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16. 先生をお母さんとは絶対に呼ばない

短めのネタ回です。

 メイの朝はそこそこ早く、目覚めも良い

 日本で暮らしていた時も、目覚ましよりも先に目を覚まし、ゆっくりと朝ご飯を食べ、身だしなみを整えてから登校していた。

 その生活に慣れているため、寝坊して慌てるということは無いどころか、休日ですらも平日と同じタイムサイクルだ。


 異世界に来てからもそのリズムが崩れることは無く、夜は日が変わる前には必ず就寝し、日の出と共に起床する生活を続けていた。


 ただ、この日だけは特別だった。

 前日、セーラ達と共に深夜までゲームで盛り上がってしまったのだ。

 朝日が昇るまで遊んだわけでは無かったが、慣れない夜更かしに体が混乱し、起床時間がいつもよりだいぶ遅れてしまった。


 しかも目覚めがスッキリせず、布団から上半身を起こしても、意識が半覚醒状態のままだった。


「おはようございます」


 普段はメイより起きるのが遅いセーラであったが、メイよりも夜更かしして遊ぶ機会が多くて体が慣れていたのか、珍しく先に目が覚めてメイの寝顔を堪能していた。もちろん毎日一緒に寝ている。メイの貞操が無事なのが不思議である。


「(こうやって寝顔を堪能できるなら、毎日夜更かしさせちゃおうかしら)」


 邪悪な笑みを浮かべながら邪悪な考えを巡らせていたセーラだったが、メイが起床したことでいつも通りの自然な表情に戻って挨拶をした。このオンオフの切り替えをまだメイは見破ることが出来ていない。




「……おはよー……『お姉ちゃん』」




「!!」




 寝ぼけていたメイが禁断のセリフを解き放ち、セーラは歓喜で頭が真っ白になった。


「い……今……なんてっ!?」

「……うにゅ……お姉ちゃん?」

「うひぃん!」


 気持ち悪い喘ぎ声を漏らしながら自らの体を抱いてくねらせるセーラは気持ち悪い。

 とても気持ち悪い。


「うにゅって……可愛すぎる……お姉ちゃんって……ぐへへへ」


 大人しくしていればもう少しこの幸せな時間を味わえたのだが、奇妙な動きをしてしまったことで、メイの意識が覚醒に近づいてしまった。


「何……してるの……おね……」


 このまま気付かずに二度寝していれば幸せだったものの、残念ながらメイは覚醒してしまった。自分の大失態に気付き、ゆでだこのように顔が真っ赤になってしまう。


「もっと……もっと『お姉ちゃん』ちょうだい!」

「……」

「お姉ちゃんプリーズ!」

「……」

「メイのお姉ちゃんだよー!」

「……ふっとべええええ!」

「あーれー」


 ギャグ力により天井を突き破ってお空へ飛ばされるセーラ。

 崩れた穴から見える空は、メイの表情とは対照的に真っ青だった。




「お姉ちゃんって呼んでください!」

「しつこい!」

「だってだって、良かったんだもん!」


 吹き飛ばされて終わりでは無かった。

 テンションが未だぶち上り中のセーラが、戻って来てもなお『お姉ちゃん呼び』をして欲しくて食い下がる。


「お姉ちゃん!お姉ちゃん!お姉ちゃん!お姉ちゃん!」

「うざいよーダレカタスケテー」

「セーラお姉ちゃん、とかセーラ姉もいいなぁ」

「一人で妄想しててよ」

「そんなぁ。呼んでくださいよぉ」


 メイとしては友達から『お姉ちゃん』呼びを強要されることがこれまで何度もあったので、そのこと自体は気にならないし、何種類もの攻撃パターンを持っている。ただ今回に限っては、素で間違えて呼んでしまったことがあまりにも気恥ずかしくて、セーラの要望に応えられないでいる。


「もっと姉らしくすればいつかは呼んであげなくもない」


 と妥協することでこの話を先延ばしにする。心にゆとりがあれば呼んであげないことも無い。


「メイ、わたくしをお姉ちゃんって呼びなさい」

「姉を舐めんな!?」


 急遽考えた上から目線の言葉だけで姉が表現できると思ったら大間違いだ。

 一人っ子のセーラは姉というものが何なのか全く分かっていない。


「もっと姉力を鍛えなさい。今のセーラの妹なんてぜーったい嫌だから」

「じゃあ私のママで」

「あ゛ぁ!?」

「ひぃっ!ごめんなさい!」


 どさくさに紛れてソルティーユがママ呼ばわりするも、いつもの返しである。

 この歳でママ呼ばわりなど、メイの感性では許されざることである。


「じゃあMeはペットがいいぞ」

「まーたマニアックな」


 それならばと今度はトモエが割って入ってくる。


「ほーらほら、メイおいで」

「私がペットの方かよ!嫌だから!」

「え!?」

「なんでそこで疑問形になるかなぁ!?」


 心底驚いた表情をするトモエにギャグ力で全力のツッコミ(物理)をしようかと少し悩む。


「そもそも人をペットにするとかマジでヤバい思考だから」

「ええー新作の落とし穴に落ちて貰いたかったぞ」

「それペットじゃないよね!?モルモットだよね!?」

「痛く無いから大丈夫だぞ。むしろ気持ち良いぞ」

「そのシーン入れたらR15のタグがついちゃうから!」

「15で済まないぞ」

「ノクターン行きは嫌だああああ!」


 この作品は健全ですのでご残念ください。


「まぁそれは冗談として、トモエも『お姉ちゃん』って呼ばれてみたいぞ」

「う゛っ……」

「私はママって」

「あ゛ぁ!?」


 諦めろ、ソルティーユ。


「セーラばかりずるいぞ」

「ずるいって、別に優遇したわけじゃないから。寝ぼけてただけだから」

「昨日のゲームの勝者の権利を使うぞ」


 激戦の末、優勝したのはトモエだった。

 『優勝者は好きなことをお願いできる』

 この権利をこの程度のことで消費してくれるというのなら、ありがたいことだった。ノクターン的な罠の実験台になってくれ、などと言われるのではないかと内心不安だったのだ。


「それならしょうがないか……」

「うらやましいです!うらやましいです!うらやましいです!」

「ふふん、次はゲームに勝つんだぞ」

「うわーん!」

「セーラが幼児化しとる……ソルテみたい」

「え!?」


 自分が子供っぽい態度だということに気付いていないのはソルティーユ本人ばかりなり。


「ちょっと待って、私が幼児って……」

「じゃ行くよー」

「ぐすん」


 これで今度からママと呼ぶ回数が減るだろうか。いや、ソルティーユはすぐに忘れるタイプの人間だから変わることは無いだろう。


「よし、それじゃあ凄いのをやってあげる。場所はどこが良いかなぁ……そうだ、縁側に腰かけて」


 メイにとってトモエは『姉』のイメージとは少し違う。その理由は背の高さだ。若葉姉も萌姉も高身長なため、どうしても自分と同じくらいの背丈の相手を姉と感じるのは抵抗がある。


「座布団敷いて座って。そうそう」


 少しだけでも姉妹感を出すため、トモエだけ座布団に座ることで高低差を作り出す。


 トモエのすぐ左隣にぴったりとくっついて座り、顔を傾けてトモエの肩に優しく乗せる。


 このまま上目遣いでトモエを見上げつつ、セリフを言えば完成だ。


「トモエおね~ちゃん、えへへ」

「ふぉおおおおおおおおおお!」


 メイの必殺技の一つ。照れくさそうに言うのがポイントだ。

 一人っ子であり妹が欲しかったトモエにとって、メイの攻撃はクリティカルヒット!


「うらやましいですぅ!(ギリィッ!)」


 メグを彷彿とさせるような見事な食いしばりを見せるセーラであった。




 少しだけ時間が経って。


「先ほどのあざといメイも良かったけど、やっぱり今朝の自然なお姉ちゃん呼びが一番です」

「うらやましいぞ」

「わたくしも、もう一度聞きたいんですよね」

「私はママって呼びたい……トモエの罠でなんとかならないの?」


 居間で昼寝をしているフリをしているメイから少し離れたところでヒソヒソ話をする三人衆。はっきりと聞かれているぞ。


「(なんという不穏な会話)」


 自分の危機管理のためにも聞き逃すわけにはいかない。


「睡眠薬とかどうでしょうか」

「(っておいこらセーラああああ!)」


 ガチの犯罪を提案するセーラに恐怖を感じる。


「少し多めに処方すれば朝ねぼけるかと」

「(え、この先全ての食事を疑わないとダメなの?)」


 いつ睡眠薬が盛られるか分かったもんじゃない。


「その手があったぞ!」

「(おい待て、トモエがやると洒落にならないから!)」


 眠らされて何をされるか分からない。

 そもそも、盛られるのが睡眠薬かどうかすら怪しい。大人向けのアレとか入れられるんじゃないだろうか。


 ここから逃げ出さないと命じゃない色々が危うい。


「なーんちゃって」

「だぞだぞ。流石にそんな酷いことはできないぞ」

「ママには自然にママって呼ばせてもらいたい」


「(助かった……?)」


 冗談だったことにほっとしたメイだったが、果たしてこれは本当に冗談だったのか、それとも起きている気配を察した三人が誤魔化しただけなのだろうか。真実は分からない。


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