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エルマ様には、もっと華やかなドレスが似合うのに。
エルマ王女が好むドレスについて侍女達を通じて知らされたアリシア王女は、王妃様の衣装部屋から新たにドレスが選び直されたことを聞いてふうっと溜息を吐いた。
あの美しい金髪は豪華なレースに良く映えるだろうし、裾はふんわりと膨らませた方が童話に出てくるお姫様みたいで素敵なのに。
既に半分は、地味で華やかさに欠けるドレスに入れ替えられているらしい。
お姫様なのに、装飾の少ないドレスがお好みだなんて。あの美貌なら、どんなに華やかなドレスだって着こなせるというのに…勿体無い話だ。
それでも新しい侍女のお陰でエルマ様が元気になってくれたのだから、そのことに感謝しなくては。
たった一日会わなかっただけなのに久々に会うような気持ちで、アリシア王女は衛兵がエルマ王女の部屋の扉を開ける姿を眺めていた。
すぐに侍女が迎え出て、深々とお辞儀をする。
「あなたのお陰でエルマ様が元気になられたようです。ご苦労でした」
「恐れ入ります」
侍女の顔を碌に見る事も無く、アリシア王女はお茶の準備が整ったテーブルで待つエリーに微笑みかけた。
「エルマ様。ご機嫌麗しくなられたようで、何よりです」
「ご心配おかけしました、アリシア王女」
にっこりと微笑み返されて、アリシア王女ははにかんだ笑みを浮かべた。
「アリシアとお呼び下さいとお願いしましたのに。もう、すっかり良くなられたのですか?」
「それが…夕方になると急激に冷えるせいか、調子が悪くなるのです。食欲もあまりなくて…。国王陛下にご心配をおかけするのは心苦しいので、もうしばらくの間、食事は部屋で取りたいのですが」
調子が悪くなるという言葉を聞いて、アリシア王女は顔色を変えた。
「こちらの気候が合わないのですね。温暖な国からいらしたエルマ様にとっては、この国の気候は厳しいのかもしれません。お体が一番大切ですから、無理をなさらないで下さい。食事はここへ運ばせます」
「感謝します、王女」
「ですから、アリシアと…」
エリーのドレスが見慣れないものであることに気付いたアリシア王女は、思わずエリーに尋ねた。
「今日のドレスは、部屋にあったものなのですか?」
「私の国では、このような着方をするのです」
実際にはセレナが持ち込んだ小物も紛れ込んでいるのだが、元のドレスに細工を少し施しただけで地味なドレスはかなり優美な印象に変わっていた。
アリシア王女は元となったドレスを思い出し、感心したようにエリーを眺める。
「あの侍女は器用なのですね。とても良くお似合いです」
「ありがとうございます。アリシア様も、よろしければリブシャ風の着こなしを試されてみませんか?」
「…いいのですか?」
名前を呼ばれた事と、思わぬ誘いを受けた事でアリシア王女の表情はぱあっと明るくなった。
「勿論です。アリシア様がせっかく、私の為に沢山のドレスを用意して下さったのですもの。お返しと言うのも変ですが、何も差し上げる事が出来ない代わりにリブシャ王国のドレスの着方をお教えしましょう」
「是非…是非、お願いします」
「そう言っていただけて良かった。…セレナ」
「はい」
そう答えたセレナが二人の側に近付くと、エリーはセレナに命令する。
「アリシア様の侍女に、アリシア様のお好きなドレスを用意させて。それから…私のドレスも、適当に見繕って来て頂戴」
「かしこまりました」
セレナが部屋を出るのを見届けると、エリーはアリシア王女に微笑んだ。
「私は動き易いドレスの方が好きなので、セレナに頼んでドレスの裾の長さを変えたり、質素になり過ぎないように刺繍を施して貰おうと思っています」
「刺繍なら、わたくしも得意です」
「素晴らしいですわ、アリシア様」
手放しで誉められてアリシア王女は頬を上気させる。
「エルマ様も刺繍を?」
「あまり上手ではないんです。教えて頂きたいわ」
「喜んで!」
「さぁ、お座り下さい。ドレスが来るまでの間、お茶を頂きましょう。…そうそう、このお菓子に木苺のジャムを添えると美味しいんです。ご存知でしたか?」
「いいえ、いいえ…。エルマ様は本当に色々ご存知ですのね。わたくしは本当に何も知らなくて…。でも、これからはこうしてお茶を飲んだりドレス姿を披露し合ったり出来ると思うと…本当に嬉しいです」
感激で瞳を潤ませているその姿を見て、エリーの心は激しく揺さぶられる。
駄目よ、エリー。
エリーはそう自分に言い聞かせ、そしてセレナの言葉を思い返す。
「あなたはリブシャ王国の王女よ。あなたの行動の一つ一つに、国の運命がかかっているの。そのことだけは忘れないで」
そう、私はリブシャ王国の王女。もう村娘のエリーには戻れない。
一時の感情に流されて何が一番大切かを見誤ると、大変な事になる。
戴冠式で私は王冠に誓ったのだ。国と、国民の幸せを一番に考えると。
エリーはアリシア王女に気付かれないように小さく息を吐いてから、笑顔を作った。
「…私も嬉しいです。アリシア様はとてもお可愛らしいですもの。それから、髪の編み方も変えられてみてはどうでしょう? 私の侍女は、髪を結うのが得意だと申しておりました。きっと、もっと可愛らしくなられると思います」
つとめて明るい調子で話しながら、エリーはアリシア王女にジャムの入った壷を手渡した。




