24. 扉の先の真実はいつも一つではない 前編
注:この作品はギャグ小説です。シリアスは登場しません
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「酷い……」
スラム街。
異世界の定番中の定番であり、俺(私)TUEEEEな主人公が手を差し伸べて救いを与える場所が、ここにもあった。
これまでは『楽しさ』に特化した場所ばかりであった。
都会でだらけ、田舎でスローライフを満喫し、アトラクションを楽しみ、異世界風な生活を体験する。どこにいても、楽しさのみを追求することが出来る世界、それがこの異世界だったはず。
しかしここは、そのような娯楽溢れる世界とは正反対の土地だ。
人々が寒さや飢えに苦しみ、死んだような目で彷徨うばかりの場所。
そのギャップにメイは衝撃を……
「よっしゃああああ!これで逃げられるから!」
受けてなどいなかった。
ここがスラム街だと認識した後、セーラたちに話を振ろうとしたら居なかったのだ。
メイだけが飛ばされたのかもしれない。
みんな別々の場所に飛ばされたのかもしれない。
事実は分からない。
ただ一つ言えることは、この瞬間、メイは一人であるということだ。
「ひとまずセーラたちも来るかもしれないから隠れよう」
恥ずかしい合言葉を発した人だけがここに来れるとするならば、セーラたちも後を追ってくるはず。その前に手の届かないところへ逃げるべく、路地裏へと足を運んだ。
「セーラたちは間違いなく私を追ってくる。なんとしても先にここを脱出して、すぐに初級ダンジョンに向かってクリアすれば私の勝利だから!」
これまでもこっそり逃げ出してダンジョンアタックする方法は思い浮かんでいた。ただしその場合、セーラたちは居なくなったメイを探さずともダンジョンの入り口で待ち構えていれば良い。
今回はその手段が通じない。
何故ならば、メイが吸い込まれたこの世界がどのような世界なのか、セーラたちは知らないからだ。もしこの先に、中級世界へ向かうための隠し通路のようなものがあったら逃げられてしまう。その不安がある以上、セーラたちは絶対にここまでやってくる。
その隙をついての脱出撃。ポンコツたちから逃げる最大のチャンスがやってきた。
「どうやったら脱出できるのかな」
裏通りは建物の崩壊っぷりが酷く、雨よけの布切れがあればマシな方で野ざらしになっている場所がほとんどであった。そこに生気なく横たわっている人々は、声をかけても反応しそうにない。
「イベント用のジーマノイドだろうしなぁ。変に話しかけてイベントに絡んだらあの男の人に申し訳ないし、どうしよっか」
早足で歩きながら、自分の置かれている状況を考える。
これはおそらく、先に入った男性に関係するイベントの一種であろう、と。
そして周囲にいる人々は、彼のために用意されたジーマノイドたちだろう、と。
そりゃあそうだ。
人間がこんな目にあって良いはずがない。
そう思い込もうとしていた。
それを見つけるまでは。
「……血?」
うつぶせになって横たわっている少年。
ガリガリのやせ細ったその腕から、真っ赤な血がドクドクと流れ出ていた。
「な、なんで血が。いや、演出?でも、そんなことする必要ある?」
裏路地で誰も見ていないような場所。
そこで血を流す演出をする必要などあるのだろうか。
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
動揺したメイは、思わず少年に駆け寄って声をかけてしまった。
反応は全くない。
「ど、どうしよう。手当しなきゃ」
最早少年がジーマノイドで演出のために横たわっているかどうかなど、メイの頭から抜け落ちていた。
それほどまでに、この異世界ではじめて感じた『死の気配』がメイを慌てさせていたのだ。
ポケットにしまってあったハンカチを取り出し、止血をしようと少年の腕に手を伸ばしたその時。
「止めときな」
「え?」
近くの壁に寄りかかり、腕を組んで立っていた若い男性がメイに声をかけてきた。他の人よりも多少マシな身なりであるが、ボロボロのスーツは腕が取れて所々穴が空き、体つきもやせ細っているのが見ていて痛々しい。
「そいつは自分でやったのさ」
「自分でって……どういうこと?」
「死にたくなって自分を傷つける。ここの連中なら日常茶飯事の出来事だ」
「そんな!どうしてそんなことを!」
「どうして……か。みりゃ分かんだろ。ここで生きたいと思うか?」
地獄のような場所で、正気を保って生きていられる人は少ないだろう。
「それに、だ。傷口をよく見て見ろよ。もう血が止まってるだろ」
流れるように出ていた血は、いつの間にか止まっていた。
傷口がそのままであるにも関わらず。
「え……どうして……まさかもう……」
死んでしまったのか。血がすべて流出してしまったのか。
「ちげーよ。そいつは生きてるさ。むしろ、死ねないんだよ」
「死ね……ない……?」
「そうさ、俺たち『人間』は死ねないんだよ。苦しんで苦しんで苦しんで、それが永遠に続くのさ。そいつに手を差し伸べるつもりならな、治すんじゃなくて殺してやってくれよ。それが出来ないんなら、さっさと『外』に帰んな、お嬢ちゃん」
男は吐き捨てるようにメイに言葉をぶつけると、その場を去って行った。
目の前には、大量に血を失ったにも関わらず死ねずに意識が朦朧としている少年と、男が発した『人間』という言葉に衝撃を受けたメイだけが残された。
五分か、十分か、時が止まったかのように動くことのない場面は、微かなそよ風がメイの頬を撫でた瞬間に動き出す。
「……でも」
歯を食いしばり、絞り出すように紡いだその言葉には、強い力がこめられている。
「それでもっ!私はこの子を助けたい!」
両腕で少年を抱え、走り出す。
治療することのできる、『仲間』の元へと。
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「いた!セーラ!」
「メイ!良かった、逃げたのかと……いえ、心配しました」
「ツッコミたいけどそれは後、この子の怪我を治して!」
自分が最初に立っていた場所、そこに戻るとセーラたちが三人とも居た。
メイをどうやって探そうか話し合っていた時に戻って来た形になる。
「この子を……ですか?」
「うん、早く!」
「メイ本当に…………いえ、分かりました」
セーラは何かを言いかけたが、それを飲み込んで少年に回復魔法をかけた。
「フルヒール!」
大きな怪我をしていた腕はもとより、他の大小様々な傷が治癒され、綺麗な体になった。
「良かったぁ……」
とはいえ、治ったのは外傷だけ。心の傷は治っておらず、未だ反応が無いままだ。
「何があったのか聞きたいぞ」
メイは少年と出会った時のことを三人に告げる。もちろん逃げようとしたことはスルーだ。
「それでソルテ、この子がジーマノイドかどうか見て欲しいんだけど」
この悪夢のような事態が、ジーマノイドによる演出であると思いたかったのだ。
「……………………人間だね」
「そう……」
希望が打ち砕かれ、がっくりと肩を落とすメイ。
ソルティーユの答えに間があったことに気付かない。
「メグに話を聞く必要がある。でもその前にこの子をどうにかして、脱出方法を探さないと」
「ですがメイ。どうにかすると言っても、何かあてがあるのですか?」
「もちろん、トモエなら分かるでしょ。スラム街の浮浪児と言ったら……」
『教会の孤児院』
ある程度無事で、大きくて、目立つシンボルのある建物。
それが教会の可能性が高い。
目的の建物は大通りを歩くと見えて来た。
「すいませーん」
ボロボロの扉を開けると、中は礼拝所のような造りになっている。
教会で間違いないようだ。
「すいませーん」
中に入っても答えが無い。
廃教会で外れの可能性が出て来た。
「すいませーん」
「……どなたでしょうか。げほっげほっ」
三度目の呼びかけで、奥から年老いた神父がやってきた。
「あの、こちらで子供を預かったりはしていないでしょうか」
「……その子ですかな?」
「はい」
「分かりました、どうぞこちらにお連れ下さい」
神父に連れられてやってきた部屋は、とても長居できる場所では無かった。
「あの子と同じような子があんなにも……」
生気が無く横たわっている子が集められた部屋。
霊安室という単語が頭をよぎりかけたが、気合で吹き飛ばす。
「あなたたちは、『外』から来たのでしょうか?」
「『外』って言うのは?」
男も『外』という言葉を使っていた。
「ご存じないということは、『外』の方なのでしょう。それなら一刻も早くここから」
「オイコラアアアア!」
神父との会話中に、ドガンと教会入口の扉が蹴り飛ばされ、三人の男が押し入ってきた。
「神父さんよお、今月もちゃーんと取り立てに来てやったぜぇ!感謝しろよな!」
「たんまり膨れ上がった借金、返してもらうぜ!」
うひゃひゃひゃひゃ、と下品に笑うのは男が二人。
後ろの男はニヤニヤしながらその様子を眺めている。
「あいつは!」
後ろの男はあの墓場で先に入った男性に雰囲気が似ていた。
前から見るのは初めてであるが、見覚えのあるコートと体格のため、可能性は高いとメイは感じた。
「あなたたちにお渡しできるものはございません。げほっげほっ」
「なぁにぃ!?」
神父の言葉は、強がりでも抵抗でも無く、言葉通りのものであった。
彼らは価値あるものを何一つとして持っていないのだ。
「なーんちゃって、知ってる知ってる。ぎゃはははは」
「そんじゃ今回は何を頂いてこっかなー」
「お許しを……」
傍から見れば、これもテンプレイベント。
経営が傾いた孤児院が、怪しい金貸しから借金してしまい、その取り立てに悩まされる。
だがこれはおかしい。
この世界には貨幣が無いのだから。
「なんでお金が……」
「おんやぁ、見たことのない綺麗どころが揃ってんなぁ」
「チッ、こいつら『外』の連中だぜ」
「関係ねーやつはすっこんでな。それとも姉ちゃんたちが遊んでくれるのか?」
ニヤニヤしながら近づいてくる男たちは、背筋が震えるほど気持ち悪い。
「教えてやるよ嬢ちゃん。こいつらはなぁ、何にもしてないのに借金したことになってるんだぜ。不思議だよなぁ。金なんて存在しないのにどうやって返せば良いんだろうなぁ。あひゃひゃひゃひゃ」
「はぁ!?」
「あーかわいそうかわいそう。神様もえぐいことするわな」
男たちが嘘を言っていないのならば、この状況を作り出したのは神様だということになる。
メイが想像していた最悪の展開が、現実となりつつある。
「かみ……さま……?」
「ま、何も知らねーならさっさと消えな。俺たちは何かしら取り立てるよう、神様に指示されてるんでな」
「あー心が痛い痛い。んで今日はどうする?」
「めぼしい女はもう貰っちまったからなぁ。しゃーねぇ、今回は丈夫そうなガキでも持ってくか。確かサンドバッグ求めてる神様がいただろ」
「しゃーねぇな。今回はそれで許してやるよ。次は良い女を用意しぷぎゃっ!」
我慢が出来なかった。
いや、我慢する必要すら感じなかった。
ギャグ力で全力で打ち抜いた拳が、男たちを吹き飛ばす。
「おいおい、勝手なことしてもらっては困るんだがなぁ」
「あんたは……どうして……」
先ほどのクズ共は、ジーマノイドが指示した通りの動きをしただけかもしれない。
だが、この男性は違う。人間だ。
自分の意思でここに立ち、クズ共の仲間となっている。
「人間がどうしてこんな非道なことを!」
「はっはっは、不思議なことを言うガキだな。人間がどうして?非道なことを?そんなの当り前じゃないか、人間だからだよ!」
言いたいことは分かる。人間の悪性を描いた作品なんて山ほどあるからだ。
だが理解はできない。
「こんなことがあんたの『悲願』だって言うの!?」
「ああん?どこでそれを……つーか、そもそもどうやってここに来れたんだよ」
「そんなことはどうでもいい!答えろ!『革命』だのなんだのってどういうこと!?」
「そんなことまで知ってんのかよ。まぁいい、教えてやるよ。俺はな、ずっと夢だったんだよ。暴虐の王となることをな」
「なに……を……」
暴虐の王。
悪逆非道の限りを尽くす悪魔になりたいと、男は言う。
「自分だけが安全な世界で、他人がもがき苦しむのを眺めるのがさいっこうに気持ち良い。許して下さいと泣き叫ぶ弱者にむち打ち更なる絶望に歪む顔なんか、想像するだけで快感が体中を駆け巡るぜ」
こいつは単なるクズではない。このまま放置してはダメな危険人物だと、メイは放心しかけていた心を引き締める。
「それなのによぅ。召喚されたこの世界の温いこと温いこと。なんだよ、全ての快楽が手に入るって。つまんねぇつまんねぇつまんねぇ。俺が欲しい快楽はあんな気持ち悪い世界じゃ手に入らねーんだよ。だから願った。クソみてぇな、弱者が苦しむ最低の世界を。そしたら神様にも分かってるやつがいたんだよ。俺好みの世界を紹介してくれたんだ。だからその礼にさ、革命を起こすんだよ。あの温い世界のやつらをここに全員ぶちこんでやるのさ。そして俺だけがあの世界でゆっくりとここのやつらが苦しむのを眺めるって寸法さ。どうだ?最高だろ?」
自らの言葉に酔いしれるかのように理想を語り続ける男の目には、狂気が宿っている。
「イカれてる」
メイの答えは、感情は、この一言に集約される。
神様うんぬんは後回し。
今はこいつを倒して捕まえ、『革命』を止めなければならない。
「ほぅ、切り替えが早いねぇ」
男が理想を語った余韻に浸っている間に先手必勝で吹っ飛ばそうとしたが、出来なかった。
「ふふ、どうした?先制のチャンスだったぞ」
抜刀術の構え。
アニメや漫画で何度も見たことのあるその構えを前に、攻撃をためらってしまった。
メイは現代社会で甘やかされて育った普通の女の子、バトルセンスなど皆無だ。
今の自分の立ち位置が相手の攻撃の射程に入っているかどうかすら分からない。
だが、偏ったオタク知識があるからこそ、抜刀術の構えをする男から無駄に圧力を感じ、躊躇してしまった。
「どうした、来ないのか」
男はそう言って、メイの攻撃を誘ってくる。決して自分から攻撃してこないところ、徹底している。
メイの力は相手には見えない。
それならば、体全体を力で覆って防御し、それから攻撃をすれば良い。
「(どうしよう、斬られる未来しか見えない)」
だが、抜刀術は強キャラだという思い込みが強すぎて、防御ごと斬られるのではないかという予感がどうしても頭から離れない。
「(せめてここでも無敵だって確信が持てれば……)」
あの少年の血が、メイをさらに縛っていた。
もしかしたらこの場所では自分は怪我をするのではないか、と。
あらかじめ試しておかなかったことが悔やまれる。
「……」
「……」
にらみ合いが続く。
それを打ち破ったのは、メイの機転だった。
「らぶしてる?」
「ぐはっ!」
「もらった!」
「どこでそれをおおおおおおおお!」
勝つためならば、男のトラウマだって利用して見せる。かわいそうに。
「おっと、戻ってこーい」
力加減をミスってしまい、遥か彼方へと吹っ飛びそうだったので、力を使って無理矢理引き戻す。
「ほいほいほいっと」
「ぐはぁっ!ぐふぅっ!ぐぐっ!」
地面に押さえつけて何度も力を叩きつけて男を無効化する。
「はい、セーラどうぞ」
「え?え?」
「ほら、好きな奴だよ」
「あ、ああ!ヒール!」
男を優しい光が包み込み……
「ふべしっ!」
連打を継続する。
ヒール&デストロイ。
殺さず痛めつけるには最高のコンボだ。
「よし、あとはトモエにあげる」
「待ってましただぞ」
何度か殴ってスッキリしたメイは、男の処遇をトモエに任せた。
「落とし穴―」
「うおっ!」
「からのーソルテ今だぞー」
「えいっ」
落とし穴に落ちた男はニトロ爆破の格好の餌食だ。
「ヒール!」
「もっかい落とし穴―」
「えいっ」
「も゛う゛や゛め゛て゛ーーーー!」
男の悲痛な叫びに満足したメイは、神父に声をかける。
「神父さん、もう大丈夫ですよ」
安心させようと投げかけた言葉に対する答えは、大きな焦りを含むものであった。
「一刻も早くここからお逃げください」
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町はずれの枯れた噴水が、初級世界に戻る出口になっている。
メイたちは教えられた場所に全力で走る。
そしてたどり着いたその場所には、予期せぬ人物が待ち受けていた。
「こんにちは、メイ」
「メグウウウウ!」
ジーマノイド、メグ。
初の長台詞が名前も出てない男キャラ。




