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25. 扉の先の真実はいつも一つではない 後編

「このままでは神に目をつけられます。そうなる前にお逃げください」

「どういうこと?」

「あなたが撃退した者達は神の遣いの者です。彼らの邪魔をしたことで、この世界の調和を乱すものとしてあなた方が排除される可能性があります。『外』に帰り、我々のことは忘れて元々の生活にお戻り下さい。決して神を刺激してはなりませぬ」

「そんなこと出来るわけがないから!」


 ここに滞在し続けることが危険だということは分かる。

 だからといって、目の前で苦しんでいる人を放って逃げた上に忘れろだなんて、出来るわけがない。仮に言われる通り帰ったとしても、絶対に忘れることなど出来ないし、ここが気になって楽しい生活も送れない。 


「いいえ、メイ。ここは一旦帰るべきです」

「セーラ!?」


 信じられないという表情になるメイだったが、すぐにその意図を理解することが出来た。メイは空気が読めない子じゃないのだ。


「ごめんなさい、焦ってたから。確かにここは帰ってから作戦を練り直すべきだね」


 状況を把握できないまま、無理矢理ここに滞在し続けて神に排除されるのは愚策だ。それよりも安全な『外』の世界に戻って、神を刺激しないように注意しながら作戦を練るべきだ。


「でもどうやって帰れば良いか分からないぞ」

「そこの大通りを右側にまっすぐ街はずれまで進むと、枯れた小さな噴水があります。『外』の方でしたら、その噴水に入ることで自動的に戻れるはずです」


 そしてまた来る場合は、墓地で恥ずかしいセリフを叫べば良い。


「最後に一つだけ教えてください」

「なんでしょう」

「ここは何なのですか?」


 最初は特殊なイベント用のスペースなのかと思っていた。

 しかし、捕らえた男が言うには、このスラム街は神が用意したとのこと。

 一体神は何のためにこんな場所を用意したのか。


「……ここは、神に騙されし者が堕とされる絶望の街。人々が快楽に酔いしれる様を神が堪能するために造られたのが『外』の世界。人々が絶望に嘆き苦しむ様を神が堪能するために造られたのがこの街です」

「神に騙されし?」

「『外』の世界に戻ったら、ダンジョンには絶対に近づかないことをお勧めします。幸せな毎日を永遠にお過ごしください」

「どういうこと?」


 神の騙しとダンジョンがどう繋がっているのか。

 一体どこに神の『嘘』があるというのか。




「ダンジョンで死を迎えた人間は、元の世界に戻らずここに堕とされます」

「え?」


 


 それが神の『嘘』

 あまりにも大きすぎる『嘘』だった。


「やっぱり……やっぱり騙されてたのか!」


 召喚された時から、どこかしら怪しいとずっと疑っていた。

 でも遊び尽くす毎日を堪能するうちに、その疑念は頭の片隅へと追いやられていった。


 疑いを強めていれば、もっと早くこの事実に気付けたかもしれないのに。


 後悔の気持ちがメイの胸を締め付ける。




「ダンジョンを最後までクリアして願いを叶えた場合もまた、ここに来るそうです。私は脱落組なので、それが事実なのかは分かりませんが」

「詰んでるじゃない!」


 幸福も絶望も、どちらも味あわせる世界。

 それらに振り回され、感情豊かに行動する人間を見て神が愉悦に浸るための箱庭。


 それがこの世界の真実だった。


「さあ、お逃げください。その男はそこらにでも縛り付けて置いておくと良いでしょう。神が連れ戻しに来るはずですので、その時にあなたたちが傍に居るのは危険です」


 それでは神父たちが危険では無いか、とは言わない。

 それを承知でメイたちに道を示してくれていることが分かるからだ。

 今自分たちがやるべきことは、一刻も早く詰んだ状況をひっくり返すための策を練ることだ。


「神父さん、ありがとう」


 後ろ髪を引かれる想いであったが、振り返ってはならない。

 真実を知ったからには、簡単に排除されるわけにはいかないのだ。


「そうだ、ソルテは知ってたの?」


 枯れた噴水に向かって走りながら、世界の真実について知っていたのかをソルテに確認する。

 元ジーマノイドへの詰問、ではなく単純に情報を仕入れたかっただけだ。


「全く知らないよ」

「そうなの?」

「私たち、というかジーマノイドって、何でも知ってるわけじゃないんだ。分からないことがあったら、毎回教えてもらうの」

「教えてもらう?誰に?」

「誰にっていうか、情報置き場みたいなのがあって、そこにピピっとつながるともらえるの」

「中央サーバに情報が溜められていて、そこにアクセスして必要な情報をダウンロードしてるって感じに聞こえたぞ」


 ふわっとした話を綺麗にまとめてくれる有能な翻訳者トモエ。


「それじゃあソルテは、ダウンロードしてないから知らないってこと?」

「うん」

「アクセスできる?」

「人間になってから出来なくなった」

「だよねー」


 つまりソルテからこの問題の核心となる情報を得ることは難しいということになる。


「こっそりその情報にアクセス出来れば……無理だよなぁ」

「神様側の味方を探す必要がありますね」


 すべての神様が絶望の世界の存在を許容しているだなんて信じたくはなかった。中には味方になってくれる人もいるはずだ、と。


「味方って言っても、相談できそうなのメグぐらいしか……あいつ怪しいしなぁ」

「メグさんはダメだぞ」

「え?」


 それは予想では無く、断言。


「以前メグさんに『なんでMeたちがメイと一緒にいられるように気を使ってくれるのか』聞いてみたことがあったんだけど、今思えば答えがヤバすぎるぞ」

「なんて答えたの?」


『トモエさん達から逃げたくて元の世界に帰ったら面白いから』


 自分の嫌がらせによって願いを叶えることを諦めるのが滑稽で笑えるから、トモエはそういう意地悪な意味だと思っていた。


 でも世界の真実を知ってしまった今、この言葉は最悪な意味へと変貌する。


「あいつ!私をここに叩き落そうとしてたのか!」


 もちろん、トモエが最初に感じていた意味の可能性は残っている。

 ただ、メグがこの世界のことを知っていた場合、明確に敵として立ちふさがるということが判明した。その危険がある以上、安易にメグに相談することができない。


 そう結論付けた時、枯れた噴水に到着する。


 そこで待ち受けていたのが、今話題に挙がっていたメグだった。


「こんにちは、メイ」


 ここにいる、この場所を知っている。

 つまりそれは、黒ということだ。


「メグウウウウ!」


 これまでのじゃれ合いとは違う。敵意をもって、メイはメグと相対する。


「そのような怖い顔をして、いかがなさいました?近い将来自分が堕とされる場所を見学出来て興奮していらっしゃるのですか?」


 いつもの嘲るような態度で、自分はあなたたちの敵なのだと、分かりやすく伝えてくれる。


「……」

「おや、いつものように反論してはくださらないのですね」


 メイはすでに臨戦態勢だ。

 この状況でメグが素直に通してくれるとは到底思えない。

 闘いになるのが間違いないのなら、先手を取る。その手段を考えていた。


 メグ相手に先の男との戦いのように言葉で油断を突くのは難しい。

 かといって、メイは戦闘センスどころか経験すらない。

 相手は神の使途、ジーマノイド、メグ。

 掴まれて全く腕が動かせなかったことを思い出す。


 メイに強力な力があるとはいえ、どうあがいても勝てるとは思えない。


 そこまで理解したメイが下した決断、それは『考えない』ことだった。


「うわああああ!」

「っ!?」


 無策で飛び出し、力を全力で叩きつける。

 馬鹿正直な突撃は想定外だったのか、辛うじてガードしたメグの体は大きく後ろに吹き飛ばされる。


 噴水に入るチャンス、ではない。

 例えここで『外』の世界に戻ったとしても、メグに追われることに変わりはない。


 ここで撃破するしかないのだ。


「うおりゃああああ!」


 都合の良いことに、噴水の向こうは荒れ果てた荒野だ。

 どれだけ暴れても困る人はいない。


「ふふっ、やりますねっ、と」


 がむしゃらに、何も考えず、力をぶつけることだけを考える。

 明確に拳の形にならなくても良い。

 相手に少しでもダメージを与えられそうならば、どんな形でも良い。

 斬撃でも刺突でも打撃でも衝撃でもなんでも良い。

 思いつく限りの攻撃をひたすらメグに叩き込む。


「やられたらやり返すのがメイの信条でしたっけ?」


 攻撃が僅かに止んだ一瞬のタイミングに、それまでガードのみだったメグが攻撃しはじめる。


「ぐうっけるもんかぁー!」


 守りとして体全体を力で覆ったものの、軽いジャブが当たっただけで大きく吹き飛ばされる。


 が、そんなことは知ったこっちゃない。防御は力に任せて、ひたすら攻撃を続ける。

 例え何度もメグの攻撃で跳ね返されようとも、だ。


「ぬぉおおおおおお!」

「しつこいですね!」


 メグは真面目にガードせず、メイの攻撃は何度もクリーンヒットしている。

 それでもダメージを負うことは無い。それがジーマノイドというものだ。


 しかし流石にメグも諦めずに攻撃を続けてくるメイがうざく感じてきたようだ。


「少しだけ痛いかもしれません!」


 すばやくメイの懐に入り、肘打ちで宙に浮かす。

 両手を組み、浮いたところを上から叩き落す。


「かはっ!」


 肘、両手、地面。

 三つの衝撃は防御の力を貫通し、苦し気な声が漏れてしまう。


 力の限り暴れ回っていたメイの動きが、ようやく止まった。


「これで理解して頂けたかと。メイの攻撃は全く意味が無く、無力化することが容易であると」


 いかなる怪我を負うことは無い。

 その相手に殴り合いをしたところで、意味などない。


「んなことは最初っから分かってた!」


 だったら、やるべきことは一つしかない。

 跳ね立ち上がったメイの瞳には、まだ闘志が宿っている。


「『強い想いが世界を変える』っていうなら、変えて見せろおおおお!」


 無敵を貫く力になれ!


 メイの力は、謎の力を生み出すもの、ではない。

 強い想いを、イメージを具現化する能力だ。

 だったら想像するだけだ。

 メグへの攻撃が、無効化されずに通じる力を!


「飛べええええ!」


 渾身のアッパーで今度はメグが宙に浮く。

 お返しとばかりに、全力でメグを地面に叩きつける。


「だから無駄……ぐはっ!な、なぜっ!」


 ジーマノイドとして造られてから、これまで一度も味わったことのない『衝撃』が体中に響いている。


「ぬおおおお!」

「ぐっ……ががっ……動けっ……ないっ……」


 覚醒した力でメグは大地に縫い付けられた。

 強烈な圧力が、指一本動かすことすら許さない。


「このまま潰れろ!」


 ミシリ、ミシリとメグの体から軋むような音が聞こえ出す。


「まずい……調子に……乗り過ぎた……神に怒られる」

「神だとぉ!?出てこい!クソメガネー!」


 器用にも、メグを押さえつけながら、神への攻撃をイメージして空に何本もの力を放つ。


「はいぃ!?……それは……ダメ……」


 メグの静止も聞かず、暴走するかのようにひたすら力を放ち続けるメイだったが、手ごたえが無くて諦めたのか、天への攻撃を中止してメグにトドメを指すべく力をこめた。


「ああああ!……待って……これ……ドッ……」


 何かを言おうとするメグだったが、圧力が強すぎて言葉にならない。


 この世界が生まれてはじめて、人間の手でジーマノイドが破壊されようとしていたその時。







「ジャジャーン、ドッキリでしたー!」







 『ドッキリ大成功』と書かれたプラカードをもったポンコツ女神が舞い降りた。







「おりゃああああ!」

「にゃんでええええ!?」


 そしてメイ渾身のストレートが女神の顔にクリーンヒットし、遠くに消えていった。


メイのバトルスタイル、バーサーカーになってしまった。

叫びすぎぃ!

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