シトリンゴートの串焼き
「――これがシトリンゴートの特徴じゃな」
シトリンゴートの説明を終えたじいちゃんは満足げな顔で顎に蓄えた髭を触っている。
なんでも勿体ぶる癖があるというか、聞かないと教えてくれないというか……なんていうか、本当……じいちゃんらしい。
それはそれとして、これで点と点が繋がった。
つなぎ姿で、掘ったり削ったりする道具を持った人たち。
きっと、彼らはこの町のもう一つの特産品である岩塩を採りに来ているということに。
よくよく大通りを歩く人たちの会話に耳を傾けてみると、「あそこ山より奥の方がいい」や「力任せにしたら大きな結晶が採れない」など岩塩を採取しに来ているような話をしている。
「お主のことじゃ、どうせまーたなんか考えておるんじゃろう? 例えばあのつなぎを着た者たちは一体、何をしに来たんじゃろうとか? それにおおよその見当はついておるのじゃろう。違うか?」
「えっ!? またなんでわかったの?」
「ふふ、やはりか! それは……内緒じゃ!」
「な、内緒なの? またなんで?」
「ガハハハッ! それはな、紳士の嗜みじゃー!」
「え、じいちゃんが紳士……?」
冗談はその大きな体と態度だけにしてほしい。
じいちゃん基準が紳士なら、この世界から大多数の紳士が消えてしまう。
「なんじゃ、その目は……ワシが紳士じゃなかったら、誰が紳士なんじゃ?」
「う、うん…………」
「……ま、なんじゃ。つなぎ姿の者たちは、お主が考えておるように、裏の山で岩塩を採る為、出稼ぎに来ておる者たちじゃな……うん」
僕の考えていることを当てたじいちゃんは、自分のことを紳士と言った時に微妙なリアクションをしたのを気にしているようだ。
それこそ言葉には出さないが、その背中から溢れていた覇気が、明らかに弱くなっている。
これじゃあどっちが大人なんだか……。
そんなよくわからないやり取りを繰り返していると大通りを通り抜け、僕らは屋台のある通りに着いた。
そこは、さすが名物と言われるだけあって、僕らの前以外にもシトリンゴートの屋台が犇めいていた。
店舗ごとに工夫を凝らした宣伝文句の書かれた看板が置かれているし、どのお店にも人が列を成している。
早速、僕とじいちゃんも獣人の人たちの後ろに並んだ。
それもじいちゃん曰く一番、美味しいという屋台の列にだ。
列が前に進むたび、辺りに立ち込める匂いが強くなっていき、鼻から頭に直接刺さる感じがする。
すると「グォォォォオン……」という魔物が威嚇するような聞き覚えのある轟音が響いた。
列に並んでいる獣人たちもそのあまりにも大きな音に驚き僕らの方に振り返る。
その直後――。
横に居たじいちゃんと頭を掻きながら笑い始めた。
「すまん! ワシじゃ!」
やっぱりじいちゃんだ。
腹の虫がデカい。圧倒的に。
じいちゃんと同じく全く空気の読めないお腹の虫。
自然と獣人たちの視線も僕らに向く。
耳も、顔の中心も熱い……というか、ありえないくらい恥ずかしい。
せめて並ぶ前であって欲しかった。
でも、そんな僕とは違い、隣に居るじいちゃんは顔見知りでもない獣人の人たちに「ワシの腹の虫は世界一じゃからな!」など自慢をしている始末だ。
またこれが少し受けてしまったので、尚更、恥ずかしいし、真正面からじいちゃんを注意することもできない。
こんな恥ずかしい思いをしながら待っているとようやく僕らの順番が回ってきた。
☆☆☆
香ばしい匂いと煙が立ちこめる屋台に立っているおじさんは、僕とじいちゃんの姿を見ると注文を聞いてきた。
「らっしゃい! いくつで?」
「二つ頼む」
「はいよー! 200ペルになります」
じいちゃんは指を二本立てと注文し、おじさんは慣れた手付きでお金を受け取るとシトリンゴートを焼き始めた。
それにしても安い。
いや、安過ぎるくらいだ。
じいちゃんがこの町に入った理由がわかった。
行商人から干し肉を買うだけでも、500ペルはくだらないのだ。
あんなに固くてお世辞にも美味しいとは言えないというのに……。
どちらを選ぶかと聞かれるまでもなく、誰だってこちらを選ぶだろう。
とにかく、これなら気兼ねなく食べられる。
「はいよ、どうぞ!」
「おお! これじゃこれ!」
じいちゃんはおじさんから焼き立てのシトリンゴートの串焼きを二串受け取ると僕に一串くれた。
「ほれ、先に食べてみぃ!」
クシャッとした、この顔……僕の感想を期待している。
あんまりせがまられると気乗りしないんだけど……。
でも、すごく美味しそう!
焼けた肉の匂いに、滴る脂。
旅の中で食べたことない肉だ。
「じ、じゃあ……いただきます!」
絶対に美味しいであろう未知の肉とじいちゃんの期待の眼差しを受けながら、口に運ぶ。
それを確認したじいちゃんも続いて大きく口を開けて頬張った。
「ふふっ、どうじゃ? うまいじゃろ?」
「う、うん、おいしい……」
これは、この食べ物は口に入れた瞬間に理解した。
これが本当に美味しい物だということを――。
確かに薬草のような独特な香りはある。
だけど、身は肉肉しくて、噛めば噛むほどに味が出てくる。
また振りかけた岩塩のおかげで、元々甘い脂身がより一層甘く感じてジューシーだ。
僕の感想を聞いたじいちゃんは、まるで自分が作ったかのような笑顔を浮かべていた。
「口に合ってよかったわい! まっ、ワシの選んだ店だから当然なんじゃが♪」
☆☆☆
――それからしばらくして、腹ごしらえを終えた僕らは先程の草原にポツンと佇む木陰へと戻って来ていた。
スレイプニルにもお腹いっぱいになるまで、草を食べたのだろう。
僕らが戻って来ても見向きもせず横になっている。
というよりは、じいちゃんに無反応といった感じだ。
僕が近付くと、真っ直ぐに見つめてくる。
そして、まるで帰りを待っていたかのように「ブルルッ」と鳴くと立ち上がり体を擦り寄せてきた。
「ただいま、スレイプニル! 大丈夫だった?」
「ブルルッ!」
スレイプニルは、僕の言葉に大きな星空のような瞳を瞬きさせて応じてくる。
やっぱりとっても賢い馬だ。
その様子を見たじいちゃんが、頭を掻きながらと本音をこぼした。
「まったく――。これじゃ、どちらが主人かわからんのう……」
じいちゃんの言葉にまるで返事をするように、彼はふさふさのしっぽをゆさゆさと揺らしている。
きっとスレイプニルは、僕らの会話をわかっているのだろう。
なぜそう思うかは、いつも品定めするように僕らを見つめてくるから。
それは僕らだけでなく、自分に触れる全ての人に対してだ。
実際、気難しい性格らしく、じいちゃん以外の人がその背に跨ったのを見たことがないし、他人に興味を持つこともない。
そんなスレイプニルを見てじいちゃんは髭を触りながら溜息をついていた。
「ふぅ……まぁ、よいか」
そして、今度は僕の方を見て話し始めた。




