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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
19/72

ダルシア帝国の継承者 19 

2021年4月17日 追加編集しました。

 その昔、ゼノン帝国はダルシア帝国と惑星ガンダルフの魔法使いに敗れ、それによる余波で帝国は混乱し、一時的に宇宙文明から脱落した。

 そして、再び戻ってきた時にはかつての威勢はなく、惑星連盟の一員となり、連盟規約を守ることを誓ったのだ。そして、ジル星団に平和が訪れたと言われている。

 それでもジル星団で他の諸国と貿易や領土の紛争などで常に問題を起こして来たのがゼノン帝国だった。


 今回のダルシア帝国の継承者を決める争いはゼノン帝国が後ろで糸を引いている。

 彼らがダルシア帝国の遺産を自分たちのものにしようとして動いているのだ。

 このような場合は、本来ならダルシア帝国とナンヴァル連邦が動くはずだった。

 しかし、ダルシア帝国のコア大使が亡くなったので、一方の当事者になってしまったのだ。

 そのためナンヴァル連邦だけで惑星連盟を動かさなければならなくなり、時間がかかったのだろうとバルザス提督は推測していた。



「これからどうするのですか?」

と、副官のドルフ中佐がバルザス提督に聞いた。



 ドルフ中佐には亡くなったコア大使がやって来たことはわからなかったが、バルザス提督がしばらく何か考えているようだったので黙っていたのだ。



「ダルシア帝国の遺産をタリア・トンブンが継承することについて、ゼノン帝国とタレス連邦が異を唱えるとなると、惑星連盟が分裂することも考えられる。それだけ、ダルシア帝国の遺産の魅力は抑えがたいものがあるからね……」



 ダルシア帝国の遺産をタリア・トンブンが継承することについて、ゼノン帝国とタレス連邦が異を唱えるとなると、惑星連盟が紛糾することは十分考えられることだった。

 それだけ、ダルシア帝国の遺産の魅力は抑えがたいものがあると、ドルフ中佐にもわかっていた。



「今のところタレス連邦はゼノン帝国と動いているようですが、結局どちらに付くでしょうか?」

「わからないな。だが、ゼノン帝国にダルシアの帝国の遺産を渡すことができないことも確かなことだ。もっとも、渡したとしても、遺産の方で拒否するだろう」

「遺産が、ですか?」

「そうだ。遺産にはあの『ダルシアン』も含まれる。『ダルシアン』が継承者としてゼノン帝国を認めるわけがない」

「となると、どうなるのですか?」

「惑星連盟の諸国は『ダルシアン』のことまで知らないだろう。ただ、ナンヴァル連邦はジル星団内のもめ事だからおそらく審判を開くことになるだろう」



 複雑な国家間の最終的な武力によらない仲裁機関として惑星連盟があるのだ。

 このような問題は加盟国の代表の審判によって決裁されることになっていることはドルフ中佐も知っていた。



「その場合、リドス連邦王国の立場はどうなるのでしょう」

と、ドルフ中佐は聞いた。


「その場合は、もちろん、タリアの側に立つことになる。つまり、タリアを継承者として認めさせなければならない。それが、リドスとダルシアの同盟規約を遵守することになる。ダルシアの同盟国として他に選択肢はない」



 リドス連邦王国はジル星団に移住してきて約二百年になるが、一万年の歴史を持つ惑星連盟にとってはまだ新来者に過ぎない。

 これまで惑星連盟の中ではダルシア帝国やナンヴァル連邦、ゼノン帝国に重きを置くのが慣習だったし、格別そのことにリドス連邦王国は異を唱えたことはない。



「ですが、タリア本人は、継承を拒んでいるように思えるのですが……」

と、ドルフは不安を隠さずに言った。



 これまでのタリアの態度では、そうとしか思えない。

 タリアにとってはダルシア帝国の継承問題よりも、タレス連邦の難民のことの方が重要なのだ。

 彼らを安全な他国へ移住させることを一番に考えているからだ。

 ダルシア帝国の継承問題を考える余裕などないのだろう。



「だから、困っているんだ。彼女を何とか納得させなければならない」



 この際タリア本人の意志は省いてバルザス提督は考えることにしていた。

 ダルシア帝国の遺産の継承者を巡って、惑星連盟の神聖な審判が行われるとしたら、そこで何が必要か今から考えておかなければならなかった。

 まず必要なものは、タリアをダルシア帝国の正当な後継者と認めるに足る証人だった。

 そして、タリアを後継者とした理由だ。

 コア大使が生きていれば、それはコア大使のすることなのだが、彼は死んでもういないということになっていた。

 少なくとも、このヘイダール要塞にはいないと、多くの者は思っている。






 タリア・トンブンは寝台の上で目が覚めた。夢の中でタリアは、亡きダルシア帝国のコア大使にあったような気がしていた。



「ただの夢だけれどね」

と、タリアは独り言を言った。



 でも、その夢は幸福感があった。自分が幸せなのではなく、誰かを祝福しているという幸福感だ。

 一体どんな夢だったのだろう、とタリアは思った。

 夢を見たこと自体、いつもならあまり覚えていないのだが、今回は少し違っていた。

 少し頑張れば、思い出せるような気がするのだ。そしてそれが必要である気がする。

 だが、そんなことをするような時間があるだろうか?


 ヘイダール要塞の事務官から、タレスから来た難民の食事を要塞の一般兵士の食堂で食べるようにと連絡が来ていたので、タリアは食堂へ行くことにした。



 食堂では要塞の兵士に混ざって、タレス連邦からの難民たちも来ていた。

 一人ひとりの顔はタリアもよく覚えていない。危険が近づいたということで、急いで仲間を通じて知らせを回し、船に乗り込んだのだ。ほとんどが着の身着のままだった。

 タリアは列に並んで朝食を取ると、隅の方の空いている席に着いた。

 他の人たちは、急いで食事を取ると、食堂を出て行った。

 それを見ながら、タリアは何となくボウッとしていた。

 昨日の疲れが出たのかもしれない。



「ここ、空いているか?」

という声で、タリアは我に返った。



 顔を上げると、バルザス提督がドルフ中佐と立っていた。



 タリアは驚いて瞬きをすると、

「ど、どうぞ」

と言った。


「疲れているようだね」

と、バルザスは言った。


「そんなことはないわ」

「そうかな。随分この席に座っていたのじゃないか?」

と、バルザスは言った。



 タリアの食器に盛られている朝食はすでに冷めていた。



「ちょっと、考えごとをしていたの」

と、タリアは言った。


「何を?」

「昨日見た夢のこと」

「夢?」

「そう。いい夢だったから」

と言いながら、タリアは夢を見ているような目をした。


「どんな、夢だった?」

と、バルザスは興味を示した。


「何だか知らないけれど、幸せな夢。私が幸せなのではなくて、他の人の幸せを祝う夢よ」

「それで……」

「それが、不思議なの。そこにはコア大使がいたのよ。それも、あの環境スーツを着ているのではなくて、脱いでいるの」

「君は、コア大使の素顔をみたことがあるのかい?」



 常に宇宙服を着ていたダルシア人であるコア大使の素顔を、見たことのある者がいるとは思えなかった。

 それはタリアも同じではないかとバルザスは思った。



「いいえ。ただ、その人がコア大使だと思ったの。夢ですもの、かまわないでしょう」

「なるほど、それで……」

「あれは、どこなのか、知っているはずなんだけれど……」

と言いつつ、タリアは遠い目をした。


「もしかして、そこは白い花の咲く、どこかの中庭のようなところじゃないか?」

「あら、どうしてわかるの?私の夢を覗いたの?」

「まさか、そんなことはできない。だが、もう少し詳しく、その夢のことを話してくれないか?」

と、バルザスは興味を覚えて言った。



 リドス連邦王国の首都星ガンダルフ、特に古い昔のガンダルフでは、夢というものも、魔法の一部なのだった。

 特に特殊能力者の見る夢は必ず何か理由があると言われている。


 タリアの見た夢は、どこか古い塔のある城のような場所、その中庭にいたというものだった。

 その中庭には白い衣装を着た女性がいたのを見た。

 白い衣装と言うと、タリアは花嫁を想像してしまうのは他の女性と同じだった。



「そうね、あれは、花嫁だから、結婚式か何かかな?」

「結婚式?」



 バルザスは、タリアの話に古い記憶が呼び覚まされていた。

 かつてそれは、自分がガンダルフにいたころの話ではないだろうか、と。



「そう。新郎新婦が正装していて、それから、白い花が沢山咲いていて、それから、何か大勢の人がいた。人だけじゃない、あれは、もしかしてアルフ族だったかも……」

「アルフ族だって?」



 タリアの言うアルフ族というのは、恒星トゥーローンの惑星ガンダルフにかつていたという種族のことだ。

 もう伝説でしか残っていないアルフ族のルーツは、ロル星団にあったと言われている。


 彼らは宇宙船ではなく、魔法を使って宇宙を渡って惑星ガンダルフにやって来たと言われていた。

 彼らはとても強力な魔法を使うことができたからだ。


 バルザス提督――銀の月の記憶によると、実際彼らは他銀河からロル星団にやってきた種族だった。

 今現在はどうか知らないが、タリアの話した頃のガンダルフに、僅かにアルフ族の末裔が残っていた。

 ただ、タレス人であるタリアがなぜ惑星ガンダルフに昔いたアルフ族のことを知っているのかという疑問がある。



「夢だからいいでしょう。アルフ族だと思ったの。何でだかわからないけれど、そういう気がするの」

「君はどんな格好をしていたんだ?」

「私?さあ、どんな服を着ていたのかしら」



 夢だったせいなのか、タリアは自分の着ていた衣装のことなど覚えていなかった。

 でも、今の自分から見たら随分豪華というか、変わった衣装でもあったような気がする。どれもこれも漠然としていて、タリアにはよくわからなかった。



「まあ、思い出そうとすれば、思い出せると思うが……」

と、バルザスは言った。


「ねえ、どうしてそんなに、私の夢のことにこだわるの?」

と、タリアは聞いた。



 たかが夢の話なのに、とタリアは思った。

 普通軍人などが夢などに興味をもつだろうか?

 いや、バルザスは魔法使いなのだった、とタリアは思い返した。



「夢の話だって?」

と、声がした。ダズ・アルグの声だった。



 朝食の盆を持って、ダズ・アルグが立っていた。


 バルザス提督はダズ・アルグの姿に驚いたが、タリアは不機嫌そうだった。

 しかし、元新世紀共和国の提督であるダズ・アルグを見た時、バルザス提督はどこか既視感があった。

 バルザス提督――銀の月の昔の記憶の中で彼を知っているという気がしたのだ。

 しかも、どうやらタリアの夢の話の頃と同時代らしい。



「あら?ここは一般兵士の食堂ではなくて?どうして、提督のあなたがいるのかしら?」

と、タリアは言った。声には不機嫌さが漂っていた。


「別に何処で食べてもいいのさ。そこにいる、バルザス提督もそうだろう?」

「いや、私はここに居させてもらっているので、……」

と、バルザスは言い訳にも似たことを言った。


「で、夢の話って何のこと?」

と、ダズ・アルグは聞いた。


「あなたには、関係ないことよ」


 タリアは急いで食べると、

「どうぞ、ごゆっくり」

と言って、席を立った。






 ヘイダール要塞のヤム・ディポック司令官は部屋で朝食を取ると、司令室に向った。

 もう一度外にいる艦隊を確認しようと思ったのだ。

 司令室の大スクリーンで見るジル星団の惑星連盟の艦隊は、やっぱり壮観というしかなかった。



「向こうの艦隊の動きはどうなんだ?」

と、ディポックは聞いた。


「シャトルが何隻か行き来しているだけで、別にこれと言って、動きはないようです。」

「あのナンヴァル連邦の艦隊司令官からの通信はないか?」

「今のところ、ありません」



 こんな時に何もすることがないということも、何となく落ち着かないものだった。ディポックは仕方なく司令官の席に座ると、足を前のデスクに乗っけた。



「司令官」

と、声がしたのは、うとうとし始めたときだった。


 目を開けると、ダズ・アルグ提督の顔が見えた。



「何だい?」

と、ディポックは言った。


「あのバルザス提督のことが気になるんですけれど……」

と、ダズ・アルグが言った。


「どんなところがだい?」

「昨日からバルザス提督は、タリア・トンブンに付かず離れずにいるんですけれど……」

「そりゃ、彼女を警備したりするのも彼の任務のうちに入るのだろう」

と、ディポックはあくびをかみ殺して言った。


「それだけじゃ、ないんです。今朝も一般兵士の食堂でバルザス提督とタリア・トンブンが話をしていたんです」

「ふーん。それで?」

「バルザス提督はタリアに夢の話をしていました」

「夢の話?何だい、それは」



 ダズ・アルグは、本当はバルザスがタリアの席の前に座ったときから、観察していたのだった。

 少し離れていたので、話を全部聴くことは出来なかったが、かなりバルザスが夢について興味を持っていたことはわかった。



「夢ね。それだけじゃ、何のことかわからないよ」

と、ディポックは言った。


「だから、司令官からそのことについて、バルザス提督に聴いて見てくれませんか?」

「私が?何で……」

「タリアの夢の話というのは、おそらくダルシア帝国の遺産のことと関連していると思われます」

「関連ね、どうやってそれを証明するつもりなのかな」

「そ、それは……」

「あまり個人的な興味はやめた方がいい。ダルシア帝国の遺産についてはあの外の惑星連盟の連中とバルザス提督に任せた方がいいと思うね。」

「私は別に、タリア・トンブンやダルシア帝国の遺産に興味があるんじゃありません。私は、銀河帝国の大逆人のことに興味があるんです。何しろ、彼らのことについて我々が知っていると帝国に知られたら、どうするんです」

「別に、かまわないよ。そうした者が来たとでも言えばいいことだろう」

「それで、済むんでしょうか?」

「考えすぎじゃないか。もし、知られたとしても、かれは今ジル星団のリドス連邦王国の人間だ」

「向こうもそう考えてくれるといいですが……」



 ディポックは、確かに大逆人という呼び方からして、ただでは済みそうにない気がすると思った。

 だが、バルザス提督を前から知っているわけではないし、本当に本人だと証明できるわけでもないのだ。



「少なくとも、ここは銀河帝国の領土ではない。銀河帝国が大逆人を探して艦隊を派遣して来たわけでもあるまい。いずれ噂で銀河帝国に彼らのことが伝わるだろうが、それまでこちらが告げ口する必要もないだろう」

「でも、彼らが何を考え、何をしているのか気になりませんか?」

「大逆人は信用できないということか?」

「いえ、そこまでは言いませんが……」



 本当は昨日までは、ダズ・アルグはそう思っていた。

 けれども、タリアの話を聞いて、何か変だと感じたのだ。

 これまで常識と思っていたことが通じないような気がした。

 以前のバルザス提督を知っているわけではないのだが、彼の振る舞いは、普通の銀河帝国の軍人の態度とも違うような気がする。

 もしかしたら、タリアの言うことは本当なのかもしれない、と思うようになっていた。

 元銀河帝国軍人だったベルンハルト・バルザス提督は、惑星ガンダルフの魔法使い銀の月ではないかと……。



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