ダルシア帝国の継承者 24
イオ・アクナスは、アリュセア・ジーンに手紙を届けたあとも気になっていた。
手紙の内容を見たわけでも聞いたわけでもなかったが、おおよその見当はついた。
何しろ、あの場にタリアがいたのだ。もしかして、あの手紙を見られたとしたら自分のことを疑うかもしれなかった。
「タリア、あのアリュセアは大丈夫ですか?」
と、食堂でタリアを見かけたイオは聞いた。
「大丈夫よ。ちょっと疲れが出ただけですって。心配要らないそうよ」
と、タリアは言った。
「確か彼女の夫は、首都星で別れたといっていましたね」
「ええ、そうらしいわ。昨日来た船に乗っているかもしれないと思ったそうよ」
「そうですか、気の毒に」
「でも、同じような人は他にもいるわ。今回は止むを得なかったのですもの」
と、タリアはあまり同情していない風に答えた。
そのタリアの様子は、何も気づいていないようにイオには思えた。
だが、やはりその心の中を彼は覗くことはできなかった。
「惑星連盟の審判が開かれるそうですが、タリア、あなたは出るのですか?」
と、イオは話題を変えた。
「ええ。私はダルシア帝国の国籍になっているから、関係があるのよ。仕方が無いわ」
「噂では、コア大使は亡くなる前に、あなたをダルシア帝国の継承者として指名したそうですね」
「噂ではね。まだ私にもよくわからないの」
「わからない?」
「だって、コア大使が生きていた時には、何の話もしなかったのですもの。急にそんなことを言われても、困ってしまうわ」
と、タリアは言った。
「そうですか……。でもタリア、あなたはどうなんです?あのダルシアの遺産を継承するというのは?」
「そう言われてもね。私にはピンとこないわ。そんなことよりも、私には皆が早くどこかに受け入れられるところを見つけるほうが大事だわ」
「確かに、そうですね。でも、そんなところがあるでしょうか?我々のようなものを受け入れてくれるような政府や場所があるでしょうか?」
「そうね。どこにも見つけられなかったら、最後にはリドス連邦王国に行くという手もあるわ。リドスなら能力者はたくさんいるから、もちろん魔法使いもね。だから他よりも受け入れてくれる可能性は高いわ。それまであまり皆を不安がらせないようにしなくちゃね」
「しかし、リドス連邦王国はよその銀河からジル星団に来たと言われています。私としては、あまり選択したくはないですね」
「あなたはそうかもしれないわね。けれども他の人はまた別だと思うわ」
「そうでしょうか?」
「すぐに決めなければならないわけではないのだから、これからゆっくり考えるつもりよ」
「それまで、このヘイダール要塞にいるつもりですか?」
「そのつもりよ。ここは案外広いし、要塞司令官も話の分かる人だしね」
イオはまだ迷っていた。
タリアは本当にあの手紙、アリュセア宛の手紙を見ていないのだろうか?
一方、タリアはイオの様子がおかしいのを感じていた。
もしかしたら、タリア自身の心を読んで、疑念を持たれたのを知ったのかもしれないと思った。
タリアはイオが彼女の心を読めないことには気づいていないのだった。
ただし、アリュセアの言ったこと、イオがタレス連邦政府のスパイではないかということに確証はない。
タリア自身の弱いTP能力ではそれを確かめることはできないと考えているのだ。
イオの能力の方が自分よりも強いのだ、と思い込んでいた。
「あのアリュセアの手紙を持ってきた人は、あなたの知り合いなの?イオ」
と、タリアは訊いた。
「ええ。以前、首都星で追われていたときに匿ってくれた人です」
「どんな人なの?」
「能力はとても弱いTPです。だから今まで政府に捕まることはなかった。ですが、今回は危険になったので、仕方なく出てきたのです」
と、イオは言った。
「その人、他に何か情報を持っていないかしら?」
と、タリアは訊いた。
「さあ、どうでしょうか。聞いて見ましょうか?」
「そうね、そうしてくれる。今日はもう時間がないから」
「わかりました」
二人の会話を、ダルシア帝国の大使だったアントルーク・コアは聞いていた。
イオもタリアもコアがすぐ傍にいることなど、少しも気づかなかった。
特殊能力者とは言っても、その能力はかなり人によって違う。
それに霊体となったコアを見るには、TPや念力等とは違う能力が必要だった。
かのガンダルフの魔法使い銀の月は、霊体となったコアを見る事が出来る能力を持つ数少ない一人だ。
だから、銀の月にはコアは自分がいることを知らせている。
その上で、もう少し情報を集めようとしているのだ。
タリアが惑星連盟の審判に出る気になったのは、いい傾向だった。
まだダルシア人としての自覚もないし、遺産の継承についても望んではいないが、今はこれ以上のことは望めない。
それにタリアがダルシア人としての自覚に目覚めるにはもう少し時間がかかるだろう、とコアは考えていた。
イオと話をするタリアは、タレス人としての自覚はあった。
事実身体は生粋のタレス人であったし、タレスで生まれ育ったから当然だった。
だが、その中身である心や魂は、実は別の種族の出身だったのだ。
コアがタリアの本来の出身、魂の出自を知ろうとすると、その姿はタリアが夢で見た小さなタリア、コアの手の中に入るくらい小さな少女の姿になった。
竜の姿ではない。
あの時代、あの時、すでにダルシア人は竜としての姿を失っていたのだ。
とは言うものの、タリア・トンブンはダルシア人だったのだ。
しかも、タリアはコアの娘ともいうべき存在だった。
ダルシア人にとって、娘、つまり自分と血のつながった子と言うような考えはかなり特異なものだった。
ダルシア人にとって血のつながりというのはほとんど意味をなさなかった。
他の種族のように血のつながりや家族というものはダルシア人にはわからなかった。
それが大事にされている伝統も文化もなかったからだ。
ダルシア人は卵生だった。
卵を数個産むとそのまま巣に残され、産んだ母親はすぐに巣を出て行ってしまうからだ。
残された卵はやがて孵化し、殻を自力で割って出る。
生んだ卵は一つではなく、数個であるので孵化するのが早いものや遅いものがいる。
孵化して殻を割って出た雛はそのままでは飢えて死んでしまう。
そこで雛は他の雛と戦って生き残った方が相手を食べてしまうのだった。
そうして、ダルシア人は生まれてすぐに戦う事を覚えるのだ。
長年の間ダルシア人はこの習慣を続けていたが、文明が発達すると産む卵が減り、人口の増減を自然に任せることはしなくなった。
卵や孵化を人工的に調節し、やがて卵を産むことさえ、しなくなった。
人工の卵の中で孵化させるようになったのだ。
ダルシア人の人口そのものは初め増加を目指していた。
だが、人口が増え食料が減って来ると、ダルシア人は人口の抑制を考えるようになった。
すでに人工的に孵化が行われていたので、それは難しいことではなかつた。
その上、かのガンダルフの去って行った人々の残した知識がそれを押していた。
ふたご銀河でダルシア人が唯一、一目置いた種族が、ガンダルフの人々だった。
ダルシア人とは異質の文化文明を創造していた彼らは、強さよりも賢さや優しさ・美しさを尊んでいた。
もちろん、正義を重んじるのはダルシア人もガンダルフの人々も同じだった。
だが、それを求める方法や態度において両者は異なっていた。
強さにおいて、人間型種族であるガンダルフの人々はダルシア人を超えていた。
そのことを知った時に、ダルシア人はやっとガンダルフの人々を認める事を始めたのだ。
そして、遅まきながらダルシア人は他の種族を劣等などと言わずに理解しようとし始めたのだ。
ダルシア人と他種族との違いはたくさんあるが、中でも家族というものは理解できないことであった。
ダルシアには家族という言葉などなかったし、親や夫婦という言葉も概念もなく、子供ということもわからなかった。
生まれてすぐに自分で動くことができたので、育てるということも意味不明だった。
小さいダルシア人は子供というよりもまだ未成熟の者という事を意味していた。
そうした違いの一つ一つを理解しようとしていく内に、人間型種族を劣等種族、劣等文明と決めつけていた考えが変化していった。
情と言うものは愛情であれ友情であれ、恋情以外はある程度理解できた。
最後まで理解できなかったのが恋情である。
けれども、他の情についてはある程度理解可能だった。
ダルシア人の人口が減少し、新しい孵化ができなくなってから、ダルシア人の心情は変化していった。
一人一人のダルシア人が大切なものと感じるようになったのだ。
それだけではない。一人減ればもう増えないので、できるだけ減らすことのないように考えるようになった。
ダルシア人がその特有の竜としての身体を失ったのは、ゼノンとの戦いの中で人口の卵の孵化をする施設の攻撃を受けて施設と共にダルシア人の卵子と精子を失ってしまったからだった。
そのため、それ以降のダルシア人は竜の姿ではなく、人間族の姿を取らざるをえなくなったのだ。
竜としての姿を失ってしまってから、ダルシア人は生まれてくるのさえ嫌がるようになった。
竜の姿は彼らの誇りでもあったからだ。
そのためダルシア人の魂の中で人間の姿を受け入れたものだけが、生まれてくるようになった。
それはさらにダルシア人の人口を減らした。
そして、ダルシア人の人口が最後の二人になったとき、成人のダルシア人は自分より小さいダルシア人をとても大切に、すなわち愛おしく感じたのだ。
他の種族の感情を理解することができるようになったのだ。
と言っても、ダルシアでは種族の遺伝子を伝えることは考えても、個としての遺伝子を伝えることはしなかった。
つまり、血のつながりということは最後まで考えてはいなかった。
コアにとっては、たとえタレス人の姿形をしていたとしても、血が繋がっていなくても、タリア・トンブンはかつての我が娘のように思っていた。
とは言え、今回は単にタレス人として生まれたにすぎないのだ。
その縁はダルシア帝国に繋がっている。
ダルシア帝国を継ぐことができるのは、その魂の出自がダルシア人でなくてはならなかった。
その体がダルシア人に似ているとか、ダルシア人の子孫だとか、ダルシア人の遺伝子を持っているかなどでは、ダルシア帝国を継承する条件としては不足だった。
今現在の意識の内にダルシア人としての自覚がなくても、かまわない。
タリア・トンブンがダルシア帝国を継承するのは、そのためにタリアがこの世に生を受けたからである。
それがタリアの生まれてきた理由の大きな一つなのだ。
ただし、本人はそのことを覚えていない。
そこが問題だった。
コアは何とかタリアにそのことを思い出してほしいと考えていた。
惑星連盟のダルシア帝国の継承者についての審判を開くために、ヘイダール要塞は一番大きな広間を用意していた。
三千人が楽に入る大きさである。
銀河帝国が様々な儀式に用いるために作った広間だった。
その広間を惑星連盟の議長国である、ナンヴァル連邦の要請通りにしつらえた。
ヤム・ディポック要塞司令官は、かつての新世紀共和国軍における正装をして審判が開かれるのを待っていた。
彼は第三者の立場で特に重要な判断をしなければならないわけではなく、まだ時間があるので、広間をのんびりと眺めていた。
銀河帝国の時にあった豪華な広間の室内装飾はとっくの昔にはがされていて、新世紀共和国風にシンプルな内装になっていた。
広間の前面の一段高くなった場所に、惑星連盟の各国政府を表わす徽章のついた旗や置物が置かれていた。
惑星連盟の徽章は、三つの恒星とそれを結ぶリングで現されている。それは同じく広間の前面の一段高い壇上にある審判の席の横に置物として置かれていた。
すでに惑星連盟の大半の代表が席についていた。
その数百二十人以上になる。
その種族の雑多なことは人類しかいないロル星団では思いもかけないほどだった。
もっともその中には数多くのTP能力者がいることを、まだディポックは知らなかった。
ジル星団では各国政府ごと、種族ごとにかなり言語が違うので、共通の言語を作ることは難しかった。
そのために言語フィールド発生装置が作られた。
見た目はまるで小さなアクセサリーに見えるこの装置は、普通一般的には服の上に付ける。
もちろん通信波に乗せて使えるので、宇宙船同士の通信の翻訳にも使えるものだった。
この装置はかなり広範囲において使用可能であり、多言語にも対応できた。
この多言語に対する対応というのは、会議の場に何種類もの言語を使う種族がいても、その間の会話はまるで共通言語で会話するように傍から見えるものだった。
そうした錯覚を与える装置だった。
言語フィールド発生装置の基本は、それぞれの種族の思考は同じ波長で行われるという事実にあった。
怒りや喜びなどという感情や疑いという思考の形態についても、それぞれの脳から同じ波長で出されるというのが根底にある。
同じ感情や思考から出る波長は同じ意味で表わされるから、それぞれの種族の言語は違っても意味は同じなので、
言語フィールド内ではまるで同じ言葉を使用しているような錯覚を起こすのだった。
挨拶や日常会話等の特別な知識を必要としない会話では、互いの理解に非常に有効だった。
脳の波長による翻訳なので返って嘘が無く、信用度が高かかった。
困るのは、外交やビジネスにおける交渉ごとである。
嘘がつけないと、返って使いづらいものだった。
まして交渉における事案は感情や思考形態が複雑になるので、翻訳が難しくなる。
そこでTPの存在が欠かせないのだった。
言語フィールド発生装置があったとしても重要な外交案件のある場合、各国政府代表は優秀なTPを連れてくるのが惑星連盟の習慣である。
なぜなら、仲裁者、審判官、各国政府代表相互間の厳密な意味での意思疎通が難しいことを経験で知っているからである。
また人数の多い場所でのこの装置の使用は、フィールドが重なりあうことで装置の有効範囲を拡げるが、同時に装置の能力を超える多くの脳波を扱うことになるので、他の波長との混乱を惹き起こしやすい。
そのためTPの存在はまた非常に重要になってくるのだった。
TPはその能力の多寡にもよるが、装置が明確に相手の感情と意図を翻訳する手助けを与えることができた。
また直接的に、相手の意図や本心を知るのに重要だった。
今回の惑星連盟の審判については、自分達の利害に直結するかもしれないためどの政府も関心が高く、優秀なTPを複数揃えてこの審判に望んでいた。
リドス連邦王国の一行は、審判の開かれる時間のかっきり10分前にやってきた。
ダズ・アルグ提督が言っていた、元銀河帝国の軍人らしき人物もいた。
何でも彼はカール・ルッツ提督だという。
銀河帝国から亡命してきたメイヤール提督の副官が言ったというからには、多分本当なのだろう、とディポックは思った。
だが、それがどうしてリドス連邦王国の軍人なのかはわからなかった。
広間の中は、壇上に審判官の席、そして審判を受ける者たちの席、そしてディポック司令官の席、あとは証人の席、他に惑星連盟に加盟している代表が着く一段下の一般席に分かれていた。
ダルシア帝国の遺産を継承する者を決定する審判が、ここヘイダール要塞で開かれるというのは、ディポックにはどこか妙な気がした。
この要塞自体は銀河帝国が建設したもので、惑星連盟のあるジル星団とは何のかかわりもないのだ。
それなのに今は、惑星連盟に所属する政府の代表を乗せた艦船が大挙してやってきて、まるでヘイダール要塞が惑星連盟にでもなったように思えた。
正午丁度になると、会場の中はしんと静まり返った。
審判官の席には、まだ誰も座っていなかった。
おそらくこれから審判官であるナンヴァル連邦の大使マグ・デレン・シャが来るのだろうと思われた。
やがて会場の入口が開かれると、ナンヴァル連邦の代表とともに、惑星連盟の議長であるマグ・デレン・シャが入って来た。
真っ白なローブを着て、ゆっくりと歩いていた。
その姿には犯しがたい気品が感じられた。
マグ・デレン・シャが審判席の傍らに立つと、ナンヴァル連邦の代表は彼女に一礼して、一般席に行った。
そして、マグ・デレン・シャは優雅に会場へ視線を向けると、
「これより、ダルシア帝国の遺産継承者の審判を始めます。審判は慎重かつ秘密裏に行うことが要求されます。ここに集まっておられる方々には、ここでの審判内容は決して外で口外することのないよう願います」
と、宣言した。
ディポックが会場を見回すと、証人席には誰もいなかった。これから来るのだろうか?
と、一般席から挙手するものがあった。
「許可します」
と、マグ・デレンが言うと、
「御許可いただき、感謝します」
と、手を上げた人物は立ち上がると言った。
姿かたちからゼノン帝国の代表であることは確かだった。
「私は、ゼノン帝国の代表、ボルドレイ・ガウンといいます。証人席には誰もいませんが、この場合、この審判は開始されるのでしょうか?」
と、言った。
「証人がいてもいなくても、審判は開始されます。いずれ来ることもあるでしょう。しかし、たとえ来なくても、審判はできます。他にありませんか?」
と、マグ・デレンは答えた。
「すると、遅刻が許されるということですか?」
と、ボルドレイ・ガウンが重ねて言った。
「真実を明らかにするということは、遅刻とは関係ありません」
と、マグ・デレンは言った。
「しかし、遅刻というような姑息な手段を使う者もいるのではありませんか?」
と、ボルドレイ・ガウンが執拗に食い下がった。
「なるほど、いつまでも発言を独り占めするという姑息な手段もあるようですね」
と、マグ・デレンは言った。
ボルドレイ・ガウンはなおも言いたげだったが、発言をやめた。
「それでは、審判を始めます。ダルシア帝国の遺産の継承者は前へ出てください」
その言葉にタリア・トンブンは席から一歩前へ出た。
「あなたの名を」
と、マグ・デレンは言った。
「私はタリア・トンブンといいます」
「あなたはダルシア帝国籍ですね?」
「そうです。でも、本当のダルシア人ではありません」
と、タリアははっきりと言った。
「タリア・トンブンといいましたね、この審判はダルシア帝国の継承者を審判するのであって、本当のダルシア人かどうかということを審判するのではありません」
「でも、私は、元々タレス連邦の人間でした。それが亡きコア大使の好意でダルシア帝国籍に入れていただいたのです。そうすれば、私があの宇宙都市ハガロンで生きていくのに役に立つということでした。結果的には大使の秘書をしていたのですけれど、それだけなのです。私はダルシア帝国本国に行ったこともないのです」
「そうは言っても、ダルシア帝国のコア大使はあなたを遺産の継承者として指名したのです。それは無視してよいことではありません」
と、マグ・デレンは言った。
一般席から、再び挙手があった。
「何でしょう。発言を許可します」
と、マグ・デレンは言った。
「私はタレス連邦の代表です。そのタリア・トンブンは、我が連邦では指名手配の犯罪者です。どうか我々に引き渡すことを許可していただきたい」
と、タレス連邦のジアンク・ルプス大使は言った。
「ここは、タレス連邦ではありません。ジル星団の惑星連盟の都市でもありません。ここはヘイダール要塞です。ここの要塞司令官に許可を得たのですか?」
と、マグ・デレンは言った。
「いえ、それはまだです」
「それならば、まず、それをすべきでしょう。ダルシア帝国の遺産の継承者を判断する基準はあなたの国の法律ではありません。よって、あなたの要請は却下します」
と、マグ・デレンは言った。
次に挙手したのは、ゼノン帝国大使のボルドレイ・ガウンだった。
「議長閣下。我々は別の継承者の候補を連れてきました。その者達にもこの審判を受けさせたいと考えています。許可いただけますでしょうか?」
と、丁重に言った。
「他の継承者ですか?そのような者がいるのですか?」
と、マグ・デレンは聞いた。
「わがゼノンにはダルシア人の血を受けついだ者がいるのです。その者達にも、ダルシア帝国の遺産を受け継ぐ権利はあるのではないでしょうか?少なくとも審判を受ける権利はあると思います。その、ダルシア人とは縁もゆかりもない人物とは違って……」
「つまり、あなたの推奨する者たちは、ダルシア人の遺伝子を持つというのですね」
「そうです。亡きコア大使も、ダルシア人の遺伝子を受け継ぐ者がいると知っていたら、遺産の継承をもう少し考えたのではないでしょうか?」
「わかりました。いいでしょう。その者達をここへ呼ぶことを許可します」
と、マグ・デレンは鷹揚に言った。
ボルドレイ・ガウンは、表面上は無表情を装っていたが、これで審判はこちらのものだと考えた。
誰が考えてもダルシア人の血を受け継ぐ者が、ダルシア帝国の遺産の継承者として正当ではないだろうか?
あのタレス連邦のどこの馬の骨がわからないような女よりも……。
「では、一時閉廷します。そしてこれより一時間後に開廷することとします。ゼノン帝国の大使はあなた方の言う、継承者候補を連れてきてください」
と、マグ・デレン・シャは言った。




