第十七話 神域防御
回避じゃない。
防御じゃない。
相殺でもない。
今のは。
今のは――
「パリィ……?」
直後。
怪物の顔面が弾け飛んだ。
ドゴォォォォォォォォォッ!!
轟音。
爆発。
自分の攻撃を。
何倍にも増幅された状態で。
そのまま叩き返されている。
怪物が悲鳴を上げる暇すらない。
頭部崩壊。
肉体崩壊。
完全消滅。
わずか一撃。
戦闘終了。
沈黙。
深海に静寂が戻る。
クマムシは動かない。
勝利の雄叫びもない。
喜びもない。
ただ。
退屈そうに崩壊していくボスの残骸を見ているだけだった。
ノアは呆然としていた。
「……おい」
理解できない。
システム干渉じゃない。
バグ利用じゃない。
特殊能力でもない。
今のは。
純粋な技術だ。
フレーム単位。
いや。
それ以下。
完全なタイミング。
完全な精度。
完全な判断。
そして。
ノアは知っている。
こんな異常なプレイをする人間を。
一人だけ。
知っている。
前世。
何度挑んでも勝てなかった男。
世界ランキング一位。
誰よりもゲームに狂った男。
誰よりも完璧なプレイヤー。
ノアの口元が歪む。
恐怖じゃない。
歓喜だった。
「……アイン」
全身の神経が熱を帯びる。
今のビルドじゃ届かない。
断言できる。
あのパリィを崩せない。
だったら。
もっと強くなる。
もっと効率化する。
もっと悪質なハメを作る。
あの一フレームを狂わせるためだけのビルドを。
「待ってろよ」
ネオン紫の瞳が怪しく光る。
「今度こそ俺が、お前をハメ殺す」
観測不能領域の奥。
世界一位はまだこちらを見ていない。
だが。
ノアは確信していた。
ようやく見つけた。
超えるべき相手を。
そして同時に理解した。
まだ全然届いていないことも。
レールガンマグロを攻略した時は、自分がかなり強くなった気でいた。
《未来フレーム予測》を完成させた時は、この世界の攻略法が見え始めた気でいた。
だが。
目の前の存在は違う。
スキルの強さじゃない。
ビルドの完成度じゃない。
純粋な技術だけで、この深淵を支配している。
「……どんだけ先行してんだよ」
思わず笑いが漏れる。
悔しい。
だが。
それ以上に面白い。
前世で追い続けた背中が、また目の前にある。
ならやることは一つだ。
追いつく。
超える。
そして勝つ。
寿命は残り二十八日。
無駄にできる時間は一秒もない。
ノアは静かに振り向いた。
今のまま挑んでも勝てない。
だからこそ。
勝てる形を作る。
世界一位すら抜け出せないハメを。
絶対に崩せない必勝ルートを。
そのためのレベリングを。
そのためのビルドを。
そのための攻略チャートを。
「待ってろ、アイン」
ネオン紫の軌跡が深海を駆ける。
今度は逃げるためじゃない。
世界一位を攻略するための準備を始めるために。




