星連盟では誰もが知っている暗黙の事実です。でも、それがたとえ事実だとしても、そしてはるかな昔にダルシア帝国から枝分かれしたということが事実だとしても、それでダルシア帝国の遺産を継承することを要求するには、無理な面があります。それに、我々ナンヴァルはそのような恥ずべき要求は致しません」

と、マグ・デレンは言った。


「私の言っていることは、ゼノン帝国の貴族のことだ。ゼノン帝国の貴族こそが、ダルシア人の直系の子孫にあたるのだ」

と、オヴァン・ルウ・ギルトは重ねて言った。


「なるほど、あなたがダルシアの遺産を継承するということを主張するのは、かつてあなたの遠い先祖がダルシア人だったということなのですね」

「そうだ。しかし、遠い先祖だけではない。これはゼノン帝国貴族の一部しか知らないことなのだが、ダルシア帝国の最後の皇女と言われたアプシンクス皇女が我が家に降嫁されたのだ」

「それは、いつ頃のことでしょう?」

と、マグ・デレンは尋ねた。


「今から二千年前のことになる。だから、本来なら、亡きコア大使はわがギルト子爵家に遺産を継承すべきだったのだ」

「それでは、なぜコア大使はあなたを指名しなかったのでしょう?」

「コア大使はギルト子爵家のことをご存知なかったのだろう」

「そうでしょうか?知っていたが、指名しなかったというのが本当のところなのではないでしょうか?」



 まるでマグ・デレンは何かを知っているような口ぶりだった。



「どういうことだ?」

「今は、ここまでにしておきましょう。他に、候補者はいますか?」

と、マグ・デレンは呼びかけた。



 数度、マグ・デレンは部屋の中を見回した。他に異論のある者が居ないかを確認するためだった。

 一般席からは他に誰も挙手する者はいなかった。



「それでは、候補者が揃いましたので、これより候補者の決定をします」

と、マグ・デレンは告げた。






 ジル星団の者たちがヘイダール要塞の広間でダルシア帝国の継承者のついての審判を開催している時、アリュセア・ジーンは部屋にいた。


 アリュセアは夫ロルフの件についての手紙は読んだが、あまり意味はなかった。

 ロルフの霊がここにいる以上、ロルフが生きている可能性はほとんどないからだ。

 従って審判に行かなかったのは、あの手紙とは関係ない。

 第一、手紙には審判については何も書いてなかった。

 おそらく、手紙を作った時点ではアリュセアがダルシア帝国の継承についての審判に関係するとは誰も知らなかったからだろう。

 それはアリュセアも同じだった。


 アリュセアにとってはダルシア帝国のことなど、どうでもよかったのだ。

 誰が何を継承しようと、今の自分に何の関係があるのだ?

 もう何も考えたくはなかった。



 部屋のインター・ホンが鳴った。



「はい、どなた?」

「イオだ」

「イオ?どうかして?」

「話がある」



 扉を開けると、イオがいた。

 一人だった。

 そのことに気を許して、アリュセアはイオを部屋に入れた。



「審判には行かなかったのだな」

と、イオが言った。



 イオはまだアリュセアが審判の証人に呼ばれているという事は知らなかった。

 ただ、タリアと親しいようなので一緒に審判に行ったのかもしれないと思ったのだ。



「ええ」

「聞いたぞ、夫のロルフが軍に捕まっているそうじゃないか……」

「軍に捕まっているの?」

と、アリュセアは聞き返した。



 そして、チラリと部屋の隅を見た。そこにロルフの霊が佇んでいるのだ。



「それで、話があるのだが……」



 イオの話は妙だった。



「軍の上層部に私の知り合いがいる。そこから聞いたのだが、今回の騒ぎはあのタリア・トンブンに原因があるということだった」

と、イオは言った。


「それ、どういうことなの?」

と、アリュセアは聞いた。



 部屋の隅にいたロルフもイオの話を聞きつけて近寄ってきていた。



「ダルシア帝国のコア大使がタリア・トンブンに帝国の遺産を継承させると指名したのは、タリアの嘘だということだ」

「嘘ですって?」



 アリュセアはロルフを見た。

 ロルフは頭を振って、言った。



(これは、嘘だ。何かを企んでいる)



 イオは心を厳重にブロックしていた。たとえ、TPの能力を持っていないアリュセアに対しても、警戒を怠らないのだ。

 イオが嘘を付いていると気づきながら、アリュセアは聞いた。



「でも、そんな嘘をついて、どんな利益があるの?」

「あのタリアはゼノン帝国と組んでいたんだ。あの女と一緒にいると、ゼノン帝国に連れて行かれて、ゼノンの貴族の餌にされてしまうぞ」

と、イオは言った。


「でも、タリアはリドス連邦王国に行くと言っていたわ」

と、アリュセアは言った。


「そんなのは、嘘だ。皆を騙す口実だ」

と、イオは息巻いた。


「私は、タリアの事が決まるまで、ここにいることにしたの。もし、あなたがここから逃げたいというのなら、行くといいわ。別にタリアに告げ口したりしないから」

と、アリュセアは冷静に言った。


「どうしたんだ?あぶないぞ、ここにいると」

と、アリュセアの目を窺うようにして言った。


「そうは、思わないわ。ここにいたほうが安全な気がする。わたし、勘がいいのよ。ここを出る方が危ないわ」



 イオは急に黙り込んだ。自分の言っていることが通じないことが分かったのだ。



「なぜだ?」



 まさか、嘘を付いているのはそちらの方だ、とはアリュセアも言えなかった。

 イオに悟られぬように、心の中に余計な思いや考えを浮かべることの無いように気をつけていた。



「私は、勘がいいのよ。だから、自分の感に従うことにしているの」

と、自分の勘の所為にしてアリュセアは話を終らせた。



 だが、イオは急に黙り込むと上着の合わせ目に手を入れ、出したときには熱線銃を手にしていた。



「な、何をするの?」

と、驚いてアリュセアは言った。


「黙れ!いいか、俺の言うことを聴くんだ。他の者を集めるんだ」

「そんなことできないわ。タリアが今日の審判を終えるまで、皆待つことにしていることは知っているでしょう」

「審判が終るまでなど、待てないんだ」

「どうしてなの?私たちは仲間でしょう?」

「仲間だと?馬鹿なことをいうな!おまえ達の能力など、何の使い物にもなりはしない。俺たちの力とは違うんだ」



 イオの態度の急変は、何かを暗示しているようだった。

 熱線銃を手にしたイオを良く見ると、傍に何かがいるのが見えた。



「あなたは、誰?」

と、アリュセアは聞いた。


「何を言っているんだ?」

と、イオは言った。



 彼のTPの能力ではその人物は見えないのだ。



(私は、ダルシア帝国のアントルーク・コア。君たちがダルシア帝国のコア大使と呼んでいる者だ)

と、その人物は言った。


「コア大使?あなたは死んだと聞いたけれど、どうやってここへ?」

と、アリュセアは言った。



 イオは、アリュセアが自分を見ずに、何もないところへ向かって話をしているのを見て腹を立てた。



「何を言っているんだ?俺の言うことが聞けないのか?」

「彼はイオ・アクナス。私達の仲間だったわ」

と、アリュセアは言った。


(分かっている。TPのようだな。だが、彼では私を見る事はできない。そこにいるのは、君の知り合いか?)



 それを聞いて、アリュセアはコア大使の肉体がここに来ているわけではないことを知った。



「彼は、私の夫のロルフ。ガルゴ号に乗ってきたの」

(そうか、気の毒なことをした。今回の件では、私の予想外の事が起きてしまったのだ。許して欲しい)

「許すなんて、そんなこと。コア大使には関係のないことです」

(だが、私の死が発端になったのは確かなことだ。多くの者たちに迷惑をかけている)

「いいえ、そんなことありません。彼らは欲に目が眩んでいるんです。ダルシア帝国の遺産という代物に……」

(だが、もう時間が無い。私の頼みを聞いて欲しい)

「コア大使が私に、何をして欲しいのですか?」



 もうイオは怒ってはいなかった。

 アリュセアの態度がどこかおかしい、と感じていた。

 自分にはわからないことが、何か起こっているのだ。

 そう思うと、怒りがしだいに静まり、興味が湧いてきた。



(アリュセア、君はリドス連邦王国のバルザス提督に頼まれなかったか?惑星連盟の審判に証人として出ることを……)

「確かに頼まれました。でも、私はタリアの証人には成れません。だって、私はタリアのことをほとんど知らないのですもの。何を証明すればいいのでしょう?」

(いや、君は知っているのだよ、あの子を。私の子を……)

「今、何て?私の子?タリアはコア大使のお嬢さんだったんですか?」

(今回は君たちの言うところの血のつながりはない。だが、タリアは確かに私の娘だ。その昔、私の娘だったのだ。ダルシア人だった。だが、今回はダルシア帝国にではなく、タレス連邦に生まれたのだ)

「ええと、つまりかつてはコア大使のお嬢さんだったということですか?」

(そうだ。君が知っているかはわからないが、ダルシア人というのは寿命が長い。中には数千年以上も生きるものがいる。私もそうだった。だが、娘は、アプシンクスは幼いときに悪者に拉致され、亡くなってしまったのだ)



 アプシンクス?そういえば、どこかで聞いたことがある、とアリュセアは思った。



「あの、それはいつ頃のことですか?」

(今から二千年ほど前のことだ。だが、その前に私と娘のアプシンクスは君にあったことがある)

「え?でも、私はタレス人だし、二千年前にどこにいたかなんて、あるはずもありません……」

(君はその頃、惑星ガンダルフに生れていた。そう、名前はサンシゼラ・ローアン。ロムアン王国の女王だった……)



 アリュセアはコア大使の言葉に驚きながらも、かつての昔の記憶を取り戻しつつあった。



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