東側
正面広場から城へと続く緩やかな弧を描く大階段の両脇には左右対称に整えられた庭園が広がり、王城の威容を引き立てていた。正面の庭園は、王城の壮麗な姿を余すことなく見渡せるよう、高木はほとんど植えられていない。低く刈り込まれた植え込みと色とりどりの花壇に芝生が美しく調和し、視線を遮るものはない。
(ここでは隠れられないわね)
木陰すらほとんど存在しない庭園では、人の姿へ戻ればすぐに見つかってしまう。
ヴィクトリアは早々に見切りをつけ、翼の向きを変えて王城の東側へ飛んだ。
そこには、午後の陽光が心地よく降り注ぐ芝生の広場が設けられていた。白い円卓と優雅な椅子がいくつも並び、淡いクリーム色のパラソルが風に揺れている。
王族や貴族がお茶会を楽しむための庭園なのだろう。つい先ほどまで誰かが過ごしていたのか、ティーカップや食器が片付けられないまま残されていた。
さらに奥へ目を向けると、大きなガラス張りの温室が陽光を受けてきらきらと輝いている。
ヴィクトリアはそっと温室の屋根へ降り立ち、中を覗き込んだ。
天井から降り注ぐ陽光に、水を浴びた花々の葉は光の粒を纏って揺れている。色鮮やかな花々は四季を忘れたように咲き誇り、競うように花弁を広げていた。
中央には白い大理石で造られた噴水があり、透き通った水が静かな音を立てながら幾筋もの弧を描いて落ちていく。そのせせらぎに誘われるように、温室で飼われている小鳥たちが枝から枝へと飛び移っている。
噴水のそばにはいくつものベンチが置かれており、温室に招かれた貴族たちはきっとここで紅茶を楽しみ、季節を問わず花を愛でながら優雅なひとときを過ごしているのだろう。
そんなベンチの一角に、若い男女が人目を避けるように互いを抱き寄せ合っていた。肩が触れ合うほど近い距離に、今にも口づけを交わしそうな空気が漂っていた。
ヴィクトリアは慌てて視線を逸らし、羽を大きく広げてその場を飛び去る。
(…見てはいけないものを見てしまったわ)
ほんの一瞬しか見ていないが、それでも男性が身に着けていた衣服は、ひと目で上質と分かる仕立てだった。対して女性は侍女の装い。
身分違いの恋なのか、それとも誰にも知られてはならない秘密の逢瀬なのか。真実は分からないが、どちらにせよ自分が踏み込むべきではない世界だったことだけは理解できた。
(人目につかない場所だからこそ、ああいう人たちも集まるのね)
潜伏するには申し分ない場所だったが、夕方以降も同じような逢瀬を求める者が現れないとは限らない。もし人の姿へ戻ったところを見られたら終わりだ。
ヴィクトリアは温室を候補から外し、再び大空へと舞い上がった。




