冒険者の条件②
僕が固まっていたというのに、じいちゃんは全く動揺していない。
それどころか、なんだか嬉しそうに持ち上げたヌルヌルの魔物をもっと近づけてきた。
「だから、こいつが関係しておるんじゃ! ペリドットフロッグがの!」
ペリドットフロッグ。
ランクはGで、討伐……と呼べるのかわからないけど、冒険者じゃなくても、その日暮らしの人たちには人気の魔物だ。
美味しいなんて、思ったことはないけど、調理も簡単で栄養も豊富なやつ。
ことわざである『ブルースネークに睨まれたペリドットフロッグ』なんていうのにも出てくるほどに有名な魔物だ。
「えっ!? それが?! 冒険者になる為の条件に関係しているの? 本当に?」
いきなり、トラウマになっているヌルヌルした緑色の魔物が関係している。なんて言われてもよくわからなかったし信じたくもない。
もちろん、その関係の仕方にもよるけど。
待って、よくよく考えてみると、ここ最近⋯⋯ヌルヌルした魔物ばかり、必要以上に狩っていた気がする。
なんとなくだけど。
でも、こういう時って素直に知らないっていった方がいいよね。
「うーん。じいちゃん、ごめん。考えてもわからないや」
だけど、どうやら正解じゃないみたいだ。
じいちゃんは「ぐぬぬぬ」と言いながら、ペリドットフロッグを抱きかかえると、今度は腰に付けていた採取用の小さな袋から、何かを取り出した。
「で、では、こっちはどうじゃ?」
その手には、また見慣れた物が握られている。
鮮やかな緑色をした葉っぱが特徴の一般的に薬草と呼ばれる回復草だ。
傷ができたりした時に、すり潰して塗ると、自然治癒力を高めてくれる。
うん。これも最近よく採取していた。
でも、そんな物を今更出されてもどう反応していいかわからない。
意図があるはずなんだけど……。
その手に持っている回復草については、特に嫌な思い出はないし、気分が下がることもない。
だけど、じいちゃんに抱きかかえられているペリドットフロッグが気分を下げてくる。
「もちろん、回復草は知ってるよ? でも、その……」
「そんな嫌そうな顔をするでない! このペリドットフロッグと回復草を一定量冒険者ギルドへ納める事が冒険者として登録できる唯一の方法じゃ」
じいちゃんは、これ見よがしに回復草とヌルヌルした緑色の魔物を僕に近づけてくる。
「えぇぇぇえっー!? そんなの一言も聞いてないよ!」
「いや、そらそうじゃろ! 今日初めて言ったんじゃし」
「言ったんじゃしって……もっと早く言ってよー! 僕はただ、お金がないからよくわからない魔物狩ってると思ってたんだよ? だから……色々と我慢してたのに……」
だから、あの美味しくないの権化も仕方なく食べてきたんだよ?
冒険者として登録できるということは、心の底から嬉しいし何だったらそこまで考えてくれていたことには、とても感謝している。
いるけど、それならもっと早く言ってくれていたらこんな複雑な気持ちを抱かずに済んだはずだ。
……どうしてくれようか、この気持ち。
もういっそのこと抱えている不平不満をぶち撒けて年相応に振る舞うことか?
もういやだ。
肝心なことはなんにも言わない。
じいちゃんなんて嫌いだ。
とか言ってその場で寝転んで駄々を捏ねてみるとか。
でもな……そんなことが通じるなら、こんなことになってないわけだし……。
問い詰めるのはやめよう。
だけど、どうやら不平不満が顔に滲み出ていたようで、じいちゃんが珍しく頭を下げてきた。
「うむ……そこはすまん! じゃが金がないのは事実じゃし、金の為に行っていたのも事実じゃ!」
「……やっぱりお金はないんだね」
本当にないなら仕方ないよね。
もしお金があって(魔物や薬草の納品で)割高の物でもこっそり買っていたら許せないと怒るつもりでいたけど。
「じゃあ……仕方ないよね」
「そ、そんな落ち込まんでいいじゃろうて……」
じいちゃんは肩を落としている。
「ううん、落ち込んではいないよ……ただ受け入れるのに時間が掛かっただけだよ」
そうなんだ。
決して落ち込んでいるわけじゃなくて。
ただ、世知辛い世の中を噛み締めているだけ……お金はそう簡単に増えはしない。
そういえば、”勇者の彼方”で描かれている勇者一行もお金には苦労したと書かれていた。
物語として語り継がれるほどのパーティがお金に困るんだ。
もしかしたら冒険者なら、誰もが通る道なのかも知れない。
よし、決めた。飲み込もう。
すると、じいちゃんが突如、その手に持っていた魔物を放り投げた。
そして、その大きな筋骨隆々の巨体をくねらせて溜息をつく僕に何かを見せてきた。
顎に蓄えられた白い髭も風でなびく。
「じゃーん! ほれ! 見るがよい!」
じいちゃんは、その手に持っていた僕の名前”リズ”と魔力属性が刻まれた白銀のプレートを前に出してきた。
首からさげられるようにチェーンもついている。
「なにそれ?」
「あ、そうじゃった! 言っておらんかったな! これは冒険者の証じゃ! しかもお主のな」
「え、えっ、いつの間に!?」
「ほれ、お主が薬草を採っている時とか、ペリドットフロッグを獲るのに躍起になっている時じゃ」
確かに、今思い出すとじいちゃんが突然いなくなる時が何度もあった気がする。
あれは――僕らがリターニア西部にいた時のこと。




