第二十二話 誤差
深海をネオン紫の軌跡が駆ける。
進化を終えたノアは、水深四千メートル付近を移動していた。
視界には無数のログ。
海流。
振動。
生体反応。
全てが鮮明に見える。
だが。
その中に一つだけ異質な反応があった。
【生体反応を検知】
【推定レベル:68】
ノアは進路を変える。
「次の経験値か」
海中を駆ける。
数分後。
目的地へ到着した。
だが。
そこには何もいなかった。
巨大な岩場。
深い海溝。
暗闇だけが広がる。
「逃げたか?」
その瞬間だった。
【危険】
【危険】
【危険】
未来フレーム予測が悲鳴を上げる。
同時に。
横合いから巨大な衝撃が突き刺さった。
ドゴォォォォォォォン!!
ノアの身体が吹き飛ぶ。
海底を削りながら転がった。
「っ!?」
反応はできた。
だが避けられなかった。
ノアは体勢を立て直す。
そして見た。
暗闇の中。
ゆっくりと旋回する巨大な影を。
【個体名:深淵鮫】
【Lv68】
灰色の巨体。
鋭い牙。
傷だらけの外皮。
歴戦の捕食者。
だが。
ノアが気になったのは別だった。
「おかしい」
未来フレーム予測は動いていた。
攻撃も予測していた。
それなのに。
完全回避できなかった。
そして深淵鮫が消える。
いや。
消えたように見えただけだ。
未来フレーム予測は反応している。
紫色の線も表示されている。
それなのに。
身体が追いつかない。
ドゴォォォォォォォォン!!
三度目の衝撃。
ノアの身体が吹き飛ばされた。
紫色の外殻が砕ける。
深海に破片が散る。
「……おかしい」
速度じゃない。
未来フレーム予測は機能している。
攻撃も見えている。
回避ルートも表示されている。
だが。
避けた先へ牙が来る。
まるで。
俺の行動をわかっているように。
深淵鮫は静かに旋回する。
追撃しない。
焦りもしない。
ただ獲物を観察している。
余裕だった。
レベル差だけではない。
捕食者としての格が違う。
「未来を見てるのは俺だけじゃない……か」
あり得ない。
だが。
そうとしか思えなかった。
深淵鮫が再び動く。
海流が揺れる。
巨大な背びれが闇を裂く。
未来フレーム予測が警告を鳴らした。
【死亡予測】
【死亡予測】
【死亡予測】
赤い線が視界を埋め尽くす。
だが。
ノアの口元は歪んでいた。
恐怖ではない。
歓喜だった。
久しぶりだった。
攻略法が見えない敵は。
「面白ぇ」
ネオン紫の瞳が細くなる。
「やっと見つけた」
深淵鮫が迫る。
ノアも動く。
深海に二つの影が交差した。
攻略開始。




