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屋烏の愛  作者: 又一
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回想

語り終えた頃には、馬車はすでに王都の通りをいくつも抜けていた。周囲は賑やかな大通りを離れ、タウンハウスが密集する一角へと移り変わっている。


「えーーーっっ!!!」


そんな外の閑静な住宅地とは対照的に、馬車の中にはダニエルの盛大な叫び声が響き渡っていた。


ダニエルは、話の最中からずっと何か言いたそうにしていた。口を開きかけては閉じ、表情を変え、また飲み込む。驚き、困惑、理解、そしてまた混乱、まるで百面相のように、次々と感情を切り替えていた。それでも話を遮ることはせず、最後まで聞き切った上で、ついに堪えきれなくなったように、感情を爆発させたのだ。


「ちょ、ちょっと待って…!」


ダニエルは額に手を当て、頭を押さえるようにする。理解が追いついていないのは明らかだった。


「レオンハルト殿下と、アイゼンシュタイン公爵家ご子息のクラウスさんと会ったの…!?」


言葉を探すように、途切れ途切れに続ける。


「しかも…【亡霊のヴィクトリア】って名乗ったなんて…」


そのまま言葉を失い、ダニエルは信じられないものを見るような目でヴィクトリアを見つめた。ダニエルは完全に混乱しているようだった。いくら舞踏会中とはいえ、ほんの少し離れていただけのはずが、その間に起きた出来事があまりにも濃密すぎたのである。


「あのクラウスって人、公爵家のご子息だったのね」


ようやく合点がいったという様子のヴィクトリアは、

冷静な一言を返すが、ダニエルの顔色はさらに悪くなる。


「し、知らなかったんだね…」


ダニエルはどこか力の抜けた声で、返事をする。


だが、無理もなかった。

ヴィクトリアはこの三百年の間、社交の場に出ることもなく、外の情報とは隔絶された生活を送ってきた。貴族事情など、知る機会がなかったのも当然だった。レオンハルトのことですら、今日初めて王太子だと認識したほどだ。仮面で隠れていたせいで顔もちゃんとは確認していない。


「ええ、でもおかげでだいぶ核心へと迫ることができた気がするわ」


ヴィクトリアは落ち着いた声で言い切る。

ダニエルはしばらく何も言えずにいたが、やがて大きく息を吐いた。


「たった一日で…信じられない」


半ば呆れたように、しかしどこか感心したように呟く。ダニエルの言葉を聞いたヴィクトリアは、わずかに視線を逸らし、ふと何かを思い出したように呟く。


「ああ、そうだわ」


ヴィクトリアは何の躊躇いもなく胸元へと手を差し入れる。するりと取り出されたのは丁寧に折り畳まれた一通の手紙。そのまま自然な所作で、ヴィクトリアはそれをダニエルへ差し出す。


「これがさっき話した小道具に使った手紙よ」


ヴィクトリアはほんのわずかに口元を緩める。


「ダニエル、あなたに渡すために書いたものよ」


ダニエルは一瞬だけ、その手紙を見つめたまま動かなかった。ダニエルの頭の中で、先ほどまでの話が繋がる。シュヴァルツ家の紋章が今でも使われている証拠として提示された手紙の正体が、まさか自分への手紙だったとは思わなかったらしい。だが、やがてゆっくりと手を伸ばし手紙を受け取った。


「ありがとう、僕のためにわざわざ書いてくれたんだね」


ダニエルは素直にお礼を告げた。その言葉には、飾り気のない喜びが滲んでいた。同時に、手紙を受け取った瞬間、手紙を持つ指先にほんのりとした温もりを感じた。先ほどヴィクトリアはどこから手紙を取り出したのか、その理由に気づいた瞬間、ダニエルはわずかに息を詰めた。


「…っ!!」


ダニエルは息を詰め、遅れて顔にじわじわと熱が上がる。頬が赤く染まり、視線が落ち着かなく揺れ、手紙を持つ指先もわずかに震えていた。


「…どうかしたの?」


ヴィクトリアは不思議そうに首を傾げる。


「い、いや!なんでもないよ…!」


ダニエルは慌てて首を振る。

声がわずかに上ずるのを、自分でも自覚しているのか、誤魔化すように小さく咳払いをひとつ。それでも落ち着かない様子のまま、手紙へと視線を落とす。


「…あとで、ゆっくり読むね!」


そう言って、封を切ることはせず、手紙を大切そうにジャケットの内ポケットへとしまい込んだ。まるで壊れ物でも扱うかのような、慎重な手つきで、心から大事にしているのが伝わってきた。

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