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とある王女の恋物語  作者: 藍田 恵
第三章 解かれた封印
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6

 王子のめいにより騎士団に入れられたデラは、まず馬の世話を命じられた。

 馬を盗んでいたくらいだから、馬は苦手ではない筈だ。手懐けるのが上手いからこそ手懐けることが出来たのだ、という騎士団長の主張のもとに、デラは馬の体を洗ったり餌をやったり、馬小屋の掃除をしたりと、こまごまと働いた。

 その仕事の合間に、騎士達の練習風景を眺める。

 小さく痩せた体には、鎧姿の騎士達が巨人のように見える。鎧を脱いだ彼等の体格の良さにもまた、デラは驚いた。

 あの大男達が武装して、武器を携えてこの馬に乗る。

 騎士になるには鎧を着る体力や武器を持つ力が必要であることを知り、更にその大男達を乗せる馬の力がもっと強大であることを知って、デラは圧倒された。

 あの時はただ立派な馬を盗んでやろうということだけしか考えていなかったけど、自分の軽い体重では馬に簡単に振り落とされて死んでいたかもしれない。むしろ自分は兵士に捕まったことによって命拾いをしたのだ、とデラは痛感した。

 騎士団長が見抜いた通り、デラは馬の世話をする事が好きだった。騎士を乗せるような馬は大体聞き分けが良く、賢い。デラが世話をする人間だということをすぐに覚えて、馬もデラに懐いた。

 デラは馬の世話以外の騎士団での仕事も覚え、騎士団や城の者達の知り合いも増え、騎士団長に可愛がられて活き活きと働くようになった。

 デラが馬を移動させようとする度、騎士達がニヤニヤ笑いながら「盗むなよ」とからかったが、彼等は総じて気のいい男達だった。

 そして、騎士達の殆どと顔見知りになった頃、剣の練習を見つめていたデラに一人の騎士が尋ねた。

 お前もやってみるか? と。


 金属がぶつかる音に、マイリは顔を上げる。

 見ると、湖の近くでクレイとデラが剣を交えていた。

 クレイとデラの身長差はサラと父親の身長差よりも大きいから、マイリにもデラの方が圧倒的に劣勢だということは分かる。

 父親がサラに対してそうしていたようにクレイもデラに手加減していたが、マイリはその様子があまりにも違うことに興味を引かれた。

 デラはサラとは違い、躍起になって剣を打つ様子を全く見せない。

 むしろ流れるような動作でクレイの攻撃を受け流し、そして最小限の力で反撃しようとする。

 サラとデラの腕力が互角ならば、デラの方がきっと上手うわてだとマイリは思った。

 そしてクレイも、父親とは全く違う太刀筋でデラの攻撃を翻弄する。

 マイリはいつもサラの髪が踊るように揺れる様子を眺めて楽しんでいたが、この二人の打ち合いにはそのような華麗さは全く無く、その代わりに優雅な形式の美しさがあった。

 しかし体格差と圧倒的な力の差は、いくらデラの剣の腕が良くても簡単に補えるものではない。

 初めはお遊びのような軽やかさで打ち合っていたクレイも、だんだん力強く応戦していく。

 今やデラはクレイに完全に押されていた。


 本気になるなと自分で言っておきながら、我が主君はこれだから…。

 デラは心の中で舌打ちする。

「デラ! 下!」

 その声のお陰で、すんでの所でクレイの攻撃を躱して踏み止まったデラは、驚いて声のした方を振り返った。

 振り返った先にはマイリがいる。

「今の…」

 クレイの剣をぎりぎりで受け止めたままの姿勢で、デラは再び振り返ってクレイを見た。

 クレイも信じられないという目をしている。

「…どうして分かったんだ」

 すっかり戦意を喪失した二人は、息を弾ませながら剣をゆっくりと離した。

「あの距離で、僕の手元が見える筈がないのに」

 手元の問題だろうか。王子が剣を振るよりもずっと早く、マイリの声が聞こえたような気がする。

「まるで、僕の考えを読んだみたいだ」

 そう言いたくなるのが理解出来るようなタイミングに、デラも心の中で頷く。

 しかし表面上は憮然とした表情でデラは言った。

「王子、卑怯です」

 あと半拍マイリの声が遅かったら、デラは怪我はしなくても痛い思いをしていたに違いなかった。

「言うようになったな、デラ」

 クレイが破顔する。

「寸止めする予定だったんだよ」

 確かに、王子が本気で打っていたら剣を受け止めることすら不可能だっただろう。

 その言葉に嘘はないかもしれないが、肝が冷えたのは確かだ。

「肩慣らしと仰ったではありませんか」

「まぁそう怒るな。ほら、マイリが来るから笑って」

 かなり遠くまで花を摘みに行っていたマイリが駆け寄ってきて、二人は汗を拭いながらマイリを笑顔で迎えた。

「やぁ、驚かせてしまったね、マイリ。すまない」

 二人が笑顔で自分を迎えていることに、マイリは困惑の表情を向ける。

「デラ、大丈夫だった?」

「ええ。大丈夫です。練習ですし。それよりマイリ、その花…」

「え?」

 マイリはそう言われて手にした花を見て、目を見開いた。

 走って来る間に花を強く握りすぎたのか、花はくったりとしている。

「萎れちゃった…」

 がっかりした声を出したマイリに、クレイとデラはばつの悪い視線を交わした。

「少し水に浸けてみましょう。体温のせいで元気がないだけかもしれません」

 デラはそう言ってマイリの手から花を受け取ると、その茎を湖の水に浸す。

「綺麗な花を見つけましたね。部屋か食卓に飾るのですか?」

「サラに花冠を編んでもらおうと思って」

「へぇ。サラさんが編むんですか」

「うん。サラ、編むの上手なの。フローラとお揃いの花冠が枯れちゃったから、新しいのを編んでもらおうと思って」

「フローラさんって?」

 初めて聞く名に、デラは思わず尋ねる。

「花の精の王女様。村からここに来る途中で出会ったんだよ」

 そう言ってにっこり笑ったマイリに、デラとクレイは思わず顔を見合わせた。


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