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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
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ダルシア帝国の継承者 17

 ガンダルフの魔法使いレギオンはダルシア帝国皇帝の尖塔で、ゼノン帝国皇帝と宰相を話し合いの上、ある条件を付けて二人を解放することを決めたとゼノン人に告げた。


 ゼノン人達は喜んでゼノンの皇帝と宰相の二人を連れて本国へ戻って行った。


 それからゼノン帝国は大変な時代を迎えることになった。



 ゼノン帝国政府はできる限り隠していたが、ゼノン帝国艦隊のほとんどが行方不明になってしまい戻って来ないことが次第にわかって来た。

 ゼノン帝国艦隊の幹部ならいざ知らず、下士官や兵士の家族は彼らが戻って来ないことをいつまでも黙ってはいられなかった。噂が噂を呼び、いつしかゼノン帝国艦隊がもうほとんど存在しないことを多くの者達が知ってしまったのである。

 これでは積年の敵だとしているダルシア帝国が攻めてきたら、ゼノン帝国は自国を守ることができないことが平民にもわかるのだった。


 噂が充分広まった後、もう隠せなくなってからゼノン帝国宰相は艦隊の事実をゼノン人の居住する全惑星に公表した。

 もちろん、皇帝の拉致事件はとても公表できなかったので秘匿されていた。

 そこで、宰相はダルシア帝国との和睦の条件を公表したのだった。

 和睦の条件とは、他の種族への武力による干渉や介入を止める事だった。

 ゼノン帝国政府はその条件を飲むことを拒んだ。

 そして、政変や暴動が首都星だけでなく各地で起き、ディボルドヌ・ログヌⅨ世を最後としてゼノン帝国のログヌ王朝は滅ぶことになった。





「これでよかったのか?」

と、ガンダルフの魔法使い銀の月が言った。



 ガンダルフの魔法使い達は、ゼノン帝国艦隊が行方不明になったと言う情報を各地に流していたのだ。



「ふむ。できるだけ犠牲は少ない方がよいが、新しい王朝がやがてできるだろう。それまでのことだ」

と、レギオンが言った。



 ガンダルフの魔法使いの傍には政変で行方不明になり死んだと言われたゼノン帝国皇帝と宰相の姿があった。



「新しい王朝ができるまでは他の惑星へ手をだすような余裕はないだろうし、艦隊の建設もできないだろう」

と、今では前王朝最後の皇帝となったゼノン人が言った。


「本当にこれでよかったのですか?」

と、銀の月は言った。



 銀の月は過去世を思い出したとしても、現在の思いなどはすぐには変わらないし、無くならないことを知っていた。だから、ゼノン人の二人の心情を思いやったのだ。

 但し、二人は魔法で過去世を思い出しているので、かなりダルシア人としての意識が強くなっている。

 それでも今世のことを何も思わないわけではないのだ。

 これがもし魔法で思い出したのでなかったのなら、ゼノン人としての意識の方が圧倒的に強いので、ここまでガンダルフの魔法使いの思い通りに行かなかっただろう。


 ダルシア人には家族がないし、家族がどういうものかも知らないのだが、ゼノン人には家族があった。

 彼らはゼノン人として生まれて初めて家族と言うものを知ったはずだった。その家族に対して何の感慨もないはずもない。


 皇帝と宰相はその家族共々、政府を倒すクーデターの犠牲となるのは必然だった。

 特に悪政を敷いたわけではないが、ゼノン帝国艦隊の喪失の責任を取ること求められるからだ。

 ところが、肝心の皇帝と宰相の家族は突如行方不明になった。

 クーデターを起こした者たちは必死に捜索したが捉えることはできなかった。その間に、皇族や貴族たちは続々と地方へと逃げて行った。

 彼らはやがて地方惑星において小さな勢力となり、ゼノン帝国としての統一が図られるまでかなりの時間を要することになった。



「今回のことは止むを得ないことだったと考えている」

と、元宰相が言うと元皇帝も頷いた。



 その言葉にはどこか苦し気な思いが感じられた。

 過去世を思い出して、ダルシア人としての知識も多少は思い出したはずだった。だから、死んだら消えるのではなくあの世に戻ることになると分かって居た。

 と言っても、死は別れであることは確かなのだ。この世で会うようなわけにはいかないのだ。

 今回は他に方法がなかったと彼らは自分を納得させているのかもしれない。



 二人のゼノン人とガンダルフの魔法使いは程なくその場を離れた。

 彼らはゼノンの首都星の衛星軌道上にあるダルシア帝国の艦に戻ったのだ。




 ダルシアの艦はゼノンでは探知されないようにガンダルフの魔法使いが魔法をかけていた。

 驚いたことに、ゼノンより遥かに科学技術において優れていたダルシアでは艦の存在を隠蔽するようなステルス技術はなかった。

 ダルシアはふたご銀河最強の種族であることを誇りにしており、正々堂々と戦う事を良しとするため、そのような装置は考えもしなかったのだ。

 しかし、今回の任務ではどうしても必要があった。それでやむなくガンダルフの魔法使いの魔法を使ったのだ。


 ダルシアの艦はゼノンの艦に比べてかなり大きかった。

 ダルシア人のサイズがゼノン人よりもかなり大きいのでそれは当然だった。

 但し、艦の様々な技術や性能はダルシアの艦の方が格段に優れていた。

 ジャンプ・ゲートを使わない普通のワープ航法でさえ、ゼノンの艦よりも高速だった。

 そのエネルギー源は艦の中央に位置する小ブラック・ホールから得ていた。そのため、エネルギーの総量はゼノンの艦よりもかなり大きく、ほとんど補充せずに長年使えるものだった。

 艦の外壁は、ダルシアン鋼と言う非常に硬く熱に強い特殊な金属で覆われていた。

 このダルシアン鋼はダルシア人しか作れないと言われるもので、他の種族には秘匿されている。



(やあ、お帰り)

と、顔見知りのダルシア人が来て言った。



 彼女はダルシア帝国の首都星の警備隊長をしていたサラムアルダスだった。

 今回の任務に自分から行きたいと宰相のマグナルカスに願い出て、許されたのだった。

 彼女は他の文明圏では皇帝の後継者に当たるので皇太子に当たると思われるが、ダルシアでは特にそのような呼称はなく、ただの首都星警備隊長サラムアルダスとしか名乗らなかった。



 そこで、ゼノンの元皇帝と宰相は家族と会うことになった。



「こ、これは一体……」

「何とか間に合いました。ただ、もうゼノンでは暮らせないことはあなた方には理解してもらうほかありません」

と、銀の月が言った。


「しかし、これからどこへ行けというのだ?ゼノンの地方惑星にはもう行く処はない……」

「あなた方には惑星ガンダルフの月に行ってもらうしかありません」



 元ダルシア人のゼノン人の前王朝の皇帝と宰相は、ガンダルフの魔法使いが連れて行くことになっていた。

 いくら元ダルシア人と言っても、その肉体はゼノン人であるので、ダルシアの首都星の環境では生きにくいのだ。まだ惑星ガンダルフの方が彼らの住環境には適している。

 ただ、ガンダルフに行くとしても彼らが行くのはガンダルフの月にあると言うガウィン・レヴンの城と言われる所である。


 ガウィン・レヴンはあのガンダルフの去って行った人々の中で、ただ一人母星に残った者だった。

 その城は惑星ガンダルフを守ることを考えて作られたのだが、ガンダルフの去って行った人々が持って居た知識が残されているのだった。

 これまでその城に入ることができるのはガウィン・レヴンが認めた魔法使いだけだったが、今回は特別に元ダルシア人でもあるゼノン人を受け入れてくれることになった。

 ゼノン人をそのまま惑星ガンダルフに住まわせるわけにはいかなかったからだ。


 惑星ガンダルフは昔から魔法に優れた文明を築いていた。

 科学技術については、いまだにお粗末で宇宙航行など夢物語にしかない。

 そこへ、他の異星人などを入れたら大騒ぎになるだろう。

 ゼノン人とガンダルフ人とではかなり見た目が違うので、古来より伝えられて居る異世界から来たと言う魔族と間違われることになるだろうと思われた。

 ゼノン人の悪行などは伝わってはいないが、どんな行き違いが起きるかわからない。

 そこでレギオンはガンダルフの月に住むガウィン・レヴンにゼノン人のことを頼んできたのである。



 ゼノン人二人だけならガンダルフの魔法使いは宇宙船を使わなくても、ゼノン帝国の首都星から惑星ガンダルフまで連れて行くことができた。

 しかし、彼らの家族も一緒だとすると人数が多すぎて連れてはいけない。

 そのためダルシアの艦が必要だったのだ。




(魔法の結界と言うのは、便利なものだね)

と、ダルシア艦の司令室でサラムアルダスは言った。


(どうしてそんなことを言うんだい?)

(君たちが帰る少し前に、ゼノンの艦隊が、と言っても百隻ほどだったが、首都星を出て行ったのに出会ったのだ。いつもなら戦闘になるのに、彼らは我々に気づかずに平気で近くを通って行ってしまったから……)

(首都星から百隻で出て行った?)

と、銀の月は驚いて言った。


(どこへ行ったのかわかるか?)

(首都星を出てすぐにワープに入ったけれど、航跡は調べることができるはずだ)



 銀の月は百隻のゼノンの艦隊がどこへ行ったのか気になった。

 おそらく、混乱する首都星を見捨ててどこかへ移住する者達の乗った艦かもしれなかった。

 ただ、百隻という纏まった数は向かった先で一つの勢力になるだろう。

 向かった先がどこであるか、非常に気になるところだ。


 ゼノン艦隊の航跡を調べると、彼らは真っ直ぐにロル星団に向かったことが分かった。

 ロル星団はその頃には、すでに魔法の結界が張られていた。

 もちろんそれは宇宙船で行くことができないことではない。心理的にロル星団に行くことを嫌がるように仕向けるものだった。



(なぜ、彼らはロル星団に行ったのだろうか?)

と、ダルシア人のサラムアルダスが言った。


(おそらく、そこなら我々というかダルシア人がいないことを願って行ったのではないだろうか)

(ダルシア人に替わってロル星団でゼノン人の帝国を作ろうというのか)

(だが、ロル星団にはアルフ族の生き残りがまだいるはずだ。あそこでは何度も文明が興隆しては衰退を繰り返している。まだ、あの呪いが生きているのだ)

(ロル星団に向かったゼノン人は魔術師が多いのではないか?彼らはロル星団を魔術師の故郷のように考えていたようだ)

(だから、あの結界をものともせずに向かったというのか……)



 惑星ガンダルフの魔法使いの使う魔法には呪いなどと言う闇に属する魔法はない。

 しかし、ゼノンの魔術師は呪いを使ったりする者達でもあるため、アルフ族の呪いの影響をうけやすい。魔術は闇に属する魔法を包含しているからだ。

 従ってロル星団ではガンダルフの魔法使いよりもゼノンの魔術師の方が呪いの影響を受けやすく、魔術師が破滅する危険が大きのだ。

 昔はそうした知識も知られていたが、ゼノンでは単に伝説として残っているだけだった。その伝説も迷信だとされていた。



(現状のロル星団はどうなっているのか、だれか知っているか?)

(ロル星団なら、我々が何年かに一度は偵察艦を出している。今はあまり魔術や魔法を使う文明ではないようだ。文明の隅には残っているようだが、かつてのように全員がそれを使うような文明ではない)

(だからこそ、ゼノンの魔術師が引かれて行ったのかもしれないな……)

(だが、魔術師なら、あの呪いを引き付けるに決まっている。白魔法でさえ危ういというのに、魔術師などあの呪いの前には脆いだろうに……)



 おそらく、ゼノン人にとってもあのアルフ族がふたご銀河に持ってきた呪いは遠い昔のことなので忘れ去られてしまったのかもしれない、とガンダルフの魔法使い達は思った。



(いずれにしても、定期的にロル星団には偵察艦を出すことになっているから、彼らの状況もわかるだろう)

(その時、奴らが生きていればいいのだがな……)



(ガウィン・レヴンの城については、私も興味を持って居る)

とサラムアルダスが言った。


(ダルシア人にはこれまで入る事を許可したことはないと聞いているが……)

(あの億年の時代から生きていると言う生きた化石ともいうべきガウィン・レヴンに遭えるとは何とも言えぬ……)

と、二人のゼノン人は言った。


(まあ、その言い方は本人の前では控えるようにしてほしい。本人はそのような言われ方は好まないと思う……)

(確かに、年寄りとはそう言うものだ)

と、サラムアルダスが揶揄するように言った。





 ゼノン人の元皇帝と元宰相を惑星ガンダルフの月へと運んで行ったダルシアの偵察艦は、銀の月を連れてダルシア帝国の首都星へ戻って来た。



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