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寿命365日の最弱ウミウシに転生した元プロゲーマー〜今度こそ世界一位をハメ殺す〜  作者: 神城ラグ
『第二章:深海エリアへの進出と強敵との遭遇、ライバルとの実力差の測定』
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第十一話 未解析ギミック

黒い深層を、ネオン紫の軌跡が走る。


 いや。

 走るという表現は少し違う。

 滑る。

 飛ぶ。

 ズレる。


 今の移動挙動はそれに近かった。

 地を這う感覚は、もう残っていない。

 《アビス・グリッチウミウシ》。

 その肉体は空間の当たり判定そのものを断続的に飛び越えていた。

 フレーム飛び。

 ゲームなら即修正案件。


 だが。

 ノアは嫌いじゃなかった。

「悪くないな」

 その時だった。

 視界の端で。

 これまで見たこともない赤黒いノイズが激しく明滅した。


 バチバチッ。

 ジジジジジッ。

 まるでシステムそのものが処理落ちを起こしているみたいだった。


「なんだ?」

 ノアは足を止める。

 激戦の余韻が残る思考でログを確認する。

 数秒後。

 原因に気付いた。


「あー……寿命か」

 深層エンペラーとの戦闘。

 進化。

 スキル確認。

 全部に意識を持っていかれていた。

 画面端のタイマーを完全に忘れていたのだ。


「あとどれぐらいだ?」

 数字を確認する。

 そして。

 思考が止まった。


「……は?」

【残り寿命:30日】

 ドクン。

 心臓が嫌な音を立てた。

 350日近くあったはずの猶予。

 それが一瞬で十分の一以下に消えている。


 だが。

 ノアの思考停止は一瞬だった。

 冷徹なゲーマーの脳が即座に答えへ辿り着く。

「そうか」

「進化のコストか」

 あの異常進化。

 本来の仕様を無視した不正規進化。

 レベルだけで成立するはずがない。

 システムは足りないリソースを別の場所から徴収した。


 寿命。

 最大のリソースを。

「勝手に引き落としやがったな」


 だが。

 そこで絶望するほど初心なプレイヤーじゃない。

 ノアは深層エンペラーを倒した。

 格上討伐。

 進化。

 特殊個体。

 リターンがないはずがない。


「おいシステム」

「リザルト全部吐き出せ」

 直後。

 赤黒いノイズの奥でログが展開した。


【世界樹システム内部監視ログ:個体名《NOAH》】

【種族:《アビス・グリッチウミウシ》】

【固有特性:《システム干渉》】

【スキル枠使用数:7/10】

【残り寿命:30日】


 残り三枠。

 寿命は最悪。

 だが。

 まだ終わっていない。

 むしろ始まったばかりだ。


 その時。

 別のログが視界へ割り込んだ。


【対抗パッチ適用予告】

【フレーム解析妨害ノイズ】

【判定遅延フィールド】


 ノアは思わず笑った。

「運営がナーフ予告してくるゲーム初めて見たぞ」

 完全に狙われている。

 だが逆に言えば。

 それだけ警戒されているということだ。


 寿命三十日。

 対抗パッチ。

 時間はない。


「だったら急ぐか」

 ノアはさらに深層へ潜った。

 そして。

 数分後だった。

 ズガァァァァン!!

 海底が吹き飛んだ。

 衝撃波。

 圧縮された超高圧水流。

 岩盤が抉れ、砂煙が巻き上がる。

 ノアは反射的に《ハイドロ・ダッシュ》を発動した。

 回避。


 だが。

 次弾が既に着弾していた。

 ズガァァン!!

「……は?」

 回避先。

 そこへ正確に撃ち込まれる。

 偶然ではない。

 予測されている。


 さらに三発目。

 四発目。

 五発目。

 まるで未来位置へ置かれているみたいな精度。

 普通の敵じゃない。

「面白い」

 ノアは笑った。

 即座に解析開始。


《フレーム・アナライザー》

《水流演算》

 並列起動。

 周辺海域をスキャンする。


 そして。

 数秒後。

 答えは出た。

「なるほど」

 巣穴。

 その奥。

 眼球だけを出してこちらを監視するハゼ。


 そして岩陰。

 完全な死角。

 そこへ潜むテッポウエビ。

「索敵担当と砲台担当か」

 ハゼが座標を送る。

 エビが撃つ。

 単体なら雑魚。


 だが。

 二匹が組んだ瞬間。

 一つのシステムになる。

 索敵。

 予測。

 照準。

 射撃。

 完璧な共生連携。


 ズガァァァァン!!

 再び衝撃波。

 ノアの横を掠める。

 近付けば撃たれる。

 逃げても撃たれる。

 完全なガン待ち構成。

「対戦ゲームなら前作でナーフされてるな」

 ノアは苦笑する。


 その時だった。

 紫色のノイズが身体の内側で走った。

 ジジッ。

 一瞬だけ。

 ハゼの動きが止まる。

 テッポウエビの照準がズレる。

 衝撃波が何もない場所を通過した。

 ノアの目が細まった。


「……今のは偶然か?」

 いや。

 偶然じゃない。

 確信があった。

 進化後から体内に存在している異物。

 バグ。

 グリッチ。

 《システム干渉》。

 まだ仕様は分からない。


 だが。

 何かを妨害した。

 それだけは分かる。

 再びエビが狙う。

 最大出力。

 巨大な衝撃波が形成される。

 ハゼの目が怪しく光った。

 完全ロックオン。

 普通なら回避一択。


 だが。

 ノアは逆に前へ出た。

「なるほど」

 口元が歪む。

「そういうことか」

 世界樹システム。

 対抗パッチ。

 フレーム妨害。

 判定遅延。

 いずれ来る。

 確実に来る。


 ならその前に。

 今やるべきことは決まっていた。

 ノアはエビの射線へ飛び込む。

 ノアは小さくつぶやいた。

「システムが俺を潰すための対抗パッチを用意するなら――」

 衝撃波発射。

 直撃コース。


 だが。

 ノアは笑った。

「まずはこのステージのクソ仕様からバグらせてやるよ」

 紫色のノイズが海中へ広がった。


 そして。

 テッポウエビの衝撃波が放たれた。

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