ダルシア帝国の継承者 22
タレス連邦の貨物船ガルゴ号を追ってやってきたタレス連邦の艦隊司令官フォンド提督は、何度も要塞司令官に掛け合って、何とか副官を連れて要塞司令室にやってくることができた。
タレス連邦艦隊司令官フォンド提督は、
「ディポック要塞司令官閣下、我々が追ってきた犯罪者を渡してもらいたい」
と、要求した。
「今、ここで何が起きようとしているかお聞きになっていないのですか?惑星連盟の審判が開かれようとしているのです。そんな時に、突然やってきてそんなことを言われても、こちらとしてはすぐに対応しかねます。それに第一、彼らは難民だと言っています」
と、ディポックは言った。
「我々には、そちらのことなど何の関係もないではないか」
と、フォンド提督は不満そうに言った。
「あなたがたも、惑星連盟に加盟しているはずです。いいですか、これは惑星連盟の議長の言葉です。現在係争中のダルシア帝国の遺産継承についての審判が終るまで、何人もこの要塞から出ることを禁じます」
「ならば、我々の追ってきたあの連中に会うことならばよいのではないか?」
「許可できません。審判が終るまでは、彼らに会うことは認めません」
「わかった。では、こちらにいるというタレス連邦のカウベリア提督に会うこともできないか?」
「それは、いいでしょう。ですが、会うだけです。カウベリア提督もこの要塞を出ることはできません」
「わかった」
フォンド提督は大人しく、軟禁状態のカウベリア提督に会いに案内されていった。
「大丈夫ですかね」
と、ダズ・アルグ提督が言った。
「何が?」
と、ディポックが言った。
「何か、企んでいるような気がしませんか?」
「そうかもしれないが、今のところ、これ以上のことはできない」
カウベリア提督は、来た時に案内された会議室に軟禁されたままだった。
フォンド提督が入って行くと、
「フォンド提督。よく、来れたな」
と、カウベリアは言った。
フォンドは口に指を一本立てて当てると、
「私は、本国から犯罪者の乗った船を追って、この要塞まで来たのです。途中、本国からの連絡で提督がここに居られることを知りました」
と、言った。
カウベリア提督は大将であり、フォンド提督は中将だった。
ヘイダール要塞にやってきたのはただタリアの仲間を追いかけてきただけではない。
すでに、カウベリア提督の部下からある程度事情を聞いてきたのだ。
「そうか。で、どうだった?」
とだけ、カウベリアは言った。
「こちらで惑星連盟の例の審判が開かれるということで、我々もそれが終るまでここから出られないということになりました」
と、いかにも困った事態になったというように、フォンドは言った。
「ほう、それで?」
「連中はここでは難民だと言い張っているようです。本当は、大統領令に背いた犯罪者だというのに。困ったことになりました」
「で、話は変わりますが、実は一人、個人的に手紙を頼まれていまして、その人物に手紙が渡るようにしていただけないでしょうか?」
一瞬、TPのボブ・フリッツが目を光らせた。
だが、二人の提督は、何も気づかないように話をしていた。
「いや、私では、何もできまいよ。こちらの司令官に話してはどうかな?」
と、カウベリアが言った。
「わかりました。でも、おそらく許可はでないでしょう」
「この審判が終るまでは、仕方あるまい。君もここで大人しくしているほかは無い」
「そのようですね」
話はそれだけだった。フォンドは会議室から出ると、兵士が一行を別室に案内した。
会議室では、ボブ・フリッツが目を閉じていた。TPの能力をフル回転させているのだ。
イオ・アクナスはアリュセアのところへ行こうとしていた。
部屋のインターホンを鳴らすと、
「はい。どちら様ですか?」
と、子供の声がした。
「イオだ。アリュセアはいるか?」
すると、中で人の動く気配がした。
「何か用なの?」
と、タリア・トンブンの声がした。
「タリア?どうしたんです?」
と、びっくりしたようにイオは言った。
タリアがアリュセアのところにいるとは思わなかったのだ。
「ちょっとね。で、何の用なの?」
「アリュセアに渡したいものがあるのですが……。アリュセアはどうしたんです?」
「ちょっと、気分が悪いようなの」
「そうですか、あとにしましょうか?」
それは、タリアに見られてはまずいかもしれなかった。
イオにはその内容までは知らされていない。
それで、急にイオは機転を利かせて後にしようと言いだしたのだ。
「どんなものなの?」
「アリュセアの気分が悪いというのなら別にいまでなくても……」
「それなら、私が預かることにするわ」
扉を開けると、タリアが出てきた。イオが中を覗きたそうに見ていた。
「アリュセアは大丈夫ですか?」
と、さも心配しているようにイオが聞いた。
「しばらく時間がいるみたい。それで、渡したいものというのは?」
「これです」
と言って、仕方なくイオは小さなメモリカードを渡した。
それは、タレス連邦では手紙によく使われるものだった。
「ありがとう。誰からかしら?アリュセアに渡せばわかるのね」
「たぶん、分かると思います」
「でも、誰からかしら」
「私が聞いたのは、もしかしたらロルフからのものかもしれないと……」
と、イオは言った。
そう言えば、タリアが内容を見ることはないと考えたのだ。
「ロルフ?アリュセアの夫の?」
「今日来たガルゴ号に乗っていた知人が持ってきたんです」
「そう、わかったわ」
イオは、カードを渡すと、長居をせずに帰っていった。
タリアは、イオが見えなくなったのを確かめると、部屋へ戻って行った。
アリュセアは、青い顔をして長椅子に座っていた。
三人の子供たちが心配そうに見守っている。
「アリュセア、イオが手紙を持ってきたわ。あのロルフからですって……」
と、タリアは言った。
アリュセアはゆっくりと顔を上げて、
「手紙?あなた、カードに何か書いたの?」
と、タリアの目からは誰もいない方を向いて言った。
「書いていない?変ね」
と独り言を言いながら、アリュセアは手紙をメモリカード読み取る専用の機械に入れて開いた。
手紙を読み終わると、
「これ、あなたでないとしたら誰が書いたのかしら……」
と、また誰もいない方を向いてアリュセアは言った。
「どうかしたの?」
と、タリアは言った。
「この手紙、イオが持ってきたものだけど、彼は、ロルフは書いてないって言うのよ。それに、この内容、まるで……」
と言って、アリュセアは言葉を途ぎらせた。
「私に見せてくれる?」
と、タリアは思い切って言った。何か変だと感じたのだ。
「どうぞ」
と言って、アリュセアは機械をタリアに見えるように渡した。
<君は要塞で無事だろうか?私は残念ながら、軍に捕らわれてしまった。これは彼らによって書かされている。私の命が惜しいと思ってくれるなら、これから時々そちらに行く連絡係りの者に、そちらの情勢を知らせてくれ。そうしなければ、私はどうなるかわからない。>
と、あった。
「これは、……」
タリアは、絶句した。
「あの連中は、これで私を騙せると思っているのよ」
と、アリュセアは苦笑いをして言った。
「何てひどいことを……」
「許せない……。でも、何をしてもロルフはもう生き返らないわ」
「どうするの?」
と、タリアは聞いた。
「どうするもなにも、ほうっておけばいいわ」
「そういうわけにもいかないと思う。だって、バルザス提督に聞いたけれど、あなたは惑星連盟の審判に証人として出ることを要請されているのでしょう?」
「その所為かしら?」
と、アリュセアは言った。
「まさか、その事はまだ決まったばかりよ。さっきここでその話を聞いたのよ。連中はまだ知らないはずだわ」
こんなことをしてくるのなら、アリュセアについては調べ上げているはずだった。
だが、バルザス提督に審判の証人として出ることを要請されたことについて、彼らはまだ知らないだろうとタリアは思った。
ただし、これからアリュセアと三人の子供の安全はかなり危険になる。
「他に身内の人はいないの?」
「弟がいるけれど、ルドは勘がいいのよ。だから、今回の事が起きる前にどこかへ逃げて行ったわ。つまり予知能力が強いの。簡単に捕まりはしないわ」
「でも、ここにはあなたのほかに子供がいるわ。あの子たちを人質に取られたらどうするの?」
「まさか、そこまでやるかしら?」
「だって、あなたの夫にこんなことをするのよ。何をするかわからないわ」
そうだ。子供たちのことを考えなければ、とアリュセアは思った。
「ここにいる能力者のことを知っているということは、私たちの中にスパイがいるということね」
と、タリアは言った。
仲間にスパイがいるということをタリアは考えた事は無かった。
いや、考えたくなかったのかもしれない。
しかし、現実にアリュセアは脅されている。
こんな時はどうすればいいのだろうか?
アリュセアによれば、ロルフはここにいる。
正確に言えば、ロルフの霊だ。
死んだ後、ロルフは何とかアリュセアと家族の元に来たかったのだ。それで彼は後から来たタレスの船に乗ってやって来たのだ。
ロルフは霊なので、霊を見ることができる者にしか存在はわからない。
もしかしたら、他にも同じような者がいるかもしれない。
この手紙を書いた者の企みが何かはわからないが、ロルフはもう死んでいるのだ。
だからここにいるのだ。
それを知ってしまった時点ですでにその企み破綻していた。
おそらくタレス連邦の政府の連中は、ロルフが生きていることにして、それを何かの脅迫の種にするつもりなのだ。
何と卑怯な、とタリアは思った。
あのガルゴ号は単に、タレス連邦から逃げてきたのではなく、スパイ工作をさせるためにわざと逃がしたのだ。
とするなら、タレス連邦のスパイはすでにタリアの乗って来たフォトン号にも仲間として入り込んでいた可能性がある。
ただ、特殊能力と言っても、アリュセアのように霊を見る能力者についてタリアはまだ把握していなかった。
タレス連邦政府が求めていた特殊能力者は念動力を使う者やTPの強い者がほとんどである。
他の例えばアリュセアのような霊を見たり、夢を見たりする能力者は彼らにとってはあまり使い勝手のいい能力ではないと考えられて来たのだ。
霊や夢を正確に判断したりすることは非常に難しいことだからだ。
それなのに今回は特殊能力を持って居ると考えられる者たち全てを政府は捕まえようとしていた。
政府の意向が変化したのはなぜなのか、タリアにはそれがまだわからなかった。
タリアにはタレス連邦から仲間を連れてヘイダール要塞に逃げて来ただけでも大変なことだった。
それに加えて、タレス連邦政府のスパイに対処することは彼女の力に余ることだと思わざるを得ない。
このことをヘイダール要塞司令官ヤム・ディポックに相談すべきかどうかタリアは迷った。
それでなくても、ディポック司令官は特殊能力に詳しくない。
ほとんど知らないと言っていいだろう。
ロル星団では特殊能力に関することはほとんど一般に知られていないということだった。
だとすると、ダルシア帝国の同盟国であるナンヴァル連邦かリドス連邦王国の代表に相談するしかない。
けれども、ナンヴァル連邦の代表であるマグ・デレン・シャ大使は惑星連盟の議長でもある。
そのため今回の審判においては審判長を務めることになる。
そんなマグ・デレン・シャにタリアの相談を持ち掛けることは、ゼノン帝国やタレス連邦に彼女につけ込む隙を与えることになりかねない。
マグ・デレン・シャは惑星連盟の議長として中立でなければならないのだ。
その時、ロルフが船から降りた時に一緒にそれを見ていた、リドス連邦王国のバルザス提督の事を思い出した。
いやアリュセアだけではない。あのバルザス提督も霊がわかるのだ。見えるのだ。
今現在、リドス連邦王国はタリア達タレスからの難民の敵ではないはずだった。
タレスの難民について、もし移住先に困るのならばリドス連邦王国が受け入れてもいいと、バルザス提督はリドスの政府の意向を伝えてきていたのだ。
「タリア?大丈夫?」
と、アリュセアは心配そうに言った。
「いいえ、そんなことより、このこと他の人には黙っていてくれる?」
と、タリアは言った。
「それはいいけれど、……」
「私たちの仲間の中にスパイがいるのね。まだ誰だかわからないけれど」
「タリア、それなら一人心辺りがあるわ」
と、アリュセアは言った。
もう話したほうがいいのかもしれないと、アリュセアは思った。
「アリュセア、それは証拠があることなの?」
と、タリアは用心して言った。
「あなたは、私の力を知っているかしら。私は夢を見たの。私たちをスパイして、その報告を上司に報告している者の夢を」
「あなたの夢は、いつも信用できるの?」
夢の解釈というのは、難しいものなのだ。
タリアも夢を見るが、それが本当のことも象徴だけのこともある。
アリュセアの見る夢はどれだけ現実に近いのだろうか?
「それは、あなた次第よ」
と、アリュセアは言った。
アリュセアの見る夢は象徴のこともあるが、どちらかというと事実に近いものが多いのだ。
だが、それは後から分かることで、今現在はわからない。
「わかったわ。それで、それは誰?」
「この手紙を持ってきた、イオ・アクナスよ」
と、アリュセアは言った。




