第六話 攻略パーツ
海底神殿中層。
周囲を埋め尽くす透明な触手。
岩肌へ触れた瞬間、紫色へ変色し崩れ落ちる猛毒。
【種族:ヴィーナスノヒモ】
【Lv18】
【脅威度:B】
普通なら近づいた時点で終わり。
だがノアは静かに笑った。
「設置型か」
前世で何度も見てきた。
格闘ゲーム。
アクションゲーム。
対戦ゲーム。
強いプレイヤーほど空間を支配する。
近づけば死ぬ。
触れば終わり。
そういう技を置いてくる。
「嫌いじゃない」
むしろ得意だ。
《フレーム・アナライザー》起動。
世界が遅くなる。
触手の揺れ。
毒液の流れ。
海流の変化。
すべてが情報として流れ込む。
「右に隙間」
一歩。
「次は下」
二歩。
「その次が前」
三歩。
ノアは触手の網を縫うように進む。
紙一重。
本当に数ミリ。
ほんの一瞬。
だが確かに存在する安全地帯。
その隙間だけを通る。
すると。
ヴィーナスノヒモが反応した。
触手が一斉に収束する。
「来たな」
透明だった触手が束ねられる。
巨大な鞭。
いや。
巨大な槍だった。
洞窟そのものを貫く勢いで振り下ろされる。
轟音。
水が裂ける。
岩が砕ける。
だが。
ノアは避けない。
「確認完了」
《凝縮硬化》発動。
体表が瞬間的に硬化する。
触手が直撃。
衝撃が全身を襲う。
「ぐっ……!」
吹き飛ばされる。
だが致命傷ではない。
そして。
ノアは見逃さなかった。
触手を振り切った後。
ヴィーナスノヒモ本体が僅かに硬直したことを。
「やっぱりある」
後隙。
確定硬直。
設置型にも存在する攻略ポイント。
だが。
距離が遠い。
今の速度では届かない。
そこでノアは笑った。
「なら使うか」
身体を縮める。
水流を圧縮。
爆発。
「《ハイドロ・ダッシュ》!」
ドンッ!!
海水が弾ける。
身体が砲弾のように加速した。
触手の隙間を抜ける。
一瞬。
二瞬。
三瞬。
そして。
ヴィーナスノヒモの懐へ到達した。
「チェックメイト」
牙を突き立てる。
柔らかい肉。
その奥。
脈動する赤黒い核。
そこへ食らいつく。
バギッ。
核が砕けた。
青白い光が崩壊する。
触手が力を失う。
巨大なクラゲがゆっくり沈んでいった。
【捕食を確認】
【ヴィーナスノヒモを吸収しました】
【Lv4 → Lv15】
【新規スキルを獲得しました】
【《隠密毒素》】
直後。
ノアの身体が揺らぐ。
輪郭が消える。
気配が薄れる。
海水へ溶け込む。
「……透明化?」
さらに体内で毒液が生成される。
圧縮。
変換。
射出。
ズガァッ!!
放たれた毒針が岩壁を貫いた。
紫色の煙が上がる。
「なるほど」
ノアの口元が歪む。
「隠密と遠距離攻撃か」
そして理解する。
欲しかったものだ。
今までの自分は近接しかできなかった。
だからハリセンウオのような遠距離制圧型に届かなかった。
だが。
これで違う。
近づく手段。
不意打ち。
遠距離攻撃。
全部揃った。
脳内で攻略ルートが完成する。
ハリセンウオの視線。
行動パターン。
トゲ射出。
硬直。
反撃。
すべてが一本の線になる。
「……勝てるな」
ノアは海底神殿の奥を見つめた。
暗闇の先。
巨大な魔力反応。
この海域の頂点。
Lv30
ハリセンウオ。
前回は一方的に追い返された。
だが今は違う。
攻略法が見えている。
見えている敵は、もう怖くない。
ノアは静かに笑った。
「待ってろ」
《ハイドロ・ダッシュ》が起動する。
水流が渦を巻く。
「次は俺が攻略する番だ」
そう呟きながら、ノアは海底神殿最深部へ向かった。




