表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
18/72

ダルシア帝国の継承者 18

 リドス連邦王国のバルザス提督はヘイダール要塞の宿舎にいた。

 昔の事をいつの間にか思い出していたが、彼はそこで別の何者かの気配を感じ取った。



「誰だ?」

と、声を出して問うてから、今度はTPで聞いたみた。


(誰だ?)



 すると答えが戻って来た。



(私だ、コアだ。銀の月よ……)

(コアだって?宇宙都市ハガロンから来たのか?)

(そうだ。私が死んだことはすでに聞いたのではないか?)

(聞いている。だから今、惑星連盟の連中がヘイダール要塞に押しかけてきて、大変なことになっている)

(それは重畳。ナンヴァルのマグ・デレン・シャは頑張ってくれているようだ)

(そうだが、ここでダルシア帝国の継承者を決める審判を開くと言っている。うまく行くかどうか……)

(だから、私が来たのはないか)

(という事は、先ほどの私の昔の記憶はあなたが誘導したのか?)

(そうだ。審判に勝つためには、つまりタリア・トンブンをダルシア帝国の継承者にするにはどうすればいいのか、暗示したつもりなのだが……)

(それは残念だ。私にはよくわからなかったよ…)

(そのように見えたから、私が姿を現さざるを得なくなったのだ)

(仕方があるまい。銀の月としての記憶が戻ってきたが、完全ではない。帝都には私の身内がまだ生きているのだ。銀の月としての力もまだ完全に戻ってきてはいないのだ)

(分かって居る。だから来たのだ)



 リドス連邦王国のベルンハルト・バルザス提督は惑星ガンダルフの五大魔法使いの一人、銀の月だった。

 ガンダルフの五大魔法使いは生まれる前にある魔法を掛けるのが常だった。一度死に目に会うと生き返り、自分が誰であったかを思い出すのだ。


 バルザス提督はロル星団の銀河帝国における大逆事件に巻き込まれた。

 彼はダールマン提督の副将の一人として征討軍と戦い、戦死した。

 そして、彼は自分が誰であるかを思い出し、生き返ったのだ。

 バルザス提督はまだ完全ではなかったが、使える魔法でリドス連邦王国へ行き、ガンダルフの魔法使い銀の月として迎えられたのだ。



 バルザス提督は目を閉じて、意識を集中した。

 すると、目の前にコア大使の姿が浮かんできた。



(そうか、ダルシア人は竜の姿を失ってしまったのだな……)

(思い出せたようでなりよりだ。とは言っても、その力を失ったわけではない)

(で、私はどうすればいいのだ?)

(まず、元ダルシア人を探し出すのだ)

(元ダルシア人の誰を探し出せばいいのだ?)

(君に縁のある人だよ、いや縁のある元ダルシア人だ)

(それは、サラムアルダスのことか?)

(彼女もそうだが、まだここに来てはいないだろう。すでにここにいる者のことだ)

(思い出の中では他にダルシア人というと、マグナルカスがいたが彼女のことか。それとも元ダルシア人だったゼノン人の方か?)

(いや、もっと君に縁のある者がいるではないか)

(誰のことだ?)

(すぐに思い出せないとは、残念だ。もう一人いるではないか)

(もう一人?)



 バルザス提督――ガンダルフの魔法使い銀の月はコアの言う元ダルシア人が誰か思い出せなかった。


 今回宇宙都市ハガロンにあった惑星連盟が審判を設けるということは尋常なことではない。

 よほどのことがない限り惑星連盟は審判を開く事は無い。それほどダルシア帝国の継承者という立場を求める者が多いと言うことだ。


 タレス人であるがダルシア国籍を持って居るタリア・トンブンをダルシア帝国の継承者として認めさせることは難しいことだった。

 それはダルシア帝国の持って居る領土ではなく、ふたご銀河随一と言われる科学技術を欲しがるものが多いからである。


 ダルシア人が一人もいなくなってしまえばそれが簡単に手に入ると考える者たちがいる。

 だが、ことはそう簡単ではない。

 ダルシア人がいなくなったとしても、ダルシア帝国とその領土や科学技術を守る者が存在しているからである。

 ダルシアンと言われる存在である。


 ダルシアンは噂されているような機械頭脳ではない。

 一見機械のように見えるが、半分は有機体でできている。

 例えればそれは生物の脳のようなものだった。つまり、霊となったダルシア人と交信するためのものであるということだ。

 ダルシア人にとって霊が存在することは当然のことだった。

 死んだ後、その霊が死ぬ前の記憶を持ち、思考力も持って居ることを知っていた。

 従ってダルシアでは脳というのは様々なことを考え、記憶するものではないと考えられていた。

 物事を考え記憶するものは別にあり、それが霊というものなのだ。その霊と繋がって交信する機能を持っているのが生物にある脳と言うものだと考えられていた。

 だから、ダルシアンもそれと同じ機能を有しているのだった。つまり、霊となったダルシア人と交信するための機械と有機体で作られた装置である。


 ダルシアンは肉体を持ったダルシア人がいなくなった今、ダルシア帝国を統括していた。

 ダルシアンはある意味でダルシア人の霊の集合体がまとまって一つの意見を出して、肉体を持って居る者と交信するために存在するのだった。

 ただ、今現在はその肉体を持ったダルシア人がいなくなったため、ダルシアンが彼らに替わってダルシア帝国を統括しているのである。


 ダルシア帝国を継承するためにはダルシアンに継承者であることを認めさせなければならないのだ。

 その点についてはジル星団の他の諸国でさえ知らないのだった。

 宇宙都市ハガロンの惑星連盟を構成する諸国は残念ながらそこまでダルシア帝国の事情に詳しくはなかった。

 だから、いまだに惑星連盟が彼らこそがダルシア帝国の継承者を決めることができると思っているのだ。

 惑星連盟が決めた継承者がダルシアンによって否定された時の事を考える者はない。


 けれども、最終的にはそうなるのは止むを得ないとコアは考えていた。

 そうなった時には、昔の時代のようにダルシア帝国と惑星連盟ではなく、ゼノン帝国との戦いが始まるだろうと思われた。

 ダルシア帝国の科学技術や知識を最も欲しているのがゼノン帝国だからである。

 新興国のタレス連邦は彼らの事情があるものの、ゼノン帝国にそそのかされているのだと考えていた。



 バルザス提督――銀の月はもう一度先ほどの記憶を探ってみた。

 そこに出て来たダルシア人は彼にとって旧知の者ばかりだった。その中で一人だけ名を挙げなかったものがある。



(もしかして、ライアガルプスのことを言っているのか?)

(やっと思い出してくれたか……)

(そう言えば、私が生まれる前に会った時に、彼女も今回人間として生まれてくるつもりだといっていたような気がするが…)

(確か、年齢としては似たような感じになると思うのだが…)

(で、誰なんだ?もしかして、タリアと同じくタレス人なのか?)

(おそらく、タレス人だろう。それに今回のタレスの大統領令で難民としてこの要塞に来ていると思われる。私のわかることはそこまでなのだ)

(それでは、わかっているとは言えないな……。タレスの難民はかなり来ている。その中から探すとなると厳しい)

(だが、タレス人だと分かっただけでも役に立つのではないか?)

(それだけでは、難しい。彼女が、自分が誰であったのか思い出していれば別だが。彼女は私のように魔法をかけてあるわけではないから、それだけではどうにもなるまい)



 銀の月のように死んだあと生き返って過去世の記憶が戻ると言う魔法を掛けてあれば、その魔法を辿って探すことは可能なのだ。

 だが、ライアガルプスにはそのような魔法は掛けていない。

 掛けたらどうだろうかと言っても、彼女は拒否するだろうことは銀の月にはわかっていた。

 そうしたことに魔法を使うことを彼女は好まないのだ。

 それではまるで他の者と異なり自分だけが楽をするような、特別なことだと感じるだからだ。

 彼女は正当なダルシア人らしく、自分だけが楽をすることを嫌うのだった。


 TPで虱潰しに探しても、本人が思い出していなければどうにもならない。

 惑星連盟が審判を開くまでに見つけなければならないから、難しいのだ。

 時間がいくらでもあるというのなら、銀の月にもやりようがある。

 今回ばかりは銀の月の魔法を使っても簡単には行きそうもなかった。



(私も他にできることはないか考えてみよう……)

と、コアは言った。

(頼む。私一人ではどうにもならないかもしれない)

と、銀の月にしては珍しく不安そうに言った。



 コアはタレス人について他に気づいたことを銀の月に話して去って行った。

 例のタレス人の中にいる政府の工作員のことである。

 これはタレスの特殊能力者の間でも気づいていない者が多かった。





 コアはヘイダール要塞の人気のない場所を探して、そこで要塞の周囲に彼のTP波を張り巡らした。

 彼が探索するのはかつてダルシア帝国皇帝だったライアガルプスだった。

 今世では彼女はタレス人として生まれているはずなのだ。

 だが、その名を知っているわけではない。

 おまけに彼女は自分がかつて誰であったかは覚えてはいないのだ。

 しかし、それでも彼女らしさはなくなってはいないと考えられた。


 ライアガルプスらしさとは、一帝国のトップたるにふさわしい気概を持って居ることだとコアは考えていた。

 ただ、彼女は今世では一タレス市民として生まれ育っているので、その気概を持って居るかどうかはわからない。

 タレス人として生まれ育ってその気概がどのように現れているかは、わからない。


 少なくとも人間族はダルシア人と異なり、女性は男性よりも力が弱いと考えられている。

 それは人間族の女性は子供を産むので、どうしても一人では生きていけない時期があるからだと人間族は考えていた。

 だが、竜族であったダルシアでは逆に女性は子供を産むからこそ男性よりも強くなければならないと考えられていた。だから、ダルシア人の女性は男性よりも大きく力も強かったのだ。

 同じことなのに、人間族と竜族のダルシア人は逆なのだ。


 一般にダルシア人の男性は女性よりも一回り以上小さく、力も弱かった。逆に女性は大きく、力が強かった。

 体の大きさや力だけではなく、ダルシア人の男性は女性に比べて寿命も短く、知性も低いとされていた。

 そのため長いダルシアの歴史の中で、ダルシア人の男性の姿はいつの間にか姿を消していた。


 ダルシア人は本来卵生で、女性は生涯で数十個の卵を産んだ。

 卵を産むが、ダルシア人は子育てをしなかった。

 一度に数個の卵を産み、産んだ場所に卵を置いてダルシア人の女性は去ってしまうのだ。


 卵は放置していてもやがて孵化し、殻を破ってダルシア人の子供が生まれた。

 生まれた数人の子供たちはまずそこで生きるために自分よりも弱いと感じた者を食べてしまう。

 女性よりも男性が小さいため他の子供に食べられてしまうから、まずそこで男性の育つ率が低くなる。運の良い男の子だけが生き残るのだ。


 このような習慣はダルシア人の文明が発達するに連れて変化したが、男性の人口は非常に少なかった。

 そのため子孫を残す方法をダルシア人は研究し、男性から精子だけを取り出して人口を増やすことにした。弱い性である男性を守り育てて残すような考えは彼らの頭には無かった。


 そして、気づいた時にはダルシア人の男性はいなくなっていたのだ。

 ただ、精子だけは残っていたので、必要な場合は作る事も可能だと考えていた。

 けれども後に、このことは大誤算だったとさすがのダルシア人も後悔した。


 ゼノン帝国はダルシア帝国を滅ぼすために日夜研究し探索し、情報を集めていた。

 そして、ダルシア帝国の弱点を知ったのである。

 他の種族ならありえない弱点だった。

 彼らは密かにダルシア帝国にある卵の孵化施設を攻撃した。

 そこにはダルシア人の精子が秘蔵されていたのだ。

 その結果、ダルシア人は子孫を残すことができなくなってしまったのだった。


 ダルシア人の寿命は他の種族に比べて非常に長いので、すぐに彼らが滅びることはない。

 新たなダルシア人が生まれることがないため、彼らが衰亡の途を辿ることは確かなことになったのだ。


 しかし、竜としての身体はもう作れなくても、別の種族に生まれ変わる事が可能であることをダルシア人は知っていた。

 他の種族はダルシア人よりも体が小さく文明も低いと考えておりかなり抵抗があったが、少しずつ他の種族に生まれ変わることになった。


 もっとも、ダルシア人が他の種族として生まれ変わることはこれまでに、何度か行われていた。

 ダルシア帝国では犯罪者等は他の惑星に、文明の低い種族の惑星へ追放する刑罰があったからだ。

 ただ、その者たちが文明の低い種族と言うことでその地で暴虐を尽くす事を懲らしめるために、力の強いダルシア人が文明の低い種族に生まれ変わり、その地で暴れるダルシア人を討伐するようなことがあった。


 それはかの地では竜を倒す者と言う『ドラゴン・スレイヤー』と呼ばれた。

 ただし、他の種族に生まれてダルシア人と同じ力を発揮するには、ダルシア人であっても誰でも可能ではなかった。

 ダルシア人の中でもかなり力のある将官クラスの軍人でないとそうしたことは難しかったのだ。



 ダルシア人としての力が目覚めていれば、コアの考えている人物を探すことは容易かった。

 だが、現在相手はまだ普通の人間のはずだった。

 いや、特殊能力を持って居るタレス人だった。



 コアはダルシア人らしく、急がず力まず自然体でヘイダール要塞の人気のない隅で、ライアガルプスを探すことにし集中した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ