冒険者の条件①
「今はそれよりも大事な事があるからのう」
なんだろう。
さっきまで、ウキウキした感じだったのに、じいちゃんは真剣な顔をしている。
「ブルルゥ」
「え、なに? どうしたの?」
僕の隣にきたスレイプニルも、いつも様子が違う。
じいちゃんに対して、なんだか不満があるようで鼻息を鳴らしていた。
「ブルル!」
たぶん、いつもの事ながらじいちゃんに腹を立てているのだろう。
「もしかして、じいちゃんが原因?」
僕が小さな声で尋ねると、スレイプニルにはコクンと頷いてみせた。
確かにじいちゃんはスレイプニルに対して、雑過ぎるところがある。
例えば、旅の道中で僕がスレイプニルのこと心配した時のこと。
「水分補給とかしなくて大丈夫? ご飯とかも朝昼晩いるんじゃないの?」
僕がそう聞いても、じいちゃんはきょとんとした反応を見せた。
最終的には、
「こやつは水をそんなに飲まなくても大丈夫じゃし、三食も食べずとも問題ないぞ」
と返し実際その通りに接する始末。
その度、呆れた表情と不機嫌そうな鳴き声を上げるスレイプニルを何度見たことか……。
でも、本当に大丈夫だったんだよね……。
賢いだけじゃないのかな?
とはいえ、このままではいつか荷物を運んでくれなくなりそうなので、たまには謝るくらいしてご機嫌をとってほしい。
だけど、鈍感なじいちゃんはそんな事をするわけなどなく(きっと頭にすら浮かんでいない)、不機嫌そうなスレイプニルを見て再び溜息つきながら、相手をすることなく会話を進めた。
「そうじゃな、修行の前にこれからお主に関係してくる事について話しておこうと思う」
「僕に関係すること?」
「ああ、お主の関係することじゃ」
僕に関係することとは、一体何なんだろうか。
修行前ということは、修行についてだろう。
普通に考えると、そうなんだけど。
いや、でもじいちゃんのことだから、もしかしたら突拍子もないことを言うかも知れない。
「僕に……僕に関することって?」
すると、じいちゃんが目を見つめて答えてくれた。
「冒険者ギルドについてじゃ」
「ヘっ!?」
普通……普通の答えだ。
普通の答えが返ってきたことで僕が動揺していると、その反応が気に食わないのか、じいちゃんは不満気な表情して首を傾げている。
そして、もっと大きな反応が欲しいのか、もう一度同じことを口にした。
「いや、じゃから冒険者ギルドについてじゃ!」
じいちゃん……違うんだ。
僕はただじいちゃんがいつもと違って普通のことを言ったこと驚いただけなんだ。
なんて思っていても、じいちゃんはこういう時に限ってとっても鈍い。
このままでは、まず伝わることはないので、普通に対応することにした。
「あーっ!! 冒険者ギルドについてか!」
「ガハハハッ! そうじゃ! お主は冒険者について知りたがっていたじゃろう?」
「うん!」
一芝居うった僕の気持ちなど知らず、ご機嫌になっているじいちゃんの話によると、冒険者ギルドはこの世界で憧れの職業の一つで、自由や冒険に追い求める人たちが集まっているとのこと。
その規模は大きく、国をまたいで各地に支部があるらしい。
組織としては貴族と同じくライン王国のロイ殿下の直属の組織になるようだ。
そして、このライン王国内では、リターニア東部に位置する草原の町アイモーゼン、西部ポンジュの村、南部砂漠の町イロアス、北部港町ハーフェンに支部を設けていて、王国の首都であるフリーデに本部を構えているみたいで、他国に関しても首都にその支部が一つずつ存在しているらしい。
「ま、概要はこんなところじゃろう」
じいちゃんは髭を触りながら言った。
でも、僕にはもっと知りたい事がある。
「じいちゃん……その――」
話し掛けようとしたら、その態度を察してか、じいちゃんはニカッと、口角を上げ食い気味に言葉を発した。
「ふふっ、わかっておる! お主が気になって仕方がないのは、冒険者になる方法じゃろ?」
じいちゃんの言う通り僕は冒険者に憧れていた。
理由は単純。
この世界で有名な本”勇者の行方”で描かれている勇者たちのように世界を旅して見たかったからだ。
「さすが、じいちゃん! わかってるね!」
「ガハハハッ! 当たり前じゃ! お主のじいちゃんじゃからのう! それと今この話をしたのにはちゃんと理由がある」
僕の考えていることを当てたじいちゃんを褒めると、その“さすが”という言葉が嬉しかったようで、いつになくご機嫌になっていた。
肩を回しながら豪快に笑っている。
単純だけど、僕の事をしっかり見てくれているいいじいちゃんだ。
でも、理由とはなんだろうか。
今ここで話す理由……。
町へ来るまでの道中でもよかったはずだ。
むしろ、その方が話す時間はたくさんあったのに。
いくら考えてもその理由がわからない。
「じいちゃん、その理由ってなに?」
「ああ、それはじゃな――」
その質問にじいちゃんは腕を組みながら答えてくれた。
話によると、僕のように魔力欠乏症であろうが平民や貴族など関係なく、六歳になれば誰もが冒険者になる権利を得られるようだ。
「とはいえ、条件はあるがのう」
話し終えたじいちゃんは髭を触っている。
すると、僕の目をしっかりと見つめてきた。
「その条件はな、もう達成しておる」
「えっ、そうなの!?」
「ほれ! コイツじゃ!」
そう言うと、じいちゃんは馬車に積んでいた荷物の脇から、例の緑色のヌルヌルした魔物をひょいと持ち上げた。
「……う、うん? うん」
僕は嫌というほど見慣れた魔物を前にして首を傾げることしか出来なかった。




