ダルシア帝国の継承者 13
ダズ・アルグが去った後、ヘイダール要塞のタリア・トンブンの部屋にタレス連邦から来た仲間のイオ・アクナスがやってきた。
「何かあったの?」
とタリアは言って、すぐ部屋に入れた。
「いや、たいしたことではないんだ。ただ、いつまでここにいるのかと思って……」
イオ・アクナスはタレス連邦生まれのTPだった。
亡命してきた仲間のなかでもTP能力はかなり強かった。もちろんタリアよりも強い能力の持ち主だった。
自分より強いTP能力の持ち主に対しては、たとえ仲間だとしても自然に身構えて心にブロックを張るのが普通である。そうすれば少なくとも心の中を読まれずに済む。だが、タリアはあまりそうしたことはしたことがなかった。仲間なら、自分の考えを読まれてもかまわないと思っているからだ。
だが、イオは戸惑ったような顔を見せた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
いつもなら考えが読めるのに、今日はタリアの心の中がイオには読めなかったのだ。
「そうね、もうしばらくはここにいることになると思う。少なくとも、船の整備が終るまでは動けないわ。ここにはタレスの船専門の整備士がいるわけじゃないし、しばらくかかるでしょう」
と、タリアは考えつつ言った。
宇宙都市ハガロンならば、タレス連邦の船専門の整備士が常時いるのだが、このヘイダール要塞ではそのようなことは望めない。タレス連邦の船が寄航したのは今回が初めてなのだ。
「そうか、仕方がないな。整備が出来次第、できるだけ早く出発できるようにしておくよ」
「そうね、そうしてくれると助かるわ」
だが、イオはすぐに行こうとはしなかった。
「何?他に聞きたいことでも?」
「その、あのリドスのバルザス提督のことだけど……」
「バルザス提督のこと?」
と、タリアは聞き返した。
「随分親しげに見えたんで、知り合いなのかと思って?」
タリアはイオが自分をどこかで見ていたのかと心の隅で思った。
だがそのことを顔には出さずに、
「ええ。ハガロンでコア大使に紹介されたからよく知っているわ」
と、言った。
「コア大使に紹介された?」
「ええ。リドス連邦王国はダルシア帝国の同盟国だもの。ダルシアとリドスはよく連絡を取っていたから、その連絡は私がやっていたのよ」
「そうだったのか……」
イオ・アクナスは話を終えてタリアの部屋から遠ざかると、首を傾げて振り向いた。
何かがおかしい。いつもと違うのだった。タリアの心の中が読めない。
廊下の突き当りを曲ると、イオは立ち止まり、部屋の中にいるタリアに注意を集中した。このくらいの距離ならば、イオの能力で充分部屋の中の人物の心の中が読めるのだ。
だが今イオには、部屋の中にいるタリアの心は読めなかった。一瞬、自分の能力が弱くなったのかと思った。しかし、そんなはずはない。だとしたら……。
イオは考えながら、ゆっくりと歩き出した。
タレス連邦のカウベリア提督一行が軟禁されている会議室の近くまで行くと、イオは部屋の前に要塞の兵士が警備についているのを確かめた。そして、そこから会議室の中にいるタレス連邦のTPボブ・フリッツにTPで接触した。
「む?イオか?」
と、会議室の中にいたボブ・フリッツが呟いた。
イオは、タリアとその仲間の現況をボブに簡単に伝えた。
しかし、タリアの変化については黙っていた。
「閣下、今イオから連絡がありました。要塞の司令官がタレスからの亡命者達に滞在の許可を与えたそうです。連中は要塞の中に宿舎を与えられているそうです。それとリドス連邦王国のバルザス提督が来ているそうです」
と、ボブがカウベリア提督に報告した。
カウベリア提督はリドスの魔法使いが誰であるかを知りたかった。リドスのバルザス提督というのが魔法使いなのだろうか。
「リドス連邦王国から来たのは、バルザス提督だけか?確かもう一人いるはずだな」
「リドスからはバルザス提督とその副官が来たそうです」
と、フリッツは伝えた。
すると、その副官が魔法使いなのだろうかと、カウベリアは思った。
バルザス提督は銀河帝国から来た逃亡者だとジル星団でも知られている。彼が魔法使いであるはずが無い。タレス人だが、ゼノン帝国の宮廷魔術師であるヒールリアン・ドレイを動けなくしたのはその副官なのだろうか。だとすると、かなり強力な魔法使いである。気をつけなければならない。
今もドレイは意志のない目をして座っている。これでは魔法など使えないし、役にたたない。
「外にゼノン帝国の艦隊が来ているかどうか聞いてくれ」
と、セイル・ラリア大佐が言った。
ボブは頷くと、イオに伝えた。
「ゼノン帝国の艦隊は確かに来ているそうです。ですが、他にも、ナンヴァル連邦の艦隊も、ええとつまり、惑星連盟の艦隊が来ているそうです」
「惑星連盟の艦隊?すると、やつらもダルシア帝国の遺産のことでやってきたということか?」
「そのようです。詳しいことはまだわからないそうですが、……」
「とすると、ゼノン帝国艦隊はナンヴァル連邦の連中に押さえ込まれるかもしれんな」
と、カウベリア提督は言った。
これはまずいことになったというのがカウベリアの正直な感想だった。ナンヴァル連邦はゼノン帝国を抑える実力を持っているジル星団でも数少ない政府の一つだった。
「いかが致しましょう」
と、セイル・ラリア大佐が言った。
「ここにいる以上、どうすることもできまい。だが、惑星連盟が来たということはいずれゼノン帝国の者たちも含めてこの要塞に来るということだろう」
ダルシア帝国の遺産のことがあまり知られることは、タレス連邦もゼノン帝国も望まないが、いずれ騒ぎになることはわかっていた。だからこそ、急いでことをなそうとしていたのだ。
惑星連盟に遺産のことが知れ渡り、そのことでナンヴァル連邦が動き出すとタレスもゼノンも動き難くなる。
ジル星団の惑星連盟の現在の議長はナンヴァル連邦の大使だ。中立公正という評判の人物だった。ダルシア帝国の遺産の問題を惑星連盟が気づいたとしたら、ゼノン帝国もそう簡単に遺産を手に入れることはできなくなる。それはタレス連邦にとっても困ることなのだ。
だが、まだ何も決まってはいない、時間はある、とカウベリアは自分を落ち着かせようと言い聞かせた。
惑星連盟と一緒に来るであろう、ゼノン帝国の代表のなかに魔術師がいるはずだった。そうすればこちらの戦力が増す、リドス連邦王国の連中などに引けは取らないだろう、とカウベリアは思った。たとえ、リドス連邦王国の代表の中に魔法使いがいたとしても、ゼノン帝国ほどの数と力はないだろう。
「閣下、イオに何か命令がありますか?」
と、セイル・ラリア大佐が聞いた。
「ともかく、タリア・トンブンについて注意を怠るなといっておけ。それと、バルザスというリドスの提督のことも含めてな」
ボブ・フリッツはうなずくと、TPでイオに伝えた。
イオはボブ・フリッツから新たな指令を受けると、何食わぬ顔でタレス連邦の難民たちの下に戻った。
その強力なTPを使って人の心を読むだけではなく、イオは自分の心を隠すすべに長けていた。敵味方を直観することに秀でたタリアさえも誤魔化すことができるのだ。
しかし、ヘイダール要塞に来てからどこか違うと感じていた。イオ自身や彼の仲間たちの能力が変わってきているのではないかと言う曖昧だが妙な違和感である。
それはいつか自分の正体がバレるのではないかと言う不安と繋がっていた。
船から降りたタレスの難民たちは、ヘイダール要塞が用意した宿舎にそれぞれ入って行った。
食事は要塞の一般兵士の食堂で食べるように言われている。生活必需品は、明日要塞の倉庫で必要なものを渡してくれるということになっていた。これで少なくとも食べ物と着る物と寝る場所は確保できたので、タレスの難民たちはホッとしていた。
宇宙船でどこへとも知れぬ旅にでるのは、とても心細いことだった。タレスの難民たちはあまり宇宙旅行などしたことのない者たちだったので、なお更不安だったのだ。
ヘイダール要塞は惑星ではないが、かなり大きな人工建築物なので、安心感がある。あの宇宙都市ハガロンよりも大きいというのが、難民達の間に口伝で広まっていた。
「ええと、ここかしら?」
と、三人の娘を連れて歩いていた母親らしき人物が言った。
「ここだと思う」
と、一番大きな娘が言った。
「これで開くのよね」
と言って、娘がカードを細いすき間に入れた。
すると、シュッと音がして、扉が開いた。
宿舎の中はリビングルームと個室が三つあった。トイレにシャワーにミニキッチンも付いているということだった。
部屋の明かりは入るとともに付いて、ソファーやテーブルがあるのがわかった。家具なども付いているのだ。
個室を見ると、寝台がそれぞれ置いてあるのが見えた。
「ホテルの部屋とは言わないけれど、まあまあね」
と、母親が言った。
一番下の娘がリビングのソファーに飛び乗って嬉しそうだった。
家具の形はタレス連邦で見かけるものとは多少違っているが、機能的だった。
「船のなかとは大違い」
「そうよね、リュイ」
と、母親であるアリュセア・ジーンが努めて明るく言った。
だが、一番上の娘が、
「パパはどうしているかしら……」
と言うと、
「そうね、きっと無事でいるわ」
と、アリュセアは自分に言い聞かせるように言った。
タレス連邦の貨物船フォトン号は身の危険を感じた特殊能力者たちを精一杯詰め込んで出発したので、家族に普通人がいた場合、乗れなかった者も多く出ていた。アリュセア・ジーンの夫もその一人だった。他の多くの特殊能力者を乗せるために、他の人に席を譲ったのである。
貨物船の出航以降、夫がどうなったかはわからなかった。ただ、普通人なので政府に拘束されたりはしていないことをアリュセアは祈るだけだった。
今回タレス連邦の大統領令として出された特殊能力者収容法によって、アリュセアや他の能力者は普通の生活を送ることを不可能にされたのである。それは能力者だけではなく、家族の中の普通人さえもその法律によって家族離散の憂き目に遭うことになったのだ。
こんな理不尽なことが本当に許されるのだろうか、とアリュセアは心の中で激しい怒りを感じていた。
リドス連邦王国のバルザス提督はタリア・トンブンの部屋からの帰り、妙な気配を感じてあたりを見回した。何しろ勝手知ったる元銀河帝国の要塞の中だった。一士官の時から何度も来たことのある場所なので、散歩ついでに廊下を歩いていたのだった。
そこはアリュセア・ジーンの宿舎の近くで、夜なので暗い廊下に僅かに灯された明かりがあたりを照らしている。
何かがいる、とバルザスは思った。口の中で密かに呪文を唱えると、あたりの光景が変わった。壁を透かして、あたり一帯が見られるようになったのだ。
バルザスから大分離れた廊下の角の陰に、男が一人身を隠して立っていた。要塞の兵士の制服をではなく、民間人の格好をしていた。よく見ると、タレス連邦の者だった。タリアが連れてきたタレス連邦からの亡命者の一人だ。ということは、特殊能力者だな、とバルザスは思った。
その男は身を隠してバルザスを盗み見ているのだから、おそらくタレス連邦側のスパイだと思われた。
だが、他にもう一つの気配があることにバルザスは気づいていた。
その気配は姿を見せなかった。けれども、どこか懐かしい感じのする気配だった。
もう一度透視しながらあたりを見回したが、タレス連邦のスパイの他は何もいないようだった。
バルザスはしばらくそうして立っていたが、やがて歩き始め、彼に割り当てられた宿舎に戻って行った。
バルザスの去った後をタレス連邦の男が付いて行くのを、観察している者がいた。
その人物から背後の景色が透けて見えた。半透明の不確かな存在の人物は、ゆっくりとあたりを見回した。
(ヘイダール要塞か……)
彼はヘイダール要塞に来るのは初めてではなかった。
かつて、彼はよくこの要塞を見物しに来たものだった。
もちろん、公式にヘイダール要塞を訪問したのではない。彼がヘイダール要塞に来たことはこの要塞を建設した種族は気づいていなかった。なぜなら、肉体のままで来たのではないからだ。
当時は今と違って肉体を持って生きていたが、宇宙都市ハガロンからジル星団とロル星団の間に浮かぶヘイダール要塞に精神だけ移動させることは、ダルシア人の彼にとって難しいことではなかった。
彼の名は、アントルーク・コア、ダルシア帝国の大使だった。
その姿形はタレス連邦を代表とするロル星団の人間型種族によく似ていた。しかし、コアが生きていた時には、居住環境が他の種族とは違うということで宇宙服を常に着用していたので、本当のコアの姿を見たものは誰もいなかった。亡くなる前まで彼の秘書をしていたタリア・トンブンも彼の本来の姿を見たことは無い。
このことを知っているのは、ジル星団で同盟国だったリドス連邦王国だけである。同じ同盟国であったナンヴァル連邦大使ですら、コア大使の本当の姿を見たことは無いのだ。
コア大使はすでにこの世の人ではない。だが、まだこの世にはすることが沢山あったのだ。だからこそ、こうやってヘイダール要塞に来たのである。
普通死んだ者は、惑星、つまり母星からあまり出ることは無い。
いや、出ることができないということが普通だった。それでなくとも、広い宇宙空間をただ一人、さ迷うことは普通人ではできることではない。
しかし、ダルシア人くらいの高度な文明を持った種族になると、死んだ後、霊の存在になっても惑星上だけではなく、宇宙空間でも自由自在に移動ができた。返って霊としての存在であるほうが、自由が利くのだ。霊であれば、空気が無くとも死ぬことはない。宇宙船に乗らなくてもいいのだ。周りの環境をあまり気にしなくて済むのだから。
久しぶりのヘイダール要塞で元銀河帝国の軍人であり、現在はリドス連邦王国のベルンハルト・バルザス提督の姿を見かけたのは正直驚いていた。
コアにとっては百万の味方を得た気分だった。おそらく、自分が死んだことを聞いてすぐにヘイダール要塞に急行したのだろう。そうでなければ、こんなに早く要塞にいることはできない。
死んだコアに代わって、これからバルザス提督には多くのことをしてもらわなければならないのだ。だが、その前にコアにはやらなければならないことがあった。
コアはタリア・トンブンの宿舎を見つけると、用心深くあたりを見回した。バルザス提督のように呪文を使わなくても、彼には周りが良く見えた。ダルシア人には元々透視能力が備わっているのだ。
ジル星団の現在残っているさまざまな古い文明の中で、呪文を使う魔法を使わない文明はダルシアのみといってよい。ダルシア人は呪文を使う必要がなかったのだ。
コア大使はタリア・トンブンの部屋の扉を開けることなく、すり抜けて入って行った。
タリアは、イオ・アクナスが帰った後、やっと一人になってホッとしていた。
この要塞に着いてから、次から次へと状況が変わり、ついていくだけでやっとという状態だったのだ。息つく暇も無いという感じである。
宇宙都市ハガロンにいたダルシア帝国のコア大使が死んだということに、彼女自身まだそれほど実感はなかった。目の前で死んだ訳ではないからだ。
ダルシア人は、寿命がジル星団中一番長いということをタリアは聞いていた。
コア大使は高齢だと言われていたが、まだ百年くらいは長生きするだろうというのが宇宙都市ハガロンでの常識だった。それなのにタリアがハガロンを留守にした隙に、コア大使は死んでしまったのだ。
最後に会った時、特に具合が悪いとも言ってなかった。見た目も替わりはなかった。もちろん宇宙服を着ていたから、実際はよくわからない。でも元気がないという感じはしなかった。
あのタレス連邦のカウベリア提督にもう少し詳しく、死んだときの様子を聞いておけばよかった、とタリアは思った。
もし、コア大使が死ぬと分かっていたら、聞いておきたいことは山ほどあったのだ。タリアから見れば、高度な知識を持ち、長命のコア大使は何でも知っているように思えたのだ。
タリアが一番知りたかったのは、タレス連邦の能力者たちの行く末に関してのことだった。このままタレス連邦から出て行き、ナンヴァル連邦やリドス連邦王国などの能力者の多い国に移住した方がいいのか、それともどこか人の住んでいない惑星を探して、そこに移住すべきなのか。
タリアがヘイダール要塞にいるという噂は時を経ずして広まり、タレス連邦から出た他のタリアの仲間達は続々とヘイダール要塞に集まってくるだろう。だが、このヘイダール要塞は単なる一時的な居住地に過ぎないのだ。これからどうしたらいいのか、それを聞きたかった。
だが、コア大使のいない今、それをタリアが一人で考えなければならなくなったのだ。
ため息とつくと、タリアは寝台ではなく、床の上に身を横たえた。
タリアにはここの寝台はあまりにも柔らかくて、寝にくく感じられた。床には厚いカーペットが敷かれているので、思ったほど固くはない。程よい固さの方が良く眠れるということを経験で知っていたからだ。
やがて眠りについたタリアを、コアは寝台に座る形で見ていた。
タリアの能力はTPであり、それもあまり強くなかった。だから、コアにはタリアに気づかれるという心配はなかった。
タリアの不安をコアは感じ取っていた。タリアの目下の関心はタレス連邦の特殊能力者のことだった。ダルシア帝国に関して関心は薄いと、コアは感じていた。
元々タリアはハガロンで生きていくために方便としてダルシア帝国の国籍を取ったのであり、ダルシアに関心があったわけではなかった。それをコア大使はよく承知していた。
たとえ、そうであってもタリア・トンブンにダルシア帝国を継承させるというのがコアの考えだった。ナンヴァル連邦はそれを理解できるかわからないが、ジル星団のもう一つの同盟国であるリドス連邦王国は理解してくれるだろう。その理由を彼らは知っているからだ。
コアは、タリアが夢を見るころあいを見計らって、寝台の上に横になると、目を閉じた。
タリアは、自分がどこにいるか最初わからなかった。
けれども、おそらくタレス連邦の首都星キンダホにいるのだろうと思われた。
そこはタリアがいつも見ていた都市の光景が広がり、明かりがついているのが見える。これは夜景だった。
空を見ると、衛星であるウルドスが見える。キンダホから見るウルドスは、非常に美しく輝いていた。空は晴れて他にも星が見えた。都市の明かりが見えるのに満天の星が見えるというのも変だったが……。
うっとりと星を見上げていると、いつのまにか空が明るくなっていた。
朝になったのかと太陽を見ようとすると、都市がなくなっていた。あたりは緑の木々に囲まれていた。木々の向こうには白いお城が見えた。
塔がいくつか見え、その周りに高い壁があるから、城なのかと思ったのだ。タリアは本物の城をまだ見たことはない。
その城の上空に多くの人が舞っているのが見えた。
あれは、もしかして、伝説に聞く、アルフ族かしら、とタリアは思った。
「そうだよ、あれはガンダルフのアルフ族だ……」
という声がした。
声の方を見ると、そこにダルシアのコア大使がいるのをタリアは見た。
コア大使はいつもの宇宙服を着ていなかった。けれども、不思議に彼がコア大使だとわかった。
「ええと、あのあなたはコア大使ですよね……」
と、遠慮がちにタリアは聞いた。
「そうだ」
「あの、あれはガンダルフのアルフ族だと言いませんでした?」
「そう言ったよ。ここは惑星ガンダルフだからね」
「ガンダルフ?リドス連邦王国の首都星のこと?ここが?」
「ここはガンダルフだが、今はまだリドス連邦王国はない」
リドス連邦王国はないとはどういうことだろう、とタリアは思った。
「さあ、あの城へ行こう。今日は結婚式があると聞いている」
と、コアはタリアを誘った。
「誰の結婚式ですか?」
「銀の月、いずれベルンハルト・バルザスと呼ばれる魔法使いの結婚式だ」
「バルザス提督の?」
「だが、まだ彼はバルザスではないがね……」
と、コアは意味深に言った。
「バルザスではないって、どういうことですか?」
「後に、銀河帝国のベルンハルト・バルザス提督となる銀の月は、今はアルディマルド国の国王ディラント・アルマ・カイトなのだ。今日はその彼の結婚式なのだよ」
「え?」
タリアはコアの言葉に驚いていた。一体これはどうしたことなのだ?
「別に驚くことはない、これは夢の中だ。だから、何が起きてもおかしくは無いだろう?」
「夢の中?私は夢を見ているの?」
「そうだ。だから、着ているものも、ほら……」
コアの示唆にタリアは自分の服を見た。
「これは?何?わたし、変なものを着ているわ」
「変なものではない。これはダルシアでは正式な席に着ていくものだ」
ローブのような奇妙な服だった。袖がやたら広く長い。そして究めつけはその色だった。紅ではないが、紫に近い色だった。
「恥ずかしいわ、こんなものを着たことが無いし、……」
「そんなことを言っていると、ほら、段々身体が小さくなってしまうよ……」
コアが冷やかすように言うと、本当にタリアの身体が縮んでしまった。
「助けて!」
と、タリアが悲鳴を上げると、
「ここは夢の中なんだ。仕方が無い。ほら、私が連れて行こう」
と言って、コア大使は小さくなったタリアを手で拾い上げた。
タリアはコア大使の手の中に入るほど小さくなっていた。それなのに、どうしてかタリアはあまり不安を感じなかった。最初は怖かったのに、コア大使の手の中にいるタリアはなぜか安心していた。




