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17. 日常回では爆発しない

「たっだいまー」


 メイ一行が古き良き日本エリアの古民家を拠点に変えてから一か月経過した。


 最初のころは、エリアの探索をしたり自給自足に夢中になったりと忙しなく活動していたが、段々とここでの生活に慣れ、各々が個別に活動するようになってきた。


 メイは散策と畑仕事を交互に、トモエは食事係をしながら山で罠の練習、ソルティーユは自室をラボに改造して怪しい薬の研究をしていた。


 そしてセーラは……


「完成した?」

「もう少しですね、明日には出来ると思います」


 座布団に座って糸の通った針を操る手さばきは、熟練度の高さを感じさせるものだ。


「う~ん、すごいなぁ。趣味でここまで精巧なぬいぐるみ作れるなんて」

「小さいころから好きでやってたので、慣れですよ」

「慣れだけでこんなクオリティの作品作れるのかねぇ」


 才能


 という言葉で表現したくなるほど、セーラの作る人形のクオリティは高い。

 見た目の整い具合は店売り品にも匹敵するレベルな上、手作りの温かみも感じられる。そして何よりも、表情や雰囲気がとても生き生きしているように見える。突然動き出しても驚かないかもしれない。


「セーラの部屋のぬいぐるみ、全部自分で作ったんでしょ?」

「全部じゃないですが、ほとんどそうですね」

「はじめて見たときはびっくりしたから」

「ふふ、そろそろ置く場所がなくなりそうです」


 セーラの部屋は洋風の部屋に改築し、ぬいぐるみでびっしり埋まっている。棚や床や枕元やベッドなど、隙間がほとんどないくらいギュウギュウ詰めだ。


 ちなみに、自分のベッドでは寝ないので、ベッドの上は人形だらけだ。


「これならアレもお願いしてみようかな」

「何か希望がありますか?」

「うん、私の家族のぬいぐるみも作ってもらおうかなって」

「……家族、ですか?」

「そそ、セーラのデフォルメすっごい可愛いから」

「ふふ、嬉しいです」


 『家族』という単語に少しだけセーラの反応に間があったのは、メイがホームシックになっているのではないかと不安に思ってしまったからだ。


 んなことはない、メイには全く別の狙いがあった。


「(これ以上、私のぬいぐるみ作らせないから)」


 最初にセーラの部屋に入った時に感じたのは、驚きと『恐怖』だ。


 何故ならば、部屋の中のぬいぐるみの大半が、自分のぬいぐるみだったからだ。


 メイ等身大ぬいぐるみとか、狂気を感じざるを得なかった。


 最早手遅れ感もあったが、これ以上の悪化を防ぐためにも、こちらから作ってもらいたいものを要望した。動物ばかりだと『そろそろ人も作りたい』なんて思われたら困るので、自分の家族に犠牲になってもらった。出来が良いから家族のぬいぐるみも欲しいというのも大きな理由の一つではあったが。


「それじゃあ今晩もまたお願いしますね」

「セーラも好きだねぇ。そんなに私が良いの?」

「もちろんです!」

「お、おう……」


 ぬいぐるみを作るのは、かなり大変な作業だ。対価も無しにお願いするのは気が引けたため、代わりに何かやってあげることにしたのだ。


 そしてその『対価』が今晩も支払われる。




「ぐへへへ、クンカクンカ、ぐへへへ」

「相変わらずきもっち悪いから」

「ぐへへへー」


 メイの部屋の中。

 セーラと二人っきり。


「うひゃっ、ちょっ、そこはくすぐったいからっ……」

「ぐへへへ、可愛いいいい」

「こ、こらぁ」


 セーラの膝の上に、メイが座っている。いつものポジションだ。

 ただ、いつもとは違うのは、セーラの邪な手つきに、メイの体が蹂躙されていることだ。


「小っちゃいお胸も可愛い。ぐへへへ」

「いずれセーラみたいにふっかふかになるんだから」


 同性であろうがセクハラ通報されてもおかしくない手の動きにも、メイは全く動じない。その程度の扱い、これまで家族やクラスメイトに何度やられたと思っているのか。多少くすぐったくはあるけど、恥ずかしくも感じない。


「わたくしだってこんなに成長したかったわけじゃないんですよ?」

「あれ、逆に成長し過ぎて困ってるパターン?」

「いえ困ってませんね」

「オイコラ」


 セーラは今の自分の成長に特に思うことは無いようだ。

 それが世の中の女性たちにとってどれほど羨ましいことか。刺されてもおかしくない思考だ。


「色々と大きいからこうやって小さい人を抱えて愛でやすいので、恵まれてると思うべき……?」

「その理屈は滅んで欲しいから」


 メイは嫌がっているが、体の大きさに差があるからこそ、こうやって膝の上で愛でやすいのだから、セーラの考えは間違っては無い。間違っては無いのだが、倫理的には間違っている。


「きょ、今日は直接触っても良いですか?」

「うっわ、きもい」

「ぐへへへ」


 繰り返すが、メイは特に性的な意味で女性好きという嗜好は全くない。

 どれだけ期待されても、芽生えることは無いので悪しからず。


 一方のセーラはというと、実はセーラもその手の嗜好は全くなかった。


「何故これで性癖がノーマルなのか、それが分からない」

「小さい子を愛でるのは当然のことですよ?」

「う~ん、行動はギルティなんだけどなぁ」


 ぷにぷにとお腹を直につまみ出す。

 体中を触りまくって動かしていた手は暖かくなっていて、案外気持ち良い。


 これが学校だと、冷たい手でお腹を触られて地獄を見ることがある。もちろん制裁するが。


「めっちゃ気持ち悪いのに、手の動きが優しいのがまた気持ち悪いんだよね」

「そりゃあ痛くしたら愛でてるって言わないでしょう」

「う~ん、おっかしいなぁ。正しいこと言ってるようでやっぱり気持ち悪いから」

「変ですねぇ」


 なんて話をしながらも、お腹・脇・二の腕・肩・胸(!?)などを直に揉まれて、マッサージを受けているかのような気持ち良さを感じてしまうメイはやり場のない憤りを感じている。


「オイコラ、そこはダメだから!」

「残念」

「本当にその毛が無いんだよね?」

「当然です!」


 ワキワキとした手が下半身に伸びてきたので、流石にそこは冗談にならないので止めた。

 やっぱりギルティじゃないのか。


「ふふ、メイみたいな妹が欲しかったです」

「私はセーラみたいな姉は……ああ、うん、両親に頼めば?」

「なんですかその誤魔化し方は。それに父も母も良い歳です」


 こうやって話をしていると、どこか自分の姉と似た雰囲気を感じてしまう。

 だからだろうか、セーラを姉と思いたくないとはっきりと断ることが出来なかった。

 

「(むしろ本当に妹が居たら、良い『お姉ちゃん』になってたかも)」


 頼りになるという意味では姉力はほとんど無いセーラだったが、『溺愛する』という点においては姉らしさを感じられる。


「セーラのご両親ねぇ」

「興味ありますか!?」

「遠慮します」


 セーラの両親の話をすると、何故か強く食いついてくる。それがメイには不気味であった。この世界で家庭を持ち、子を産み、暮らし続けることを決めた人たちの話を聞いてみたいという気持ちもあったが、会ってはならないという危険信号がビンビンに立っていたので、深入りは絶対にしないと心に誓っていた。


「むぅ……まだダメかぁ」

「(永遠にダメだから)」

「それじゃあ、メイの家族について教えてください」

「私の?」

「はい、時々話には出てきますが、もっと具体的にどんな人たちなのか聞いてみたいなって」

「面白くな……くはないかもだけど、あんまり気乗りしないなぁ」


 とは言いつつも、敬愛する自分の家族を自慢することについて満更では無かったりする。


「そんなこと言わずに。ほら、ぬいぐるみを作るにあたって、写真だけじゃなくて色々と聞いておいた方が良いのが作れそうですし」

「そう言われたら断れないから」


 それらしい理由を並べてくれれば、簡単に堕ちるメイであった。


「そうだね、それじゃあまずは……」


 彼女たちの時間は、まだまだ終わらない。


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