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31. 初級ダンジョンに挑戦せざるを得ない 中編

「走れええええ!」


 ゴロンゴロンと転がる巨大な土の球から逃げるメイ一行。

 典型的なトラップだけど、逃げる判断があまりにも遅くない限りは走って曲がり角まで逃げ切れるようになっている。

 土で出来ているので力業で破壊することも可能であるし、防御力を高めて敢えて潰されるのもあり。壁によじ登って避けても良いし、無事に切り抜ける方法は多い。

 仮に無策で踏み潰されたとしても、球体の中は空洞になっているためそこそこ軽く、致命傷とはなりにくくなっている。


 この緩さが、初級ダンジョンでは死ににくい、ということなのだろう。


「はぁっ、はぁっ、ふふふ、絶対このトラップあると思ってたから」


 脇道に入り、球が遠くに転がり去る音を聞きながら壁に寄りかかって息を整える。


「はぁっ、はぁっ、お、こんなところにも罠があるぞ、ポチっとな」

「おいこらぶぎゃっ!」


 すぐ近くの壁に怪しいボタンを発見したトモエが何のためらいも無くボタンを押すと、メイが寄りかかっていた壁から赤い巨大なパンチグローブが飛び出し、メイは反対側の壁に押し潰された。


「えーあー」

「お任せください!ヒール!」

「ふへぇ、動けるようになった。というか、なんで毎回毎回私ばかり被害受けるのよ!」


 トモエがトラップを発動させ、メイが受け、セーラが回復する。

 ダンジョン『一層』探索中に、何故かこのパターンが連続している。


「トモエ狙ってるでしょ!?」

「そんなことないぞ。罠の起動場所は分かるけど、どんな罠が発動するか分からないぞ」

「トモエが自分で罠にかかるのも好きだって言うから先頭を歩かせてるのにぃ!」

「そうだけど、メイがかかるのが面白くてつい狙ってしまったぞ」

「今狙ってるって言った!やっぱり分かっててやってたんじゃない!」

「あ、やば」

「こらー!逃げるなー!」


 トラップだらけの迷路の中を逃げるトモエだが、当然これもフリだ。


「また踏んじゃったぞ」

「!?」


 怒って追ってくるメイの足元が突然消失し、落下する。


 二メートル程の落とし穴だ。


「落とし穴きたぞおおおお!」


 落とし穴大好きなトモエが大喜びするが、不思議と落とし穴の中を確認するために近づこうとしない。

 近づいたらメイのギャグ力で引きずり込まれるから、ではない。その後に起きることが分かっていたからだ。


「案外浅くて助かったぁ。念のため全身を力で覆ったけど、要らなかったかな」


 何が起きるか分からなかったため、足元が消えた瞬間に咄嗟にギャグ力で全身防御をしたのだ。


「落ちるだけのトラップで良かった。この高さなら簡単に戻れ……ふぎゃっ」


 力を使って自分の体を持ち上げようとしたとき、天井から大量の液体が降ってくる。

 さらに、目の前が坂道となり歩いて脱出できるようになる。


 歩ければ、だが。


「ローション坂道だとおお!?」

「ぐへへへ」

「はっ、悪寒がする」


 掴むところが無い坂道。

 普通に歩こうとすればローション塗れの体が滑ってしまい、すぐに穴に戻されてしまう。


「ぬおおおお、ぎゃああああ!」


 体を力で覆っていたのが幸いして体や服は無事であるが、力の周囲にローションがまとわりついてしまい、結局滑ってしまう。


「あ、あと少っ……いやああああ!」


 くるくる回転しながら落下する。

 スカートがめくれあがってけしからんことになっているが、この場にはセーラたちしか居ないため気にしていない。


「うーん、エロいぞ」

「良い風景です」

「ママがんばれー」


「お前らも落としてやるぅうううう!」


 力を使って引きずり込もうとするが、見えないはずの力を何故か避ける三人。


「これであのローションが服を溶かせば完璧だったぞ」

「おいこらあああ!」

「(その手がありましたか)」

「今の誰だああああ!」


 ボイスチェンジャーを使ったような変な声が聞こえて来たが気にしてはならない。


 数十分間、坂道からの脱出を試みたが失敗。

 冷静になったメイは当初のやり方通りに真上にジャンプして、坂になっていない後ろに脱出すれば良いことに気付いたのであった。

 なお、脱出後に穴もローションも消えてしまい、三人を落とすことは出来なかったとさ。


「もうこんなトラップばかりの迷路やだああああ!」


 嫌だ嫌だと叫ぶけれども、ダンジョン一層の探索を決断したのはメイだ。


 入り口間近に二層への下り階段を発見したメイは、まずそれが罠である可能性を考えた。

 トモエに確認してもらったところ、階段自体に罠は仕掛けられていないが、降りた先に何があるかは分からないとのこと。

 少し考えた結果、他の下り階段や宝箱の存在を考え、リスクを承知で先に一層を探索することに決めた。


 トラップがメインとのことなので、先頭はトモエ。セーラは回復役でメイが近くで力を使って常に防御。ソルティーユは安全な後方でマッピング。これがメイの考えた分担だ。

 最悪セーラさえ魔法が使える状態であればなんとかなるだろうという判断で、転移系のトラップがあった場合に備えてメイがセーラの間近で守り続ける。


 セーラ役得である。


 それなのに的確にメイだけが罠の被害を受け続ける理不尽さに我慢の限界が近づいていた。


 幸運にも、他の限界に先に到達してしまったが。


「ママ、マッピング完了したよ」


 orz


 結局一層には宝箱も他の階段も存在せず、罠だけが存在する迷路だった。


--------


 『押して引いてパズルを解け!時には力業も必要だよ』


 二層はこれまたダンジョンあるあるの倉庫番タイプの謎解きだ。


 狭い通路に置かれた大きな石を対応する色のスイッチのある場所まで動かすと、先への扉が開く形式になっている。


「なるほど、アイテムの支給が無い意味が分かったから」


 メイたちがダンジョンに突入したとき、防具や回復アイテムといった支給品は得られなかった。

 ダンジョン一層はすぐに下るだけ、二層はパズル系、三層は不明だけれど、恐らく今のメイたちの装備で十分ということなのだろう。


「パズルやってみたい人―」

「ママ、ママ、やってみたい!」

「ソルテがやる気になるなんて珍しい。パズルとか面倒くさいって言うかと思った」

「こういうの結構好き」


 ソルティーユは体を動かすことが苦手であるが、頭を使うことは好きなのである。


「んじゃソルテが指示して」


 入り口に上から俯瞰して見た図があるので、それを元にソルテが石の移動を指示する。自分の背丈以上の立方体の石だけれども、強い力を入れずとも簡単に動くため、力作業と言うほどではない。


 パズルの難易度は高くは無く、一つ二つとサクサククリアする。


 そして三つ目のパズルを解読する際、それは起こった。


「あのスイッチ押すには、この壁が邪魔だなぁ」


 ソルテが言うには、ある石の移動途中に不自然な壁があって通れないとのこと。どうしてもその場所を避けることが出来ないので、その壁に何か無いか調べることにした。


「う~ん、この壁は……ってそういうことだよね」

「わたくしもそう思います」

「どかーんだぞ」


 その壁が他の壁と明らかに違う点。それは露骨なまでに大量のひび割れがあることだ。


 『時には力業も必要だよ』というのは、壊す壁があるという意味になる。


「よし、私に任せて」


 ギャグ力を恒例の拳型にして、思いっきり殴る。


「あれ、変だな」


 拳は壁に当たったはずなのにびくともしない。というより、途中で何かに弾き返されたような感触があり、当たった音もしなかった。


 コンコン


「直接なら触れるんだけどなぁ。体当たりとか?」


 力任せに破壊しようとするが、小さなメイだけではびくともしない。 


「Meもやるぞ」

「わたくしもやります」


 せーので一斉に体当たりするものの、壁に衝撃を与えた感触がしない。


「壊すための方法があるってことなのかな」


 破壊するためのギミックやアイテムがあるのかもしれない。


「ソルテー!これ壊れそうに無いんだけど、上から見て何かヒントないー?」

「うーん、ヒント?」


 第三のパズルの入り口で指示を出していたソルティーユは、俯瞰図を色々な角度から眺めてみるものの、特に怪しい点は見つからない。

 もしかしたらこれまでクリアした第一、第二のパズルに実はヒントがあるのかもしれない。

 そう思い別の俯瞰図を取り出そうとしたとき、ソルティーユ達の耳に声が聞こえて来た。


「(……使うのです……あなたの好きな……アレを使うのです)」

「今そっちにいくー!」

「来るなああああ!」


 敢えてメイの耳にも聞こえるようにするあたり、声の主は嫌らしい。


「ソルテが来る前に私が壊す。おりゃりゃりゃりゃりゃー!」


 全滅確定ボムを使われる前に、強引にでも自力で突破しなければ。

 神の理さえも貫通するメイの本気の力であれば、この程度の壁を壊すこともきっと可能だ。


「(ルールに従ってください。ルールに従ってください。ルールに従ってください)」


 警告など知ったこっちゃない。

 むしろ声の主が焦ってる感じがするので、正解かもしれないぞ。

 

「(このままだと手違いでメイの家族のスマホにあの写真が届くかもしれません)」

「おいコラああああ!お前メグだろおおおお!」


 メイの弱点を的確に着いた鬼畜っぷり。

 さすメグだ。


「おまたせ」

「待ってないから!その手に持つものをしまええええ!」


 すでに両手に試験管を持ちスタンバっているソルティーユ。

 (すべての)爆破まで秒読みだ。


「いっくよー!」

「逃げろおおおお!」


 ダッシュでその場から離れるメイ、セーラ、トモエ。

 少しでも爆心地から離れて生存確率を上げなければ。


「ですがメイ。ソルテはどうするのですかっ!」

「このままだとソルテだけ死んじゃうぞ!」

「何言ってるの!自分でやろうとしてるんだから、助かる方法くらい考えてあるでしょ!」


 でなければ、ただの自爆死だ。

 ソルティーユがそんな馬鹿なことをする真似が……


『本当に?』


 ありそう!


「ああもう、なんでこうなっちゃうのよーー!」


 大慌てで踵を返し、ソルティーユの元へ戻るメイ。


「今回はこれ、ニトロ・ブレイクスルー!」


 二つの試験管が宙を舞い、錬金術の力でそれらが自動的に混ざり合い効果を発揮する。


 その寸前、メイはソルティーユの元へ辿り着き地面に押し倒し、力を使って全力で防御する。


 直後、強烈な光が発生し、とてつもない熱量の塊が……




 前方に向かって突き抜けた。




「……大丈夫、だったの?」


 大丈夫も何も、エネルギーはソルティーユ側に全く来なかったのだ。


「ママ痛いよぉ」

「あ、ごめんごめん……ってそうじゃない!ソルテ分かってたの!?爆発がこっちにこないって」


 だから余裕で立っていたのか。

 ちゃんとソルティーユは自分が安全であることを理解したうえで攻撃していたのか。


「偶然だよ」


 そんなことは無かった。


「こんの馬鹿ああああ!」


 ここでぎゅっと抱き締めてしまうから、三人の好感度が爆上げしてしまうことに気付かないメイである。









「次のパズルは壁の破壊が二回だね」

「もうやだああああ!」


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