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33. 中級世界最初の朝もスッキリしない

「グルルルル」


 地の底まで響きそうな低い唸り声が洞窟内に響き渡る。

 体を丸めて顔を地面につけて休んでいたソレは、つい先ほど体を起こし、侵入者を観察している。

 闇雲に威嚇するわけでは無く、魂すら射抜くような厳しい眼差しを向けて相手の実力を測ろうとする姿からは高い知性を伺わせる。


「やはり居たわね。ドラゴン!」


 西洋竜。


 四つ足でしっかりと大地を踏みしめ立ち上がったドラゴンは、当然のことながら鋭い爪と硬い鱗がデフォルト装備だ。ただし、背に翼は無いため飛ぶことは無いだろう。

 地竜か、火竜か。陸戦タイプのドラゴンが最後の関門として少女たちの前に立ちふさがる。


「悪しきドラゴンは正義の魔法少女によって倒されると決まってるのよ!」


 番人をしているだけのドラゴンを悪竜扱いする魔法少女の名は、ウェザー

 仲間と共に願いを叶えるために、上級ダンジョンの最奥までたどり着いたのだ。


「さあみんな、行くわよ!」


 ウェザーの掛け声と共に『魔法少女的な服装の少女たち』が散開する。


「ファイ……キューティクル・レッド・シャワー!」


 炎の魔法、ファイアー

 まずは属性魔法を使ってドラゴンの弱点を探ろうとする。


 だが、ウェザーの指示により魔法名はキュンキュンさせなければならない。

 間違ってファイアーなどと言うものなら、戦闘を中断させてでも魔法少女の在り方についてというご高説を何時間も聞かされる羽目になるのだ。


 慣れた少女に照れなどない。

 ただ、心を無にするのみだ。


「火も水も風も土も効かないのね。それなら私の魔法ならどう?」


 属性魔法、などと武骨な言葉は使わない。

 火や水と何が違うのか分からないけど、ウェザーの魔法少女感では違うのだ。


「プリティ・ラブ・アターック!」


 ウェザーの十八番。

 高く飛びあがってから斜めに降りる飛び蹴りだ。


 それまでどれだけの魔法攻撃を浴びても痛そうなそぶりを見せなかったドラゴンだが、この飛び蹴りを頭に喰らうと大ダメージを受けた。


「グオオオオ!」


 そして、それまでは寄ってくる羽虫を振り払うかの緩慢な動きだったドラゴンが、ウェザーを明確に敵と認識して襲い掛かる。


「はああああっ!」


 ウェザーはそのことごとくを拳で受け止……え、受け止めちゃった。

 ドラゴンも驚いてるんだけど。


「ふん、この程度なら私の魔法でなんとかなるわね」


 否、断じてそれは魔法では無い。

 昨今の魔法少女は肉弾戦が激しいと言っても、魔法では無いのだ。

 肉体強化を魔法少女の魔法と言ってはならない。


 が、そんな指摘をしようものなら、涙目での終わらない説教がはじまるので、誰もツッコムことが出来ないのだ。


「えいっ!」


 ドラゴンの右足による爪撃を今度は両手で受け止める。


「グ……グル!?」


 掴まれた足を動かすことが出来ず、ドラゴンが慌て出す。


「はああああっ!プリティー・メイク・スロー!」

「グギャアアっ!」


 なんとウェザー、そのままドラゴンを持ち上げ、グルグル回転させて投げ飛ばした。

 仲間たちが回転に巻き込まれて吹き飛ばされている。いつもの光景だ。


「グオオオオ!」


 壁に衝突したドラゴンはパワーの差という現実を受け入れる冷静さがあった。

 パワーでダメなら、他で攻撃すれば良い。


 大きく息を吸い込み、ウェザーに向かって発射する。


「ブオオオオ!」


 灼熱の炎。

 このドラゴンは火竜であった。


 その炎は人間程度なら簡単に焼き尽くせるほどの威力がある。

 気合で守り切れるかどうかウェザーは一瞬迷ってしまい、退避の判断が遅れてしまった。

 もう逃げるのは間に合わない。


「プリティ・フレンズ・バリア!」


 そこに颯爽とやって来た少女が、炎を阻む壁を作る。


「助かったわ、メイ」

「無事で良かった、ウェザー」


 ウェザーの危機一髪を救ったのはメイだった。


「あなたが来てくれたなら百人力だわ。一緒にあのドラゴンを倒しましょう」

「ええ、私達が一緒なら怖いものは何も無いわ」


 否、ウェザーの危機を救ったのは、ノリノリで魔法少女を演じているメイだった。


「私が来たからには、ウェザーには指一本触れさせないわ」

「私たちの愛と正義と友情の力を見せてあげる」


 背中合わせになり、使わないステッキをドラゴンに突き付けてポーズを取る。


 何かを悟ったような表情に変わったドラゴンが、二人に向かって突進する。

 それをジャンプして避けたウェザーは肉体言語で、メイはギャグ力を使ってドラゴンに殴る蹴るのダメージを与えて行く。


 強固な鱗があるはずなのに、着実にダメージが加算されて弱まっていくドラゴン。


「グ……グルル」


 ウェザーのアッパーが決まりドラゴンが大きくよろめき、前足から地面に崩れ落ちる。


「今よ!」


 大技のチャンスだ。


 二人は再び近づき、今度は正面から向き合う。

 両手を合わせ、両指を絡め合い、おでこをくっつけて、目を閉じ、力を共鳴させて高めるフリをする。


「メイ、ここまで来てくれてありがとう」

「ううん、お礼を言うのは私の方だよ」

『ふふっ』


 目を開けてお互い視線を合わせ、これ以上の言葉はいらない、と言う体で片側だけ手を放し、ドラゴンの方を向く。


「これでまた一歩、夢に近づく!」

「大切な人を守るために!」


 脈絡も無くなんとなくそれっぽい言葉を叫び、恋人繋ぎしている手をドラゴンの方に向けて構える。


『プリティ・ミラクル・レインボー!』


 繋いだ両手を起点に七色に彩られた光がドラゴンを襲う。

 そしてその光の流れに乗って、メイ&ウェザーがドラゴンに向かって突撃する。


「グオオオオ!」


 強大な力を浴びたドラゴンが光になって消滅する。

 その最後の表情は『なぁに、これ』とでも言いたそうだった。


「やった、やったわ!メイ」

「うん、やったね、ウェザー」


 強敵を撃破し、ほろりと涙を流しながら抱き合うメイとウェザー

 その茶番を遠目に見ながら喜んでいる多くの魔法少女たち。


「やった!これで解放される!」

「うわあああん、長かったよおおお!」

「帰ったら私、アンチ魔法少女になるんだ」


 願いが叶うことよりも、ウェザーとの関係が切れることに大喜びしているのだ。

 彼女たちが何故、願いを叶えずに帰らなかったのかは分からない。

 だた一つ言えること、それは彼女たちの願いが、ウェザーの望みが自分たちに関係していた場合に無関係にしてもらうこと、である。


「さあ、メイ、行きましょう」

「うん」


 願いを叶えてもらうために恋人繋ぎのままで仲良く奥に進もうとしたその時。




 足元が消失した。




『うわああああ!』


 その場の全員が落下するほどの巨大な穴。

 その穴は滑り台になっていて、長く長く滑り落ちたその結果……


『スタート地点』


 上級ダンジョンのスタート地点に戻されていた。


「あははは、最高のトラップだぞ。こういうの一度やってみたかったんだぞ」




--------




「うわああああああああ!」


 勢い良く体を起こす。心臓が激しく脈動し、全身が汗でぐっしょりだ。


「はぁっ……はぁっ……ゆ、夢?」


 そこは上級ダンジョンの洞窟内でも入り口でも無く、宿のベッドの上。

 もちろんまわりにウェザーをはじめとした魔法少女軍団がいるわけでもない。


「な、なんつー夢だあああ!あいつ呪いでもかけたんじゃないよね!」


 トモエが仕掛けたトラップによりラスボスを倒した直後にスタート地点に戻される。

 それも恐ろしいが、何よりも恐ろしかったのが、ノリノリでウェザーのパートナーを演じていたことだ。


「ありえないありえないありえない。絶対ありえない」


 実は心の底で望んでいたことではないのか、などと言ったら本気で怒るだろう。

 あまりの不快感さで全身が鳥肌MAXなので、心底嫌なことが強制的に実現されてしまうタイプの悪夢だったのだ。


「お風呂入ってこよ……」


 気持ち悪い汗を流すために宿のお風呂に向かおうとベッドから降りようとした時、両側に人が寝ていることを思い出した。


「まったく、人がうなされてたってのに気持ち良く寝ちゃって」


 そんな悪態をつきながらも、優し気に二人の頭を撫でてあげる。


「そういえば今日は珍しくセーラが居ないんだった」


 初級ダンジョンのクリア報告のため、セーラは両親の元へと戻っている。

 『すぐに帰ってきます!いやむしろ手紙だけでも!』などと言ってたので、必ず戻って少なくとも一晩は両親と一緒に居るように厳命しておいた。

 メイが一緒に戻って来なくてセーラ両親が悲しんだのは気にしてはいけない。


「トモエもソルテも、見た目は全然違うのに、なんとなく雰囲気が種ちゃんずに似てるんだよなぁ」


 高橋たかはし菜種なたね

 高橋家の四女にして双子の姉。小学六年生。元気一杯で体を動かすのが大好きで、複数のクラブを掛け持ちして助っ人として活躍している。みんなが笑えるようないたずらが大好きで、菜種のクラスは笑いが絶えない明るいクラスだ。だがそのいたずらが家族には通じず、日々改良中。


 高橋たかはし種美たねみ

 高橋家の五女にして双子の妹。小学六年生。菜種とは対照的にノンアクティブ派。ただし、行動することそのものは苦手では無い。興味のあることにのめり込む研究肌だが、興味のある内容がマニアック。クラスではプチ不思議ちゃんとして扱われている。


 二人合わせて種ちゃんず、である。


「甘えられてる感じがするからかな」


 二人とも、タイプは違えども甘えて心から寄りかかって来ているようにメイは感じていた。それが心地良くもあり、無下に突き放せない理由でもあるのだが。


 双子の妹は、トモエやセーラとは違ってもっと露骨に甘えてきて、全力で甘やかして答えてあげているのだが、この二人も家族だったら遠慮なくそうして来たかもしれない。


「家族……か」


 ホームシックになってきた、わけではない。

 むしろ、家族のことが大好きなメイが何故これまで全くホームシックにならないのか自分でも不思議であった。おそらくその理由の一つとして、セーラたちの雰囲気が家族に似ている点があるのだろう。


「うし、それじゃお風呂に行こっかな」


 起こすのも悪いと思い、二人をそのままにベッドから出たメイは、窓の外をちらりと見てから風呂場へと向かう。


 窓の外では、上から見ると円形状の巨大な建物、コロシアムが存在感を放っていた。


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