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何事も無かったかのようにお茶の時間と夕食が終わり、部屋に戻ったサラはこの瞬間を待ち侘びていたジェスに戴冠式用のドレスに着替えさせられた。
「エリーのドレスは金糸が使われていて、サラのドレスには銀糸が使われているの。生地はエリーと同じ白だけど、色味が少し違うのよ。王様が、サラの生地の色はこちらがいいと言われたんですって。あなたの髪の色に似合って、とても上品な感じよ。サラ、動き辛い箇所はない?」
そう言われたサラは、少し体を動かし、そして数歩歩いてみる。
動き辛いどころか動きに合わせてドレスの裾が美しく動き、生地に丁重に包まれているような気分だった。
「大丈夫よ。歩き易いし、動き易いわ」
エリーの言った通り、優秀なお針子の仕事は完璧と言って良かった。
装飾が少ないから地味な印象になるかと思っていたのに、優雅なドレープのお陰で華やかな印象すら受ける。
エリーのドレスの華やかさに羨ましさを感じていただけに、サラは気分が高揚していくのを隠せない。
そんなサラを見つめてジェスは嬉しそうに微笑み、しみじみと言った。
「綺麗よ、サラ。あなたも王女様みたい」
「ジェス…」
必要以上に「王女」という言葉に反応している事に気付いたサラは、ジェスの言葉に他意がない事を自分に言い聞かせ、微笑む。
「ありがとう、ジェス」
「これはエリーが悔しがるわね」
「え?」
悪戯っぽくそう言ったジェスの言葉の意味が分からず、サラは訊き返した。
「今まであなたをずっと独占していたんだもの。この姿をエリーは一番に見たかった筈だわ」
「そんなこと…」
そう言いながらもサラは、本当にいつもエリーが一緒だった事を思い出した。サラの晴れ姿をエリーが一番に見られないのは、今回が初めてだということにも気付く。
それでも今はほぼ毎日のように会えるけど、戴冠式が終わったら…。
そう考えるとサラの胸がちくりと痛んだ。
「お化粧していないのが残念だけど」
ジェスはそう言って部屋のドアを開けると、サラを促した。
「せっかくだから、みんなに見てもらいましょう。ケイトの部屋でマイリが楽しみに待っているの。いいわよね?」
夕食後、部屋に戻ったデラは初めてクレイからサラの話を聞かされて愕然としていた。
「サラさんが…」
精霊の存在自体が未だに信じ難いのに、今まで一緒に過ごしてきた相手がそうだと言われ、デラは何と言って良いか分からなかった。
「言うまでもないが、ケイトの許可が下りるまでは他言無用だ。国へ報告するのは戴冠式が終わった後にしてくれ」
口調は穏やかだが、クレイがこう言ったからには厳命だ。デラは黙って頷くと、城下町で集めた資料をクレイに渡した。
「郵便屋に調べさせていた、ハーヴィス国王宛に出された親書類の一覧です。差出人の紋章で気になるものがあったので、間諜に調べさせました。紋章は間違いなく、リブシャ王国の貴族のものでした。ハーヴィス王国にいる間諜に命じて、その手紙の写しも手に入れました」
「…どういう事だ?」
その内容に目を通したクレイは困惑した瞳をデラに向ける。
「恐らく…文面そのままの意味ではなく、暗号ではないかと思われます」
「では、ここに書かれている碧の宝石、とはエリーの事なのか?」
一見、商取引の書類のようだが日時と商品についての記載しかない。
ただ、そこに書かれてある「黄金の指輪」の納品日はエリーの戴冠式の日付と一致している。値段についての明記はなく、ただ「お約束通りの日付にて献上致します」とあるだけだ。
「色から推測するとエルマ皇女の髪の色と瞳の色に一致します。本当に指輪なのかもしれませんが、商売人でもない貴族が隣国の国王に宝石を献上するなど、一般的に考えるとあり得ません。事前にこのような手紙を送ることも考えられないでしょう。しかし手紙は、その一通のみではないのです」
「同じ者から何通も送っていると?」
「いえ、そうではなく…」
デラが説明をしようとしたその時に、廊下をバタバタと走るマイリの足音が聞こえ、続いて忙しなく扉がノックされた。
デラとクレイは素早く書類を片付け、不審に思われるような点がないかを確認した後、デラが扉を開ける。
予想通り、マイリが興奮した面持ちで扉を開けたデラを見上げた。
「マイリ。どうしたんですか? そんなに息を切らして」
「あのね、いいもの見せてあげるから二人を呼んで来なさいってケイトが」
「こんな時間に?」
城から何か届くにしては時間が遅過ぎることを訝って、デラはつい尋ねた。
その態度にマイリは焦れたらしく、勢い込んで付け加える。
「あのね、サラがすっごく綺麗なの。エリーも綺麗だったけど、サラも…あっ、これは言っちゃいけないんだった」
慌てて自分の口を両手で塞いだマイリに、デラはぷっと吹き出す。
「行きますよ。食堂ですか?」
「ううん。ケイトの部屋」
「分かりました。クレイ様…」
クレイを呼ぼうと思って振り返ったデラは、すぐそこにクレイが既に来ていたことに驚いた。
「行こう」
そう言ってデラよりも先に部屋を出たクレイの後ろ姿を、デラはぽかんとして見送った。




