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テーブルに突っ伏すようにして寝てしまったマイリをケイトが部屋に運び、それを機に深夜まで続いたお茶会はお開きとなった。
後片付けを手伝わせて欲しいと不平を洩らすクレイとデラを宥めてやっと部屋へ引き取って貰うと、セレナとジェスとサラは二人に運んでもらった食器を洗い始める。
「サラはもう先に休んでいていいわよ」
セレナにそう言われ、サラは首を横に振った。
「私は結局お城でのんびりしていたから、それほど疲れていないわ。今日はジェスの方が疲れているんじゃない?」
ケイトの時もそうだったが、マイリの遊び相手としてかなりの体力を使うことが苦にならないサラは、今回もジェスに尊敬の眼差しを向けられた。
「あなたもエリーも信じられない。一日中あの子の相手をしていても平気だなんて」
「その代わり、普段家のことが全然手伝えていないもの。せめてこのくらいは手伝わせて。先に休んでていいわ、ジェス」
「…お言葉に甘えようかしら」
すっかり眠そうな顔をしていたジェスが欠伸混じりにそう言うと、サラは頷いた。
「そうして、ジェス」
「じゃあ先に寝るわ。セレナ、おやすみなさい」
「おやすみなさい、ジェス」
セレナもそう言ってジェスを見送り、残ったセレナとサラで食器は手早く片付けられた。
「ありがとう、サラ。手伝ってくれたお陰で早く片付いたわ。私達ももう寝ましょう」
「ええ」
布巾を畳んで、セレナは食堂のランプを消した。食堂から部屋までの間取りはすっかり頭に入っているから、二人とも明かりがないままで部屋に向かう。
「おやすみ、サラ」
「おやすみ、セレナ」
先に部屋に入って扉を閉めたセレナの背中を見送り、サラは自分の部屋へ向かった。
しかしサラは自分の部屋の扉の前まで来ると、ふと立ち止まり、踵を返した。
小さなノックの音に気付いたクレイは、ベッドの中に入ってしまったデラの代わりに扉を開けた。
そこにいた人物にクレイは驚きを禁じ得ない。
「…サラ。どうしたんだ?」
デラが出てくるものとばかり思っていたサラも驚いて一瞬言葉を失ったが、それでも気丈に微笑むと、クレイをひたと見据えた。
その真剣な眼差しに、クレイの表情も真剣になる。
「どうかしたのか? デラに用?」
「いいえ。クレイ、あなたに用があるの」
「僕に?」
頷くサラに、クレイは信じられないような気持ちになる。
サラがこんな時間にわざわざ来るということは、エリーの事で何かあったのだろうか。城で王様に何か言われたとか。
しかし城で何かがあれば、サラよりも早く間諜から連絡が入る筈だ、とクレイは思い直す。
サラの話の内容は予測出来ないが、食堂では話さなかったのだから内密な話であることは確かだろう。
「こんなに遅い時間でなければ部屋に入ってもらってきちんと話を聞くんだが、デラがもう眠っていてね。悪いけど、立ち話でいいかい?」
「ええ。ここで話すからいいわ。クレイ、今までその…ごめんなさい。あなたはエリーにとってもこの国にとっても大切な人なのに、私ったらずっと失礼な態度を取ってしまって。あなたはちっとも悪くないの。私、エリーをあなたに取られるような気がして…。ただ、エリーを誰にも取られたくなかっただけなのよ」
そう言ってから気まずそうに目線を泳がせるサラを、クレイは驚いて見つめる。
しかしサラがこうして自分に謝っているのにただ黙って驚いているわけにはいかないことに気が付いて、クレイは穏やかに微笑んだ。
「いいんだ、サラ。済んだことだし、気にしていないよ。それに僕は君とエリーを引き離すつもりなんかない」
「ええ。分かっているわ。私が勝手にそう思っていただけだって」
「僕が君達を引き離すと?」
「…エリーの気持ちが、私から離れてしまうと」
そう言ってサラは俯いた。その様子を見て、クレイはつい笑い出しそうになる。
双子のように育っていても、どんなに仲良くしていても、当事者同士では相手の気持ちを知ることは不可能なのか。それがたとえ、第三者にとってどんなに明らかな事実であったとしても。
「僕が見たところ、エリーにとって君は王位よりも大切な存在のように思えるけど?」
その言葉を聞いて驚いたサラは思わずクレイを見上げ、そこで楽しそうな表情のクレイを見て、困惑した表情になった。
「クレイ。ふざけないで」
「ふざけてない。そもそも、本来なら僕の方が君達の仲の良さに妬かなくてはならない筈だ。もし君が男だったら即刻、僕は君をエリーから引き離していたと思うよ」
「だからふざけないでって…」
「少しここで待ってて」
唐突にクレイはそう言うと、サラを残して部屋の奥に入った。そしてすぐに棒のような物を手にして戻って来た。
「サラ、これを」
そう言ってクレイがサラに手渡したのは細身の剣だった。
「これは…」
サラは驚いて受け取った剣を見つめる。
「女性が使い易いように細身の物を用意した。普通の剣より軽いから扱い易いと思う。ただ、戦闘用ではなく護身用になるけど」
「そんな…。こんな立派な剣、貰えないわ」
鞘を抜く前から剣の価値を見抜いているサラの目の確かさに満足したクレイは、諭すようにサラに告げる。
「サラ、これは飾るための宝剣ではなく実戦で使う剣だ。この剣で君と、君の大切な人達を守って欲しい。こうしないと僕の気が済まないから、どうか遠慮なく受け取ってくれ。ここで世話になっている礼をしたいんだ。…それとも、僕からではなく我が国からの贈り物だと言わないと受け取る気になれないかい?」
拗ねたような口調に驚いて剣からクレイに視線を移したサラは、その鳶色の瞳を思わず見つめた。
宵闇の中で見るクレイの瞳の色は、いつもよりずっと暗い。まるで知らない人みたいだとサラは思い、そう思ってしまった自分の考えをクレイに読まれてしまわないよう、慌てて目を逸らした。
「…分かったわ。クレイ、ありがとう」
「どういたしまして。受け取ってくれて嬉しいよ。おやすみ、サラ」
「おやすみなさい…」
サラの返事に微笑んで、クレイはそっと扉を閉めた。
サラは手にした剣を見つめ、それからもう一度閉じられた扉を見つめて、再び自分の部屋へ向かった。
実は剣を渡すシチュエーションとタイミングについて、ずっと悩んでいました。
やっと渡せて、良かったー!




