第七話 クソ技ボスと透明化エントリー
海底神殿、最深部。
岩壁の裂け目から漏れる紫色の光が、暗い海水を不気味に染めていた。
その入口の手前で、ノアは静かに停止する。
視線の先。
巨大な影。
この海域の頂点。
《ハリセンウオ(Lv30)》。
前回、実力の差を感じ逃げた相手。
だが今のノアは逃げない。
むしろ落ち着いていた。
「……まずは確認だな」
脳内ウィンドウ展開。
現在のスキル構成が表示される。
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《フレーム・アナライザー》
[戦術解析・行動予測]
《ハイドロ・ダッシュ》
[超加速移動]
《水流演算》
[水圧・水流把握]
《凝縮硬化》
[ジャストカウンター・衝撃吸収]
《隠密毒素
[毒射出・隠密]
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「5枠フル使用。余裕ゼロ」
ノアが目を細める。
「レベル差は23。真正面から殴り合ったら終わりだ」
普通なら無謀。
だが。
「ハメるためのパーツは揃った」
その瞬間。
ノアの身体がゆっくりと海水へ溶け込んだ。
《透明化》。
輪郭が消える。
気配も消える。
水流すら擬態。
完全なステルス状態。
ノアは音もなく、ボス部屋へ侵入した。
広大な空間。
中央には、巨大な球体のような魔物が浮かんでいる。
無数の鋭利な毒針。
膨れ上がった身体。
紫色の巨大眼球。
《ハリセンウオ》。
この海域の絶対強者。
だが奴はまだ気づいていない。
ノアは静かに水流を読む。
《水流演算》起動。
ボス周囲の海流。
視線の巡回。
反応速度。
索敵範囲。
全てを脳内で数値化。
「視線移動……三秒周期」
ノアはゆっくり死角へ潜り込む。
「警戒フレーム、確認」
距離。
角度。
着弾タイミング。
すべて一致。
「――ここだ」
透明化解除。
その直前。
ノアの体表に毒液が集中する。
《毒素反転》。
圧縮。
変換。
射出。
ズガァッ!!
超高速の毒針が、一直線にボスの眼球へ突き刺さった。
紫色の血が弾ける。
海底が震えた。
『GGGGGGGGAAAAAAAAAッ!!』
絶叫。
巨大な身体が痙攣する。
クリーンヒット。
完全な不意打ち。
だがノアは冷静だった。
「入ったな」
ハリセンウオの巨大な眼球が、怒りで血走る。
そして。
ノアは笑った。
「で、お前は次に何する?」
答えは決まっている。
焦った高火力ボスの行動など、格ゲーでも死にゲーでも同じだ。
「暴れる」
瞬間。
ハリセンウオの全身が膨れ上がった。
毒針展開。
全方位ロック。
空間全域を埋め尽くす、致死のトゲ嵐。
以前。
ノアに勝てないと思わせた技。
【全方位15フレーム毒針射出】。
ボスの切り札。
初見殺し。
回避不能。
だが。
ノアはニヤリと笑う。
「焦って最速ぶっぱ」
水流が荒れる。
無数の毒針が射出される。
「完全に想定通りのタイムラインだ」
ギュンッッ!!
トゲの嵐。
360度。
逃げ場ゼロ。
普通なら回避行動を取る。
だがノアは動かない。
一歩も。
その場に留まる。
「来い」
《凝縮硬化》発動。
毒針が迫る。
数百。
数千。
即死の暴風。
そして――接触、直前。
「今だ」
1フレーム。
ほんの刹那。
ノアの身体がダイヤモンドのように硬化した。
キィィィィィィィィィンッ!!!
海底に、硬質な金属音が響き渡る。
毒針が砕け散る。
弾かれる。
逸らされる。
完全受け流し。
ノーダメージ。
だがノアは笑わない。
まだ終わっていない。
むしろここからだ。
「乗る……!」
衝撃。
回転。
圧力。
毒針の運動エネルギー。
その全てを。
ゼラチン質の肉体内部へ流し込む。
蓄積。
圧縮。
クラゲ戦で掴んだ感覚。
カウンターエネルギーのチャージ。
体内が悲鳴を上げる。
限界。
だがノアは耐える。
耐えて。
笑う。
「もっとだ」
ボスのトゲ射出が終わる。
海底に静寂が戻る。
そして。
巨大な後隙。
ハリセンウオの身体が硬直した。
ノアの目が細くなる。
「――取った」
海底に、静かな殺気が満ちた。




