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「あっ、サラ。お帰りなさい!」
廊下から聞こえてきたマイリの声とその後に続いた歓声に、ケイトとクレイはぎくりとした。
二人は急いで部屋を出て、食堂のある方向へ向かう。
「すごく美味しそうな木苺。木の実もやっぱり森の中にあったのね。ありがとう、サラ」
そう言うセレナの声がはっきりと聞き取れたクレイは、とりあえずサラが無事に帰ってきたことに安心するとともに急に不安になった。
サラはクレイから逃げた。その原因は自分にある。
もし、また逃げられたら。
急に歩を緩めたクレイを不思議に思いながらも、ケイトはクレイを追い越して食堂に入った。
食堂にはセレナとマイリ、そしてジェスがサラから受け取った森の恩恵を見て楽しそうに話している。
サラは一見したところ、どこも変わっていないようだ。
「お帰りなさい、サラ」
「ケイト」
にっこり微笑む笑顔はいつものサラだ。
「木の実をやっと見つけたの。これからは買いに行かなくても済むわ」
「そう。ありがとう。助かるわ」
ケイトがそう言うと、マイリが二人の間に割って入った。
「ねえねえサラ。マイリ、今日はジェスに刺繍を習ったの。エリーのドレスと一緒の模様なの。見たい?」
「ええ、見たいわ」
「じゃあ来て。こっち」
マイリがサラの手を引き食堂のドアから出ると、そこに立っていたクレイと危うくぶつかりそうになった。
「ごめんなさい、クレイ」
驚いて謝るマイリにクレイは微笑む。
「大丈夫だよ、マイリ。…やぁ、サラ」
「クレイ」
マイリに手を引かれていたせいで目線がずっと下にあったサラは、見上げてすぐにクレイとまともに視線が合ってしまい、その後の言葉が続かなくなった。
「サラ、早く行こ」
暫く無言で見つめ合っていた二人はマイリの言葉で我に返り、クレイはとりあえずサラに伝えたかった言葉を口にする。
「…お帰り、サラ」
「ただいま…」
「早く早く」
無事で良かった、という言葉を飲み込み、マイリに手を引かれて去っていくサラの背中を見送ると、クレイは食堂の方を見た。
ケイトは調理場に入ってしまったらしく、この位置からでは姿が見えない。
夕食の相談なのか、食卓の上にある木苺と木の実を眺めてセレナとジェスが話している。
「いつも美味しそうな木苺を見つけてくるけど、今日のは一段と見事ねぇ。王様に献上したら喜ばれるんじゃないかしら」
感心してそう言うセレナにジェスは首を横に振る。
「サラの話だと、王妃様が木苺狩りをしたいと言い出さないようにして欲しいとエリーはお城の人達から懇願されているらしいわよ。摘みたての木苺の美味しさをエリーがうっかり話したせいで、王妃様が森に来たがっているらしいの」
「それは大変そうね」
セレナはそう言ってジェスに木の実を渡す。
「やっぱり木の実、あったのね」
「そうみたいね。私、この前サラがエリーに話していたのをちらりと聞いて思ったんだけど…。サラがエリーに、この森にイバラの林がある、とか言ってたの。それって」
「女王様の扉の話?」
「そう、それ。覚えてる? ジェス。昔、父さんと母さんが話していたわよね」
「それは頑丈な枝と棘で囲われたイバラの事ですか?」
急に会話に入ってきたクレイに驚いて、ケイトとジェスは会話を中断した。
「ええ、そうよ。どうしてクレイがその門の事、知っているの?」
不思議そうに尋ねるセレナにクレイは答える。
「一度見たことがあります。すぐに見失ってしまいましたが」
「ええ。いつも同じ場所にあるとは限らないらしいの。でも普通は、森の女王の許可が無いと見つからないものなのよ。凄い偶然ね」
「それはこの国では有名な話なんですか?」
「そうね…。私達は子供の頃に両親から聞いたわ。村の子供達も大体は大人から言い聞かされているわね。もし見つけても、怪我をするだけだから入ってはいけないと」
「実際に怪我をした子供はいるんですか?」
「いないと思うわ。潜るのにとても勇気が要るものらしいから、誰も通ろうとはしないのよ」
確かに、あれを見ればそう思うだろう。それなのにサラは飛び込んだのだ。
自分の軽卒な行動が、そこまでサラを追い詰めた。
そしてそこから得た結果にクレイは皮肉以外のものを感じない。
「クレイ、お茶を淹れたわ。セレナとジェスもどう? せっかくだから、木苺をいただきましょう」
調理場から出てきたケイトがお茶の入ったポットを持って現れた。
「あら。それじゃあサラとマイリも呼びましょうよ。私、二人を呼んでくるわ」
「じゃあ私はカップを用意するわ」
ジェスが食堂を出て二人を呼びに行く間に、セレナは手際良くカップを並べる。
「本当に、見事な木苺…」
しみじみと言うケイトにセレナが同意する。
「宝石みたいよね。デラの分も残しておかないと。早く帰ってこないかしら」
「そうね。マイリが全部食べてしまわないよう、気を付けないと」
「マイリはそんなに食いしん坊じゃないもん〜」
食堂に入って来たマイリが膨れっ面でケイトに抗議し、セレナは微笑む。後から入って来たサラとジェスも笑ってケイトとマイリのやりとりを見ていた。
「デラの分はちゃんと残してあげるよ。だってデラ、木苺が大好きだって」
「優しいね、マイリ。デラもきっと喜ぶよ」
クレイの言葉に一同が沸く。
いつもの見慣れた光景にクレイはほっとした。
ケイトとの話し合いで、サラが自分から公表しない限り、戴冠式が終わるまではサラが森の女王の娘であることや封印が解かれたことについて、マイリはもちろんセレナやジェスにも黙っていようということになった。
戴冠式までまだ時間がある。それまでサラは村長の娘だ。
猶予期間中に調べられるだけの事は調べておきたいとクレイは思っていた。
戴冠式が終われば、自分とエリーの婚約が成立する。




