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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
16/72

ダルシア帝国の継承者 16

 ゼノン帝国皇帝ディボルドヌ・ログヌⅨ世は、ゼノンの艦隊が自分を救出に来ることを確信していた。

 このところダルシア帝国との艦隊戦では連戦連勝となっていた所為もあり、ダルシアの艦隊などゼノンの新しい艦隊に比べれば古い技術の塊としか思っていなかった。


 そこまでゼノンが増長したのはダルシア帝国の技術がかなり流失した所為である。

 ダルシアの技術はどんなものであっても、ゼノンにしてみれば宝の宝庫だった。

 その中でもジャンプ・ゲートの技術は中々盗むことができなかったのだ。ダルシア帝国にとってはそれほど重要な技術でもあった。






 ダルシア帝国の国境に侵入したゼノン帝国艦隊が壊滅したと言う報告を聞いた後で、ダルシア帝国皇帝ライアガルプスは言った。



(さて、ゼノンの艦隊はいなくなったが、お前はどうするつもりなのだ?)



 それはゼノン帝国皇帝ディボルドヌ・ログヌⅨ世に言ったというよりは、ガンダルフの魔法使いレギオンに言ったのだった。


 ライアガルプスは広間の中央に巨大な四肢を伸ばして座っていた。そして、長い首を擡げて、ゼノンの皇帝やガンダルフの魔法使いレギオンの方に向けている。

 ダルシア帝国の宰相マグナルカスはよそ者の二人よりも皇帝ライアガルプスの前近くにおり、前足を跪くように折って座っていた。



(そうだな、ゼノンのディボルドヌ・ログヌⅨ世陛下には、そろそろダルシア帝国との戦争を終結させて欲しいと思っている。ゼノンの艦隊を壊滅させたのだから、これからのお前たちの戦いはこれと同じことになるとわかっただろう)

(何をいうか。今回だけだ。お前たちがダルシアに協力したから我々が負けたのだ。もし、お前たちがいなければ負けることなどなかった……)

(そうかもしれない。だが、これからだとて、いつでも我々は今回のような時には駆けつけることになるだろう。そうだとすれば、お前たちゼノンが勝てる見込みはないだろう)

(そうかな。お前たちは確かに強力な魔法使いだろうが、ほんの数人にすぎない。もしこれから何度もゼノンとダルシアとの戦闘があったときにいつでも出てこられるとは限るまい。まして、お前たちは老齢だ。人間の寿命など限られているではないか。このようなことをあと何度できるというのだ?)

(確かに、我々は年老いているし、寿命もお前たち竜族から見れば短い。だが、我々の持って居る魔法をダルシアに伝えればどうかな?)

(何だと!)

(ダルシア人は、人間族の者のように魔法を使うために修行は必要としない。今のままどのようなことをすればいいのかを知ればいいだけだ。逆にお前たちは竜族ではあるが、ダルシア人よりは人間族に近い。お前たちの魔術師が一人前になるには人間族の魔法使いと同じ年数が必要だ。とすれば、ゼノンとダルシアとの差はこれからもっと開くだろう)



 もっとも、ダルシア人がガンダルフの魔法の知識を欲しがるなどとレギオンは考えていなかった。

 けれども、ゼノンとダルシアとの魔法や技術の格差が今より開くとなれば、ゼノン帝国の皇帝がダルシアとの戦争終結を考慮する可能性があると考えたのだ。



(どうした、考えることができないのか?)

と、レギオンは更に挑発した。



 ゼノン帝国皇帝ボルドヌ・ログヌⅨ世はレギオンを睨んだ。そして、言った。

(例え、お前たちがダルシアに合力しようとも、我々ゼノンはこの戦を止めようとは思わぬ!)



 思ったよりも根性はあるようだとレギオンは思ったが、それでは肝心の戦が終わらない。それは困ったことだった。



(ガンダルフの魔法使いレギオンよ。ゼノン帝国の皇帝は中々頑固のようだ。まあ、皇帝とはそう言うものだと思うが……)



 簡単にこれまでの所業を翻すようではゼノン帝国の皇帝たる器はないと思うのはダルシア人も同じだった。

 戦を止めるにはもっと他に理由が、条件が必要なのだった。



(ふむ。では仕方あるまい……)



 次の瞬間、どこからか眩しく輝く光の塊が落ちて来た。

 そして、ゼノン帝国皇帝ボルドヌ・ログヌⅨ世の頭上に落ちた。



(な……)

と、ボルドヌ・ログヌⅨ世はその光の眩しさに、両手で顔を覆った。



 ダルシア人たちは何が起きたのかわからなかった。眩しい光の塊が落ちて来たとしか見えなかったのだ。

 ただ、その光の塊はゼノン帝国皇帝を傷つけたようには見えなかった。ただ、眩しさだけが印象的だった。



 暫く、沈黙が続いた。

 眩しい光の塊はすでに消えていたが、ゼノン帝国皇帝は驚愕した表情を隠さなかった。

 ゼノン人の鱗の有る固い皮膚の上からもその驚愕した表情が伺われるのだ。それほど何か驚くことが本人には逢ったのだと他の者は感じていた。



(そろそろいい頃合いだろう。ゼノン帝国皇帝ボルドヌ・ログヌⅨ世よ、お前は自分が何者であるのか思い出したか……)



 ライアガルプスとマグナルカスはレギオンの言葉で、落ちて来た光の塊が彼の魔法で作られたものであると確信した。



 ゼノンの皇帝の驚愕した表情が収まると、レギオンは再び言った。



(自分が何者であるのか思い出したか?)



 ゼノンの皇帝は周囲を見回し、ライアガルプスやマグナルカスを見て、最後にレギオンを見た。



(ここは、ダルシア帝国の皇帝の居住する塔なのか?)

(そうだ。どうやら思い出したようだな……)

(私は此処になぜいるのだ?ゼノンにいるのではなく、ダルシアの首都星に戻って来たのは、なぜなのだ?)

(まだ、記憶の認証が上手くいっていないようだな…。お前は今、誰なのか分かって居るか?)

(私か?私はダルシア人だ。ハルバルトスと言う……)

(いや、違う。自分の身体を見てみるがいい。お前はダルシア人ではない)



 言われて自分の手を見、身体を見たゼノンの皇帝は、

(これはどうしたことだ!私の身体はゼノン人のようだ…)

と、驚いて言った。


(ゼノン人のようだではない。お前は正真正銘ゼノン人だ。つまりハルバルトスはゼノン人に生まれ変わったのだ)

(何だと……)

(そうなったのは、お前が自分で望んだことだ。そうではないか…)

(そんなことをいつ、望んだのだ?私があんなゼノン人などに、半分人間で半分竜族の半端な連中に生まれるなど、信じられない…)

(確かにそう言ってゼノン人を毛嫌いしていたな、ハルバルトスと言うダルシア人は。だから、ゼノン人など簡単だと言って、ゼノン人に生まれ変わったのではなかったのか)

(なぜそのようなことを私はしたのだ?)

(思い出せないか。そのくらいのことは思い出してほしいのだが……)



 二人の会話を聞いて、

(ハルバルトスだと?確か彼女は一万年前にゼノン帝国艦隊との戦闘で戦死したはずでは……)

と、マグナルカスは言った。



 彼女の記憶によれば、そのゼノンとの戦闘はそれまでとは艦数が桁外れに異なっていた。ゼノン艦の数がダルシア艦の十倍も増えていたのだ。そのため、戦闘が進むにつれてダルシア側が不利になって来たのだ。

 ハルバルトスはダルシア帝国艦隊の司令官だった。その彼女は最後までゼノン艦と戦って旗艦とともに没したのだ。

 それはダルシア側の初めての敗北だった。

 それ以降、艦の大きさと武装の強力さのみを考慮していたダルシア帝国艦隊は数の面でも少しずつ増強することになったのだ。

 けれども、それは簡単に増やすことはできなかった。

 ダルシアの艦を作るには非常に年数が掛かる。それは他の種族とは異なる作り方をするからだ。



(その記憶は正しい。ダルシア人のハルバルトスは一万年前のゼノン帝国艦隊とダルシア帝国艦隊との戦闘で亡くなった。だが、死んであの世、つまり高次元世界に戻って再び生まれ変わって来たのだ。それも、ゼノンとダルシアとの戦いを止めさせるために。それなのに、本人はそれを忘れてゼノン帝国を勝たせるために頑張っていたのだ)

(それは、その…。生まれてきてゼノン人となってしまうと、生まれる前のことは忘れているのでゼノン人としての当然の考えを受け入れてしまったのだ)

(だから、お前をここへ拉致してきたのだ。お前の本来の目的を思い出させるために)

(だが、ダルシアとゼノンのこの戦いを止めさせるのは難しい……)

(そんなことは初めからわかっている。だから、万一の時は我々が介入すると言ったはずだ)

(しかし、ガンダルフの魔法使いの脅しを真面目に取り合うだろうか。大昔と違って、現在のゼノンはダルシアをもしのぐ力を持ち始めたと増長しているのだ。それにゼノンではガンダルフの魔法使いの名声はそれほど大きくはない。かつて魔法で宇宙文明を作った者達で、その中心をなす人々はどこかへ去って行ったと言われている。今ゼノンで力を持って居るのは正当なる魔法使いではなく、魔術師なのだ)



 魔術師はふたご銀河のロル星団に他銀河から移住してきたアルフ族が持ち込んだ魔法使いの一派だった。

 ふたご銀河の魔法使いは他を攻撃したり、呪ったりするような魔法を使うことはそれまでなかった。

 魔術師は他を攻撃し、呪うことで相手を困らせ最悪の場合は死に至らせる。

 他銀河からやって来たアルフ族は惑星ガンダルフの魔法使いが異端だと、あるいは邪道だとする魔法や魔術をもたらしたのだ。

 そうした魔法は正当な魔法とは違うと、ガンダルフの魔法使いは魔術師を嫌った。

 だが、ジル星団でのダルシア帝国とゼノン帝国との戦争はゼノン帝国での魔術師の飛躍的な増大を起こした。

 科学技術のダルシアに対する未熟さを魔術で補おうとしたのだ。

 ゼノン帝国は魔術師の一団をそれぞれの艦に乗せて、攻撃や防御をする時に魔術で援護をさせたのだ。

 それは結果的にはある程度の効果が認められた。


 ゼノン帝国での魔術師の地位は高まると共に、更なる魔術師の増大に繋がることになった。

 しかし、魔術はどうしても個人の能力でその成果が決まる。その個人の能力の増大は簡単には行かなかった。ただ魔術師の数が増えていくだけで、なかなか魔術師自体の能力を増やしたり、強くしたりすることはできなかった。


 ガンダルフの魔法使いレギオンの観方によれば、ゼノン帝国の魔術師の能力が大して向上しないのは別の理由があると考えていた。

 そもそもゼノン帝国の魔術師の魔法の使い方に問題があるのだ。


 魔法は敵を攻撃する為に存在するのではない。

 本来はもっと平和的に、生きる者たちや弱き者たちを守り育むために使われるものなのだ。

 ゼノン帝国の魔法の使い方は本来の使い方を逸脱し、間違った方向に行ってしまっている。

 もちろん、敵が現れた時に仲間を守ることも可能だ。それも度が過ぎて敵を殺したり滅ぼしたりすることは、よほどのことがない限りしてはならないとガンダルフの魔法使いは戒められていた。

 そのためいくら数が増えても魔法の呪文を研究しても、今以上の力を発揮できないのだと、ガンダルフの魔法使い達は考えていた。



(だが、これ以上ゼノンとダルシアが争うことはいずれ両者に破滅を齎すことになりかねない)

(それはそうだが。ゼノンではそのような考え方はしないのだ。自分たちが勝つ事しか考えていない)

(ダルシアも似たようなことか?)

と、レギオンは言った。


(無礼な、我々なそのようなことは考えぬ。我々はジル星団の未来を考えて、ゼノン帝国を排除しようと考えているのだ)

と、マルガルナスは言った。


(レギオンとやら、お前の言いたいことは我々ダルシアがゼノン帝国を壊滅させると、同じことがダルシアに起きると言いたいのであろう)

と、ライアガルプスが言った。


(そうだ。残念ながらダルシアの宰相殿にはそれがわからぬらしい)

(レギオン、私の力ではこれ以上ゼノン帝国でできることはない。ゼノンのことはもうあきらめるしかないだろう)

(だが、そうなるとダルシアも同じ運命を辿るだろう。それは困るのではないか?)

(ふむ。だが、すぐにではあるまい。時間はあるはずだ…)

と、ライアガルプスは言った。


(そうかな?ただ、今回のジャンプ・ゲートの件についてはゼノンもかなりの痛手を被ったのではないか……)



 初めはジャンプ・ゲートの技術の秘密が漏れたことにダルシアは危惧を抱いた。ガンダルフの魔法使いがそれをゼノン人には使えなくしたのだ。そのため、後からジャンプ・ゲートを使ってダルシア帝国に入ろうとしていたゼノン帝国の艦隊が被害を被ったのだ。

 ジャンプ・ゲートそのものが閉ざされたため、艦隊自体がどこか別の宇宙空間へと、ジャンプ・ゲートを開くことができる方へ自動的に移動した艦隊もあった。

 中にはジャンプ・ゲートで今まさにゲートを出ようとしたところでゲートが閉じられため、ワーム・ホールの中に閉じ込められた艦隊もあったのだ。その艦隊は気の毒にも元の空間には戻れず、そのまま動けなくなってしまっていた。

 その艦隊は三次元での形を留めることができずに、形を無くしてしまうことになった。

 結果として、ゼノン帝国の艦隊はその数を大量に失うことになったのだ。



(艦隊の数が激減したら、すぐには元に戻すことはできまい。だとしたら、ダルシア側がゼノン帝国の停戦を申し出れば受け入れる可能性があるかもしれない……)

と、レギオンは言った。


(なるほど、可能性としてはあるが、今のゼノン人にそれがどれだけ理解できるだろうか)

と、ゼノン帝国皇帝ディボルドヌ・ログヌⅨ世すなわち、元ダルシア人のハルバルトスは言った。


(理解できねばできるようにしてやればいいのではないか)

(どうやればいいのだ……)

(まず、今回の件を隠蔽できないようにするのだ。今回起きたこと、すなわちゼノンが多くの艦隊と人員を失ったことを、ゼノン帝国の者たち全てに知らせることだ。その上で、ダルシア帝国が停戦あるいは休戦を提示してきたことを知らせるのだ)

(しかし……)

(この知らせることにおいては、魔法を使うことができる)

(魔法を使うのか?)

(ダルシアやゼノンよりも魔法を能くする私が言うのだから心配せずともよい)

と、レギオンは言った。



 ライアガルプスは他の者達よりもガンダルフの魔法使いを知っていたが、レギオンの話が本当に可能かどうかはわからなかった。


 魔法と言うものがどれほどのことができるかは、ダルシアでもわかってはいない。

 ダルシアにはガンダルフの五大魔法使いと並ぶほどの魔法使いがいないこともある。それにダルシアでは魔法というものは、研究が依然として進まない分野でもあるのだ。

 なぜなら、魔法ほど個人的な能力による差異が大きいものはないからだ。それに加えて、唯物的な科学が元々盛んなためもある。

 ただ、唯物科学と言えど、それを極めてしまうとそこには魔法が存在することが強く感じられる世界が現れてくることは知っている。

 唯物科学を極めると魔法と科学の区別がつかなくなってくるのだ。


 残念ながらゼノンでは到底ダルシアほど科学と魔法を極めてはいない。



(では、私はダルシアに拉致されたのだから、ここへゼノン帝国の政府高官を呼ぶことにしよう。そうすれば話が早くなる)

(いいだろう。この何の益もない戦を治める為ならば、ダルシアの首都であるここへゼノンを呼ぶことを許可しよう……)

(陛下、そのようなことをされて大丈夫でしょうか)

(ジャンプ・ゲートを使ってダルシアへゼノンが来るのを止められたのだ。これからもゼノンがそれを使うことができないだろう。ならば、心配はない)



 但し、ゼノン帝国皇帝ディボルドヌ・ログヌⅨ世すなわち、元ダルシア人のハルバルトスが呼ぶというのではなく、ダルシア帝国皇帝ライアガルプスがゼノン帝国の政府代表として宰相クワルヌスト・ボンヌを招請するということにした。


 こうしてダルシア帝国の超空間通信がゼノン帝国に向けて発せられた。

 ゼノン帝国の宰相クワルヌト・ボンヌは軍の幹部や政治的反対者を退けて、自分がゼノン帝国皇帝を迎えに行くことを認めさせたのだった。


 ジャンプ・ゲートを使わないゼノン帝国艦隊の移動は時間が掛かるので、その間にライアガルプスが知らない事情をレギオンは話すことにした。


 ダルシア帝国とゼノン帝国との戦争を終結させることを企図したのは、今回が初めてではないとレギオンは話し始めた。



(ここ数千年に亘って何とか戦いを止めさせようとしてきたが、なかなか思い通りにはいかなかった。それで最後の手段として、ダルシア人であった者をゼノン人として生まれさせることにした。その者に戦争を終結する使命を負わせたのだ。そして生まれて来た目的を思い出させることにしたのだ……)

(しかし、それは目的としては正しいと思うが、手段としては邪道ではないのか?)

と、ライアガルプスは言った。


(いや、邪道というほどのことではない。ただ、生まれ変わった者がなかなか生まれて来た目的を思い出す事がないと言うことが難問だった。それで、今回のような非常手段に出たのだ。邪道というのなら、今回の方がそれに近いだろう。無理やり魔法で思い出させたのだからな。だが、それも闇に落ちるほどのことではない)

(だが、ゼノン帝国の皇帝一人では戦争終結まで至るのは難しいのではないか?)



 ダルシア帝国とゼノン帝国との確執はそれほど厄介なものだった。

 独裁者である皇帝一人の決断で戦争の終結が可能かどうかは疑問だった。ゼノンではダルシアよりも皇帝の権力は弱いと思われるからだ。



(もちろん、他にも同じ目的を持った者はいる。ゼノン帝国の代表として来る者の中に我々の仲間はいるのだ)

(その者が、上手くこちらの意図を理解してくれればいいのだが……)



 ライアガルプスはレギオンほど確信を持てなかった。

 ただ、そこにはわずかな希望を見出すことはできた。





 ゼノン帝国艦隊がダルシア帝国の国境に近づいているという知らせが来た。

(ゼノンの代表を乗せた艦一隻だけ、我が首都星に来ることを許可する)

と、ライアガルプスは言った。



 ダルシア帝国の首都星に来たゼノン人たちは軍港にゼノンの艦を着陸させ、シャトルで皇帝の住む尖塔へ入った。

 尖塔は大きく、中は広かったのでシャトルでも十分入れた。



 ライアガルプスのいる広間に入って来たのは宰相その人、一人だけだった。

 ダルシア人の護衛がダルシア皇帝の居る広間へ入るゼノン人は一人しか許さなかったのだ。



 広間でゼノン帝国の皇帝を見つけたゼノン帝国宰相クワルヌト・ボンヌは、

「陛下、ご無事でしたか……」

と、ゼノンの言葉で呼びかけた。


「ボンヌか、よく来てくれた」

と、ディボルドヌ・ログヌⅨ世は言った。


 すると、ゼノン人は素早くディボルドヌ・ログヌⅨ世の前に出て、持ってきた武器をライアガルプスに向けた。


 ダルシアの皇帝のいる尖塔に入るときや広間に入るときなどにも、監視兼護衛としてついて来たダルシア人たちはゼノン人が武器を持って居るかを確認してはいなかった。

 ゼノン人の持つ武器でライアガルプスが害されることなどダルシア人は考えていないのだ。



(何をするか……)

と、ダルシア帝国の宰相マグナルカスは叫んだ。


 ゼノン人が打つと同時に、ライアガルプスの周囲に大きな魔法陣が浮き上がった。

 魔法陣はゼノン人の攻撃を防ぎ、そして小さな魔法陣がゼノン人を縛った。



「これは、魔法か……。ダルシアに魔法使いがいると言うのか…」

と、ゼノンの宰相は驚いて言った。



 ゼノン人はそこでやっと、ディボルドヌ・ログヌⅨ世の近くにいる灰色のローブを着た人間に気が付いたのだ。



「お前は誰だ!」

「ふむ。私はガンダルフの魔法使いだ。それで、お前は誰だ?ここはダルシア帝国の皇帝の居られる広間だぞ」

「こんなところで何をしているのだ」

「お前にそれを聞かれる言われはない。お前こそ、ここへ何をしにやってきたのだ?」

「何だと!お前にそんなことを言う必要はない」

「だが、ここに私がいるということはお前がここへ来たことと関係があるのだ」

「私はゼノン帝国とダルシア帝国との話し合いにきたのだ。お前こそ、何の関係があるのだ?」



 レギオンが指を弾くと、魔法陣に縛られた宰相は床に転がった。



「これは、お前がやっているのか?」

「そうだ。私は魔法使いだと言っただろう」



 宰相クワルヌト・ボンヌはライアガルプスと思われるダルシア人に無理やり顔を向けると、

「ここはゼノンとダルシアとの話し合いの場ではないのか。ここによそ者がいるのはおかしいではないか」

と、言った。


(ゼノンとダルシアとの話し合いの場を設けることを提案してきたのは、ガンダルフの魔法使いレギオンである。だから、この場にいるのだ)

と言うライアガルプスの言葉がゼノンの宰相の心の中に響いた。


「ダルシア人は言葉ではなく、TPを使うというのは本当だったのか……」

と、宰相は驚いて言った。


 そこにゼノンの皇帝ディボルドヌ・ログヌⅨ世を襲ったのと同じ光の塊が落ちて来た。



「眩しい!何をするのだ、ガンダルフの魔法使い……」



 眩しい光の塊はしばらくすると消えて行った。。

 光の塊が消えると同時にゼノンの宰相を縛っていた魔法陣が消えていた。彼はゆっくりと立ち上がり、辺りを見回した。



(ここは、ダルシア皇帝の居住する尖塔ではないか……。私はなぜこんなところにいるのだ?)

と、先ほどまでゼノンの言葉で騒いでいたゼノンの宰相はTPを使って言った。



(ふむ。お前もやっと元に戻ったようだな)

(レギオンとやら、これはどうしたことなのだ?)

と、マグナルカスは聞いた。


(ゼノンの宰相は元ダルシア帝国艦隊司令官だったハルバルトスの副官、カルガルテスと言う者なのだ)

(カルガルテスだと?)

(私の名はハルバルトス閣下よりも無名なので、ご存知ではないかもしれません。ですが、なぜ私がここにいるのかわかっています)

(お前は何をしに来たのだ。それよりも何のためにゼノン人などに生まれ変わったのだ?)

と、マグナルカスは聞いた。

(私はハルバルトス閣下の補佐をするために、ゼノン帝国とダルシア帝国との戦争終結のために生まれ変わったのです。この生まれ変わりにはかなり危険が伴いました。ゼノン帝国で生まれ育つと、そこでの考えを身に着けてしまいます。そのため、生まれて来た目的を忘れてしまうのです。逆にダルシア帝国との戦いに努めることになってしまいました)

(だとしても、それは想定内のことだ。だからこそ、私が来たのだ。ダルシアとゼノンとの和解のために……)

と、レギオンは言った。


(いえ、私の結論はゼノンとダルシアとの和解は不可能だということです)

(不可能か……)

(ただ、ダルシアの力を見せつけてゼノン人の多くの心を折らせることは可能でしょう。今回のジャンプ・ゲート使用の失敗は良い機会になると思います)

(それほど、ゼノン人は何を追い求めているのだ?)

と、マグナルカスは聞いた。


(彼らの多くはダルシア人に劣等感を抱いているのです。彼らの中にはダルシア人であった者もいますが、弱い立場にいた者たちです。それ以外は竜族にあこがれた人間族がゼノン人として生まれ変わっています。そのためその性質は残虐で強欲なのです。そうした者が多いのです。そのためダルシアに勝利することを生涯の、あるいは帝国としての目的としているのです)

(それで、今回のジャンプ・ゲート使用の失敗はどのような影響を与えるというのだ?)

(今回の失敗はまずゼノン帝国艦隊の戦力をかなり減らしました。本国においてこのままではダルシア帝国に勝てない、あるいはダルシア帝国艦隊が来たら終わりだと考えているものが大多数なのです。だからこそ、私がダルシアにやってくることができたのですから…)

と、ゼノン帝国宰相クワルヌト・ボンヌ、元ダルシア人カルガルテスは言った。



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