30. 初級ダンジョンに挑戦せざるを得ない 前編
「お世話になりました」
「いつでも帰って来なさい。ここはもうメイの家なのだから」
「突然呼び捨てにしないで。娘になってないから。私の家じゃないから」
「あらまぁメイったら照れちゃって」
「照れてないから!ナチュラルに娘扱いしようとすんな!」
「お父様、お母様、メイは寂しいのを我慢してこんな態度に……」
「あるぇ?おっかしいなぁ、話通じてないんだけど。あ、いつものことかぁ」
それなら自分もいつものようにオチを決めて良いかなと、右腕をぐるんぐるん前後に回してみる。
「冗談はさておき、ダンジョンに挑戦するならまずは武器を調達しなさい。ダンジョンの入り口近くに武器庫があるはずだ」
「ここにも武器庫があるのですか?」
「ああ、出来れば時間をかけて自分に合う武器を見つけられれば良いのだが……」
メイが初級ダンジョンへの挑戦を決めた後、すぐさまセーラたちにその旨を伝えた。それも急ぎクリアしたい、と。急ぐ理由は秘密にしていたが、三人とも着いてくると即答した。
「その辺りは何とかなると思います。私の最大の武器は能力の方ですから」
「ははっ、確かにそれは『チート』レベルの力だもんな。心配ないか」
色々な人をぶん殴ったりぶん殴ったりぶん殴ったりしているうちに、ギャグ力の使い方にもかなり慣れて来た。下手に武器を装備するよりは、この力を活用する方が安全に違いない。
「それではそろそろ失礼します」
「うむ、冗談抜きに、本当にいつでも来なさい。歓迎するよ」
「ありがとうございます。セーラはお別れの挨拶は良いの?」
「ふふ、大丈夫です」
「本当に?ダンジョンクリアしたら中級世界に移動しちゃうんだよ?」
「ええ、大丈夫ですよ?」
家族との別れ。
それもメイが急かしたせいで突然の別れになるはずだ。
セーラもセーラ両親も、そのことを悲しんでいる様子も強がっている様子も見られない。
「(もしかしてダンジョンをクリア出来ないと思われてるのかな。悔しいけど、その可能性が高いから反論できないけど)」
クリアなど出来るわけが無いから、別れを惜しむ必要などない。
その考えを察したメイは、なんとしてもクリアしてやろうとやる気が増大した。
「トモエもごめんね、もっと絵を描いていたかっただろうに」
「気にしなくて良いぞ。むしろ、どんなトラップがあるのかワクワクが止まらないんだぞ」
「あはは……お手柔らかにね」
気を使ってる風ではあるが、このまま絵を描かれて困るのはメイだったりする。
「ソルテもついてくるのが意外だったかな」
「ママについて行きたい」
「ぐっ……そ、そう」
スラム街での一件で弱みを握られてから、メイはママ呼びを少しは我慢するように譲歩していた。連呼されたら変わらずぶん殴るが。
「よし、出発!」
『おー』
長らく滞在していたセーラ邸を後にし、初級ダンジョンへと向かう三人であった。
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初級ダンジョンの入り口は、初級世界の中央にあるドーム状の建物。
役所などの重要な建物が中央付近に固まって存在している。
「ついにこの建物に入る時が来ちゃったかぁ」
出来れば他の人たちと、あるいはソロで挑戦したかった。
「ぐへへへ、楽しみです」
「トラップトラップ~」
「薬品は全部あるね」
「(……地獄だ)」
ゲームオーバーを覚悟せざるを得ない。
「そういえば、今回は防具の貸し出し無いのかな」
初心者ダンジョンでは防具は不要だと言って貸し出しは無かった。
初級世界で貸し出しがあれば見に行くつもりだ。
現在の四人の装備。
セーラは家族から貰ったローブと杖。
トモエはノースリーブにハーフパンツで露出過多だけど、身軽さで避けるタイプなのでそれで良いそうだ。武器は短剣。
ソルテは愛用の白衣で、もちろん内側には多数の薬品が仕込まれている。
メイはギャグ力を攻防両面で活用する。念のためナイフを装備。
ソルテの白衣など防御力に不安があるので、今の服装に合うものがあれば、装備しておきたかった。
「あのお姉さんに聞いてみるぞ」
ドームの中に入ると、案内をしてくれるカウンターがあったので、そこに立っている女性に色々と聞いてみることにした。
「あのーすみません」
「はい、何でしょう」
「初級ダンジョンに挑戦しようと思っているのですが、色々と教えてください」
「分かりました」
笑顔でハキハキと答えてくれる感じの良いお姉さんだ。メグだったら煽り合いで話が進まなくなるので良かったと思うメイである。
「武器みたいに防具の貸し出しってあります?」
「貸し出しは無いのですが、必要であればダンジョン突入後に自動的に入手できる仕組みになっております」
「自動的に入手?」
「はい、武器以外のもの、例えばアイテム、防具、食料などは全て必要な分が自動で計算されて皆様のお手元に届くようになっております。ダンジョンは入る人によって内容が全く異なりますので、その内容に応じた必要な物資が最初から提供されます」
「なるほど、ダンジョンの内容が決まって無いから何を持ち込んで良いか分からない。そのフォローとしてオススメアイテムが事前に配られるってことか。やっぱり難易度温めなのかな」
初心者ダンジョンがバカにしているような内容だったため、初級ダンジョンも大して変わらない可能性があると考えていた。
「いえいえ、簡単ではありませんよ。配られる物資はあくまでも最低限になります。ダンジョン内でアイテムを入手できる場合はそれを見越して配られるアイテムが少なくなりますし、ヒーラーが同行する場合は回復アイテムが配られずヒーラーが魔法を使えなくなった場合の対処が出来ない可能性もございます」
「おお、割とまともだった」
この世界に来てから手厚い保証だらけだったので、危険性を説明されるのが新鮮だ。
メイは改めて気を引き締めなければと真剣な表情になる。
「回復アイテムはダンジョンの外で手に入りますか?」
ダンジョンアタックするならば回復アイテムや特殊効果のあるアクセサリーなどを持ち込みたいが、街中では冒険者向けの店舗を見かけなかった。
「手に入りません。ダンジョン内で入手してください。また、入手したものはそのパーティーでしか使用できません。ダンジョン外で他の方に渡しても使用できませんのでご注意ください」
「だから街中でダンジョンっぽいモノを見かけなかったのかぁ」
「ダンジョンからは気軽に戻って来れますので、無茶はせずに少しずつ攻略してアイテムを入手するなどして経験を積むことをオススメします」
普通ならばそうやってトライ&エラーで少しずつダンジョン攻略を進めるべきである。だが、メイには時間が無い。即売会の存在をトモエに知られる前に中級世界へ移動したいのだ。
「気をつけるよ」
「本当に気をつけてくださいね。初級ダンジョンで死亡することは余程のことが無ければございませんが、それでもあり得ることですから」
「……うん、気をつける」
ダンジョンそのものよりも、味方に殺される可能性の方が高いのだが。
「あと、ダンジョン挑戦はみなさまご一緒ですか?」
「うん」
「パーティー登録がまだでしたら、こちらで実施いたしますがいかが致しますか?」
「登録が必要なの?」
「必須ではございませんが、しておくと便利ですのでオススメします。パーティーを範囲とした回復アイテムですとか、はぐれたパーティーメンバーの位置が分かるアイテムなど、パーティーを対象とした効果のある魔法やアイテムがございますので」
「うぐぐ……」
せっかく解除したのに、ここでまたパーティー申請が必要なのは予想外だった。
「セーラってパーティー全体を回復する魔法とか使える?」
「はい!使えます!」
となると、安全のためにはパーティー申請は必須である。悔しい。
「じゃあ、お願いしま……す」
苦渋の決断だった。
「はぁ……それじゃあそろそろ行くから。みんなは他に確認することある?」
ぶんぶんと首を振る三人。
特に質問は無いようだ。
これで準備が整った。
さっそく初級ダンジョンへ突入だ。
「それでは、あちらの転移ゲートへお進みください」
指示された方向に進むと、四本の柱で囲まれた四畳半くらいのスペースに行き止まる。床全面に描かれている幾何学模様と、柱の派手な植物の装飾。それらがほんのりと緑色に仄めいており、『本格的』な雰囲気が漂っている。
「それでは、ダンジョン攻略をどうぞお楽しみくださいませ」
ジーマノイドの女性の合図と共に辺りが濃い緑色に染まり、メイたちは初級ダンジョン内部へと突入した。
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『数多くのトラップを潜り抜け、迷路を攻略せよ!モンスターは出ないよ』
転移されたメイたちの目の前には、ダンジョンの簡単な説明が書かれた壁があった。
「終わった……」
膝立ちからの orz
ポンコツ女神の前で披露した、最も美しさに自信のある orz が炸裂する。
「綺麗です……」
「綺麗だぞ……」
「しゅごい」
女神すら魅了するその技に、三人も目が釘付けだ。
「ってそうじゃなくて、トラップだトラップだやったぞーー!」
初級ダンジョン最初のフロアは、トモエのために用意されたかのような絶望的なフロアだった。
大はしゃぎで跳ねまくって喜んでいる。
「くっそおおおお!」
対照的に orz のポーズのまま悔しさを募らせるメイだった。
「わたくしも少し悔しいですわ」
「ソウデスネー」
モンスターが居ないということは、エンドレスヒールをする機会が無いということだ。
ベクトルの全く違う悔しさを表明され、感情が消えそうになりながらも立ち上がるメイ。
「はぁ……まぁトラップありは想定内だったし、それが多めになっただけだと思って我慢しよう」
メイにとって救いだったのは『初級者ダンジョンでは簡単に死ぬことは無い』と事前に伝えられていたことだ。例えトモエがトラップを発動させても、対処方法が最悪でなければ乗り切ることが出来るはず。
「(いくらトモエだって、自分が死ぬレベルのトラップをまともに喰らわないでしょ。仮に喰らったとしても私たちだけでも逃げる心構えでいること。決してトモエを助けてはならない。だってそれが本望だろうから)」
つい最近、自分の甘さを羞恥させられたので、それによって全滅することだけは避けると心に誓うメイ。
「(あれ、本望なら本気で放置で良いのでは)」
そして気付いてしまった。トモエをダンジョン内で葬る正当な理由に。
本人が望む結末なら、少なくともトモエ自身の無事は本気で気にする必要が無いということに。
「よし、なんかやる気出てきた。行くか!」
「行っくぞー!」
ご機嫌なトモエの声を聞きながら周囲を確認する。
左右は壁で後ろが入口になっている。
木製の壁、土の地面、上を見上げれば抜けるような青空。
洞窟や地下ダンジョン的な迷路では無く、テーマパークにあるような巨大迷路。
それがダンジョン一層の仕掛け。
右手の法則を使うべきか。
途中でチェックポイント的な場所があるのか。
壁を越えたりぶち抜いたり地面を掘って潜って進むのはアリなのか。
迷路ならではの様々なアイデアが普段のメイだったらすぐに思い浮かんだはず。
だがメイはそれが出来ない。
メイだけではなく、他の三人も言葉が出ない。
「おい……」
入り口のすぐ先の光景を見て、呆然としてしまったのだ。
左右と正面へと分岐する迷路のスタート地点。
その正面に驚くべきものが設置されていたからだ。
『二層入口↓』




