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寿命365日の最弱ウミウシに転生した元プロゲーマー〜今度こそ世界一位をハメ殺す〜  作者: 神城ラグ
『第二章:深海エリアへの進出と強敵との遭遇、ライバルとの実力差の測定』
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第十六話 最速下降チャート

深海をネオン紫の軌跡が駆け抜ける。

 レールガンマグロとの戦いから一日。

 ノアはただひたすら下へ向かっていた。

 目指す場所は一つ。

 世界の底。

 前世で一度も勝てなかった男。

 アインがいる場所。


 そのためだけに。

 そのためだけに生き残る。

 視界の端で赤黒いノイズが揺れた。

 ノアは確認する。


【残り寿命:28日】


 静かに目を細めた。

「一日か」

 マグロ攻略。

 レベリング。

 スキル統合。

 結果として得たものは大きい。


 だが。

 失った時間もまた大きかった。

「残り二十八日」

「一秒も無駄にはできないな」

 計算が合わない。

 前世の公式記録。

 魂の同期。

 転生のタイミング。


 理論上、ノアとアインは同じスタートラインにいたはずだった。


 なのに。

 あいつはもう、この世界の最深部へ到達している。

「どんだけ先行されてんだよ」

 思わず笑った。

 焦りはある。


 だが恐怖はない。

 むしろ逆だ。

 前世で一度も届かなかった背中。

 何度挑んでも勝てなかった世界一位。

 その背中が今も前を走っている。

 追いつく。

 追い越す。

 そして勝つ。

 偵察でもいい。

 情報収集でもいい。


 あるいは――確認してから判断する。

 全部ひっくるめて。

 まずは確認だ。

「最速下降チャート開始」


 その瞬間。

 ノアの身体を海流が包んだ。

亜音速航行ハイドロ・ジェット》起動

 ズドォォォォォォン!!

 海が爆発する。

 凄まじい加速。

 周囲の景色が線になる。


 今までの《ハイドロ・ダッシュ》とは比較にならない。

 文字通り。

 弾丸だった。


 深海生物たちが反応する。

 巨大な甲殻類。

 鋭い牙を持つ捕食魚。

 深海クラゲの群れ。


 だが。

 未来フレーム予測が描く紫色の予測線が、その全てを無意味にする。

 敵が動く。

 その前に。

 ノアはもうそこにいない。


 あるいは。

 敵の攻撃判定が発生する前に、その空間を通り過ぎている。

 戦闘すら発生しない。


 ただの通過。

 ただの作業。

「経験値効率が悪い」

 それだけだった。

 かつてなら命懸けだった相手。

 攻略法を考え続けた強敵。


 今では立ち止まる理由にすらならない。

 ノアはさらに加速する。

 水深が増していく。


 光は消えた。

 音も消えた。

 ただ暗闇だけが広がる。

 途中。

 巨大なイソギンチャクの群生地を通過した。

 その隙間を泳ぐクマノミのような小魚たち。

 色鮮やかな身体。

 警戒心の強い視線。

 普通なら何らかのイベントが発生する場所。


 だが。

「スキップ」

 ズドォォォォォォン!!

 一瞬で通過。

 小魚たちは何が起きたのか理解できない。

 残ったのはネオン紫の残像だけだった。

 さらに下降。

 さらに下降。

 さらに下降。

 数百メートル。

 数千メートル。

 もはや距離感すら曖昧になる。


 そして。

 ある地点を超えた瞬間。

 ノアの表情が変わった。

「……ん?」

 静かすぎる。


 今までいた深海とは違う。

 生物の気配がない。

 海流のノイズも少ない。

 未来フレーム予測にも何も映らない。


 まるで。

 周囲の生物が、この先へ近づくこと自体を避けているようだった。

 嫌な沈黙。

 不自然な静寂。

 深海生物はいる。


 だが。

 誰も先へ進もうとしない。

 何かを恐れている。

 ノアは速度を落とした。


 直後。

 視界のシステムログが激しく乱れる。


【警告】

【警告】

【解析不能】

【解析不能】

【観測権限不足】

【データ破損】


 ネオン紫のノイズが画面を埋め尽くす。

 世界樹システムが悲鳴を上げていた。

「は?」

 ノアが眉をひそめる。

 今まで何度もエラーは見た。

 だがこれは違う。

 世界そのものが拒絶している。

 その先を。

 観測することを。

 理解することを。


 そして。

 ノアは見た。

 遥か下方。

 観測不能領域の奥。

 紫色のノイズが弾ける空間。


 そこに。

 何かがいる。

 巨大な影。


 いや。

 違う。

 巨大なのは、その周囲を支配している圧力だ。

 中心にいる存在そのものは、異様なほど小さい。

 小さすぎて見失いそうになる。


 だが。

 理解できた。

 あれだ。

 探し続けていた存在。

 前世で何度も見上げた背中。

 追い続けた世界一位。


 全身の神経が震える。

 寿命のことも。

 深海の恐怖も。

 一瞬だけ忘れていた。


 ノアは静かに笑う。

「……いた」

 ネオン紫の瞳が細く歪んだ。

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