第十話 バースト読みと、クソハメ返し
『止めろォォ!!』
キングの叫びと同時。
前衛の盾役ウミウシが、巨大な外殻を展開した。
肉厚の装甲。
多層防御。
完全に“壁役”へ特化した進化個体。
だが。
ノアは止まらない。
むしろ笑っていた。
「いい盾だな」
ゼロ距離。
真正面。
盾役が防御を固める。
その瞬間。
《確定反撃・針地獄》発動。
ノアの体表から、紫色の紋様が走る。
次の瞬間。
ドバァッ!!
超高圧の猛毒針が、至近距離で炸裂した。
『ギャァァァァァ!?』
外殻が弾け飛ぶ。
防御の意味はない。
ゼロ距離で内側へ潜り込んだ毒針が、肉体を内部から破壊していた。
肉。
骨。
神経。
全部がドロドロに溶け落ちる。
盾役は断末魔を上げる間もなく崩壊した。
ノアはその中心へ噛みつく。
コア捕食。
ログ展開。
【『ムカデミノシールドウミウシ』の捕食を確認】
【新規スキル《多段相殺シールド(フレンドリー・ウォール)》を獲得】
【スキル枠使用数:6/10】
ノアの脳内に、新しい情報が流れ込む。
多段攻撃への自動分散。
衝撃緩和。
連続ヒット相殺。
完全に“対弾幕用”の防御スキル。
ノアの口元が歪む。
「へぇ」
視線が砲台役へ向く。
「初心者狩り構成としては、かなり完成度高かったんだな」
キングの顔が引きつる。
『な、何で……ッ!?』
だが次の瞬間。
怒声を飛ばした。
『撃てェ!! 一斉射撃だ!!』
左右の砲台役が口を開く。
高圧水流弾。
連続射出。
ズガガガガガガガッ!!
海水を裂く弾幕。
かつてレベル1だったノアを絶望させたハメ技。
回避先へ次弾。
近づけば盾。
逃げれば削り。
だが。
今のノアは止まったままだった。
「……試運転するか」
《多段相殺シールド》展開。
ゼラチン質の膜が、ノアの前方へ広がる。
直後。
水流弾が激突した。
だが。
バチバチバチッ!!
衝撃が分散される。
削れない。
貫通しない。
多段ヒットそのものが、ゼラチン膜へ吸収されていた。
ノーダメージ。
完全ガン処理。
砲台役たちの顔が青ざめる。
『は……?』
『な、何で通らねぇ!?』
ノアは笑う。
「お前ら、自分の構成のメタ知らなかったのか?」
瞬間。
《ハイドロ・ダッシュ》起動。
海水が爆ぜた。
一瞬で左側の砲台役へ接近。
『速――』
ガギィッ!!
噛み砕く。
即捕食。
【『ムカデミノタレットウミウシ』の捕食を確認】
【新規スキル《高圧遠隔砲》を獲得】
【スキル枠使用数:7/10】
次の瞬間には、もう右側へ移動していた。
『ま、待っ――』
ズガァッ!!
毒針。
至近距離射出。
砲台役の頭部が吹き飛ぶ。
そのまま捕食。
キングだけが、その場に取り残された。
静寂。
群れは壊滅。
キングの顔が引きつる。
『ひ、ひぃ……』
ノアはゆっくり近づく。
「終わりだな」
キングが後退する。
『来るな……来るなァ!!』
だが突然。
キングの目が狂気に染まった。
『死にたくねぇ……!!』
触手が伸びる。
周囲に残っていた雑魚個体へ突き刺さった。
『ぎゃぁぁぁぁ!?』
引きちぎる。
喰らう。
無理やり肉体へ取り込む。
融合。
暴走。
ノアの目が細くなる。
「……進化権か」
ログ警告展開。
【警告:対象がシステム制限を無視した緊急進化を敢行中】
【進化先:《アカフミノ・エンペラーウミウシ(Lv35)》】
肉体が膨れ上がる。
外殻増殖。
触手肥大。
紫色の海流が荒れ狂った。
そして。
巨大化した第二形態が、海底へ降り立つ。
『ハ、ハハッ!!』
キング――いや、エンペラーが笑う。
『見たか!? これで終わりだ!!』
ノアは静かに見上げる。
追撃はしない。
いや。
できないのではなく、“待っていた”。
「なるほど」
《フレーム・アナライザー》起動。
進化中の無敵判定。
持続時間。
解除タイミング。
全部解析。
ノアは小さく笑った。
「体力減少時の緊急バーストか」
エンペラーが顔を歪める。
『……は?』
「格ゲーの仕様としては基本だな」
ノアの目が細まる。
「でもさ」
海水が静かに揺れる。
「バースト後の着地硬直、お前消せるの?」
一瞬。
エンペラーの表情が凍った。
次の瞬間。
無敵解除。
その“1フレーム目”。
「取った」
《高圧遠隔砲》起動。
《隠密毒素》同時接続。
圧縮。
増幅。
毒液を超高圧水流へ混ぜ込む。
最大火力。
しかも。
解除地点へ完璧に重ねられた“持続当て”。
回避不能。
ガァァァァァァァァァァッッッ!!!
紫色の毒砲撃が、エンペラーを真正面から呑み込んだ。
『ァ……!?』
動けない。
避けられない。
起き上がりへ完全に重ねられている。
盾役はいない。
身代わりもない。
硬直。
削り。
毒。
連続ヒット。
完璧な起き攻め。
「ハメ成立」
ドゴォォォォォォォッ!!
エンペラーの巨体が崩壊する。
外殻が砕ける。
肉が溶ける。
断末魔すら最後まで上げられず、巨大な身体は海底の塵になった。
静寂。
その中心で。
ノアの脳内に、今までで最も激しいシステムログが鳴り響いた。
【『アカフミノ・エンペラーウミウシ(Lv35)』の完全討伐を確認――格上討伐ボーナス(極大)を獲得しました】
【Lv30 → Lv40】
【個体名:ノアの『進化権』が解放されます】
【進化先を選択してください――推奨:《アビス・プレデターウミウシ》】
直後。
ログが乱れた。
紫色のノイズが視界を走る。
【――エラー】
【個体の固有ログを検知】
【世界樹システムへの干渉を確認】
【システム権限を一部書き換えます】
【特殊進化先:《アビス・グリッチウミウシ(深層のバグウミウシ)》へ進化します】
「……おいおい」
ノアは思わず笑った。
「進化先までバグりやがったか」
次の瞬間。
ノアの肉体が激しく発光する。
ゼラチン質の身体が、一度ドロドロに崩壊した。
細胞。
神経。
外殻。
全部が液状化し、海中へ溶け落ちていく。
だが。
崩れた肉体は、そのまま終わらなかった。
深海の闇より深い“漆黒”。
そこへ、バグ画面みたいな“ネオン紫”の光が走る。
ノイズ。
残像。
フレーム飛びみたいな紫色の軌跡。
肉体が再構築されていく。
黒い外殻。
鋭利な触手。
体表を走る紫色の亀裂。
その姿は、もはや普通のウミウシじゃない。
深海の怪物。
あるいは。
世界そのものの“バグ”。
【特殊進化完了】
【種族名:《アビス・グリッチウミウシ》】
【固有特性:《システム干渉》を獲得】
海水が震える。
今までとは比較にならない力が、身体の内側を循環していた。
ノアは新しい身体を見下ろし、小さく笑う。
紫色のボディに稲妻のように迸る模様
「……完全に裏ボス側の見た目だな」
だが悪くない。
むしろ、かなり好きだった。
ノアはゆっくり深層の闇を見上げる。
未知のエリア。
未知のボス。
未知のクソゲー。
全部まとめて。
「攻略してやるよ」
ネオン紫の軌跡を海中へ残しながら、ノアはさらに深い闇へ泳ぎ出した。




