四大火悪魔による補足
「ありゃありゃ、寝ちゃったねぇおちびちゃん」
ポイッと蜜の香りがするお菓子を口へ放り込んでいたところ、重たい瞼との争いに負けたおちびちゃんの揺らぐ体をディルがソファに横にする。
弟妹いない、おちびーずとの距離間マリアナ海溝のくせに、やわくてもろいちびっ子への力加減が適切でそつがないから流石よね。
口にしたらたぶん良くて睨まれ悪いと一撃くらいそうだから無難に茶を啜る。
ふんわりとした茶の香が鼻を抜けていくね。実にいい香り。休憩って感じ。
「あ~、でも仕方ないよね。疲れただろうから」
空になったティーカップをテーブルに残したソーサーに戻しながら見るマリエルが苦笑するのはごもっとも。
ちょっと前まで楽しくないだろうにくるくるぐるぐるソファの周りをエンドレス回転。休憩しろよと何だかんだと言いつつちゃんと面倒見るディルに止められたところへ肝心なところでビビりなイルファからの小狡い通信。
やー物理的にも精神的にもドッタンバッタンして皆揃ってお疲れだものねー。
立派な大人のあたしたちがふへっと息吐く一幕だったんですもの。
おちびちゃんの疲労度、想像に難くなし、である。
「そりゃあれだけいろいろやればガキの体力じゃそろそろ限界だったろうな」
ちっとやそっとじゃ起きないぜ!な様子のおちびちゃんに自分の上着をかけて上げるディルの甲斐甲斐しさよ。
そのやさしさをほんのちょびっとあたしにシルブプレ、とか思って叶っても怖いから希少なやさしさはおちびちゃんに譲りまっす。
一応ちょっとした栄養物は与えられたし、思わぬ打撃を食らっちゃったディル共々仲良く休憩室ですやっとするとよろしいのではないかな。うんうん。
『アシス』
のんびりしていて良いではないのとかとか思っていれば聞こえちゃうことあるのよね。
「おっと電波受信~。何かなレミィ?」
何事かありましたかな?ならば素早く調べられますよう机へ移動しますよっと。
フットワークも軽く動き出し、
『例の場所に天使がいますわよ』
「え!?」
ぎゅみっなんて奇妙な音を立てた足がレミィの心声で止まる。
え、は、うそまぢで?予想外過ぎて止まった足を早足で進めて自席に着き、軽やかにパネルへ指を走らせる。
「ちょい待ち」
何を調べるにしても小休止で一旦アウトした機器を起こすところから。
手早く必要な水霧の情報を開いていく。
炎火、水霧の両一点特化地に封鎖をかけたのは昨夜。調査中の物体が精霊石作成用の植物機構を転用した人工物、更に炎火、水霧双方で精霊石の存在を認められていないことから両地に通常より濃度の高い精霊石が放置されている可能性があると判断したから。
ただし、封鎖とは言っても王が出す一級厳令のような絶対破るな!なんてものではないから無視しようと思えば無視はできる。まあ、普通はしないけど。
だって誰しも危険に向かって突撃はかけたくないでしょ?実力のはっきりした上位者たる四大が司令以下は立ち入るな。つまり上位者以外は最悪命の保証はしてやらないぞって言ってるんだからね。
重ねて言うけど普通はしない。そもそも一点特化地は出入者を管理している事前申請必須地。例え封鎖がなくても申請なく勝手に立ち入ればちょっとした罰が科せられる。
そんなもの自ら進んで受けるのかい?あたしはNo、天魔の大多数が同意してくれる答えだと思いますとも。
だから、どこのお馬鹿さんなのかしらソイツと思いながら水霧の地への侵入記録を確認してるんだけど……。
「……いや、封鎖後に入った天魔はいないよ。遡る」
いないんですよねーこれがさー。誰もが寝静まる、とか言うにはちょいとばかし早い時間ではあったけど、とっくにお日様は休憩時間な暗闇世界ですことよ。
普通に考えて魔物がハッスルしちゃう時間を選んで一点特化地へ侵入とか命知らずはいないご様子で、かつ四大がやめとけと言っているのを無視する向こう見ずもいない、と。はてさてそれではいつご侵入?それも、元気になってる魔物が闊歩するデンジャラスな場所で一夜を明かすとかなかなかたくましい心臓をお持ちね。
『恐らく水天使。中級位、ではありませんかしらね』
封鎖からあたしとレミィが四大室に戻るまでの時間逆走を始めて指を動かしているところへ現在進行形で侵入者を目撃中のレミィがどちら様特定情報をくれるけれど、なんで語尾にハテナがつきそうな感じなのかしらん?
と、思ったところで侵入者記録めっけ。
「あ~……あ?」
めっけたのはいいのですけれどー。やーだー何コイツ正気ー?
「夜に誰か入って――――」
日が沈んで夜になって少々ってとこで誰かが立ち入った痕跡を見つけたから人物特定しますよね。水霧に入った後だと一点特化地分の難易度加算されちゃうからその直前くらいで。そしてできれば個人特定が楽な映像付きで、と思って開いたワードが肝冷えレベル。
「っと何コレ難易度たっかぁっ!ディルーーパスーー!」
四大の中でも情報解析力は下から数えるあたしにこの黄より赤寄りなオレンジ警告はダメですわー助けてー。
ポイッとおちびちゃんと休憩室へをストップさせてた上から数えるディルにこちらですとよく見えるよう画面を大きく表示して助けを求めたところ、近付いてくる足音をキャッチ。その速度がいつもより遅いのは、まぁ仕方のないことです。はい。
「いつのだ?」
「十九時三十二分。水霧に入る直前ってとこ」
お隣になる自席から椅子を引いて座り、近付いてくれたディルに場を渡すと顔顰められた。そーなるよねー。
「水霧に入ってもないのにコレか。無断侵入にしてはえらく難度が高いな。高位か?」
ワード画面としばしのにらめっこ後に迷いなく動くディルの指先。
流石上から数える方。
「せんきゅ~。レミィ曰く中級位水天使?らしいけど。お、出た」
「レミィが疑問系?」
引っかかるよねーそこ。と思いながら表示される映像を眺める。
薄暗い中、水霧の地の外周へふらふら~と酔っ払いか体調不良かって疑う飛び方で、まだまだ若めの天使が近付いて来て侵入するところまでを。
「「…………」」
止まった映像に眠る一人と起きてる三人分の沈黙が落ちましたとさ。
いや、なんてゆーか、普通じゃないよね。声には出さずに三者三様で思っているだろうこの沈黙を何と言いましょうかねー、とか一瞬現実逃避してたら無言でディルが画像をズームして再生。それを見ながら自席へ戻り、自分の機器を起こしてる。
うん、ゴメンよ情報に弱くて。譲った場所を返還されたのでズームアップで容姿と色彩判別可能になったふら飛び天使の個人特定準備に入る。
「えーっと、ん?」
入るんだけど、周囲が暗くて色彩がわかり難いけど、この天使、見たことあるぞ。
それもつい最近。自信はあるが待ってくれているレミィへ情報を伝えなきゃならないし、詳細も追うから映像でわかる特徴から個人特定を行い確実を取る。
「目の焦点が合ってないぞコイツ」
「おーぅ、如何にもって感じですか」
顔面アップで映像停止してくれたディル。その画面の隣に並べて表示するのは特定された個人の映像及び情報でっす。
灰鈍の髪に砂色の目、目立って特徴のないどこにでもいそうな若い天使。
「この子、昨日アレの報告してくれた水天使だよ」
個人情報映像、そして昨日あたしとイルファが会った時にはあったまともさが失われた停止画面に渋い顔になる。
「妙にふらついて……目が虚ろな明らかに普通じゃない様子だけど」
取りあえずわかったことをレミィへ伝えながら、必要になるだろう能力値情報を開いてみる。
『正気ではありませんのね』
「この目と様子はアウトだねー。ぐろっきーだよー」
理性の文字が見えないご様子ですもの。
そんな言葉を直接口にはせず、求められている情報を伝えていく。
「中級位水天使ハルファナ・アマジェカ。司令未満の特異性なし、中距離支援型」
本当によくいる中級位といった能力値。それがどうしてあたしが撤退するワードを叩き出せるのか。あたしたちが会う前からこうなのか、それとも何かあってからなのか。ワード難易度の変動を追う為に昨日のハルファナの情報を片っ端から並べてみる。
『あなたたちが別れる前から異変がないか調べてください』
構えてるだろうイルファに伝達が終わったらしいレミィから追加情報の要求です。
「おっけー、今やってるからちょいとお待ちになってー」
ハルファナ個人の昨日一日の時系列と昨日の水霧への申請と出入り記録を並行して表示する。
昨日立ち入り申請があったのは三件。朝一にある一件目は素材採取の常連様。
二件目がハルファナたち中級位五名構成の下層探索ツアー。三件目はそのハルファナが司令へ報告したことで出撃したあたしとイルファ。
その後の申請は中に入っている間に日が落ちることもあってなく、十九時三十二分にハルファナ(正気に非ず)が無断侵入。そこから遅れること約一時間、あたしが司令以下へ立ち入りを禁止する封鎖を出した。以降の無断侵入はなく、先程イルファとレミィが入るまで水霧を出入りした天魔はいない。
一方ハルファナのワード変動はといいますと、お仲間四名と水霧へ入るまでは楽勝レベルの緑表示。特殊事情も任務もない中級位ならこんなものかの納得色。
比較の為に残る四名の難易度も同時チェックする。水霧に入ったところで五名揃って黄色寄りになるのは想定内。土地が持つ難易度加算は等しくかかっている。
「ほぉーーん」
それが、一人だけ急に黄から赤寄りオレンジになった。言わずもがなハルファナのだが、それ以外の四名は変わらず黄色表示。その後すぐに司令へ調査要請が入り、四大へ話が回されてくる。
で、これ以降他の四名が先に水霧から出て緑に戻っているのに対し、あたしとイルファに邪魔です帰れされたハルファナは水霧を出てもオレンジアラート継続中。
実にわかりやすく何事か起きた瞬間で、水霧を出たにも拘らず同じ難易度を維持していることで原因は水霧にあることを示してくれている。
それがわかれば後は問題が発生した瞬間を紐解けばよろしいってことさ。
「手がいるか?」
ディルが!
「うわぁーーん頼むーー。難易度高すぎーー」
自分でできることはやるが、できないことはできる奴に放り投げる。これ大事。
そして感謝を忘れずに!ありがとーディル、君の活躍で残る四名に連絡取りつけて「おい、水霧で何か妙なことあったろ。言え」なんてことしなくてよろしくなったよ時短バンザーイ!ってことを考えながら隣へポイポイオレンジ表示を放り投げる。たぶん顔顰められてるだろうけど見てないから知ーらなーい。
だってあたしの手元も忙しいのですよヘヘイヘイ。
バラリと手前に表示展開する四つの画像パラメーター。
探索ツアー四名のお仲間は火いち、風に、地いちの水はハルファナ一人のみ。
能力差はほとんどなく、特異性も同じくない。
つまり今回の何らかの問題は水属性だったからと仮定できる。
念のため残る四名の今現在までの時系列をザッと眺めたがワード難易度変動なし。
こちらは関係なしと切り捨てる。
一件目の常連様の難易度も変動はなし。あたしとイルファはどうかと開いておちびちゃんから離れた時だけ通常のイルファの難易度なんだねと命が惜しくなる色のものを開かぬまま即閉じ。で、見つけた異変。
「あたしとイルファも一時的に跳ね上がってるところがあるのか……」
水霧に入ったことで上がったのとは別に急にレッドアラートくださった時がある。
時間的にいうと……人工物と対峙してる、か?となるとレミィは如何かと並行して走らせるが、こちらは土地上げのみで変動しない。
つーことは、ですよ。
「アシス、映像出すぞ」
「助かりまーす」
流石だぜぃ上から数える悪魔様!
大きく表示されるのは霧の濃さで鮮明とは言えない靄がかった映像。
そこには先に調べたハルファナを含む五名がいることが確認できる。
そこへ――――。
―「うわっだぁ!?」
―「え、何々?」
―「ハルファナ?」
驚きと軽めの悲鳴に気の所為でなければ、バシャッという覚えのある水の音。
―「っだぁぁ。どこからか急に水降ってきた」
―「何それ。そういうことってあるのかな?」
―「うーん、水霧の地に入るのは今回が初めてだからなんとも。平気?」
―「そういう話じゃ――って、何コレ?」
霧も向こうに何かの影が映ったところで映像は止まるのだけどん。
「にゃるほろねー」
ほぅほぉへぇへぃ左様でございましますかー。
カッツンコッツンと人差し指の爪で机を叩くあたしに注がれる熱い視線。
無視するぞ!
「ひとまず追加情報いちー」
現在進行してる二人への情報がお先でっす。受信良好かしらねレミエルさーん。
「この子、あたしたちに要請かける前にうっかり水パシャして痛い思いしてるみたいだよ」
だるくてゆるくて緊張感なさそうな口調ですけど、伝える中身はまともです。
だって仲間の命、かかってるもの。
「で、例の御水様のちくちく鬱陶しいのが外せなくてずぅぅーーっとランデヴー。同属性だから我慢できるやつだよねーコレ。あたしだったら絶対ゴメンだわー」
まったり速度で説明しながらも指は素早く走らせて、すでに表示してある情報を説明に合わせて並び替えていく。
『つまり、アレを弾く力がなかったということですのね』
「そゆことー」
『では、それが要因になりそうですわね』
一息分の逡巡で返される答えに同意しますわレミィ。
「だよねー。そっちはまだ確定は無理かな。すまぬ。もちっと調べてみるからしばし待たれよ」
と、良くはないけど悪くもなさそうな状況の二人にもう少しだけ時間を貰い、追加で拡げた欲しい情報のオレンジさんをディルへ放る。
すまん、と一瞬だけ手で謝って。聞こえた溜息を聞かなかったことにして大量の情報をえりえりよりより分けていく。
開いてこちらへ放ってくれる追加情報をそこへ混ぜて並べながら、いつもちゃらんぽらんで働き不足な頭脳を叩いて起こして走らせる。
あたしだって四大です。やる時と必要な時は、真面目モードに切り替えよ?
さぁさ考えますのは水属性のハルファナだけに起きた異常。それが中級位の楽勝ワードをあたしの手に余る難解ワードに押し上げた。
これを異常と呼ばずに何とする。だがしかし、それと同じ奇怪な事態は短時間とはいえあたしとイルファにも起きている。正確にはレミィが来た時までね。
ハルファナ、あたし、イルファの三人に共通して起きたこと、水パシャ。
口汚く罵って呪いたくなった例のアレ。あの人工物を切った時に噴き出した水が何故か頭上で平面展開&落下してくれちゃった本当に腹立つ御水様でございます。
ハルファナは人工物発見前、手を出した訳でもないのにそれを浴びたみたいだけど、この差はたぶん水属性かそれ以外だと思ってる。
植物を素体にした人工物で考えてたけど、植物生物を素体ならどうだ?
どんな弱小生物だろうと生物だもの。生存本能ってものがある。
水の一点特化地、水霧の地を適性とした水属性吸収型。強い個体として生き残る為に必要なのは、より強い水属性を取り込むってことだとも。
ハルファナに施したものが水属性への標的としての目印だとするならば、先に攻撃を加えたあたしとイルファは反属性の火だから、排除かしらね。
ん~、困ってないことにあたしたちとハルファナには致命的な差異がある。
それは力でも属性でもない。実にシンプル単純なこと。
ディルに片っ端から開いて貰ったハルファナの押し上げられた高難度情報、そこにはハルファナの周囲に生じている強い水の反応がくっきりはっきり表示されている。それは加護精ではなく、本人が意図したものでもない。
お肌に貼り付いて離れてくれない濃縮御水様な水霧の地の水精霊。
ハルファナはそれを放置、いんえー、放置せざるを得なかったんでしょうよ。
反属性とはいえあたしもイルファもそこらの中級位に劣るほど水の値は低くない。
そんなあたしたちが水霧から出て火で払うしかないしつこさだったんだものね。
中級位程度で振り払える訳はなく、周囲にそれが可能な上位火水天使がいなかったんでしょ。高位水天使のレミィによってベリッと剥がされたあたしたちと違って。
そしてそこから何らかの洗脳や支配でも受けたのか、坂道を致命的な速度で転がり落ちて今現在、か。
「くそみたいな理由だわ」
ディルの手を借りて開いた情報の一つ、時間を経るごとに変動していくハルファナのパラメーターへ吐き捨てとく。やーだーもー。
体に貼り付いて離れちゃくれない粘着質にも程がある御水様に辟易し、休もうとでもしたのかしらね。自宅にいたハルファナの水の値は制御を失うように不安定に揺れ動いていた。そして安定した頃にはさようなら正気ですと。
そこからはまるでお人形さん。それも傀儡の。何かに操られ、水霧へと誘われる。
その先で、呑まれた。悪い冗談みたいに激変しているパラメーターがその証拠。
あーやれやれ、何だかよくわかんないわー。無垢で無邪気で無神経と紙一重なおちびーずみたいに、なんでーどうしてーわかんなーい、とか言いたくなっちゃう。
でも、
「アシェリスさんはこーゆーの嫌いでっす」
それだけは決定で確定しましたいぇーい。ってな訳でしてよ。
「レミィー、いま見る余裕あるなら見といて。能力値がなかなかのビフォーアフター案件」
レミィの端末へと送り付けるのは二つ。あたしたちが会った時より前、本来のものと今現在二人が対峙している変化後のハルファナのパラメーター。
「ちなみに水属性は微妙に上昇中ー。水霧にいるから水吸ってんのかねぇ?」
土地から水を吸い上げていたあの人工物よろしく。
『アシス、ありがとうございます』
「あいよ、頑張ってー」
情報要求一時終了。悩ましくも聞こえたレミィの心声に小さく、本当に小さく息を吐く。
炎火で二人が見つけたのは混ざり物、魔物に取り込まれた精霊石。
人工物の作成者が同一なのなら全く同じものなど完成品以外には作らない。
作るのは、前より良い物。
炎火と水霧のどちらが先でどちらが後かは濃縮機構の精度で知れている。
水霧が後。炎火のものより改良されていた人工物により異常をきたしたハルファナ。現在の姿を見ずとも、その様子を詳しく聞かずとも、知れることはある。
ハルファナ・アマジェカという名の水天使は、もうどこにも存在しないのでしょうとも。
表示されたままのパラメーター、そこに映し出される異常な変化。
司令に届くか届かぬかの能力は、水だけが側近級へ跳ね上がっている。
急激な力の変動はないこともない。だけど、ハルファナは特異性もないごく普通の中級位。そんな子がこうなる原因は限られるもの。
精霊石。水霧の恩恵をこれでもかと濃縮した石が体内へ入れば、こんな数値変化もある事ですとも。
『アシス、そちらの中で誰かと交代になる可能性が出てきましたわ。水吸収型だった場合のみ心声をかけますのでそのつもりで』
「おーけー」
一度おしまい(仮)になっていたのに届けられたレミィの心声へ間延びした返事をした。それが示す答えにあたしとディルの二ヶ所で展開されている情報を必要物のみ残して画面を閉じる。そうして新規で開くのは通信画面だ。
「……代わるか?」
ぶっさいくな顔面にでもなっていたのか、偶にしか頂けないやさしさが込められた言葉がディルからあたしへ向けられる。
「んーにゃ。楽しくはないけれど、調べておくれよと受信したのはあたしなのでーす。……やるべきことはこなすよ、真面目にね」
誰へ宛てるものなのかを入力しながら、上げた片手を振る。
しっしっと追い払いに。
「さー休んだ休んだありがとです。マリエルごめーん、そっち片すのよろしく!」
目は向けず、体も向けず、手だけを振って、払って、示す。
「……また助けてとか言って呼び戻すなよ」
「もぉー、僕はお茶係じゃないのにー」
これでも四大の最年長、そして長いお付き合いだから察してくれる二人へ心の中で大感謝。今なら愛を少しだけ叫んであげよう。
ずっと眠ったままのおちびちゃんを連れ、ティータイム後の食器を手に、ディルとマリエルが休憩室へ下がる音を聞く。
扉の閉まる音を耳に、残していた最後のキーを押す。
コール音は鳴ったのか、それとも鳴る間もなく応じたのか。
―「ハルファナッ?!」
「いいえ、四大室火悪魔アシェリスです。伝えなければならない話があります。ジェカ家の代表者はいますか?」
焦燥も露わに通信に応じたあなた方家族の元へあの水天使が帰ることは二度とない、と。