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32. 初級ダンジョンに挑戦せざるを得ない 後編

 ソルティーユの調合は、本人ですら何が起きるか分からない。

 謎のニトロ薬剤を必ず入れるため高確率で大爆発が起きるのだが、その内容は多種多様。

 周囲一帯を焦土と化す場合もあるし、小さな音が出るのみの場合もあり、特定の方向に爆発のエネルギーが進むケースもある。


 毎日の研究で作り上げた『ニトロの相方』を惜しげもなくつぎ込み反応を楽しむソルティーユと、爆発から皆の身を守り続けるメイ。


 精神を大幅にすり減らすことになったけれども、その甲斐あってかメイの力でソルティーユの爆発から身を守れる可能性が高いことが判明した。可能性が高い、と確定では無いのは二層で体験した以上の威力が発動した場合にどうなるか不明であるからだ。


『耐久力抜群!ボスモンスターを撃破せよ!』


 パズル&ボムの二層を突破したメイ一行は初級ダンジョンの最下層へとたどり着く。

 予想していた通りにそこはボス部屋で、ここでも親切な説明が壁に書かれていた。


「ぐへへへ」

「ふふ、分かってたよメグ。この流れは絶対こうなるだろうって」


 第一層はトモエ。

 第二層はソルティーユ。

 第三層はセーラ。


 彼女たちを思う存分暴れさせてメイを困らせるのがこのダンジョンのコンセプトだ。


「初心者ダンジョンとは違って手が込んでるぞ」


 最下層は一層や二層とは違って初心者ダンジョンのように体育館程度の広さに狭まっている。ただし、初心者ダンジョンは飾りつけも何も無い味気ない風景だったのに比べ、初級ダンジョンでは意匠を凝らした柱が何本も立っており、壁や地面や天井にも神殿風の装飾がなされている。奥には祭壇のようなものもある。


「セーラ云々は別としても、普通に強そうなボスが出てきそう」

「でも今のままで倒せるってことだよね」


 入場時のアイテム補助が無く、道中にもパワーアップするためのモノが無い。ということは、現時点でもなんとかなる相手が出てくるはずだ。


「ソルテの言う通りなんだけど、私たちって案外攻守のバランス取れてるから、多少強い相手でも補助アイテムもらえないような気がしてきた」


 そうなのだ。

 超威力の爆発攻撃が可能なソルテ。

 幅広く攻防が可能なメイ。

 予想外のトラップを避けられる(避けるとは言ってない)トモエ。

 そして強力な回復が出来るセーラ。


 パーティーとしてのバランスがとれているため、初級程度の相手ならば特に補給は必要無いと判断されてもおかしくない。


「このレベルならセーラに攻撃が届きにくいってことだぞ」


 そこが生命線。だがセーラを自由にすると敵が回復してしまう。

 この問題をどう解決すれば良いか。


「来るよ」


 部屋に入るとお約束。

 中央に魔法陣が発生し、ボスが登場する。


 ズゥン、と振動が足元に伝わる。

 咆哮はない。


「ゴーレムか。なるほどね」


 人型ゴーレム。

 金属で作られた体長三メートルほどの巨人がメイたちを迎え撃つ。


「悪いけどセーラの出番は無いよ!ソルテ全力でやっちゃって!」

「おまかせあれ!ニトロ・ガルーダ!」


 ソルテの両手から放たれた薬剤が混ざり合い、ゴーレムは竜巻の形をした爆発に巻き込まれる。


「防御が楽で攻撃の威力も高そう。ラッキーかな」


 多少硬い程度のボスならば、軽く消滅するだろう。


 竜巻は十秒程度ゴーレムを蹂躙したのち、消えて無くなる。


 そうして残されたのは……


「嘘!」


 全身がボロボロに壊れかけながらも、辛うじて消滅を免れたゴーレムの姿だった。


「(そのゴーレムは、全損時に体力が一だけ残るようになっております)」

「うざいやつだ」


 自分たちが持っていれば安心できるスキルであるが、敵が持っていると倒すのが面倒になる厄介なスキルだ。


「あ、しまった!」

「ぐへへへ、フルヒール!」


 トドメの一撃をすぐに決めれば良かったものの、ツッコミをしたせいで出遅れてしまった。


「全快……想像はしてたけど、なっかなかにハードな心境だから」

「とりあえずMeが動けなくしておくぞ」

「うん、ありがとう」


 動きが遅そうなので防御はそれほど気にしなくても良さそうだが、念のためトモエが罠魔法により小さな落とし穴を作り、動きを封じる。


「よし、もう一回ソルテお願いっ!」

「何回も頼られて最高だよ!ニトロ・メガロボム!」


 今度はゴーレムを中心に半球状の爆発フィールドが形成される。

 フィールド外に影響は無いため、薬剤を投げるために敵の近くに居たソルテを力で範囲外に引き寄せれば、防御は不要だ。

 ゴーレムは超高熱の爆発に晒されており、威力も申し分ない。これも守りが不要な当たりの範囲だろう。


「この後どうすれば良いか分からないぞ。Meの罠魔法だとダメージを与えられそうにないぞ」


 爆発が終わった後、セーラのフルヒールよりも先にゴーレムに一ダメージを与えなければならない。

 トモエの罠魔法を使えば最速で攻撃が可能だが、威力が弱くゴーレムにダメージが通るか分からない。メイの力を使っても、攻撃が届くよりも先にセーラに回復される可能性の方が高そうだ。


 距離問わず無詠唱で即全快とか、卑怯だ。


「こうするのよ!」


 爆発が終わりそうなタイミングを見計らって、遠距離からギャグ力の巨大パンチを相手に放つ。それが敵に着弾するのは見届けずに、すぐさま振り返り回復される前に……





 ちゅっ




「ぐへ……ふぉおおおお!」

「セーラお姉ちゃん、えへへ」

「ふぁああああ!」


 他のことに気を取らせてしまえば良いのだ。

 頬へのキスと、上目遣いでの甘えたお姉ちゃん呼び。

 メイ大好きセーラがこれに勝てるわけが無い!


 想定通りセーラはその場で狂喜乱舞の舞を踊りだし、メイのギャグ力がボロボロのゴーレムに直撃する。


「これでクリアだ!」







「(体力が一になった後、十回だけ攻撃に耐えますので)」




「メグうううううううううううううう!」

「フルヒール!ぐへへへうひゃひゃひゃ!」




--------




「か、勝った……」

「天国れすぅ」


 精神的に疲弊し過ぎて勝利の余韻に浸ることも出来ずにへたり込むメイと、幸せの絶頂によりへたり込むセーラ。背中合わせで座る二人の表情は対照的だった。


「なんとか倒せたぞ」

「おくすり補充しないと」


 セーラの回復をサポートしてメイの邪魔をしようというメグの悪意の塊のようなゴーレムに対して取ろうとした戦法は、初心者ダンジョンのやり方を踏襲したものだ。


 つまり、ギリギリまでダメージを与えてから回復した方が気持ち良いとセーラに言い聞かせることで、残り一回のダメージまでは我慢させる。そして最後の一回のタイミングで、先ほどのようにセーラの気を逸らせて倒せばよい。


 だがこれには大きな問題があった。


 ソルティーユの薬剤に限りがあるため、何回もチャレンジすることが難しいのである。しかも切れたら調達に時間がかかるということで、初級世界で待ち時間が発生してしまう。それでは急いでここに来た意味が無くなってしまうのだ。


 ダメージソースはメイの力かソルティーユの錬金術。

 トモエは低いダメージを手数で補う盗賊タイプなので、硬い相手とは相性が悪く、落とし穴などを活用した足止め係。

 メイの攻撃中はセーラが放置になり、途中で我慢できなくなった時の対処が遅れる可能性が高い。

 ソルティーユが攻撃すると、その威力が高すぎるためソルティーユを力で守る必要があるが、守りに注力し過ぎるとこれまたセーラを放置してしまう。


 セーラの暴走を止めながら攻撃を十回近くも継続するためには、攻撃とセーラ封じを同時に進行し続けなければならず、とてもめんどくさいのだ。


 しかも、薬剤に限りがあるから失敗は出来ない。


「九回目あたりで『お姉ちゃんの雄姿を見せてあげる』って言われた時は慌てたよ」

「アレは終わったと思ったぞ」

「ママが体を張ってくれたから……」


 ナニをしたのかはご想像にお任せします。


「あはは、でもあそこはソルテもファインプレーだったよ。よくあそこで前方に爆発するタイプの錬金術を使ってくれたね。知ってる組み合わせ使ってくれて助かった」

「ソルテは新しい組み合わせにしか興味が無いのかと思ってたぞ」

「あれしか残って無かったら仕方なかったんだもん」

「おうふ、それもまた偶然かい。でもそのおかげでセーラを止めるのに集中できたんだから、よしとすっか」

「ぐへへへ」


 攻撃したり守ったりセーラを止めたりと慌ただしい勝負をなんとか乗り越えることが出来たメイ一行。疲れ果ててはいるが、これにて初級ダンジョン完全制覇だ。


「よし、さっさと先に進んでベッドで休もう」


 祭壇らしき場所の先に、新たな扉が出現していた。

 まだ混乱しているセーラを雑にひっぱりながら扉を開けて進むと、そこは見慣れたエスカレーター

 これを登れば中級世界だ。


「ほら、セーラ起きて!」


 パンっと乾いた音が鳴り響く程度にはきつめのビンタで気付けをする。

 神の理を貫通させて軽い痛みを感じさせることくらい、今のメイなら朝飯前だ。


「いったぁい。酷いです」

「いつまでも呆けてるからだよ」

「幸せでした」

「まったく。これから私たちは中級世界へ行くけど、セーラはどうする?」


 初級世界とお別れする時が来た。


「どうするとは?」

「一緒に来るの?」

「当然です。何故今更?」

「今更って……本当に大丈夫なの?」

「はい、当たり前じゃないですか」


 何かを取り繕っているような感じも、嘘をついている気配もない。メイと一緒に中級世界へ移動することに何も問題は無いと感じているようだ。


「(私が気にしすぎだったのかな。あー見えて、覚悟は終わってたんだ)」


 そこまで断言するなら、とメイはセーラの手を取りエスカレーターへと足を踏み出す。




 長い長いエスカレーターを登り終えたその先に待っていたのは……







「待ってたわ!メイ。ようやく捕まえたわよ!」







 腰に手を当ててメイを待ち構えていたウェザーだった。


「へ!?」


「それじゃあMeは即売会に申し込んでくるぞ」


「は!?」


「早く攻略出来たからこれなら間に合うんだぞ」


「ほ!?」


「わたくしも、お父様やお母様にクリアの報告をしてきます」


「ふぁああああ!」


 ここに来てメイは気付いた。


 急いで初級ダンジョンをクリアしたことは無駄だったことに。


 初級世界と中級世界で行き来が出来ないと思い込んでいたのが間違いだったことに。


「ママ、よちよち」

「もういやああああ!」


確認は大事。


ということで、これにて初級世界の章(セーラの章)は終了となります。

あれ?セーラについてほとんど掘り下げてないぞ。まいっか(考えてない)


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