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寿命365日の最弱ウミウシに転生した元プロゲーマー〜今度こそ世界一位をハメ殺す〜  作者: 神城ラグ
『第一章:プロの戦術論、群れのリーダーへの冷徹なる捕食(ざまぁ)』
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第八話 倍返しの毒針

海底に静寂が満ちる。

 ハリセンウオは硬直していた。

 全方位毒針射出。

 最大火力。

 最大範囲。

 その切り札を撃ち切った反動で、巨体がわずかに痙攣している。

 完全な後隙。


 だが、それでも普通の相手なら近づけない。

 ボスの周囲には、まだ猛毒の残滓が漂っていた。

 触れれば死。

 近寄れば終わり。


 ――だが。

 ノアは、その中心で笑っていた。

「返すぜ」

 ゼラチン質の身体が脈打つ。

 内部で膨れ上がる、莫大なエネルギー。

 数千本の毒針。

 その衝撃。

 回転。

 圧力。


 すべてを《凝縮硬化》で受け流し、体内へ蓄積していた。

 身体が軋む。

 限界寸前。

 だがノアは抑え込む。


 そして。

 静かに呟いた。

「――倍返しだ」

隠密毒素ヴィーナス・ヴェノム起動。


 瞬間。

 ノアの体表に紫色の紋様が走った。

 毒液が逆流する。

 圧縮。

 変換。

 増幅。


 チャージされていた衝撃エネルギーが、全て“射出力”へ変わっていく。

 海水が震えた。

 ハリセンウオの巨大眼球が見開かれる。

 危険を理解した。


 だが遅い。

 硬直フレームは、まだ終わっていない。

「カウンター成立」


 次の瞬間。

 ドバァァァァァァァァァッッッ!!!

 ノアの全身から、無数の猛毒針が全方位へ逆噴射された。


 それはもはや“針”ではない。

 暴風。

 砲撃。

 毒の機関銃。

 しかも威力は、ハリセンウオ自身が放った攻撃以上。

 自分の火力を、そのまま跳ね返されていた。


『GGGAAAAAAAAAAAッ!?』


 絶叫。

 紫色の巨体へ、毒針が突き刺さる。

 一発。

 二発。

 十発。

 百発。


 止まらない。

 硬直で逃げられない。

 回避不能。

 完全確定反撃。


「自分のクソ技で死ぬ気分はどうだ?」

 毒針が肉を貫く。

 猛毒が内部へ侵食する。

 ハリセンウオの身体が、内側から崩壊を始めた。

 膨れた肉体が溶ける。

 皮膚が裂ける。

 毒液が逆流する。


 巨大な眼球がドロリと崩れ落ちた。

 海底が紫色に染まる。

 それでもボスは暴れる。

 最後の抵抗。

 だがノアは冷静だった。


『フレーム・アナライザー』起動。

 暴走した水流。

 痙攣。

 残存攻撃判定。

 すべて予測。

「終了フレーム確認」

 ハイドロ・ダッシュ。

 ノアが一直線に加速する。

 崩壊していく巨体。


 その中心。

 まだ脈動する赤黒い核へ。

「チェックメイト」

 ガギィィィッ!!

 ノアの牙が、ボスコアを噛み砕いた。


 瞬間。

 海底神殿が震える。

 巨大な魔力が爆発した。

 ハリセンウオの身体が完全に崩壊する。

 肉。

 骨。

 毒。


 全てが紫色の海へ溶け落ちていった。

 そして。

 ログが鳴り響く。


【『ハリセンウオ(ボス個体)』の捕食を確認】

【大量の経験値を獲得】

【Lv15 → Lv22】

【Lv22 → Lv28】

【Lv28 → Lv30】

【個体レベルが30へ到達しました】


ノアは静かに岩陰へ滑り込み、脳内ウィンドウを展開した。

 視界に展開されたのは、ハリセンウオをハメ殺したことで得た、新たなリソースのログだ。


【『ハリセンウオ』より固有スキル《全方位毒針射出オールレンジ・バースト》を獲得しました】

【警告:既存スキル《凝縮硬化》との高いシナジーを検知】

【スキル統合を実行します――《凝縮硬化》×《全方位毒針射出》】

【統合スキル《確定反撃・針地獄フレーム・リフレクト》へ進化しました】


「……なるほど。そう来るか」

 思わず、ウミウシの口元が吊り上がるのが分かった。

 これまでの俺の生命線だった《凝縮硬化》は、1フレームの極限タイミングで相手の攻撃を受け流す、最強の防御スキルだった。だが、唯一の弱点があった。


 それは、射程の短さだ。

 どれだけ完璧にジャストガードを決めて衝撃をチャージしても、相手が目の前にいなければカウンターを叩き込めない。遠距離からチクチク削ってくる『ガン逃げタイプ』の敵には、近づくまでのリスクがデカすぎた。


 だが、今回の統合でその弱点は完全に消滅(バグ修正)した。

 ボスが持っていた、あの理不尽なクソ技――空間全域を埋め尽くす弾幕の仕様が、俺のカウンターシステムにそのまま組み込まれたのだ。


「ジャストガードで溜めた衝撃エネルギーを、今度は俺の肉体から『全方位へのトゲ』として撃ち返せる(リフレクト)。それだけじゃないな……」

 脳内でシミュレーション(ソロ回し)を繰り返す。

 今の俺には、クラゲから奪った《隠密毒素ヴィーナス・ヴェノム》もある。


 つまり、この《確定反撃・針地獄》で撃ち出す数千本のトゲに、俺の体内で生成した『毒素』を上乗せして、さらに《水流演算》のハッキングで弾道をコントロールしながら広範囲に逆噴射できるということだ。


防御ジャスガ成功が、そのまま画面全体の即死範囲攻撃バーストバグに化ける。……格ゲーなら一発で緊急メンテナンスが入るレベルの壊れキャラ(コンボ)だぞ、これ」


 海水が揺れる。

 ノアの身体が発光した。

 圧倒的な力。

 細胞が進化していく。

 今までとは比較にならない生命力が、全身を駆け巡った。

 そして。

 神々しい光と共に、新たなログが展開される。


【個体名『ノア』が種族極限レベルへ到達しました】

【種族極限ボーナスを付与】

【《捕食強奪》のスキル保有枠を拡張します】

【5枠 → 10枠】


 一瞬。

 ノアの思考が止まった。

「……は?」

 脳内ウィンドウ。

 そこに表示された空欄。

 空いている。

 まだ五つも。


 今まで、スキルを一つ入れるたびに何かを捨てていた。

 組み合わせ。

 最適化。

 取捨選択。

 常に容量不足だった。


 だが。

 今は違う。

「10枠……?」

 ノアの口元がゆっくり歪む。

 笑み。


 いや。

 それは完全に、“ゲーマーの顔”だった。

「ははっ……」

 脳内で構築が始まる。

 コンボ。

 ルート。

 シナジー。


 今まで不可能だった組み合わせ。

 理論上だけ存在していたハメ。

 全部、入る。

 全部、積める。

 世界が変わる。

 ノアは静かに海底へ視線を向けた。

 この海域は終わった。


 だが。

 ここから先には、もっと強い敵がいる。

 もっと理不尽なボスがいる。

 もっとクソみたいな初見殺しがある。


 そして。

 ノアはそれを攻略する側になった。

 静かに笑う。

「ハメ完了」

 海底神殿の闇が揺れる。

 進化した捕食者は、ゆっくりと次の深層へ泳ぎ出した。


「――さあ、ここからが本物のクソゲー(RTA)の始まりだ」

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