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寿命365日の最弱ウミウシに転生した元プロゲーマー〜今度こそ世界一位をハメ殺す〜  作者: 神城ラグ
『第二章:深海エリアへの進出と強敵との遭遇、ライバルとの実力差の測定』
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第十八話 宿敵

 観測不能領域。

 ネオン紫のノイズが海中を漂う。

 ノアは静かにその場を離れていた。

 あの小さなクマムシ。

 あの異常なパリィ。

 あの理解不能なプレイスキル。

 頭の中で何度も再生される。

 巨大な深海ボスの即死攻撃。

 避けるでもない。

 防ぐでもない。


 ただ一度だけ。

 完璧なタイミングで触れた。

 それだけだった。


 それだけで。

 全てが終わった。

「……勝てねぇな」

 思わず漏れた言葉。

 ノアは自分で少し驚く。


 この世界に来てから初めてだった。

 勝てない。

 攻略法が見えない。

 そう認めたのは。

 視界の端で赤黒いノイズが揺れる。


【残り寿命:二十七日】


 数字だけを確認する。

 焦りはある。

 だが今はそれ以上に。

 胸の奥を占める感情があった。

「相変わらずかよ」

 苦笑が漏れる。

 ◇

 初めて会ったのは。

 プロになって最初の大型大会だった。

 当時のノアは本気で勝てると思っていた

 地方大会優勝。

 連勝記録更新。

 若手期待株。

 周囲からもそう持ち上げられていた。


 だから思った。

 全国でも通用する。

 そう信じていた。


 一回戦。

 対戦表を見た。

 知らない名前があった。

 アイン。

「誰だよ」

 その程度の認識だった。

名前すら調べなかった。アインはアインだ。それ以上知る必要はないと思っていた。

 そして試合が始まる。


 結果。

 ボコボコだった。

 何もできなかった。


 読み合いで負けた。

 反応で負けた。

 知識で負けた。

 技術で負けた。

 全部負けた。


 人生で初めて。

 ここまで完璧に叩き潰された。


 なのに。

 不思議だった。

 悔しい。

 腹が立つ。


 それなのに。

 楽しかった。

 ワクワクしていた。

「なんだよあいつ」強い。本物だ。そう思った。


 試合後。

 ノアは一人で笑った。

「めちゃくちゃ面白ぇじゃねぇか」


 初めてだった。

 心の底から。

 また戦いたいと思った相手は。

 ◇

 だが。

 それからが地獄だった。

 大会が変わる。

 ゲームが変わる。

 環境が変わる。


 それでも。

 決勝にいる。

 またいる。

 またいた。

 アイン。

 負ける。

 負ける。

 負ける。

 負ける。

 負ける。


 フレームデータを全部書き出した。配信を何十時間も見直した。同じ状況を何百回も繰り返した。それでも届かなかった。


 だが届かない。

 少し追いついたと思えば。

 さらに先へ行っている。


 気付けば。アインの顔を見るのが嫌になっていた。負けたくないからじゃない。もう勝てないと思い始めていたからだ。それは憎しみに近かった。


 ある大会。

 準優勝だった。

 記者に聞かれた。


『次こそ優勝ですね』


 ノアは笑って答えた。

『そうですね』


 だが。

 心の奥では違った。

 表彰台の一番上。

 そこに立つアインを見ながら。

 思ってしまった。

 また負けた。

 次も負けるんじゃないか。


アインは笑っていなかった。いつも通りだった。退屈そうだった。それが一番腹が立った。


 その瞬間。

 気付いた。

 自分はもう。

 戦う前から負けていたのだと。

 ◇

 深海。

 観測不能領域の入口。

 ネオン紫の海。

 ノアは静かに前を見る。


 あの時と同じだ。

 届かない背中。

 越えられない壁。


 だが。

 違うこともある。

 今の自分には。

 捕食強奪がある。

 無限進化がある。

 バグまで味方につけた。


 そして何より。

 この世界にはリスポーンがない。

 負ければ終わりだ。


 だからこそ。

 攻略する価値がある。

 ノアは笑った。

 前世よりもずっと楽しそうに。


「待ってろよ――」

 その声は静かに深海へ溶ける。

「世界一位」


 一拍。

 ノアは小さく首を振った。


「……いや」

 ネオン紫の瞳が細く歪む。

「アイン」


 その名を呼ぶ。

 憧れも。

 敗北も。

 苦手意識も。

 全部まとめて飲み込むように。


「今度こそ」

 ネオン紫の軌跡が深海を駆ける。

「お前を攻略してやる」


 宿敵が待つ深淵へ向かって。

 ノアは再び泳ぎ出した。

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