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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
23/72

ダルシア帝国の継承者 23

 ヘイダール要塞のタレス連邦艦隊司令官カウベリア一行が南京されている会議室で、ボブ・フリッツはカウベリア提督にイオ・アクナスのことを報告した。



「任務完了です」

「そうか。うまくいけばいいのだが……」

と、カウベリアは言った。


「そのアリュセア・ジーンの能力は、どのようなものか?」

と、副官のセイル・ラリア大佐が聞いた。


「霊を見たり、話を聞いたり、あとは予知に関する夢を見るそうです」

と、ボブ・フリッツは言った。


「霊を見る?夢を見る?そんなことが何の役に立つのか」

と、ラリア大佐は言った

「さあ、よくわかりません。幽霊を見るようなものでしょうか?」



 アリュセアの能力は、TPや念力、透視能力のようなものとは少し異なっていた。

 霊を見たり、夢を見たりする能力はあまり具体的ではなく、その解釈も難しいことから、タレス連邦ではその能力が外交や軍事にうまく貢献するとは思われなかった。

 だからこそ、これまで長年普通人と同じ扱いを受けられたのだ。


 タレス連邦はまだアリュセア・ジーンがダルシア帝国の継承者についての惑星連盟の審判の証人になるかもしれないことは知らなかった。

 ただ、タリア達から情報を収集するスパイを増やしておく必要があると感じたのだ。

 家族を人質にするというのは卑怯だが、スパイを作るには非常に効果的なのだ。

 たとえ現在は死んだとしても普通人としてタレス連邦に残留した者を使うというのは効率的だった。その家族は死んだことなど知らないし、知りようもないからだ。

 他にもその候補は多くいた。



「やつらは、このヘイダール要塞まで逃げてきたが、この後どうするつもりなのか、それを探る必要がある」

「まっすぐ、リドス連邦王国やナンヴァル連邦に行くものと思っていましたが……」

「おそらく、そちらへ向かった連中もいるはずだ。あのタリア・トンブンがここへ来たのは、我々の追跡が彼らの思惑よりも速かったからではないか」

「すると、タリア・トンブンもいずれリドスかナンヴァルへ行くと?」

「おそらく、そうだろう。ここにはもうリドス連邦王国の連中も来ているのだから。だが、他へ行くことも考えられる。例えば、ダルシアだ」

「まさか、ダルシアは我々のような酸素呼吸気系種族は生存できない環境と聞いています」

「だが、あのコア大使のことだ。この件に関してタリア・トンブンに何か智慧を授けたかもしれぬ」

「ですが、あのダルシアに行くには、ダルシアの艦隊がよそ者を遮るのではありませんか?」

「タリアは、ダルシア人として認証されている。タリアならダルシアの艦隊を避けるか、遠ざけるような何かをあのコア大使から聞いているかもしれぬではないか」

「すると、それが……」



 カウベリアは黙って頷いた。

 今、一番必要としているのは、ダルシアに行くための鍵なのだ。


 ジル星団では特殊能力者はどの国でも、ある程度の人数は存在した。

 そして彼らを政府や軍にとって有利なように協力させるというのは当たり前のことだった。


 タレス連邦はジル星団の中でも後発の若い宇宙文明だったから、他の政府よりも一歩も二歩も、いや何歩も遅れていると感じていた。

 だからこそ、タレス連邦は多くの強力な能力者を欲していた。

 タレス連邦を守るために、強力な軍を作るのに必要なのだ。それに加えて、今タレスにあるものよりももっと高度な科学技術も必要となる。

 そのためには、彼ら特殊能力者の自由を奪うことなど当然のように思われていた。


 だがそれは、他の古い国々にとっては眉を潜めることだった。

 古い国々にとって本来特殊能力というものはその国だけにではなく、他の多くの者たちの役に立つ存在として扱われていた。

 その中にはもちろん、魔法使いや魔術師という者たちもいる。


 例えば、ナンヴァル連邦では、特殊能力者はその力を政府の為だけではなく、多くの人のために役立たせて、他の者たちの尊敬と感謝を受ける存在だった。

 また、ゼノン帝国では主に、帝国政府に役に立たせるということを中心に考えている。

 タレス連邦と違うのは、ナンヴァル連邦やゼノン帝国は少々扱いが異なるとはいえ、能力者自身の自由意志で協力がなされるということなのだった。

 褒美や名誉等の顕彰があるとはいえ、本人の意志に背いて無理強いさせるようなことは戒められていた。


 しかし、若いタレス連邦では、それが国是として行われているのだ。

 ジル星団の他の国々にとってそれは、あまりにも本来の存在意味からかけ離れた扱いに思えるのだ。そしてそうした考えが自分達の国に波及することも困惑することだった。


 とは言うもののタレス連邦では、ゼノン帝国との関係上やむを得ぬことだと考えられていた。

 それでもいつかは、ゼノン帝国を上回る科学技術を身につけ、多数の能力者を擁して今の状況から脱するということを望んでいるのだ。

 タレス連邦の為政者にとっても、今の状態は歓迎すべからざることだった。

 なぜなら、いつまでも自国の国民を犯罪者とはいえ犠牲にすることは、間違っているとわかっているからだ。


 ゼノン帝国とタレス連邦との密約は、まずゼノン帝国の連れてくる者に遺産継承を認めさせれば、ゼノン帝国がダルシアの遺産を掌握することがでる。

 その後、ダルシアの知識や科学技術をゼノン帝国とタレス連邦で共同管理し、研究するということだった。


 何しろタレス連邦が宇宙に出るワープ技術を得たのは、ほんの百年まえのことだった。

 それから数年後にジャンプ・ゲートの技術をゼノンから得たのだ。

 もちろん、そのための見返りは出してきた。


 ジル星団ではジャンプ・ゲートの技術は宇宙航行のためのワープ技術を発見し実用化した種族には、本来見返りなどなく提供するものだった。

 タレス連邦では、実はワープ技術もゼノン帝国から提供されたものだったのだ。

 それは他の種族には黙っていた。

 そのため、ジャンプ・ゲートの技術も見返りを要求されて提供されたのだ。


 あまり公にはしていないことだが、ゼノン帝国はその建国時から、食人の風習をもっていた。

 首都星は岩がゴツゴツした農業や牧畜に全く適さない土地だった。

 そのため食物は動物や植物では足りなくて、同族のものでさえ、食料枯渇時には弱い者から食料にせざるを得なかった。


 時代が進み、他の惑星を支配下に置くことで食料事情は一変した。

 他の動物や植物が豊富に得られるようになったのだ。


 それでも、ゼノン帝国はその悪癖をやめることは出来なかった。

 一つには、食人の風習は強者を選ぶ途上で敗れた者を食べることでその力を得るという迷信があったこと。

 もう一つは勇者の特権とし尊ばれる慣習として貴族の間では確立されていたからだった。


 逆に一般庶民は早く他の惑星国家のやり方を受け入れることができていた。

 だが、貴族と呼ばれる者たちは権力と金に飽かせて、望むものを手に入れてきたのだ。


 しかしその風習はジル星団の他の惑星国家では忌むべきものとされていた。

 ジル星団で名誉ある地位を得るためにはゼノン帝国のそうした習慣をせめて表向きだけでもやめる必要があった。

 そうした折、ゼノン帝国はタレス連邦という人類型の種族の住む惑星がワープ技術を欲していることを知ったのだ。

 そこで、ゼノン帝国の持つ科学技術の提供を行う代わりに、タレス連邦はゼノン帝国の要求するものを提供するという密約を交わしたのだ。

 タレス連邦では最初死刑囚を出していたが、最近では死刑囚が減少し要求される数に満たなくなったため、重刑の者や政治犯、逃亡した能力者、精神病者をその中に含めている。

 これはタレス連邦の数人の政府高官しか知らない、国家機密だった。


 一般には知らされないこの事実は、長らく能力者の収容の件とともに秘されてきた。

 しかし、ダルシア帝国の遺産が入れば、もうこのような犠牲は出さずに済むのではないかという計算もタレス連邦の為政者にはあったのだ。

 もちろん、ゼノン帝国に騙されないように充分注意する必要がある。

 従って、何としても今回の審判をゼノン帝国に有利にしなければならなかった。



「ひとつ疑問があるのですが……」

と、ラリア大佐が言った。


「何だ?」

「ダルシア帝国の遺産を我々だけで調査研究することは、不可能なのでしょうか?」

「不可能ではあるまいが、ただ非常に時間がかかるということは確かだと思う」

と、カウベリア提督は言った。



 それほど、タレス連邦とダルシア帝国とのレベルは違う。ダルシア帝国がワープ技術を発見したのは、タレス連邦において、どこかの大陸で鉄器が発見された時代よりももっと古いのだ。






 続々とヘイダール要塞に、ジル星団の惑星連盟の各政府の代表を乗せた艦が入ってきていた。


 要塞には要塞に属する艦隊が約二万隻あり、それぞれ駐機場に入っている。その他に約二万隻分の空きがあり、惑星連盟の艦全部は入らないにしても、各政府につき一艦なのでまだまだ空きが充分あった。


 ダズ・アルグ提督は、惑星連盟の各政府の代表が次々に駐機場から出てくるのを上の階の回廊で所在無く見ていた。

 初めはその種類の多さに驚いていたが、今ではその興味も薄くなって来ていた。

 何となくタリアの様子が気になるのだった。

 ダルシア帝国の遺産も興味がないわけではないが、ダズ・アルグはタリア本人に興味を持ったのだ。

 そこにバルザス提督が現れたことに気づいたダズ・アルグは、身を乗り出すようにして挨拶する相手を見た。



「あまり、身を乗り出すと危ないですよ」

と、後ろから言う者があった。



 キルフ・マクガリアン中尉だった。



「あれは、誰だろう」

と、ダズ・アルグは振り返りもせずに聞いた。


「さあ、誰でしょう。リドス連邦王国の人でしょう。多分……」

と、キルフが言った。



 少なくとも、あのバルザス提督と同じリドス連邦王国の軍服を着ているから、そうに違いなかった。



 その時、

「いや、違う」

という声がした。



 振り返ると、そこには元銀河帝国のメイヤール提督の副官イルーク・ロング中佐がいた。



「知っているんですか?」

と、驚いてキルフは聞いた。


「彼は、カール・ルッツ提督だ」

「ルッツ提督?どこかで聞いたことがあるような……」

と、ダズ・アルグが言った。


「例の大逆事件で亡くなったという銀河帝国の提督がいただろう?階級は上級大将だったかな?」



 例の大逆事件というのは、バルザス提督の上官だったダールマン元帥が関わったとされる皇帝暗殺未遂事件のことである。

 当時は大変な事件で、あっという間にこの辺境のヘイダール要塞までその噂は伝わってきたものだった。



「それって、どういうことです……」

「なぜ、ここに彼がいるかは、本人に聞けばわかるかもしれないが……」

と、ロング中佐は言った。



 下では、バルザス提督が旧知のカール・ルッツ提督ともう一人の人物に挨拶をしていた。

 彼らは惑星連盟のナンヴァル連邦の艦隊の艦に同乗してやってきたのだった。





「よくきてくれた」

と、バルザスは言った。


「どうも、でも、わたしでよかったのかな?」

と、ルッツ提督が言った。少し不安そうだった。


「大丈夫。ここに銀河帝国の軍人はいないから」

「そう?」

「いや、旧王朝の帝国軍人がいたか、でも、彼らは直接ルッツとは話したことはないはずだ」



 旧王朝の帝国軍人というのは、バルザス提督が会ったメイヤール提督とその副官イルーク。ロング中佐のことだった。



「本当なの?」

と、ルッツ提督が言った。


「話し方に気をつければ大丈夫さ。それで、向こうはどうだった?」

と、バルザスは聞いた。


「ダルシアンは頑固だって、マーリンは言っていた。苦労していたわ、じゃない、苦労していた」

「すると、今日の審判には間に合わないか」

「マーリンが来なくても大丈夫か?」

「わからない。何しろ、証人がまだ証言してくれるかどうかはっきりしないんだ」



 ルッツ提督とその副官はダルシアから急遽やってきたようだった。



 そして、急に声を潜めて、

「もしかして、脅迫されている、とか?」

と、ルッツ提督が聞いた。


「そうだが、中途半端だな」

「中途半端とは、どういうことだ?」

と、ルッツ提督の副官と思われる軍服を着た若い人物が言った。


「それは、ちょっとここではまずいですね」

と、バルザス提督は言った。



 視線を感じてバルザスが見上げると、ちょうどダズ・アルグ提督やキルフ・マクガリアン中尉、そしてイルーク・ロング中佐がこちらを見ているのが見えた。



「あの軍服は旧王朝の軍人のものではないか?」

と、ルッツ提督の副官が言った。



 その口調はただの副官とは思えなかった。

 ルッツは副官の言う人物を見たが、少し首を傾げただけだった。



「そのようですね」

と、バルザス提督は言った。


「もしかして、メイヤール提督は生きていたのか?あの噂は本当だったのか?」

「何の話なの?」

と、ルッツ提督が言った。


「ともかく、人目が多いここで長話をするのは止めた方がいいでしょう。部屋を借りているので、そちらへ移動した方がいいと思うのですが?」

と、バルザス提督は言った。


「わかった。卿の言う通りにしよう」

と、副官は言った。






 惑星連盟の審判が始まるのは、今日の正午だった。それまで、あと4時間あった。

 バルザス提督は、リドス連邦王国の艦隊から来た者達を自分の借りた部屋に案内した。



「こんな大きな要塞が宇宙空間に浮かんでいるなんて、驚きだわ」

と、部屋に付いてほっとしたのか、椅子に座るとカール・ルッツ提督はリラックスして言った。



 その口調は女性のようだった。



「この要塞には何度も来たものだ。もちろん私が元帥になる前のことだ……」

と、ルッツの副官が以前は銀河帝国にいたとでも言うように、懐かしそうに言った。


「まあ、そうなの?その頃は、どんなだった?」

と、ルッツは興味を持って聞いた。



 部屋の中なら言葉遣いに神経を使う必要は無いので、本来の自身の口調戻っていた。



「サムディ・カル、今はそれよりも、大事なことがあるんだ」

と、バルザス提督はルッツ提督に言った。


「そうだった。ごめんなさい。それで、どうすればいいの?」

「君たちは、リドス連邦王国の代表として、私と一緒に惑星連盟の審判に出てくれればいい」

「でも、……」

と言って、ルッツは副官と顔を見合わせた。


「君が誰かなんて、誰にもわからないさ。カール・ルッツにしか見えないからね。それに、違う人物だとバレたとしてもリドスの政府が君たちの身分の保証をすることは変わらない。だから、気にしなくてもいい」

「で、証人というのは誰なのだ?」

と、副官が聞いた。


「タレス連邦のアリュセア・ジーンでという人物です」

と、バルザスは言った。


「確か、ダルシア帝国の遺産の継承者は、タリア・トンブンという者だったな」

と、副官が聞いた。


「そうです」

「なぜ、タリアなのだ?」

「それは、審判に出ればおのずと分かるでしょう」

「私に、その理由を知られても構わないのか?」

「それで、困る理由はありません。それに、これまで理由が分からなくて、お困りだったのではありませんか?」

と、バルザスは言った。あくまで丁寧な言葉遣いに徹していた。


「ふん。それが、本当に正当な理由があるというのならな」

と、副官は言った。


「もちろん、タリア・トンブンがダルシア帝国の遺産を継承するのには、正当な理由があるのです。ただ、その理由は、銀河帝国のような政府では、正当と考えられないかもしれませんが」

「ジル星団とロル星団では、伝統やルールが違うというのだろう」

「そうとも言えます」

「でも、そのアリュセアという人は、本当に証人として出てくれるの?」

と、ルッツ提督が言った。


「それは、まだ分からない。ちょっと事情があるので……」

と、バルザスは言った。


「マーリンが来られれば良かったのに」

と言って、ルッツ提督はため息をついた。


「仕方が無い。」





 アリュセア・ジーンについても、タリア・トンブンについても、これは本人の意志に任せるしかないのだった。

 未来は確定的なものではないのだ。これからそれを作るのだから。


 タリアの話によると、あのロルフの手紙の件は、アリュセアを脅迫してこちらのことを探らせるスパイにするために使われたようだった。

 もっとも、死んで霊となったロルフがヘイダール要塞に来てしまったので、実際には役に立たないのだが、向こうはそれを知らない。


 バルザスが不安なのは、タレス連邦にタリア・トンブンのダルシア帝国の継承者としての証人にアリュセア・ジーンがなるということを知られることだった。

 いずれ審判が始まればアリュセア・ジーンのことを隠しているわけにはいかなくなる。

 それを知ったタレス連邦の連中は、それを阻止するべくかならず何らかのことをしてくるだろう。

 ロルフの件を考えるなら、充分な注意が必要だった。



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