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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
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ダルシア帝国の継承者 14

 リドス連邦王国のベルンハルト・バルザス提督は、ヘイダール要塞での滞在が長くなりそうなので、宿舎を借りることにした。以前この要塞が銀河帝国の所有だったときに高級将官用の宿舎だったところだ。

 司令室に宿舎について要請すると、多少待たされたが案外早く許可してくれた。



「ドルフ中佐、タレスの魔術師の様子はどうだ?」

と、バルザスは宿舎の客間で備え付けの応接セットに座って聞いた。


「今のところ、大丈夫です」

と、向かいに座ったドルフ中佐が言った。



 ドルフ中佐はヘイダール要塞にいるタレス人の魔術師ヒールリアン・ドレイを手中にしていた。ドレイの心を乗っ取って、自分の意のままにしているのだ。これは魔法ではなく、彼の特殊能力だった。

 リドス連邦王国には魔法使いだけではなく、特殊能力者もいるのだった。そして、両者を兼ねている者もいた。



「気をつけていてくれ、何をするかわからないからな」

「了解しました。ですが、あの外の艦隊は何をしに来たのでしょうか?」

と、ドルフ中佐は聞いた。


「要塞を攻撃することは無いだろう。それに惑星連盟の各代表を率いて要塞に来るには少し時間がかかるはずだ。たとえナンヴァル連邦と言っても、ダルシア帝国のコア大使がいないのでは、惑星連盟を動かすのは大変だろう。特にゼノン帝国の代表については……」

と、バルザス提督は言った。


 バルザス提督は惑星連盟について、その記憶を思い出そうと努めた。

 それが最初作られた頃と今とでは、ジル星団内の状況がかなり変化したからだ。






 ジル星団で惑星連盟が作られてもう一万年になろうとしている。

 惑星連盟は、ダルシア帝国とナンヴァル連邦が創設した組織だった。ジル星団の正義を守るために作られたとその規約に詠われている。


 惑星連盟が作られるかなり以前から、ゼノン帝国のジル星団での専横ぶりは有名だった。

 ゼノン人は竜型種族と言われ、その姿かたちはダルシア人に似ていた。ただ、竜型とは言えダルシア人のように巨大ではない。それに翼もない。ジル星団の人間型種族に近い体形であるが、肌や顔かたちや食性や性格などが昔のダルシア人に似ているのだった。

 彼らは宇宙文明に達すると、科学技術の低い種族を支配し奴隷にしたことで、他の多くの種族の非難を浴びていた。だが、その軍事力ゆえに、表立って対立する政府はなかった。

 ダルシア帝国はそんなゼノン帝国のやり方には最初は無関心だった。なぜならジル星団で最強とされるダルシアが標的にされる事は無いと考えていたからだ。

 誰も抑えようとはしないのでゼノン帝国はその行動をますます増長させて行った。そして、いつかダルシアに替わってジル星団を支配することを夢想するようになった。


 その頃にはゼノン人のようにジル星団で暴虐に振舞っていたダルシア人はとうの昔にいなくなっていた。

 ダルシア人は以前とは異なり弱い種族を狩って食糧にすることはせず、逆にそうした者達を保護する側になっていた。そしてジル星団の諸国はそのことをよく知るようになっていた。

 またダルシア帝国はかつてよりもかなり人口が減り、内乱が起きるなど国力の衰えを見せていたこともあり、ゼノン人はダルシア人が弱くなったと考えるようになったのだ。


 その頃になると他の種族もゼノン帝国の暴虐ぶりに恐れをなすよりも、ダルシアに替わる実力者だと認める者が出始めた。そうなって初めて、ダルシアはゼノンの危険性に気が付いたのだ。

 ゼノンによってジル星団が支配されたならばどうなるか、あのかつてのダルシアよりもひどい事をするのではないかと考える者もいた。それがナンヴァル連邦だった。


 ナンヴァル連邦はゼノンと同じ竜型種族だった。ただ、性質がゼノン人とは違い人間型種族に近く温和だった。

 彼らはダルシアにゼノンの危険性を訴え、ダルシアとナンヴァルが組んでゼノン帝国を懲らしめようとした。

 すでに、ゼノン帝国は一国で懲らしめるには力が強くなり過ぎていたのだ。

 彼らは人口が多く、艦隊の数ではダルシアをも超えていたのだ。そうなってやっとダルシアはゼノンの危険性に注目したと言えた。


 当時はまだ惑星連盟はなかった。

 ダルシア帝国とナンヴァル連邦の連合軍は、ゼノン帝国軍を自国の領土まで押し返した。ダルシア帝国とナンヴァル連邦の艦隊は科学技術力において優れていたのだった。

 しかし、残念ながらその艦隊の数においてダルシアとナンヴァルはゼノン帝国にとうてい及ばなかった。


 ゼノン帝国との戦いのためにダルシア帝国とナンヴァル連邦は宇宙空間に要塞を建設した。そこを両国艦隊の拠点として、ゼノン帝国と戦うために。

 それが宇宙都市ハガロンの始まりだった。


 ジル星団の他の諸国は国力も軍事力もゼノン帝国にかなり劣っていたので、そのような軍事的な作戦に協力する事さえできなかった。

 それでも、諸国の商船の中には秘密裏にダルシアとナンヴァルの連合軍に協力した者もいたと言われている。


 ゼノン帝国とダルシア・ナンヴァル連合軍の戦いは長く続いた。


 戦いが長く続くにつけ、その噂は惑星ガンダルフにもいつしか届いていた。

 惑星ガンダルフはジル星団で魔法使いの星として有名であった。

 ただ、彼らは魔法には秀でていたが宇宙に出るような科学技術はまだなかった。そのため、ゼノン帝国との戦いに馳せ参じることはなかった。

 というよりは知らせることができなかったと言った方が正しい。惑星ガンダルフには科学技術による宇宙空間用の通信はほとんど不可能だったからである。

 惑星ガンダルフはダルシア帝国とも交流があったが、それはかなり強力な魔法使いがいる時代しかできなかった。所謂ガンダルフの四大魔法使いのいる時代である。

 五大魔法使いと言われるようになるのは後のことだ。

 ダルシア帝国はそうした惑星ガンダルフの事情を知っていたので、ゼノン帝国との戦いに巻き込むことはなかった。

 また、ゼノン帝国の方も惑星ガンダルフがあまりにも文明が低いと判断し、ほとんどその存在を気にもしなかった所為もある。そのため、ゼノン帝国による暴虐も降りかかってこなかった。


 しかし、ある時一隻のゼノン帝国の艦が惑星ガンダルフにやって来た。近くを航行していた艦隊の一隻が、その機関が故障したため不時着したのだ。

 ゼノン人は降り立った地でいつものように振舞った。原住民に横暴なふるまいをしただけではなく、彼らの生命や食糧や財産を奪ったのだ。

 その結果、彼らは大急ぎで離陸する羽目になった。

 惑星ガンダルフの魔法使いは健在だった。彼らは魔法でゼノン人を撃退したのだ。


 その噂は瞬く間にジル星団を駆け巡った。科学技術ではなく、魔法でゼノンを撃退することができる者たちがいるという、信じられないような話だった。とは言え、撃退したのが惑星ガンダルフの魔法使いだと知られると、多くの者達は納得した。

 それ以来、ゼノン帝国は惑星ガンダルフには近づかなくなったと言われている。






 宇宙都市ハガロンで惑星連盟が結成された後、しばらくして四人の惑星ガンダルフの魔法使いがダルシア帝国にやって来た。


 当時ダルシア帝国の首都星、恒星アーローンの第五惑星には約一千万のダルシア人がいた。

 すでにその最盛期は過ぎ人口がかなり減少して、体形も小型化しつつあった。あまり大きすぎると食料も多量に必要になるので、意図的に小型化と人口の減少化を進めていたのだ。

 とはいうもののまだダルシア人はまだかなり大型で、人間型種族の五倍ほどの背丈があった。

 この頃のダルシア人は他の種族を狩って食糧にすることは良くないことだと判断して止めてかなりの年月がたっており、その考えがダルシア全体に行き渡り、常識になっていた。


 首都星には建国以来他の種族の入国を許可する事は無かった。ダルシア人にとって首都星は非常に神聖な場所だったからである。そのため他種族と関わる場合は辺境の惑星において会合する場合が多かった。

 惑星ガンダルフの魔法使いはそれを知って居ながらあえてやって来たのだった。


 首都星には尖塔が林立していた。

 その一つ一つにはダルシア人が住んでいるのだった。外壁は白い大理石のようなものでできていた。尖塔の入り口は最上階にあった。ダルシア人には翼があったので、そこから出入りするのが習慣だったのだ。

 その首都の一角に尖塔のない場所があった。かなり広く開けられていて、軍港となっていた。そこにはダルシアの宇宙艦が駐機していた。緊急時に対応するために、そこには常に千機ほどの最新鋭の艦艇が置かれていた。

 その軍港と林立する尖塔との間には道も交通機関もないことが変わっていた。ダルシア人は翼を使って移動するので、そのようなものは必要ないのだった。


 ダルシア帝国には皇帝がいるのだが、首都星には他の文明諸国にある宮殿のようなものはなかった。そうした美とか壮麗さとか言うものはダルシア人の一番苦手とするものなのだ。彼らは機能的なものを好み、あまり美を理解しない。

 それでも首都星で一番大きな尖塔にダルシア帝国の皇帝と称する者は住んでいた。


 惑星ガンダルフの魔法使い達は一番大きな尖塔の上にやって来た。彼らは翼もないのに魔法を使って空を飛び、空中に待機することができたのだ。彼らは皆頭からすっぽりと被れる灰色長いのローブを着ていた。

 すぐに皇帝の警備をしているダルシア人が大挙してやって来た。



(お前たちは何者だ!)

と、警備隊長が誰何した。



 ダルシア人は皆TP能力で意志の疎通をするため、その言葉は魔法使い達の心の中に響き渡った。

 大きなドラゴン型のダルシア人がそう言うと、四人の内から一人仲間から離れて出て来た。



(私は惑星ガンダルフの魔法使い、レギオンと言う者だ。ダルシア帝国の皇帝に会いに来た)

(何だと!お前たちに誰がそれを許可したのだ)

(いちいちお前たちの許可を取らねばならんのか?では、これからお前たちの皇帝に会うから、その許可を出してくれ……)

(そんなこと、誰が許可をするか!第一、お前たちが何者かもわからぬではないか……)

(そのようなこと言わねばわからぬのか。ダルシア人も落ちたものだ……)

(何だと!)



 押し問答をしていると、別のダルシア人が飛んで来た。



(何をしているのだ)

(は、この人間が皇帝陛下に遭いたいと言っているのです)

(ほう、どこのものなのだ?)

(その、何でも惑星ガンダルフの魔法使いと名乗っております)

(惑星ガンダルフの魔法使いだと?)



 そこで、そのダルシア人は惑星ガンダルフの魔法使いを見た。



(それは、本当なのか?)

(本当だ。それとも、ここのダルシア人は嘘も真実も区別がつかなくなったのか?)

(そこのおまえ、言い方に気をつけろ!このお方はダルシアの宰相、マグナルカス様である!)

(マグナルカスというのか、宰相というのなら人間の世界なら政府の高官に当たるだろう。我々はダルシアの皇帝陛下に会うためにやって来たのだ。お前たちの言う、許可と言うのを出してもらいたい)


 惑星ガンダルフの魔法使いだと言う者はダルシア人を見ても少しも恐れを見せず、堂々と主張した。

 ダルシアのマグナルカスはその不躾な惑星ガンダルフの魔法使いを品定めするようにしばらく見ていた。



(わかった、いいだろう。私について来るがいい)

(マグナルカス様、しかし、それでは……)

(この者は嘘をついていない。それに、惑星ガンダルフは大昔、我々が交流していた唯一の者たちなのだ)

(それはそうですが、こやつらが何をしにやってきたのかわかりません)

(例え危険な者たちで有ろうと、陛下は気にする事は無いだろう。ライアガルプス陛下はダルシア最強のお方だ。何を恐れることがあるのだ?)



 レギオンと名乗る惑星ガンダルフの魔法使いは他の者達に手を振ると、一人でダルシアの宰相マグナルカスについて首都星の一番大きな尖塔の中に入って行った。



 塔の中はダルシア人が翼を広げて飛ぶのに十分な広さがあった。

 ダルシアの宰相だと言うマグナルカスは下へ降りて行った。惑星ガンダルフの魔法使いレギオンはマグナルカスの後を付いて、同じく降りて行った。

 塔の中は壁が光を帯びていて思ったよりも明るかった。

 塔の高さの真ん中ほどでやっと床のようなものが現れた。そこへ降りると、マグナルカスはレギオンを見上げた。



(ちゃんとついてきているようだな……)

(ふん。ここがダルシア帝国皇帝の居住する宮殿というわけか?それにしては装飾がなにもないようだが……)

(我らダルシア人は装飾など無駄にしか思えぬ。そんなものを飾るくらいなら何もない方がすっきりするではないか……)

(なるほど、そんなものには興味がないということか……)



 さらにマグナルカスについて歩いて行くと、大きな扉があった。



(ライアガルプス陛下、惑星ガンダルフの魔法使いが陛下に会うためにやって来たと申しております)

と、マグナルカスはTPで扉の向こうにいるダルシア帝国皇帝ライアガルプスに知らせた。


(そのことは知っている。入って来るがよい……)



 扉が開くと、大きな広間のような場所でダルシア帝国皇帝ライアガルプスが四肢を伸ばして寛いでいた。周囲の壁は粗削りで凹凸があったが外と同じで光を帯びて明るかった。

 あの警備のダルシア人や一緒に来たマグナルカスよりも大きい体格だった。



(私に会いたいというのは、おまえか……)

(私は、惑星ガンダルフの魔法使いレギオンだ)

(私を前にして、随分な態度だな……)

(ダルシアとガンダルフは対等のはずだ。他の星の連中とは違う)

(確かに、そうだ。それで、何の用があって私に会いに来たのだ?)

(前に、ゼノン帝国の艦が惑星ガンダルフに来たことがある)

(ほう、亜奴らがガンダルフまで行ったのか……)

(噂で聞いてはいたが、あのような連中を野放しにしておくのはどういう理由があるのか聞きに来たのだ)

(それを聞いてどうするのだ?)

(もし、ダルシアが奴らをそのままにしておくというのなら、我々が出て行かざるを得ないと考えている)

(なるほど、だが、おまえたちに亜奴らを懲らしめることができるのか?)

(確かに我々はダルシアやゼノンのように宇宙船などはもっていない。だが、そんなものは必要ないことを見せてやろう)

(そこまで言うのなら話してやらんでもない。今、ダルシアだけではないこのジル星団の者達はゼノン帝国の連中に困っているのは確かだ。あの者たちとはまともな話ができぬ。これまで我らも艦隊を使ってゼノンと戦ってきたが、このままではあの連中をすべて消し去る必要があるのではないかと考えるようになった)

(消し去る?神でもないのにそんなことが許されると考えているのか?)

(神とか許されるとかもうそのような段階ではない。このままあの連中の暴虐が続けば他の種族が消滅するかもしれぬのだ。そのようなことはさせるわけにはいくまい)

(つまり、もうゼノンを壊滅させるしかないと皇帝陛下は考えているというのか……)

(そうだ。そのようなことはしたくはないが、このままでは危険すぎるのだ)

(そこまで考えているとは思わなかった。それなら、我々のすることを見ていて欲しいものだ)

(しかし、おまえたちはあの『ガンダルフの去って行った人々』とは違うであろう)

(だから、我らにはできぬというのか?)

(不安ではある)

(正直なことだ。だが、我々が失敗した場合はダルシアがやればいいことだ)

(確かにそうだな……)



 惑星ガンダルフの魔法使いレギオンはダルシア皇帝ライアガルプスの前を辞すると、塔の外の仲間の元へ戻り、四人でダルシアの首都星を去って行った。



 魔法使いが去るのを見届けると、マグナルカスは皇帝ライアガルプスの元へ戻った。



(陛下、あのような事を話されてよろしいのですか?)

(それは彼らが何をするかわからないということか?それとも、彼らがゼノンの連中にやられるかもしれぬと危惧を抱いているのか?)

(いえ、見ず知らずの者にあのようなことを話されるとは思わなかったので、驚いたのです)

(あのレギオンとか言う魔法使いは見ず知らずの者ではない。昔、あの魔法使いと別のことで協力し合ったことがある)

(昔と言うと、いつ頃のことでしょうか)

(おそらく、今から数百万年前ぐらいになるであろうか。それぐらいの昔のことだ。これまで思い出す事は無かったが、あの男を見て思い出した。『ガンダルフの去って行った人々』から長い年月の間、ダルシアとガンダルフはほとんど交渉を持たなかった。いや、我々の祖先たちは我々と話すことができる者がいなくなってしまったという事かもしれぬと考えていたものだ……)



 マグナルカスはライアガルプスの記憶に驚いていた。そんな昔のことをどうしておぼえているのだろうか。



(ふむ。彼らとのことはレギオンを見るまでは思い出さなかった。これは常に持って居る記憶ではない。おそらく、あの者が魔法を使って思い出させたのかもしれぬ……。あのガンダルフにはどのような魔法が残されているのかわからぬからな……)

(あのゼノンの魔術師とは違うのでしょうか)

(全然違うな。ゼノンの魔術師とガンダルフの魔法使いはまるで違う。力も技術も呪文も違う。だが、一番違うのはその心根だろう)

(心根といいますと、……)

(ゼノンの魔術師は己の出世や力を持つ事しか考えていない。だが、ガンダルフの魔法使いはジル星団、いやこのふたご銀河全体の事を考えることができるということだ)



 マグナルカスはふと自分も何か思い出せそうになってきたのに驚いた。



(この部屋で魔法を使ったかもしれぬから、その残り香でもあるのだろう)

(確かにこのような魔法はあのゼノンの者達には使うことはできないでしょう。しかし、確かガンダルフは人間型種族で酸素呼吸をする者たちではなかったでしょうか)



 ガンダルフの魔法使いは宇宙文明の者達が使うような宇宙服をきていなかった。それなのに、この硫化水素を含んだ大気において、普通に振舞っていたのだ。



(あの者は魔法使い故、周囲に結界を張っていたのではないかな……。確かそのような話を聞いた事があるような気がする……)

(魔法でそのようなことが可能だということですか。確かにゼノンの魔術師とは違いますな……)



 長らく絶えていたダルシアとガンダルフの交渉は、ロル星団に他銀河から移住して来たアルフ族が再び救援を求めて来た時に回復したことをライアガルプスは思い出した。

 当時ゼノン帝国は存在したが、ダルシア帝国が圧倒的な力を持って居ると思われていたので、ゼノンも今ほど暴れたりはしなかった。

 ロル星団では内乱や暴動が続き、人間型種族であるアルフ族が住みにくくなってしまったのだ。それだけではなく、その原因となったモノがアルフ族のかつての母星の有った銀河から付いてきてしまったことが判明したのだと言う。

 その結果、ロル星団のアルフ族が大挙してジル星団へ移住を求めて来たのだ。

 ダルシアは惑星ガンダルフにTPで通信を送り、その多くをガンダルフに移住させることになった。当時の惑星ガンダルフは人口が少なく、人間型種族のアルフ族が住むにも適していたからだ。

 その際にTPの通信を受け取り、移住についての話を惑星ガンダルフにただ一人残る『去って行った人々』の仲間であるガウィン・レヴンに伝えたのが、レギオンと言う魔法使いだったのを思い出していた。



 それからしばらくして、アルフ族がふたご銀河のロル星団へと移住した理由となったものが、ジル星団へも影響を及ぼした。それが、かのアルフ族が彼らの母星のある銀河から連れてきてしまったという『王家の呪い』と呼ばれているものだ。

 ダルシア帝国にもその影響が現れ、ダルシア皇帝の治世に反抗する者が現れた。

 次代の皇帝となるべきものとされたダルシア人が時の皇帝に反旗を翻したのだ。ちなみにダルシアでは他の国とは違って次代の皇帝なるべきものとされても皇太子とは呼ばない。そのような地位や身分もない。皇帝になるまではただのダルシア人に過ぎないのがダルシアの慣習である。

 その原因はダルシア帝国の衰退が顕著になるにつれて、その復興のためにかつてのダルシア帝国、他の種族に恐れられたダルシア人に戻る事を望んだからだった。それはダルシア人にとっては進化ではなく、退廃・退化することだと考えるものの方が多かった。


 その結果ダルシアの復興を欲したものたちは破れ、ダルシアの皇帝となるべき霊人が七人であったところが、ダルシアに四人残り、後はロル星団へと去ったと言われている。

 この抗争でダルシアは力を更に疲弊させた。ダルシアは艦隊の数も大幅に減った。ダルシア内の抗争で艦隊は味方同士で戦ったので以前の十分の一まで減っていた。

 ダルシアの内部抗争が終結した後、アルフ族の『王家の呪い』の影響を排除するために、ダルシア人は惑星ガンダルフの魔法使い達と図ってロル星団に強力な結界を張ったのだ。

 この時、惑星ガンダルフの魔法使いたちの力を借りたと聞いている。

 そして、しばらく平和な時が続いた。


 けれどもしだいにゼノン帝国はしだいに力を付けていった。

 ゼノン帝国はダルシアの艦を研究しつつ新たな艦隊を作った。反逆したダルシア人の中にはゼノンにその技術を秘密裏に渡したものもあったのだ。

 そして今、ゼノン帝国艦隊はその数と新たな武器でダルシアの艦隊を追い詰めるほどになった。



 ライアガルプスはその強力なTP能力を普段は緩く伸ばして首都星全域を眺めていた。

 ダルシア人は体が大きいだけではなく、特殊能力のパワーが他の種族に比べて強力なのだった。

 マグナルカスはその傍で警護に付くと共に、目を閉じてその能力を周囲に張り巡らしていた。彼女の能力はライアガルプスほどではないが、異変を感じる力が強いのだ。


 ふとマグナルカスは目を開けた。異変を感じたのだ。



(どうしたのだ?)

(あれは!どうやら先ほどのガンダルフの魔法使いが戻って来たようです)

(何と、もう戻って来たのか……)

(こんなに早く戻るとは、あの者の企みが頓挫したのでしょう)

(そうかな……。話を聞くまではそう早く決めるものではあるまい……)



 惑星ガンダルフの四人の魔法使いはゼノン人を一人連れて戻って来た。

 ライアガルプスの尖塔に戻って来ると、レギオンと思われる魔法使いがゼノン人を連れてライアガルプスの元へやって来た。



(随分早く戻ってきたが、どうしたのだ……)

と、ライアガルプスが言った。


(ゼノン帝国へ行って、ゼノンの皇帝を連れてきたのだ)

(何と、ゼノン帝国の皇帝ですと……)

と、マグナルカスは驚いて言った。



 そのゼノン人はまるで石のように固まっていて動かなかった。

 レギオンがゼノン帝国皇帝だと紹介しても固まったままだった。



(しかし、残念ながらそれが本当かどうか我らにはわからぬな……)

(ゼノン帝国の宮殿で大層な玉座に座っていた者だ。だからおそらくゼノン帝国の皇帝に違いあるまい)

(……)

(そのままでは話を聞く事もできまい。その者が動けるようにしたらどうだ)

(もちろんだ……)



 レギオンがそのゼノン人をマグナルカスの近くの床に降ろし、手を組んで

「ウンッ」

と、唸った。


 すると、ゼノン人は辺りを見回し始め、

「こ、ここはどこだ……」

と、ゼノンの言葉で話し始めた。



 ゼノン人は目の前にダルシア人がいるのを見て、青くなった。これほど近くでダルシア人を見るのは初めてなのだ。加えて、現在ゼノンとダルシアの関係が敵対関係にあると思い出したのだろう。



「まず、お前の名を名乗ってもらおうか……」

と、レギオンが言った。


「余、余はゼノン帝国の皇帝ディボルドヌ・ログヌⅨ世である。お前たち余にこのようなことをしてただで済むとは思うな!」

と、最後の言葉で脅してきた。


(なるほど、本物のようだな)


「なぜ、黙っている。何か言わぬか……」

(レギオンよ、この者にはTPは使えぬのか?)

(いや、TPで意志を通じ合うことは誰にでもできることだ。おそらく、信じたくないのだろう)

(それだけで、通じぬことになるのか?)

(『古の知恵の書』によれば、そういう事もあると聞いたことがある)

(その『古の知恵の書』とはあのガンダルフの『去って行った人々』残したものか?)

(そうだ。だが、このゼノンの皇帝にも通じるはずだ。気の毒だが、強い思念でTPを発すればいいと思う)

(やってみよう。これ!私の言葉がわかるか?)


「な、何だ?この声は、どこから聞こえてくるのだ?」

(聞こえはするようだな。これ!ここはダルシア帝国の首都星、そしてダルシア皇帝の宮殿の中だ)

「何だと!」



 ゼノン帝国皇帝ディボルドヌ・ログヌⅨ世はキョロキョロと周囲を見回した。そして、

「余、余に何の用なのだ……」

と、オドオドした声で言った。


(ダルシアとゼノンが交渉するために、お前を連れてきたのだ)

と、レギオンが言った。


「何だと……」

(そろそろお前たちの戦いを止めたらどうかと思ったのだが、どうだ?)

「ふ、ふん。やっと我らゼノンの力がわかったか……」

(そうか?お前たちもどうやら戦いを続けられなくなってきたようではないか……)

「何をいうか。我らはまだまだ力が有り余っている。まだ続けられるとも……」

(そうだろうか)

「余を攫って来たのだから、どんなことになるか見ているがいい……」



 確かに、レギオンがゼノン帝国の首都星の宮殿から皇帝を攫って来たことをゼノンが黙っているとは思えない。いずれ、誰がやったのかはわからずとも、どこへ行ったのかは突き止めるだろう。



(時間が掛かるのはかなわんな。私がやったことを、そしてゼノンの皇帝がここにいることをゼノンの連中に知らせてやろう)



 何という事を言うのか、これから戦いを始めるつもりなのか、とマグナルカスは思った。

 けれども、この惑星ガンダルフのレギオンという魔法使いはどんな力をもっているのだろうか。あの惑星ガンダルフの『去って行った人々』ほどの力があるのだろうかと興味も沸いた。


 ダルシア帝国皇帝ライアガルプスはレギオンとゼノンの皇帝との会話を面白そうに聞いていた。久しぶりに彼の者たちの力を見聞きできるのかもしれぬと思っていた。

 彼らの力は彼らと遣りあったダルシアの方が良く知っているのだ。



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