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とある王女の恋物語  作者: 藍田 恵
第三章 解かれた封印
34/111

7

 サラはケイトの予想通り、日がすっかり落ちた頃に帰って来た。

「楽しかった? サラ」

「ええ」

 子犬のように真っ先にサラを迎えに出たマイリが、嬉しそうにサラの手を取る。

「サラ。今日はお花を摘んできたの。あとで花冠を作ってくれる?」

「ええ。いいわよ」

 サラが頷くと、マイリはにっこりと笑った。

「早く早く」

 マイリに引かれるまま食堂へ入ると、夕食を終えたばかりの全員がサラを口々に「お帰り」と迎える。

「サラ、あなた夕食はどうしたの?」

「結局、エリーと一緒にお城でいただいてきたわ、ケイト」

「そうなると思った。でも、あなたの夕食も準備してあるから、もしお腹が空いていたら食べなさい」

「どうせ食べる時間も惜しくて、ほとんど食べずにエリーと話ばかりしていたんでしょう?」

 セレナがそう付け加えると、サラは少しばつの悪そうな顔をする。

「これでも急いで帰って来たんだけど…。夕食は後で食べるかも。でも」

 サラは手にしていたバスケットを皆の目の前に差し出した。

「何?」

 サラからのお土産に期待いっぱいの瞳でマイリが尋ねる。

「王妃様からパイのお礼に、ってお菓子をたくさん頂いたの。みんなで食べましょう」

「開けていい?」

「いいわよ」

 バスケットを受け取ったマイリは早速蓋を開けて中身を見ると、歓声を上げる。

「すごい、きれーい!」

 色とりどりの美味しそうな菓子に、周りの娘達も感心の声を上げた。

 妃殿下に献上されるものだけあって、街でもなかなか見られないような美しい菓子だ。

「いいのかしら。こんなに貰ってしまって」

 ケイトが神妙な顔で唸ると、サラはケイトを安心させる為に頷く。

「エリーの話では、王妃様はそれほど甘い物がお好きではないみたい。でも王様が王妃様を喜ばせようと、職人に命じて凝ったものをどんどん作らせるみたいなの。だから遠慮なく貰って良いそうよ。それに、王妃様が本当に気に入られたのはジェスが作ったパイなんですって。作り方をお城に教えに来て欲しいって言われたわ」

「光栄だわ」

 ジェスが感激してサラを見る。

「王様も、ジェスのパイをとても褒めていらっしゃったわよ。これからも時々差し入れに来て欲しいって。喜んでお受けします、って答えておいたわ」

「サラったら。でも嬉しい。そうね…。いつでも王様と王妃様が食べられるように、今度はエリーに作り方を教えてあげようかしら」

「いい考えね。王妃様も自分で作ってみたい、って仰っていたし」

 サラ達がそう語る一方で、セレナとマイリはバスケットの中身を丁寧に食卓の上に出していた。

「見て、セレナ。この飾り、ドレスのレースみたい」

 マイリが手にしたケーキを見て、セレナも感心したように呟く。

「本当ね。全部お砂糖かしら」

「綺麗な細工ですね」

 目の前に並べられる菓子を眺めながら、デラが感心して言う。

「この飴の細工は、ワイルダー公国でも見たことがあります」

「そうなのか。良く知っているな。僕は菓子のことは良く分からないが…」

「ねぇねぇ、ワイルダー公国では、どんなお菓子があるの?」

「種類はリブシャ王国の方がずっと多いですよ。ご婦人方に人気があるのは、やはり砂糖がたくさん使われている焼き菓子でしょうか。でもジェスさんのパイは間違いなく我が国でも支持されると思います。勿論マイリが作ってくれたパイも美味しかったですよ」

「でしょう? マイリ、今度ワイルダー公国に作りに行ってあげるよ!」

 その一言に一同は大笑いする。

「お茶の準備が出来たわ。セレナ、ジェス、手伝って頂戴」

 ケイトに頼まれて、セレナとジェスは素早く立ち上がる。自分も手伝おうとするサラに、ジェスは「サラは座ってていいわ」と優しく言い、それから小声でこう付け加えた。

「お城に行ってきて疲れているところ悪いんだけど、あなたがいなくて寂しがっていた三人の相手をしててくれないかしら?」


 お茶はすぐに配られて、全員が席に着いた。

 あれがいい、これがいいと言いながら、菓子はそれぞれの目の前に置かれていく。

 しかし菓子よりもサラが目の前にいることの方がずっと嬉しいマイリは、今日あったことを上機嫌でサラに報告していた。

「あのね、あのね、サラ。マイリ、今日は馬に乗せてもらったんだよ」

「マイリが馬に?」

 サラが驚いてジェスを見ると、ジェスは小さく肩を竦めた。

「乗せたのは私じゃないわ。デラがマイリを乗せて、湖まで散歩に連れて行ってくれたのよ」

「うん。デラの前に乗せてもらって、紐を持たせてもらったの。ゆっくりだったから、怖くなかったよ」

「紐じゃなくて手綱よ、マイリ」

 ジェスがくすくす笑って訂正する。

「そう…。良かったわね、マイリ」

「うん!」

 何でもサラを見習うマイリは、当然のようにサラを真似て乗馬に興味を示さなかった。サラはそれを自分の責任だと思っていただけに、マイリが自分の意志で馬に乗ってみようと思ってくれたことが嬉しい。

 サラはクレイとデラを見て、微笑んだ。

「マイリと遊んでくれてありがとう。クレイ、デラ」

 その微笑みの柔らかさと美しさに、クレイとデラはしばし呆然となる。

「どうしたの?」

 マイリが不思議そうに二人に尋ねて初めて、すっかりサラに見蕩れてしまっていたことに気が付いた二人は、慌てて弁解するように話し出した。

「いや…僕は何も…」

「わっ…私は特別これといったことはっ」

 しかし二人がほぼ同時に話し始めてしまったため、娘達には二人が何を言っているのか聞き取れない。

 何よりも当のサラが、マイリに催促されて花冠を編むことに夢中になってしまっている。娘達の注意もすぐにサラの手元に移ってしまった。

 クレイとデラは無言になってお互いをちらりと見遣ると、気まずそうに軽く咳払いし、そして皆が注目するサラの手元を見る。

 サラは事もなげにするすると花冠を編み終えてしまった。

「やっぱり上手ね、サラは」

 ジェスが完成した花冠を見てサラを褒めた。

「ありがと、ジェス。はい、マイリ。どうぞ」

「ありがとう!」

 マイリはサラから花冠を受け取ると、嬉しそうにそれを冠った。

「可愛いよ、マイリ」

「良く似合います、マイリ」

 男性二人に褒められて、マイリは嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう、クレイ、デラ」

「良かったわね、マイリ」

 隣に座っているセレナが冠で乱れたマイリの髪を撫で付ける。

「さ、皆でいただきましょう。お茶が冷めちゃうわ」

 ケイトがそう言い、皆はカップに手を伸ばす。

 その日の夜遅くまで、皆はお菓子を食べながら食堂で楽しく談笑した。

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