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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
20/72

ダルシア帝国の継承者 20 

 バルザス提督は、昨日と同じく、少し離れてタリア・トンブンを警護していた。

 そして、タリアの夢のことを考えていた。

 断片的な内容だが、彼の記憶にある部分と一致することがあったのだ。



 昔、惑星ガンダルフには確かに『銀の月』と呼ばれる魔法使いがいた。

 その魔法使いは二千年前、塔のある城の中庭で結婚式を挙げたことがある。

 当時、彼はまだ自分が『銀の月』と言う魔法使いであることは知らなかった。


 その式に、かつてロル星団から移住してきたアルフ族が祝いに翔けつけてくれたことを覚えていた。

 そして、その城の中庭には白い花が咲いていた。

 その花は白光草という白魔法を強化する特別な力をもった花だった。


 そして、式に来たのはアルフ族だけではなかった。遠くダルシア帝国からも客人が来ていたのを覚えている。

 ダルシア帝国の皇帝と皇女が来たのだ。

 もちろん、当時の自分がダルシア帝国を知っていたわけではない。

 アルフ族のところへ遊びに来ていた折、ガンダルフの結婚式があるというので彼らと共に祝いに来ていたのだ。

 その頃は、アルフ族はダルシア帝国とまだ親交があったのだ。

 彼らは宇宙船ではなく、彼ら得意の魔法を使って交流していた。


 その時聞いたのは、ダルシア帝国にはもうこの二人しか住人は居ないということだった。

 その時の皇帝があのダルシア帝国のコア大使といわれる人物であることを、バルザス提督はおぼろげながら思い出していた。


 思い出したのは、その結婚式の場にバルザス提督――銀の月がいたからだった。

 結婚式の当事者が彼だったのだ。


 ここで問題は、バルザス提督自身がダルシア帝国の遺産を継承するタリアの証人にはなれないということだ。

 リドス連邦王国の関係者がダルシア帝国を審判する場で、その証人になるという事を惑星連盟の他の諸国が受け入れないだろうということだ。

 リドス連邦王国はまだ新参者であり、ダルシア帝国の同盟していることで所謂妬まれてもいるからだ。


 だから当時のことを覚えているもう一人の人物を見つけなければならない。

 現在はダルシア帝国ともリドス連邦王国とも関係のない人物、つまり、当時の銀の月の結婚相手だ。


 リドス連邦王国の政府が言って来た『銀の月』という名前に、もっと別の意味があることをバルザスはやっと気が付いた。タリアの夢の話を聞かなければわからなかったことだ。


 今日も、タリアはタレス連邦から来た難民達の世話で走り回っていた。






 惑星連盟の艦隊では、新しい動きが生じつつあった。



「司令官、ナンヴァル連邦の艦隊司令官より通信です」


 眠ったように目を閉じていたディポックは、すぐに目を開けると、

「わかった。出してくれ」

と、言った。


「こちらは、惑星連盟、ナンヴァル連邦艦隊司令官タ・ドルーン・シャである。ヘイダール要塞司令官に告げる、こちらの準備が整った。要塞に艦を駐機する許可を要請する」

「わかりました。ですが、まずこちらに来る方々の名簿を、通信を介して送っていただきたい。こちらにも色々と準備が必要だと思いますので」

「了解した。すぐにも送る手続きをする。それから、この件について惑星連盟として審判を行うので、その部屋や代表の部屋を用意してほしい」

「わかりました。それでは、その用意をするために少し時間をいただけますか」

「了解した。準備が整ったら連絡をお願いする」



 惑星連盟の艦隊から連絡があったことを知ったバルザス提督は、タリアに近づいて尋ねた。



「何の用なの?」

と、タリアはあまり歓迎しない声を出した。


「実は、タレス連邦から来た難民達の名簿を見せて欲しい」

と、バルザスは言った。


「どうして、そんなものが見たいの?」

と、警戒してタリアは言った。


「おそらく、惑星連盟はダルシア帝国の遺産の継承について、この要塞で審判を開くはずだ。その審判で必要な証人を探している」

「私に遺産を継承させるための証人が、タレス連邦の難民の中にいるというの?」

と、タリアは驚いたように言った。


「君を納得させるかどうかではなく、まずゼノン帝国の言い分を否定し、君を継承者と認めさせる証人が必要なんだ。実際君が遺産を継承するかどうかは、君が決めるといい」

「遺産の継承は私の自由意志で決めていいのね」

と、タリアは念を押した。


「もちろんだ。それに他の目的には決して使わないと約束する」

「わかったわ、ちょっと待って……」



 タリアは、バルザスの言葉を信じてタレス連邦から来た難民の名簿を渡すことにした。

 タレス人の亡命者の名簿は慌てて作ったのもあって、何枚かの紙に手書きで名前と年齢が書かれたものだった。

 バルザス提督はそれを受け取ると、タリアと別れた。


 バルザスにとってその名簿の中に、審判に必要な証人がいるかどうかは、実際賭けに近いことだった。



 タリアとバルザス提督を見ている者がいた。しかし、その人物は目には見えないので、二人は気づかなかった。

 その人物は二人がよく知っている人物で、宇宙都市ハガロンでは、ダルシア帝国のコア大使として知られていた。


 ダルシア帝国のコア大使は、既に宇宙都市ハガロンにおいて亡くなっており、彼の葬式に類する儀式がハガロンでは行われていた。

 従って、宇宙都市ハガロンと惑星連盟ではダルシア帝国のコア大使が亡くなったことは周知の事実だった。

 けれども、コア大使自身の霊はヘイダール要塞に来ていたのだ。


 ヘイダール要塞の外に惑星連盟の各国政府の艦隊が来ていることや、コア大使自身が死んだ後、何が起きているのか知っていて、彼はここにきているのだった。

 できうるならば、ダルシア帝国の継承者の決定について、バルザスに力を貸してやりたいと思っているのだ。

 タリアに夢を見させたのもそのためだった。


 今のままでは、ゼノン帝国がダルシア帝国の遺産を掠め取られる危険があった。

 だからこそ、ヘイダール要塞にやってきたのだ。


 バルザス自身はまだ思い出してはいないが、コアとバルザスは深い縁で結ばれているのだ。

 だが、今はそこまで記憶が戻っていないのだった。


 バルザスはガンダルフの高名な魔法使いなのだが、まだ彼本来の力を取り戻していない。

 なぜならまだ魔法使いとしての記憶が戻ってあまり時間が経っていないからである。全てを思い出すにはいま少し時間がかかるのだ。


 コアは、銀河帝国の軍人のベルンハルト・バルザスとしてよりも、ガンダルフの魔法使いとしての彼をよく知っていた。


 バルザスは『銀の月』と呼ばれる、ガンダルフではかなり古くから存在した魔法使いの一人だった。

 ガンダルフでは他の古い文明の魔法使いとは違って、長命を保つよりも、生まれ変わっても前の生の記憶を持続させる呪文を持っていた。

 それは力の強い魔法使いしか使えない呪文でもある。

 それを使えば、過去世の記憶を保持することが可能なのだ。

 そうした記憶の持続は経験の持続でもあり、その経験によって様々な魔法の呪文を知り、自在に使うための素地となって、生まれ変わる度に、さらに強い魔法使いとなることを可能にしていた。


 ただ、そうした前世の記憶を蘇らすためには一つの条件があった。

 彼らガンダルフの魔法使い達は生まれてすぐに、過去の記憶を思い出すわけではない。

 もちろん普通に生活している時に思い出すわけでもない。

 それにはある特別な条件が必要なのだった。

 そして、それができるのが、ガンダルフの古い強力な魔法使いの証だった。


 その条件はガンダルフの魔法使いの秘儀として受け継がれており、よほどのことが無い限り、他の星の魔法使いが知ることはできなかった。


 もちろん、それが何であるか、ダルシア帝国のコア大使は知っていた。

 コア大使はダルシア人としての長い寿命や高度な文明ゆえにある能力から、ガンダルフの魔法使いとも親しく付き合っていた。

 中でもガンダルフの五大魔法使い達とはかなり親しかったのだ。






 バルザス提督は自室に戻ると、タリアから貰ったタレス連邦からの難民の名簿の紙片に目を通した。

 その数はおよそ二千人ほどだった。タレス連邦の貨物船に乗れたのはそれがやっとだったのだ。

 もっとも、タリアの乗る貨物船の他にもタレス連邦から出た難民の船はある。

 そうした船は直接リドス連邦王国に行くか、ナンヴァル連邦や惑星連盟のある宇宙都市ハガロンに保護を求めて行った。

 従って、タレス連邦からの難民は最終的には何万という数になろうとしていた。


 バルザス提督の必要とする人物は、このヘイダール要塞にやってきた船に乗っていると感じていた。

 万単位ではないが、二千というと、一人で人探しをするには不向きな数だった。だが、確実にわかっているのは、このタレス連邦からの難民の中に居るということだけだ。

 バルザスは目を閉じると、亡きダルシアのコア大使に助力を願った。

 探している人物が現在どんな名でどんな人生を歩んでいるのか、皆目検討が付かない。それなのに、探さなければならないのだ。

 しかもかつて『銀の月』に縁のあった人物なので、彼にしかわからないのだ。


 バルザス提督の思いはヘイダール要塞のどこかにいるはずのコア大使まで伝わった。


 瞑想していたコアは目を開けると、辺りを見回した。

 そして、彼はバルザス提督の事を思い浮かべた。

 すると、彼はバルザス提督の宿舎へ移動していた。

 視界の下にバルザス提督が名簿のようなものを見ているのが見えた。

 いつの間にかコアとバルザス提督が重なるようにして名簿を見ていた。



 ゆっくりと辛抱強く名簿を見ていく中に、バルザスはある名前に引きつけられた。

 その名は、アリュセア・ジーン。子供が三人いると記されている。

 なぜか、その名が気になるのだ。



「私はちょっと出てくる」

と、バルザス提督はドルフ中佐に言った。


「見つかりましたか」

「ああ、たぶん。確かめてくる」



 バルザスは急いでタレス連邦の難民達のいる区画へ行った。





 タレス連邦の難民達は昨日要塞へ入ったので、色々必要なものを求めて要塞の補給物質の倉庫前でごった返していた。

 難民達の世話をするために兵士が何人も来ていた。

 着の身着のままで故郷を出てきたので、必要なものも様々だった。

 食べる物は食堂で要塞の兵士達と一緒でいいのだが、衣料品や薬、雑貨なども要塞で需給してくれることになっていた。


 難民達のいるところをバルザスは歩き回った。

 要塞に入ったことで安心したのか、難民達の笑顔も見えていた。

 その中に、バルザスは30代くらいの女性を見つけた。名簿では36歳となっていた。金髪で緑の目をもつ女性だった。


 かつてのその人は赤い髪に青い目をしていた。

 多少外見は変わっても、その魂の持つ輝きは変わってはいなかった。

 『銀の月』だけに見えるその輝きは、以前よりも増しているように見えた。この数十年の間に彼女なりの変化もあっただろうに、それは決して翳ってはいなかった。


 じっと見ていると、相手もバルザスに気が付いた。

 彼女は話している相手と別れると、人のいないほうに歩いて行った。

 バルザスはその後を、間をおいて付いて行った。



 しばらく歩いて人気の無い場所に着くと、

「私に何か用なのかしら?」

と、振り向いてバルザスに問いかけた。


「あなたは、アリュセア・ジーンですか?」

と、バルザスは言った。


「あなたは、誰?まず、あなたから名乗るものでしょう」

と、アリュセア・ジーンは聞いた。


「失礼、言う必要があるとは思わなかったので、……。私は、リドス連邦王国のベルンハルト・バルザス提督です」

といって、アリュセアを窺うように見た。


「リドス連邦王国の提督が私に何の用なの?」

と、アリュセアは聞いた。


「ヘイダール要塞でジル星団の惑星連盟がダルシア帝国の継承者に関して審判を開く、その際の証人として出廷してほしいのです」

と、バルザスは言った。


「ダルシア帝国なんて、知らないわ。名前ぐらいは聞いたことがあるけれど。だから、証人なんて無理よ」

と、アリュセアは明解に答えた。


「タリア・トンブンを知っていますか?」

と、バルザスは聞いた。


「タリアなら、知っている。こうしてここに無事に付いたのも彼女のお陰だもの」

「ダルシア帝国の継承者としてタリア・トンブンが指名されています。だが、その継承者について不服を申し立てる者がいる。だから、彼女が正式な継承者であることを証明する者がいるのです」

「だから、どうして私が証人になるの?タリアにはお世話になっているけれど、彼女がダルシア帝国の正式な継承者であるという証明なんてできないわ。だってどうすればいいのか、わからないし、彼女のことは特に個人的なことを知っているわけじゃない」

「いや、あなたならできるはずです」

「どうして?」



 一瞬、バルザスは迷った。

 相手は、バルザスが誰であるか気づいていない。

 あの時代、彼女は魔法使いではなかった。だから、その時のことを思い出させるのは難しいかもしれない。

 だが、そうも言ってはいられないのだ。



「あの時、惑星ガンダルフのフォルダンの地で式を挙げたときに祝福のために来たのが、タリアだからです」

と、バルザスは思い切って言った。


「何を言っているのかわからない。私はタレス連邦の惑星キンダホの生れです。ガンダルフなんて知らないわ」

「本当に知らないのですか?」

「本当よ。何かの間違いじゃないの?リドスの提督さん」



 嘘を言っているようには、見えなかった。



「そうか。私の勘違いだったようです。呼び止めたりして、申し訳ない」

と、バルザスは詫びた。


「分かってくれればいいのよ。」



 アリュセア・ジーンはバルザス提督と別れると、タレス連邦から来た難民達が借りている元士官の宿舎だった娘達の居る区画へ戻った。



「おかえりなさい、ママ」

と、一番下の娘のリュイが言った。


「お姉さん達は?」

と、アリュセアが聞いた。


「そとに、行った」

と、リュイは言った。


「しょうがないわね」

と、アリュセアは言うと、貰ってきたものを部屋に並べた。



 要塞の倉庫で古着を並べている場所に行き、子供や自分の着替えを何枚か、見つけたのだ。

 何しろ全くの着の身着のままなので、着替えもない。

 この要塞では食べ物の心配はないのだが、着るものなどは見つけるのに苦労しそうだった。

 それでもここなら、追いかけられたり、逃げたりしないで済む。


 アリュセアは椅子に座ると、夕食の時間になるまで休むことにした。

 こんなことになるとは、最初は考えてもいなかった。

 アリュセアはタレス連邦の首都星ゼレスに住んでいた。夫は企業の研究室に勤務していた。子供は三人で、アリュセアはパートで仕事をすることもあった。それが、今回の大統領令でそれまでの安穏とした暮らしが一変してしまった。


 アリュセアにある能力は、普通はあまり能力者の仲間とは数えられないものだった。

 TPや念力などとは少し違うので、使い物にならないとこれまでは考えられていたのだ。それでも、仕事で使うこともできた。

 夢を見たり、霊を見たりする力は、外交や間諜にはそれほど向かないと考えられていたからだ。そうした能力は、具体的でなく判断が難しいからだ。

 それでも、アリュセアの力はかなり具体的で、時には予知もできた。だからこそ、逃げられたのだ。ただ、その際に夫のロルフと生き別れになってしまった。

 ロルフは能力者ではなく普通人なので大統領令には引っかからないが、どうしているか心配していた。自分達を逃がした後、どうなったのだろうか。

 あれからまるで夢も見ないし、ロルフに関しては予感もない。


 部屋のインターホンが鳴った。



「誰?」

と問うと、


「私だ。イオだ」

と声がした。


 扉を開けると、三十代くらいの男性が立っていた。

 部屋の外に誰も居ないのを確かめてアリュセアはイオを部屋に入れた。



「何の用?」

と、感情の無い声で言った。


「リドス連邦王国のバルザス提督と話をしていたと聞いた」

と、イオは言った。


「ええ。話をしたわ。人を探していたのよ。でも人違いだとわかったらしいわ」

「人違い?我々のことを聞いたのではないのか?」

「違うわ。誰かを探していると言っていた」

「探している?誰をだ?」

「知らないわ。昔惑星ガンダルフにいた人だというから。私は行ったことがないから、リドス連邦王国の首都星にはね」

「そうか」

「話はそれだけなの?」

「それだけだ」



 先程話していたのがもう連中に伝わっていると思うと、アリュセアは背筋がぞっとした。

 けれどもそれがイオに伝わらないように、できるだけ子供のことを頭に浮かべていた。


 同じ亡命者仲間の幾人が気が付いているかわからなかったが、イオはタレス連邦の政府機関の手先だった。

 タリアの組織した中にもすでにそうした者達が潜んでいたのだ。

 だがタリア本人は気づいていないようだった。それとも気づいていても知らない振りをしているのだろうか?


 アリュセアにわかるのは、タレス連邦政府がダルシア帝国の遺産を喉から手が出るほど欲しがっているということだ。

 ゼノン帝国と密約をしているが、もしタリア本人に遺産が来たら、タリアごと自分達のものにするつもりなのだ。



「ロルフのことだが、……」

と、とって付けたようにイオは言った。


「何かわかったの?」

「無事らしい。今はまだ首都星にいる」

「政府から逃げているの?」

「いや、普通人は大丈夫だ」



 イオの話は、全部が本当のものでないことは、アリュセアには勘でわかる。

 イオたちは、アリュセアのような能力についてはバカにしているので、何も知らないものと思っているのだ。


 貨物船に乗ってから疲れて眠ってしまった時に、アリュセアは夢を見た。

 イオたちの夢だ。

 彼らが政府機関の連中と話をしているのを見た。夢の中ではまるで軍人のように話していた。

 アリュセアといるときとは、態度や振る舞いがかなり違っていた。


 もちろん、タリアはアリュセアのような仲間にもすべてを話しているわけではない。知っていることを隠していることもある

 だが、彼女の態度にはイオのような者たちの存在に気付いているような素振りは毛ほどもなかった。

 そのことを隠しているかもしれないが、タリアの性格ではその可能性は低いと感じていた。

 彼らと会うときには、できるだけロルフや子供のことを考えている。そうしてTPたちに気付かれないように気をつけていた。


 イオが帰ると、リドス連邦王国のベルンハルト・バルザス提督のことを考えた。

 彼に会うのは、初めてだった。

 ガンダルフの魔法使いだという噂を聞いたこともある。

 とはいえ、どこかしら知っているという気がした。彼の話が妙に心に残っている。





 バルザスは自室に戻ると、しばらく考え事をしていた。

 アリュセアの反応が彼の期待とは違っていたからだ。


 そしてタリアを探しに行った。

 やっと探し当てたタリアはタレスの難民の世話をして要塞の倉庫にいた。そこにはまだ、生活用品を取りに来ている者達がいた。

 その中に、アリュセアに会いに行ったイオの姿もあった。


 イオは、バルザスがタリアと話しかけようとしていることに気づき、様子を窺っていた。



「ちょっと聞きたいことがあるんだ」



 タリアはバルザスを見ると、

「何かしら?」

と、聞いた。


「アリュセア・ジーンという女性のことを、何か知っていないかと思って……」

「アリュセア・ジーン?そうね、聞いたことがあるような、ないような……」

「誰か、彼女を知っている人はいないかな?」

「そうね、イオなら知っているかもしれない。ちょっと待って、呼ぶから」


 あたりを見回すと、イオの顔を見つけて、

「イオ、ここよ、ちょっと話があるの」

と、タリアは呼んだ。



 イオはそれまでやっていたことをやめると、やってきた。



「どうしたんだい?」

と、イオが言った。


「アリュセア・ジーンという人を知っている?」

「アリュセア?そうだな、そういえば、同じ船に乗っていたが、その人がどうしたんだい?」

「ええと、こちらはリドス連邦王国の人なの。彼がアリュセアについて聞きたいのですって」

「アリュセアのこと?」



 バルザスはイオを見た時、何か嫌な予感がした。

 こいつは他の連中とは違う。

 だが、心をブロックして何食わぬ顔をして言った。



「アリュセア・ジーンについて、知っていることはないだろうか?例えば、彼女の家族のこととか……」



 イオは、じっとバルザスを見ると、

「あまり知りませんが、そういえば彼女の夫が、まだタレス連邦に居るそうです」

と、言った。


「あら、船に乗り遅れたのかしら?」

と、タリアが言った。


「いえ、確か彼女の夫は、普通人だったようです」

「それで、船に乗らなかったのね」

「ええ。彼女はどうしているか心配しているようですが……」


 バルザスはそれを聴くと、

「他に何か知っているだろうか?」

と、言った。


「他のことは、知りません」

「そうか。ありがとう。助かるよ」


 イオが仕事に戻っていくのをバルザスは見て、

「彼は、TPかい?」

と、タリアに聞いた。


「そうよ。私よりも力はあるわ」

「なるほどね」

と言うと、バルザスはタリアと別れた。



 イオ・アクナスは、立ち去るバルザス提督をそれとなく見ていた。

 彼は強力なTPだった。

 だが、彼でもバルザスの心の中は読めなかった。

 おそらくブロックをかけているのだろうと思われた。強力なTP能力を持つ彼でも読めないほどのブロックだ。

 リドスのバルザス提督がなぜあのアリュセアについて聞いたのか気になった。



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