ダルシア帝国の継承者 21
ヤム・ディポック司令官は、惑星連盟の議長国ナンヴァル連邦から要請されたダルシア帝国の遺産の継承についての審判をするための部屋の準備が整ったことをタ・ドルーン・シャ提督に連絡した。
スクリーンに出たナンヴァル連邦の艦隊司令官タ・ドルーン・シャ提督は、
「感謝する、ディポック司令官。では、これよりそちらへ向う。一国で一隻ずつになるが、大丈夫だろうか」
と、言った。
「大丈夫です。ですが、艦から降りるのは審判に出席する者たちだけにしていただけますか?警備の人数があまりいませんので……」
「了解した。我々もそちらに行くのは初めてだ。誤解が起きることもあるだろう。それを防ぐためにも、艦から降りる人数はできるだけ少ない方がいいだろう」
「では、それでお願いします」
ヘイダール要塞に惑星連盟の艦が一隻ずつ、駐機場に入って来た。
その一隻、一隻の形が違っていた。様々な形の艦はそれぞれ別の種族のものなのだ。
数えてみると、五十以上もあった。
駐機場から降りてきた各国の代表たちは、また様々だった。
人間型種族が多数を占めていたが、どうみても人間に見えないような者たちもいる。
そこには新世紀共和国では昆虫と言われるような生物がいたし、まるで爬虫類そのものに見える者たちもいた。
また、ヘイダール要塞の環境が本国と異なるのか、宇宙服を着たままの者達もいた。
「大丈夫なんですかね、あの連中。とても人間には見えませんよ」
と、司令室の大スクリーンで惑星連盟の各国代表が出てくるのを見ていたダズ・アルグ提督は言った。
「人間に見えなくても、どれもみな、宇宙船を作る技術を持っている知的種族なのだろう……」
と、ディポック司令官が言った。
司令室の要塞内監視用スクリーンは惑星連盟の人々を映していた。
案内の兵士が様々な種族におっかなびっくりで対応しているのが見えた。
惑星連盟というのは、構成している種族が新世紀共和国や銀河帝国とはまるで違っているようだった。
ロル星団では人間型種族しかいなかったのに、ジル星団では様々な種族が存在しているらしい。
だから、これまで宇宙航行を知らなかった人間が初めて宇宙に出て異星人と会ったようなものだ。
ディポックは銀河帝国では、彼らジル星団の種族とどのようにして付き合いを始めたのだろうかと思った。
これほど様々な形態の種族がいると知っているのだろうか?
そして彼らを見たその反応はどんなものだったのだろうか。
しかし、なぜこれまで惑星連盟は新世紀共和国や銀河帝国と接触しなかったのだろうか?
やはり、あの戦争――銀河帝国と新世紀共和国との戦争がそれを回避させていたのだろうか?
ナンヴァル連邦の艦隊司令官タ・ドルーン・シャ提督はもう一人のナンヴァル人を連れてきて、ディポック司令官に挨拶にやってきた。
そのナンヴァル人は小柄で、着ている服も違っていた。
「こちらは、惑星連盟のナンヴァル連邦の代表、マグ・デレン・シャ大使閣下である」
と、タ・ドルーン・シャは紹介した。
女性のような感じがするので、
「失礼ですが、こちらは女性の方でしょうか?」
と、ディポックは聞いた。
「そうだ。デレン閣下、こちらはヘイダール要塞司令官、ヤム・ディポック司令官です」
と、タ・ドルーンは紹介した。
マグ・デレン・シャは優雅に会釈をすると、
「初めまして、私はマグ・デレン、ナンヴァル連邦惑星連盟大使であり、惑星連盟の議長として来ました。こちらをダルシア帝国の遺産継承の審判のために使わせてくださることに感謝いたします」
と、丁寧に言った。
「いえ、こちらこそ、惑星連盟の方々にお会いできて、嬉しく思います」
と、ディポックは言った。
「それで、ひとつお願いがあります。聞いていただけますでしょうか?」
と、マグ・デレンは言った。
「私にできることならば、……」
「このたび開かれる惑星連邦の審判ですが、そこに第三者として参加していただきたいのです。これは審判を公平公正にするために、規約に定められていることなのです。少なくとも、あなたは惑星連盟やダルシア帝国とは利害関係のない方ですので。いかがでしょうか?」
「私のような者でよければ、参加させていただきます」
「御迷惑でしょうが、宜しくお願いいたします」
惑星連盟の審判がどのようなものか分からないが、ディポックは興味があった。そこに参加させてもらえるのは願ってもないことだった。
リドス連邦王国のバルザス提督の部屋に訪問者があった。
ナンヴァル連邦のタ・ドルーン・シャ艦隊司令官である。
バルザス提督は何度見ても、緑色のナンヴァル連邦軍の軍服は慣れなかった。
ナンヴァル人の皮膚の色に似て、皮膚そのもののようにも見え、好戦的な印象を与えている。
「審判が開かれる準備が整ったことを伝えに来た」
と、タ・ドルーン・シャ提督が言った。
「わかった」
と、バルザスが言った。
「期日は明日正午より始めることとする。審判官は惑星連盟のマグ・デレン・シャ議長が務める。第三者としてヘイダール要塞司令官ヤム・ディポック氏を置くことになった」
「わかった」
「君の方の準備はどうだろうか?」
と、タ・ドルーン・シャは聞いた。
「それは、まだわからない。明日正午までに整うかどうかは、運しだいだな」
「それはまた、らしくないことを言う。レギオンはいないようだが、どうしたのだ?」
「まだ『ダルシアン』の説得に当っている」
「万が一にもダルシア帝国の遺産がゼノン帝国の手に渡ると、惑星連盟は終わりだ。ジル星団はゼノン帝国に席巻されるだろう。そのようなことは誰も望んではいない」
と、タ・ドルーン・シャはナンヴァル人らしく、事実を率直に語った。
「分かっている」
「君の勝利を祈っている」
と言って、タ・ドルーン・シャはバルザスの部屋を辞した。
ナンヴァル連邦艦隊司令官タ・ドルーン・シャはタリア・トンブンの部屋も訪問し、惑星連盟の審判が行われることを知らせた。
「明日、正午に始まるのね」
と、タリアは言った。
「そうだ」
と、タ・ドルーン・シャ。
「やっと終るのね。もう、そのためにどれだけ迷惑しているか……」
と言って、タリアはため息をついた。
「迷惑?ダルシア帝国の遺産は、君にとっては迷惑なことか?」
と、不思議そうにタ・ドルーン・シャは聞いた。
「そりゃ、コア大使の指名だと聞いたけれど。とうてい私では継承したとしても、仕方が無いでしょう?」
「だが、もしダルシア帝国の遺産が他の勢力、つまりゼノン帝国のような連中の手に落ちると、惑星連盟全体が危機に陥る。またあのかつての時代に逆戻りだ。弱小種族がゼノン帝国の支配にあえぐようになる。虐殺だけではない、全滅する種族も出てくるだろう」
「でも、ナンヴァル連邦、あなた方がいるでしょう?ダルシア帝国が滅びても、ナンヴァル連邦さえ健在なら大丈夫でしょう?」
ジル星団ではそれが一般的に言われていることだった。
ダルシア帝国がなくなっても、ナンヴァル連邦さえ健在なら惑星連盟は大丈夫だろうと。
何しろ、およそ一万年前にダルシア帝国と共同してゼノン帝国を押さえ込んだのだ。
「もう我々単独では、ゼノン帝国に対抗できない。これまでダルシア帝国のコア大使がいたから、何とかなったのだ」
「でも、古い種族なら他にもいるわ。例えば、カウラン王国はどうなの?フェルガモ連邦は?」
「古い種族は、かつてよりも弱っている。あの頃でさえ、ゼノン帝国には対抗できなかった。我々ナンヴァル連邦も同じことだ」
「そんな!それじゃ、どうすればいいの?私が遺産を継承したとしても、何かできるというの?第一、私はダルシア人でさえない。例え、継承したとしても、遺産を扱えなければ同じことだわ」
ダルシア帝国のシステムを扱えるのは、ダルシア人だけだった。だからこそ、ゼノン帝国はダルシア帝国に従うしかなかったのだ。
「しかし、コア大使は君を指名したのだ。それに何らかの意味があるのではないか?」
「私は、遺産については何も聞いてはいないわ」
「だが、コア大使は意味のないことをするとは思えない。タリア、この件について、もう一度考えてほしい。たとえ、君が遺産を欲してはいないとしても、これは惑星連盟全体に関わることでもあるのだ」
タリアはダルシア帝国の遺産の継承が、ジル星団全体の命運をも握る重要な問題であることを仕方なく受け入れるしかなかった。
「じゃ、ひとつ聞いてもいい?」
「どんなことかな?」
「リドス連邦王国のこと」
「リドス連邦王国?それがどうしたのだ?」
「彼らは何者なの?」
「コア大使から、何も聞いてはいないのか?」
「リドス連邦王国は私の味方のようなことを言うけれど、彼らだってダルシア帝国の遺産を欲しがっているのではないの?」
これは当初から疑っていたことだった。
どこの政府もダルシア帝国の遺産について、欲しがっているということを聞いたことはある。それなら、リドス連邦王国も同様ではないのか。
「君はリドス連邦王国が二百年前にジル星団にやってきたことを知っているか?」
「聞いたことがあるわ。それが本当かどうかはわからないけれど」
「私が知っているのは、コア大使から他の者が聞いたことやナンヴァル連邦の指導者に伝えられている話だ。それが真実かどうかはわからないが話そう。ダルシア帝国が滅びることがわかってから、長い間彼らの替わりになる者達を彼ら自身が捜していたということだ。そして、それがやっと見つかったのは二百年前のことだった。」
「それじゃ、コア大使がダルシア帝国の変わりになる国として呼んだというの?」
「そう聞いている。彼らは、遠い銀河からやってきたのだ」
「じゃ、彼らは……」
「私たちが知っている部分以外のものがあるということだ。それは君の知っている、バルザス提督についても同じだ。彼は今回銀河帝国に生まれたが、元々惑星ガンダルフに属している者だと聞いている。惑星ガンダルフは、今ではリドス連邦王国の首都星と言われているが、謎の星だ。ダルシア帝国と同じくらい古いともいわれている。その惑星ガンダルフは、リドス連邦王国がこのジル星団にやってきたとき、あっさり移住を受け入れたのだ。だから、リドス連邦王国はかつて惑星ガンダルフにいた者達が、戻ってきたのだとも言われている。」
「何を言っているのか、理解できないわ」
「ダルシア帝国の遺産を皆が欲しがるのは、我々の理解を超えた文明だったからだ。それは同じようにリドス連邦王国にも当てはまる。伝え聞く事によれば、彼らはダルシア帝国をも凌駕する文明を築いている。それはおそらく我々の理解を超えたものだろう」
「そんなこと聞いたこともないわ」
「これまで、知らなくてもよかったからだ。それに、リドス連邦王国も自分達のことをあまり知られないようにしている。だが、新たな事態が起きた。ダルシア帝国はコア大使が亡くなったことにより、滅びたのだ」
「それでは、惑星連盟はどうなるの?リドス連邦王国がダルシア帝国の替わりになるというの?」
「それが平和的に行われればいいのだが、……。ゼノン帝国は黙ってはいないだろう」
「もし、私がダルシア帝国の遺産を継承しなかったら?」
「その遺産の継承を巡って、ジル星団内で紛争が起きるだろう」
「そのリドス連邦王国は、私がダルシア帝国の遺産を継承することを望んでいるというの?」
「だから、バルザス提督が派遣されたのだ。君も知っているだろう?ダルシア帝国の同盟国は、リドス連邦王国と我がナンヴァル連邦なのだ。彼らはコア大使の意志を尊重するだろう」
タリアは、簡単には信じられなかった。
けれども、ダルシア帝国の遺産については、もう一度考え直す必要がありそうだった。
「タリア、中立でなければならないので私が君に言えるのはこの程度なのだ。ナンヴァル連邦は惑星連盟の議長国としての務めがある。審判はマグ・デレン・シャ閣下が司ることになっている」
と、タ・ドルーン・シャ提督は言った。
ヘイダール要塞の時制は、真夜中だった。
一隻の貨物船が、要塞の警戒宙域にジャンプ・ゲートからワープ・アウトした。
その後から、タレス連邦に属していると思われる艦隊が次々にワープ・アウトしてきた。
すぐさま貨物船は、要塞に向けて救難信号を発した。
「追われています。救援を願います。こちらはタレス連邦貨物船ガルゴ号……」
すぐに要塞側は反応した。
「こちらは、ヘイダール要塞だ。どこの艦隊か、所属を明らかにせよ。しなければ、攻撃する」
と、後からワープ・アウトした艦隊に向けて通信を送った。
ヘイダール要塞の周りの惑星連盟の艦隊も騒然となった。
要塞の周囲には、少なく見積もっても十万隻の艦艇がひしめき合っていた。
そのため出現した艦隊を回避しようとするだけで、他の艦隊も動かざるを得なくなるのだ。
「司令官、起きてください。緊急事態です」
と、キルフの声でヤム・ディポックは目を覚ました。
「もう朝かい?」
と、寝ぼけた声でディポックは言った。
「まだ朝じゃありません。今は真夜中です」
「それじゃ、朝になったら起こしてくれ」
と言って、ディポックは毛布に潜り込んだ。
さらにキルフは言った。
「司令官、要塞の近くでタレス連邦から新たな艦隊がワープ・アウトして、貨物船ガルゴ号を追っているそうです。貨物船ガルゴ号が要塞に助けを求めてきて居ます」
突然ディポックは毛布から顔だけ出すと、
「何だって?貨物船が追いかけられている?」
と、言った。
「一応、こちらも警告していますが、このまま行けば、主砲を発射することになるのでしょうか?」
「じょうだんじゃない。こんなに回りに艦艇が込み合っている時に、そんなことをしたら、大変なことになる」
急いで着替えると、ディポックは司令室に向った。
「新たに来た艦隊に通信を開いてくれ」
と、ディポックは司令室に着くなり言った。
「了解」
すると、スクリーンに新たに来た艦隊司令官の顔が映じた。
「我々はタレス連邦艦隊である。こちらに犯罪者の船が入り込んでいる。こちらに渡してもらいたい」
と、タレス連邦の提督と思しき人物が高圧的に言った。
「現在、ヘイダール要塞には惑星連盟の艦隊が来ています。ここで揉め事を起こすと、惑星連盟があなたとあなたの政府に抗議をすることになりますが、それでいいのですか?」
と、ディポックは警告した。
「我々はただ、犯罪者を追っているだけだ」
と、タレス連邦の提督は少しトーン・ダウンして言った。
「それでも、ここには多くの艦艇がひしめき合っているのです。あなた方の艦隊の入る余地はありません。あなた方の言う船がいるのなら、こちらで探します。ですから、今の位置から動かないようにしていただきたい」
「わかった。そちらの言う通りにしよう。だが、必ず探して欲しい」
と、相手はしぶしぶ言った。
通信が切れると、
「あの船は、タレスからの難民を運んでいるんです。彼らに渡さないで下さい」
と、タリア・トンブンが言った。
タリアは、貨物船の騒ぎを聞きつけて急いで要塞司令室にやってきたのだ。
その隣にはバルザス提督も来ていた。
「ともかく、船を捜しましょう。船の名は何と言っていました?」
と、ディポックは言った。
「ガルゴ号です」
ヘイダール要塞が呼びかけると、しばらくして応答があった。
「こちらは、ガルゴ号。この船にはタレス連邦の難民が乗っている。決して犯罪者ではありません」
と、応答してきた。
「わかっています。こちらの誘導で、要塞の中へ入ってください。そうすれば、一応安心できるでしょう。こちらには、タリア・トンブンも居ます」
と、ディポックは言った。
「タリアだって?彼女は無事なのですか?」
「無事です」
「よかった。心配していたんです」
「あなた方は、どちらから来たんですか?」
「我々は、タレス連邦から出発した最後の船です」
「他の船はどうしたんです?」
「散り散りになりました。タレス連邦の艦隊に追われたので、他の船の消息はわかりません」
タリアはガルゴ号の駐機する場所へ行って、降りてくる者を待った。
「まだ、船がいたなんて、もう少し私が注意していれば……」
と、タリアは後悔して言った。
「注意していたとしても、君に何かできたとは思えないね」
と、バルザス提督が言った。
やがて船の扉が開いて、人々が下りてきた。
そこには、この騒ぎを聞きつけて、タレス連邦からの難民が何人か来ていた。
この船に離れ離れになった家族が乗っては居ないかと思ったのだ。
タレス連邦からの逃亡は時間的に限られていたので、家族そろって逃げることができたのは少数だった。
それに家族全員が能力者とは限らなかったので、普通人だった場合、置いてきた者もある。そういう者達が後からの船に乗っていることもあると考えたのだ。
そうした人々の中に、あのアリュセア・ジーンもいた。
彼女の夫ロルフもまた、この船に乗っているかもしれないと淡い期待を持ってやってきていた。
多くの人々が降りてきた後も、まだアリュセアは他に降りてくる者がいないか辛抱強く見ていた。
すると、
「あ、あれは?」
と、アリュセアは知っている顔を見かけてつい声が出た。
たった一人だが、誰もいなくなった船から下りてくる者がいた。
「どうかしましたか?」
と、近くにいたバルザス提督が声を掛けた。
「やっぱり、乗っていたんだわ。ロルフよ。ここよ、私は!」
と、アリュセアは勢いよく手を振った。
バルザスが見ると、そこに亜麻色の髪の三十代後半の男性がいた。
最初はおどおどしているようだったが、アリュセアを見つけると、顔を明るくして降りてきた。
「夫のロルフよ」
と、アリュセアは喜びに顔を輝かせて言った。
タリアは妙な顔をしてバルザスに、
「誰ですって?あなたには見えるの?」
と、言った。
「だから、アリュセアが夫のロルフだって……」
と、バルザスは言葉の途中で詰まって、タリアを見た。
「今、なんと言ったんだ?」
「だから、あそこに何が見えるのかって、聞いたのよ」
と、タリアは言った。
タリアの目には、嬉しそうにしているアリュセアが見えたが、他には誰も見えなかったのだ。
バルザスは急に厳しい顔をして、少し離れているアリュセアの方を見やって、
「私には、あそこに男が一人見える」
と、言った。
「だから、私には見えないの!」
と、タリアは言った。




