第十九話 最適解
観測不能領域を後にしたノアは、ゆっくりと上層へ戻っていた。
目的地は水深三千メートル付近。
理由は単純だ。
「今のままじゃ足りない」
脳裏に浮かぶのは、あの光景。
巨大な深海ボス。
規格外の一撃。
そして。
それを正面から弾き返した小さな影。
アイン。
前世で一度も勝てなかった男。
だが。
今は考えない。
考えたところでレベルは上がらない。
「必要なのは経験値だ」
ノアは思考を切り替えた。
アイン対策は後回し。
まずは強くなる。
それが最優先だった。
⸻
現在レベル50。
次の進化は60。
進化による性能向上は大きい。
寿命を消費する欠点はあるが、それでも価値がある。
だからこそ。
今は最短で60へ到達する必要があった。
「格下は論外」
経験値が入らない。
「格上すぎても効率が悪い」
時間がかかる。
寿命も減る。
つまり。
必要なのは絶妙なライン。
勝てる。
だが強い。
そんな相手だった。
⸻
《未来フレーム予測》起動。
ネオン紫の予測線が広がる。
海流。
生体反応。
魔力反応。
すべてを統合する。
そして。
ノアは一つの反応を見つけた。
「いたな」
水深三千メートル。
深海の裂け目付近。
異常な電流反応。
普通の生物ではあり得ない数値だった。
⸻
ノアは《亜音速航行》を起動する。
海中が爆ぜた。
数分後。
目的地へ到着する。
そこは奇妙な場所だった。
周囲に生物がいない。
いや。
正確には近寄れない。
海水そのものが微弱に発光している。
青白い電光。
バチバチと走る火花。
離れた位置にいた小魚が一匹。
その瞬間。
弾け飛んだ。
黒焦げになって沈んでいく。
「なるほど」
ノアは静かに分析する。
「縄張りそのものが即死フィールドか」
⸻
さらに奥。
巨大な岩陰。
そこから途轍もない電流が漏れていた。
まるで海そのものが脈打っているようだった。
そして。
次の瞬間。
バチィッ――!!
深海全体を照らすほどの閃光。
ノアの視界が白く染まる。
未来フレーム予測が警告を鳴らした。
【危険個体を検知】
【推定レベル:60】
【高濃度電撃反応】
⸻
ゆっくりと。
岩陰から巨大な影が現れる。
長大な身体。
青白い発電器官。
赤く光る双眼。
その周囲だけ海水が激しく放電していた。
【個体名:深層雷帝ウナギ】
【Lv60】
⸻
ノアの口元が歪む。
「ちょうどいい」
レベル60。
進化までの最短ルート。
そして。
格上討伐による大量経験値。
条件は完璧だった。
電流が海中を駆ける。
巨大なウナギがゆっくりと口を開いた。
対するノアは笑う。
「経験値になれ」
深海に紫色のノイズが走る。
戦闘開始まで。
あと一瞬だった。




