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夜着の上に薄手のガウンを羽織り、黄金色に輝く髪をそのまま背中に流していたエリーは、再び人の気配を感じて慌ててベッドの中で姿勢を正した。
新しく来た見習い侍女の挨拶ならば、次回にしてくれるだろうと思っていたのに。
もしかしたらアリシア王女? でも、王女が連絡を聞いてから到着するには早過ぎる。
やはり入ってきたのは先程の侍女達ともう一人…例の新しくエリーの侍女になったと思しき女性。
どことなくセレナに似ている…と思って見つめ直したエリーは息を飲んだ。
「ご気分が優れないところ申し訳ございませんが、私共は今後、こちらに伺うことは無くなるかもしれませんので…。ご挨拶を兼ねて、新しい世話係をご紹介致します」
「セレナと申します。宜しくお願い致します」
エリーは呆気に取られて、頭を下げるセレナを見つめる。
「この者はリブシャ王国の出の者です。何なりと、お申し付け下さい」
いつまでも黙っているエリーを不審に思い始めた侍女達の様子を見て、セレナはエリーに必死に目配せをする。
「あ…ええ。宜しく。今日はこんな格好でごめんなさい」
合図に気付いてやっと返事をしたエリーに、セレナは丁寧に尋ねた。
「お茶の準備が出来ておりますが、こちらまでお持ちしましょうか? 美味しいお菓子もご用意してありますが」
「ええ…お願い」
エリーの返事に侍女達は大層気を良くして、にっこりと微笑んだ。セレナが客人に気に入られたと判断した為だ。
「では、私共はこれで。アリシア王女へ今日のお茶会は延期すると伝えて参ります」
侍女達と一緒に一旦寝室を出たセレナは、先に侍女達を見送るとその足で寝室に引き返した。
「…セレナ!」
しかしとっくに寝室を飛び出していたエリーは、既にお茶の準備がしてあるテーブルの椅子に座ってセレナを待ち構えていた。
「思ったより元気そうね、エリー。安心したわ。体調を崩していると聞いて、心配していたのよ」
「いつからここに?」
「このお城に入ったのは二日前よ。この国に到着したのは三日前だけど」
「すぐに来てくれたのね…」
「当たり前でしょう。待たせてしまってごめんなさいね。待つ身としては、とても長い時間だったでしょう?」
「セレナ…」
感激と安堵で泣き出したエリーをセレナは優しく抱き締める。
「みんな、あなたの無事を信じていたけど…とても心配しているわ。出来るだけ早くここを脱出しましょう」
「セレナ、私…」
しゃくり上げるエリーの背中をぽんぽんと叩き、セレナはエリーに問う。
「その為にも、少し情報を集めておきたいの。この城の使用人達は、あなたがリブシャ王国の王女であるということを知らないわ。知っているのは、国王とステファン王子とアリシア王女だけなのかしら?」
「分からない…。この部屋を出るのは食事の時ぐらいなの。その食事も、ここ最近は部屋に運んで貰っているから…」
「仮病を使うなんて、あなたらしくないわね」
一目で仮病と見破ったセレナに驚いたエリーは、ばつの悪い表情になった。
「だって…。国王夫妻や王子と一緒の食事はとても気詰まりで…殆ど喉を通らないの」
「じゃあ、ずっと一人で食事していたの?」
「アリシア王女も一緒にここで」
やはり冴えない表情のエリーを見て、セレナは質問の矛先を変えた。
「その王女様だけど…どんな人なの?」
「年はデラくらいで、とても可愛らしい王女なんだけど…。とにかく私とステファン王子の結婚を強く望んでいて…。それに、どこか私を着せ替え人形のように思っているの」
「その王女と一緒にいるのも気詰まりで、お茶会を中止したのね」
何となく状況が見えてきた、とセレナは思う。
侍女達の話と城内の噂話、今のエリーの話を総合すると、エリーはアリシア王女に大層気に入られてしまっているらしい。ステファン王子の心中までは分からないが、この状況ならエリーとステファン王子の婚約まで漕ぎ着けるのに大した支障は無さそうだ。リブシャ王国の意向を完全に無視した話ではあるが、勝手に結婚式まで進められていないだけまだ良しとしなければならない。
「セレナ。私、どうすれば…」
「そうね…。まず着替えない? そのお姫様が選んだドレスを着てあげましょう。それから、私が淹れたお茶を飲むの。ここの料理人が作るお菓子は美味しいから、喉を通らないなんて勿体無い話だわ。確かにリブシャ王国に比べたら食糧の乏しい国だけど、美味しいものはあるのよ。偏見は良くないわ」
「だって、お茶にジャムを入れろって言うのよ!」
思い出したようにセレナに訴えるエリーを見て、セレナはぷっと吹き出す。
「私も初めて聞いた時は驚いたわ。でも、砂糖を思う存分使えない国では仕方の無い事かもしれない。ここで出されるお菓子と、ジェスが作ったお菓子とを比べるのは可哀想よ」
「そのくらい、分かって…」
口を尖らせるエリーにセレナは微笑む。
「叱っているんじゃないのよ。想像していたよりも良い待遇だったから安心したくらいよ。本当に無事で良かった、エリー」
もう一度ぎゅっと抱き締められ、エリーもセレナを抱き返した。
「来てくれて嬉しい…セレナ」
「元気でいてくれて良かったわ、エリー。でも、もう少し我慢してね。お城の外で、みんなあなたを救出する為に準備しているの。ケイトもジェスもサラもマイリも…クレイとデラも。みんな、この国に来ているのよ」
「みんなは…外でどうしているの?」
「その話は、お茶でも飲みながらね。その前に着替えだったわ。その夜着、素敵ね」
「王妃様のものらしくて…」
「道理で。あなたの衣装を見せてもらったけど、随分大人っぽいと感じたのはそのせいだったのね。…そうそう、あなたが舞踏会の時に着ていたドレスも、とても大切に保管されていたわよ」
「アリシア王女は私の為のドレスを作らせていると言っていたわ」
「申し訳ないけど、そのドレスを着る機会はあなたには無いわ。私達はこの国に長居するつもりはないの」
「私だって」
「だったら、せめてここにいる間はアリシア王女が選んだドレスを着てあげたらどう? 王女も喜ぶでしょうし、あなたがお城で着せられていたドレスよりは動き易そうよ。その方が、こちらにとっても都合がいいわ」
「分かったわ。言う通りにする。でも…ドレスはセレナが選んで来てくれないかしら? 王女が勧めるドレスはちょっと…。綿の花で作られたドレスを普段着にするのは気が進まないわ」
「それは豪勢な話ね。大丈夫、ちゃんと選んであげるわよ。任せて」
セレナがそう言うと、エリーはやっと、ほっとした笑顔を浮かべた。




