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71. 上級ダンジョンは簡単でない その3

「それでトモエ、あの黒いのって何だったの?」


 とある砂浜にて、メイはトモエに謎の物体の正体について質問する。


「あれは風呂場で集めたみんなの体毛だよ」

『きゃああああああああ!』


 自分達の体毛が世界を滅ぼすきっかけとなった、ことはどうでも良い。


「なんてことするのよ!」

「ううう、恥ずかしいです」

「お嫁にいけないぞー!」


 顔を真っ赤にしてソルテに抗議する三人。

 自らのあれやそれやの毛が収集されていたこと。

 そしてそれが使われたことに対する羞恥心で頭がいっぱいだったのだ。


 年頃の女の子なのだから当然の事であろう。


「むごい……」


 近くで話を聞いていたポンコツ女神が顔を蒼くしていた。


「おいコラ、手を休めるな」

「ううう、なんで私がー!」

「お前の担当だろうが!」

「うわああああああああん!」


 ここは神の世界。

 メイはセーラ達を連れてここまで避難してきたのだった。


 現在異世界は神の手によって修復中。

 それまでの間、メイ達はここで余暇を過ごしたのであった。


「よーし、だれが一番早くあそこまで泳げるか競争だ!」

『おー!』

「私も遊びたーい!」

「集中しろおおおおおおおお!」


――――――――


 そんなこんなで何事も無かったかのように世界は元に戻り、メイ達は第九層に突入した。

 今回の件についてメイ達は特に悪い事をしたわけではないため、事故扱いでお咎めなし。

 そのまま継続してダンジョン攻略を続けている。


「この流れなら次は私なのは分かっていたけど、そうきたかぁ」

「よろしくお願いします」


 メイが戦うべき相手は、良く知る相手だった。


「最悪の展開だから」

「失礼ですね」


 これまで何度もぶつかって煽り合って来た相手、メグ。

 彼女を打ち倒さなければ先へは進めない。


「でも良いの?私は神様すら凌駕する力を持ってるから。メグじゃあ止められないんじゃない?」

「ご安心を。私もあなたの力に匹敵するものを準備しましたから」

「?」


 ふと、メイは何か違和感を覚えた。

 何処となく気持ち悪い感覚。


 だがその理由が分からない。


「(何だろう……何かが、違う)」


 気にはなるけれども、今はメグを倒すことを考えるのが先決だ。

 メイと同等の力を得たとなると侮れない。


「(とりあえず守り重視で状況を見よう)」


 ひとまず力を込めた防壁を自らの前に出現させた。


「準備できたようですね。それでは行きます」

「?」


 再度違和感を覚えたメイだったが、それは驚きと共にすぐに忘れてしまった。


「え、きゃああああああああ!」


 見えない力の壁に向かってメグは真っ向から体当たりした。するとなんと軽々と壁をぶち破った上にメイに勢い良くぶつかって来たのだ。メイはあまりの威力で吹き飛ばされて床をバウンドする。


『メイ!(ママ!)』


 メイは力がなければひ弱な女の子。

 これで勝負が決まってもおかしくはない。


「っくうう、大丈夫……っぽい」


 ゆっくりだけれどもよろりと立ち上がる。

 体をスムーズに動かせないのでダメージを負っているのだろうが、特に動かせない部位があるわけでは無かった。


「メイ、回復します!」

「いらない」

「え?」

「大丈夫、信じて」


 メイにだってプライドがある。

 仲間達は自分で考えて工夫して課題をクリアしてきたのだ。

 ここでセーラに回復してもらって戦うなど、自分が仲間達よりも劣っていると言っているようなもの。


「この程度の危機くらい、すぐに乗り越えて見せるから」


 メイの雰囲気が真剣なものに変化し、きつい眼差しでメグを睨んでいる。


「今度はこっちの番だから!」


 メイお得意の拳型の力でメグを遠距離から殴りつけようとする。


「遅い」


 だがメグはそれを難なく躱す。

 メイよりも圧倒的に優れた身体能力を持っているメグ。見えないはずの力もどうやら見えているらしく、攻撃を避けるなど容易なことであった。


「これならどう!」


 それならばと今度はメグの周囲に見えない壁を複数配置し、避けにくいようにすることで攻撃を当てようとする。


「無駄ですね」


 しかしそれでもメグは空いている僅かな隙間を把握し、メイの拳を的確に回避する。


「こんなことしなくてもこれで良いのですけれどもね」


 更には配置した壁を壊して避けて見せることで、メイの攻撃は全く意味をなさないのだと主張した。


「(私の力をあんなに簡単に壊すとか反則じゃない?)」


 唯一のメリットを軽々と打ち砕かれたことでメイは内心大いに焦り出していた。

 攻撃が全く効かず防壁も効果が無いとなれば、攻撃されたらその時点でゲームオーバーになるかもしれないのだ。


「今度はこちらから行きますね」

「!」


 そしてついにメグが二度目の攻撃を仕掛けて来た。

 メイの抵抗は無意味だとでも言わんばかりに、一直線にメイの元へと走り寄る。


「今度は突破させない!」


 メイは右腕を前に突き出して再度防壁を作るが、またしても一瞬で打ち破られて肉薄される。

 そのままメグは突き出された右腕を左手で掴み、右手でメイを殴ろうと振りかぶる。


「それはどうかな」

「?」


 メイが不敵な笑みを浮かべたことをメグは気にはなったが、そのままメイの額を打ち抜いた。


「……硬い」


 メイは吹き飛ばされること無く真正面からメグの拳を受け止めた。


「これはそう簡単には突破できないから」


 メイの体を良く見ると、体全体が力で覆われていた。


「対メグ用の力の薄い膜だから。私の全力の守りを壊せるならやってみて!」


 メイにとってメグの馬鹿力は脅威である。

 初めて会った日に右手を掴まれてナイフを手の甲に刺されたのは忌々しい想い出だ。


 メグとは煽り合う仲だった。

 それゆえ本気でバトルする展開になることも想定し、対メグ用の守備としてこの力の張り方を長い間練習していた。メイが使える力の中で最も防御力を高められる方法であり、それが今のメグの攻撃をどうにか食い止めたのだ。


「むぅ……」

「うっ……こ、壊させないから!」


 メグは左手に力を込めて掴んだ部分を握りつぶそうとする。

 神の理すら凌駕する力による全力の防御が破壊されそうになるものの、メイはさらに集中力を高めて強度を上昇させる。


『はぁああああああああ!』


 右腕と左手。

 お互いがそこに最大限の力を集中させての動きのない攻防が続く。


「ふぅ、仕方ないですね。仕切り直しです」


 諦めたのはメグの方だった。

 腕を離して一旦メイと距離を取る。


「女神すらぶん殴れたこの力を凌駕するとか、ジーマノイドのあなたが神を超えようとしているけど大丈夫?」


 今のメグが持っている力は、メイの力を打ち破るべく神が与えたのだろう。

 だがそれはメイの神に届きうる力を凌駕する力。

 つまりメグもまた神に一撃を与えることが出来る存在になったのだ。


 神に作られた者が神に反逆できるようになったことは問題では無いのかとメイは問うた。


「ご安心を。これはあなたの力に対抗するためだけの力ですから、反逆など出来ません。仮に出来たとしてもやる必要性を感じられませんが」


 メグの力は神様には届かず、あくまでもメイの力への特効能力を持っているだけらしい。


「ああ、そっか。分かったから」


 メイにとって最悪の力の筈なのだが、メイの反応は淡白だった。

 まるでその回答内容にはまったく興味を持っていないかのようである。


「それでは、別の方法で攻めさせて頂きます」


 メグは少し思案してから、メイに向かって新たに何かを仕掛けようとする。


「その前にちょっと良いかな」


 だがそれをメイが言葉で止めた。


「何でしょうか。時間稼ぎでしたら無意味ですよ」

「そういうんじゃないから。ただね、聞きたいことがあるんだ」


 メイから先程高めていた闘気が消えていた。

 本来であればここから更にテンションを上げて激しいバトルをする流れのはず。


 それなのに、メイからは戦おうという雰囲気が消え去っていたのだ。


 メグは眉を(しか)め、そのことを不思議に思いながら続きを待つ。




「あなた、誰?」




 その質問を受けてメグの体からも闘気が徐々に薄れて行く。


「質問の意図が分かりかねます。私はあなたの担当の」

「だから違うんだって。メグはそんな風に答えないから。絶対に『その歳で痴呆ですか?』とか煽って来るから」


 メグの回答を遮り、メイはやや苛立ちを交えながら言葉を紡ぐ。


「あなたはメグとは全く違う」


 メイはこの戦いの最中に感じていた違和感を一つ一つ挙げる。


「まずメグなら最初に私を吹っ飛ばした時に『ざまぁ』とか言いながら確実に追撃して来るから」

「確かに言いそうですね」


 セーラがメイの言葉に納得の意を示した。

 そのシーンがありありと思い浮かんだのだろう。


「次に私が『薄い膜』で防御したって言った時、メグなら『卑猥ですね。破って良いのですか?』って絶対に煽って来るから」

「エロエロだぞー」


 メイは敢えて煽りやすい表現をすることで、メグがどのように返して来るのか試したのだった。だがメグは煽ることはおろか、普通に返答したのだ。


「そしてジーマノイドが神を超えるのかって聞いたら怒って舌打ちするから」

「『チイッ』ってやつだよね!やりそうやりそう!」


 ソルテは一緒に働いていたジーマノイド達が女神を心から慕い、ジーマノイドとしての誇りを抱いていたことを知っている。そんな彼女達が神を超えるだのと言われて感情が揺さぶられないのはおかしい。メイの感覚に完全同意であった。


「ここは貴方にとっての試練の場。普段のおふざけを止めただけの事ですよ」


 だがメグはそれらの普段の態度は敢えて捨てたのだと弁明した。

 今は真面目モードであるから普段と違うように見えるのだと。


「いいえ、あなたは偽物だから。本物のメグではありえない」

「どうしてそう思われるのですか?」

「あなたに感情が無いから!」

「……」


 感情。

 メグは自分の事をロボットのようなものだと言っていた。

 だがその感情豊かな在り方は何処からどう見ても人間であった。

 別れの日、メグはメイから『心』を頂いたと告げた。そしてそれは本心であっただろうとメイは信じている。


「あなたはメグとは違う。ただ設定された言葉だけを口にする見た目が人っぽいだけのロボット。あなたからはメグが持っていた『人としての温もり』を全く感じられない。あなたが否定しようとも、私はそう断言できるから!」

「……」


 メイは怒っていた。


 傍から見るとメイとメグは煽り合っていて仲が悪かったように見えたかもしれない。

 だがメイにとっては違った。

 メイにとってメグは、素直な気持ちを曝け出してふざけ合える友達のような感覚だったのだ。


「…………合格です」

「え?」


 そのメイの怒りを全く気にせず、偽メグは戦闘態勢を解き、『合格』を口にした。


「この階の真のルールは、私が偽物であることに気が付くこと、です」

「……ああ、そういう」


 身体能力がメイよりも遥かに高く、能力の面でも同等のものが付与されたジーマノイドを打ち倒せ。そんな条件は流石に無茶があるというもの。


 隠されていた本来のルールはメグが偽物であると見破ることだった。


 それゆえ、激しい攻撃で即座にメイを戦闘不能には追い込まずに、考える時間を与えていたのだった。


「それでは次の階へお進みください」

「やだ」

「え?」


 試練を突破して次へ進んで良いとの偽メグの言葉をメイは即答で否定した。


「まだ終わって無いから。みんな、やるよ!」

「はい」

「やるぞー」

「わーい」

「え?え?」


 繰り返すが、メイは怒っている。

 メグとの思い出を汚されたような気分になり、怒っているのだ。


 そんなメイがこのまま偽メグを放置するわけが無いのである。


「全力でやるよ。トラップも使って良いから」

「え?ちょっと待っ……いや、いや、いやああああああああ!」


 メイ一行の歓待フルコースを受けた偽メグは、この時初めて感情が芽生えた、のかもしれない。


――――――――


「さーって、ついに次でラストだから!」

「ついにここまで来ましたね」

「ドキドキするぞ」

「何がくるかなー」


 試練の難易度は徐々に上がっている。

 また、最後の試練を突破すれば別れが待っている。


 だがメイ一行に悲壮感などなく、全員で試練に挑戦しているという楽しさの方が打ち勝っていた。

 ゆえに、変に焦らすことも無く、むしろ早く次の試練を楽しみたいという想い故、休みもほどほどで最下層に足を踏み入れた。









「よし、私諦めて帰るから」


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