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デラとマイリはすぐにクレイに追いついた。クレイがケイトとセレナの部屋の入口で立ち尽くしていたからだ。
クレイは微動だにせず、ただ部屋の中を見つめている。
「クレイ様」
しかしデラの呼びかけに気付いたのはクレイではなくケイトだった。
「あらクレイ、来てたのね。どうかしら? サラの戴冠式用のドレス姿は」
デラの視線は自然と声の主がいる方へ動く。そしてデラはクレイが放心状態になっている理由を瞬時に理解した。
華やかなエルマ王女の美しさにも劣らない、美しい人がそこにいた。
サラの普段の様子からは想像もつかない程の優雅さにデラも息を飲む。
着飾ると、女性はこうも変わるのか。
これでは我が主は一溜まりもないだろう。
魂を抜かれたかのようにサラに心を奪われているクレイを見て、一体どれだけサラさんのことが好きなんだ、とデラは心の中で毒づいた。
「綺麗です、サラさん」
「ね。そうでしょう? 成人式の時のドレス姿も綺麗だったけど、こんな本格的なドレスを着ると、また別ね。雰囲気が全然違うわ」
セレナの言葉を聞いて、雰囲気が違うどころかまるで別人のようだとデラは思った。ドレスのせいと言うよりは、サラの内面から醸し出される美しさがそう思わせているのだろうか。それとも単に精霊の封印を解かれたことが原因なのだろうか。
「クレイの感想は?」
いつまでも何も言わないクレイにジェスが尋ねる。
その問いかけでクレイはやっと我に返ったらしく、はっとして周りを見た。そして期待に満ちた表情でサラ以外の全員に見つめられていることに気が付いたクレイは、気を取り直した様子でサラに近付くと、サラの前に跪いてその右手を取った。
デラがクレイのその行動に衝撃を受けるのとは正反対に、周りの女性陣はきゃあっ、と歓声を上げる。
俯き加減だったサラは、視界に急に入ってきたクレイにただ驚いていた。
生まれて初めて男性に跪かれている、と頭の隅でぼんやりと認識したサラは、クレイに真摯に見つめられ、仄かに頬を染める。
そんなサラの様子がますます愛らしくクレイの瞳に映り、クレイは微笑んだ。
「とても綺麗だ。サラ」
そう言って手の甲に口付けたクレイが再びサラを見上げると、サラは照れながらクレイに微笑みを返した。
「ありがとう…クレイ」
サラの微笑みを見たクレイは嬉しそうな表情のまま立ち上がると、サラの手を慈しむように包み込む。
「お礼を言いたいのは僕の方だ。本当に綺麗だよ、サラ」
「…あー、クレイ。感激しているところ悪いけど。デラが卒倒しそうになっているわ」
遠慮がちに割って入ってきたケイトの言葉でサラの手を離したクレイは、今度は心配そうにデラを見た。
「どこか具合でも悪いのか? デラ」
「違います」
素早く否定しながらも、主の直情的すぎる行動に途方に暮れているだけです、とデラは心の中で付け加える。
エルマ王女をも手放しで誉めなかった王子が、あんなにあっさりサラさんを誉めるなんて。どんな女性にも挨拶以外では跪かなかった第三王子が、ああもあっさりとサラさんには膝を折るなんて。
例えサラさんが森の女王の娘だと公言されていたとしても、あの行動は「敬意」から出たものではない。間違いなく「降伏」から出たものだ。
デラは自分が危惧していたことが遂に現実になってしまったことを痛感した。
王子は完全にサラさんに恋をしている。
あと一週間で戴冠式という日、ケイトは城から一通の手紙を受け取った。戴冠式の準備で本格的に忙しくなったエリーは狩猟小屋へ訪れることが出来ず、ここ最近は城から届く食糧と物資の行き来しかない。
ケイトは手紙の文面を読むと、調理場にいたセレナに呼び掛けた。
「セレナ、大変」
「何が?」
太陽が真上に昇る前に洗濯を終え、休憩の為にお茶の準備をしていたセレナは、食堂で手紙を読んでいたケイトの側へ行くと手紙を覗き込んだ。
「父さんと母さんはここへ寄らずに、直接お城に泊まることになったんですって」
「え? どうして?」
「お城の警備上の理由としか書いてないわ。戴冠式の日の私達の迎えの馬車にも警護をつけるそうよ。クレイとサラは式に出席するから、もう少し早く来て欲しいって」
文面に目を通してケイトの言う通りであることを確認したセレナは溜息を吐く。
「マイリもいい加減母さんが恋しくなっているのに…がっかりさせるのは可哀想ね。ところでデラはクレイ達と一緒に行くことになるの?」
「デラとクレイは私達とは別行動よ」
「え?」
ケイトのはっきりした物言いにセレナは驚いた。
「クレイ達は国賓だから?」
「ううん。戴冠式の数日前にここを出る、って実はクレイが言ってきたの。身分を隠してここへ来ているから、式の出席に必要な荷物もろくに運び込めていないんですって。城の近くに宿を取って、前日までにそこで身支度を整えたいと言っていたわ」
「戴冠式の数日前って、もうすぐってこと?」
「ええ。黙っていてごめんなさい。クレイから口止めされていて…」
そう言うケイトの言葉を遮るように、セレナはケイトに向き合う。
「そんなことよりケイト、分かっているの?」
「何が?」
「クレイがここを出て行く事、早くサラに知らせないと。戴冠式が終わったら、私達は村へ帰るのよ。クレイ達だって国に帰るんでしょう? 今はこうして当たり前のように一緒にいるけど、今後二度と会うことはないわ。エリーにだって、次はいつ会えるか分からないくらいなのに…。直前になっていきなりさよならなんて、寂しすぎるじゃない」
「それはそうだけど…それは最初から分かっていたことよ」
ケイトのその言葉にセレナは首を横に振る。
「ケイト。こういう事は大切にしなくちゃ駄目よ。いくらクレイの命令でも、簡単に割り切っていい事とそうでない事があるわ。クレイ達が出発するのはいつ?」
押しが強い時のセレナに勝てた試しがないケイトは、すっかり気圧されて渋々答えた。
「…明後日の朝よ」




