26. 羞恥プレイを見られたくない
「はーなーせー!」
ぶっといロープで体中を足までグルグル巻きにされて地面に転がっているのは、先ほどまで大暴れしていたメイだ。
犯人はメグ。
ポンコツ女神を殴った時に拘束が緩まり、その隙をついてどこからか取り出したロープでメイを拘束した。
暴れていた時のように集中してギャグ力を使えば拘束を破れるかもしれないが、ドッキリと告げられたメイにその気力は出てこない。
「よくもまぁ、ここまで暴れて下さいましたね」
ちなみに、ポンコツ眼鏡は後から来た教官女神の手により強制的に帰還させられた。
「お前はまだ説教の最中だろうが!」
「いーやー!ここに残るぅー!」
どうやらまだメイと出会った時のことに関する説教が続いているらしい。
その途中にメグからのSOSを受信し、教官女神が出向こうとしたところを無理やりポンコツ女神が割り込んだのだ。
説教の追加が確定した。自業自得なり。
「女神様、ありがとうございました」
「お前も大変だろうが頑張れよ」
「ああっ!私などには身に余るお言葉をいただき、恐縮至極に存じます」
「大げさだな。本気で感謝してるんだぜ。ホント、頑張れよ……」
チラっとメイの方を見たということは、そういうことなのだろう。
「はい、これからも粉骨砕身の思いで臨まざるを……臨みます」
メグもメイの方をチラっと見て、決意表明の意を述べる。
「おい、なんでこっち見た」
『はぁ……』
同時にため息をつく教官女神とメグ。
「おいコラどういもごっ……!」
神様に不敬なことを言わせないように口も塞がれる。
「んじゃ、またな」
「はい、重ね重ねありがとうございました」
「おう」
メグへの激励のために残っていた教官女神は、説教を再開するべく神の地へ帰った。
「さて、それではネタバラシをはじめましょうか」
「むーむーむー(はーなーせー)」
呻いているメイの抗議は無視して、ドッキリのネタバラシをする。ネタバラシをするまでがドッキリのマナーなのだ。
「まずはみなさん、ご協力ありがとうございました」
「ぐへへへ、動けないメイも可愛いです」
「このまま落とし穴に落としてみたいぞ」
「今なら言える!ママー!」
「むむむむむむむむむむむむー!(あんたらおぼえてなさいよー!)」
まったくブレないポンコツ三人組。
もちろん彼女たちは協力者だ。
「ひっでぇ目に合ったぜ、もう少し手加減してくれよな、嬢ちゃんたち」
「手加減したらバレそうでしたので仕方なく」
「喜んでやってた癖に良く言うぜ」
そしてメイたちがボコボコにした人間の男性も協力者だ。
「他は皆、私の仲間ですね」
神父、少年、少年のそばに居た男性、教会に押しかけたチンピラ二人、スラム街の住人。
全てがジーマノイドによる役者だ。
「お姉ちゃん、怪我治してくれてありがとう」
「いやぁ、若い者は良いですなぁ。げほっげほっ、おっと役の癖が止まらないわい」
「あんなに吹っ飛ばされるとは思わなかったぜ、やるな!」
メイを囲うように、役者たちが立ち並んでいる。
傷ついてボロボロな見た目の彼らが笑顔で元気で笑い合っている姿を見ると、スラム街が幻想であることが実感できてしまう。
「(全員がグルだなんて、分かるわけ無いでしょ!)」
正確には、この出来事のきっかけとなった喫茶店のマスターは人間なのだが、メグは喫茶店での出来事を知らないので抜かしてしまうのは仕方ない。
また、セーラたちに再会したときの不思議な反応や、少年が人間かジーマノイドか確認したときのソルティーユの反応など、怪しい瞬間は何回かあった。
だが、不幸にも『怪我をした少年』という焦る要素がメイの思考を鈍らせてしまった。
「ぷはぁっ!」
「ええ……それ神の力による口封じですが、何故剥がせるのでございますか」
いい加減、口が塞がれているのがウザかったので、ギャグ力を使って強引に剥がす。神の力に簡単に干渉できるくらいにはメイの力がレベルアップしてしまったようだ。
「一体どこから仕組まれてたの?」
喫茶店でメイが中途半端に覚醒するタイミングを狙って都合の良い場所だけ聞きとらせる、というのは流石に無茶がある。それにスラム街に突入するまではセーラ達の行動に違和感が無い。
となると考えられるタイミングは……
「メイがこの場所に入った時から、でございますね」
「……そうか、見えて来た。あの時、こっちに残ったセーラたちは!」
「はい、その時メイを陥れるための策を私からお伝えしておりました」
つまりメイがここに来るまでは、この場所は別の理由で存在していたことになる。
「それじゃあここは……」
「あちらの男性、アキラ様の専用イベントゾーンでございます」
「ぐふぅっ、予想当たってたのね」
この場所は特殊なイベントゾーンである可能性が高いと考えていた通りだった。
「本来ならばアキラさんがお一人で堪能するはずのイベントゾーンにメイが踏み込んだことで、イベントが正常に進まない可能性が出て参りました」
「私が手伝っちゃうかもしれないからだよね」
「はい。アキラさんのイベントは、悪徳領主を倒してスラム街を救うこと、になります。メイは間違いなくその役を奪ってしまうでしょう」
「それなら説明してくれても……信じなかったなぁ、あはは」
スラム街に入ったメイは、イベントに違いないと思いながらも、不信感がぬぐえなかった。そのタイミングで、ここが他人のイベントだから抜けましょう、とメグに言われても心からは信じられなかっただろう。
かといって放っておけば、男性よりも強い能力を持つメイが悪徳領主をぶん殴りに行く未来が容易に想像できる。
「ということでアキラさんにも相談したところ、改めてイベントの機会を用意することに決まりました」
「問題は私……かぁ」
「ええ、メイの気分の沈みを払しょくするにはどうすればよいか」
「それでドッキリ……くそぅ、悔しいけど効果覿面だから」
この世界がイベントであると説明するのは簡単だ。
役者たちが立ち上がって、笑顔で説明すれば良いだけのこと。
ただ、スラム街を見て沈んでしまったメイの気持ちは、簡単には上昇しない。
そこでメグが考えたのが、メイを激怒させて全力で暴れさせることで、スッキリしてもらおうというドッキリだ。
「こんな急ごしらえのドッキリに騙されるなんて、悔しい。そもそも『らぶしてる人』も突然決まったドッキリなのにノリ良すぎない!?」
「おいいいい!それは止めろって!」
隙あらばトラウマを刺激するメイ。
きっとこの男性はこの先メイに会うたびに弄られるのだろう。かわいそうに。
「それは私も驚きでございました。急いですり合わせた設定のため、ボロが出ないように口数が少ないキャラクターになりきることをお勧めしたのですが、まさかあそこまで名演なさるとは」
「いやぁ、悪役のセリフってのも憧れるじゃん?せっかくだからってはりきっちゃったのよ。メッチャ楽しかった」
「わかる」
ゲスでクズな悪役が相手を見下しながら自分の悪性を声高々に主張するシーンは、創作物の醍醐味でもある。台詞だけなら、主人公側よりも面白いケースだって多々あるくらいだ。メイはその気持ちが分かりすぎてしまう。自分だって同じ立場ならノリノリで演じていただろうと。
「そういえば、メイはどこで此処のことを知ったのですか?」
「喫茶店でマスターと『らぶしてる人』が話をしているのが漏れ聞こえたの」
「ぐはあっ!ってあそこかああああ!確かにいたな、寝てたと思ったのに!」
ちなみに、あの喫茶店での会話はこちら。
『ほら、これが合言葉だ』
『サンキュー。これで悲願が叶うぜ』
『悲願ねぇ。性格悪いやつだなぁ。見てて気持ち良いもんじゃねーだろ』
『いいじゃねーか。虐げられてるやつらを救うヒーローになるのは誰だって憧れるだろ?』
『分からんでもないが、革命イベントを企画するのはお前ぐらいなもんだぞ』
『悪を殺して、弱きを救う。最高だろ?』
『まぁいい、場所は分かるか?』
『ああ、東地区の墓地の一番奥の墓だったか』
『そうだ。墓石に触れば合言葉を聞いてくるから、そのメモの内容を答えな』
『おう、んじゃそろそろ行くな』
『楽しんで来いよ』
イベントにワクワクしてノリノリで会話したことで、悲劇(らぶしてる人)が起こるとは。
「この場所のように『人を選ぶ』イベントの体験希望がある場合は、人目につかない場所で実施するよう配慮しております。そのため、イベント関連の連絡方法も人目につかない方法に決めたのですが、情報の受け渡し場所を考え直す必要がございますね」
自分の楽しみのためにスラム街を用意することについて、顔をしかめる人も居るだろう。たとえ仮とはいえ、人が虐げられている場面を用意するなんて気分が悪い、と。そのような感情に配慮して、『人を選ぶ』可能性が高いイベントは特殊イベントとして関係者以外から見えない場所で実施することになっていたのだ。
「でもまだ一つだけ分からないことがあるんだけど」
「何でしょうか?」
「どうして私が暴れるって分かったの?怖くなって逃げるかもしれないじゃん」
神様に反抗するなんて正気じゃない。
恐怖に怯えながら逃げ帰る可能性だって考えられたはず。
「あり得ません」
「あり得ないです」
「あり得ないぞ」
「あり得ないよ」
「なんでセーラたちまで」
皆が口を揃えてそんなことはあり得ないと言う。
「超お人好しのメイが、苦しんでいる人を見捨てるなどあり得ないことでございます」
「はいぃ?」
誰が、超お人好しだ。
他人の迷惑など気にせずに自分がやりたいことだけをやり、気に入らないことがあればすぐにぶん殴るような危険人物の、どこがお人好しだ。
「彼女たちを見捨てなかったことが、その証拠でございます」
誰もが見捨てたセーラたちを、メイだけは諦めなかった。
「いやいや、何言ってるの。私は諦めたし、本気で関わりたくないって思ってたよ。だってみんなを置いて一人で初級世界に移動したじゃん」
見捨てないと言うのなら、彼女たちが初心者ダンジョンをクリアするのをその目で確認するまで残っているはずだ。
「そこがメイのめんどくさいところでございます」
「めんどくさいって……」
「本気のツンデレか、意図したツンデレなのかは分かりませんが」
「ツンデレって言うな。デレてないから」
『あいつらが万が一にダンジョンクリアしても、私のとこに導こうとしないでよ』
「メイは自分のアドバイスで彼女たちが初級者ダンジョンをクリアできると確信していたのでしょう?ですからクリア後のことを私に依頼した。万が一、という言葉でその気持ちを誤魔化して」
「そんなことは……」
無い。
本当にそう言い切れるのか。
セーラたちが追ってくる可能性を信じていたからこそ、メグに言葉を残したのではないか。
「メイの前にも他の方にセーラさんのことを助けて欲しいとお願いしたことがございますが、悉くすぐに諦めてしまい、まともなアドバイスの一つも与えることが出来ませんでした。彼女たちのことを本気で考え、本気でアドバイスしたのはメイだけでございます」
助けたいなんてつもりはなかった。
ただ、何もせずに放っておくことが出来なかった。
それだけのこと。
お人好しだからこそ、それだけのことをしてしまうのだ。
「それにメイはわたくしたちから力づくで逃げようとは決してしませんでした」
「それは何やっても追ってくると思って……」
「追ったとしても厳しく突き放すことだって出来たはずです。でもそれをしなかった」
人は自分の欠点を指摘されると不愉快になるものだ。
それでは、逆の場合はどうだろうか。
自分の優れている点を指摘された場合、人は喜びを感じるものだ。
それと同時に、照れくささも感じるものだ。
そして、自分自身では理解していなかった優れている点を指摘された場合、どうなるか。
喜びよりも、照れくささの方が増してしまう、そんな人が多いのではないか。
多くの人に囲まれて、メイの優しさが指摘されまくる羞恥プレイ大会がはじまった。
「他の人とパーティーを組んだりすることもないぞ。Meたちと一緒だと他の人が迷惑かかるかもって思ってるからだぞ」
「私たちが甘えると、なんだかんだ悪態突きながらも叶えてくれるよね」
「暴れて建物破壊する時、巻き込まれた人が楽しそうなのを確認してやってますよね」
「それでいて、そういうのが苦手な人がいるときは大人しいんだぞ」
「最初の冒険者ギルドで絡まれた時、自分が無視されたことじゃなくて、私たちが怖がっていたから怒ってくれたんだよね」
「うあああああああ!やめてえええええ!」
ミノムシ状に縛られたまま、地面に体を打ち付けて羞恥に悶え狂う。
自分自身の心すら騙して隠していたはずの気持ちがバレバレだったことが、たまらなく恥ずかしい。
顔はもちろん耳まで真っ赤で、湯気が出るとはこういう状態を言うのだろう。
「み、耳を塞げば!」
力を使って、耳を塞ごうとするが、メグがそれを許さない。
「ダメです。みなさんの言葉をちゃんと聞いてあげてください」
力でガードしたはずなのに、みんなの言葉がガードを貫通して聞こえる。
「むうううう!」
それならばと、せめて真っ赤になった顔を見られまいと地面に向ける。
「ダメです。人の話を聞くときは相手の目を見ましょう」
だがそれも許されない。
メグの力にて、強制的に顔を上げさせられてしまう。
「真っ赤なメイも可愛いです。ぐへへへ」
「これはレアだぞ。写真に撮っておくぞ」
「ママかわいい」
「うええええん、やめてええええ」
羞恥が極まったメイの表情は、その場の全ての人々(+ジーマノイド)を、虜にしたとかなんとか。
これにて、らぶしてる編は終了です。




